それは、信長様が遠征で留守している時のこと------
「確かこの下に指をくぐらせて・・・・・・あれ? 違う」
仕事の手が空いて暇をもてあましていた私は、あやとりをしていた。苦戦してると、誰かの手が頭にぽんと置かれる。
(え?)
信長「声をかけても返事がないと思えば、随分と熱中しているようだな」
「・・・! 信長様」
いつの間にか、信長様がそばに立っていた。
「もう遠征からお帰りになったんですか?」
信長「ああ。視察と会談が思いのほか早く片付いたからな」
(帰ってすぐに、私に逢いにきてくださったんだ)
信長「それより、ひとりで指に紐を絡めて何をしている」
「あ、これは・・・・・・あまりに暇だったので、あやとりをしてたんです」
紐に指をくぐらせ、『ホウキ』の形にしてみた。
「こんな風にして遊ぶんです」
信長「なるほどな。頭を使うには有効な遊びと言える」
「ホウキ以外にも色々な形ができるんですよ」
腰を下ろした信長様に見守られながら、『星』の形を作ろうとしたけれど・・・・・・
(ええっと、どうするんだっけ)
信長「何だそれは。亀か」
「違います・・・・・・」
恥ずかしくて下ろした手から、信長様が優しく紐を抜きとる。そして、迷いなく指をくぐらせていった。
(あれ? なんだか、見たことのないものが出来あがってる?)
信長「『安土城』だ」
「すごい・・・!」
信長「他にこの遊びの応用法はないのか」
「応用法・・・。じゃあ・・・・・・」
私は、ふたりでするあやとりを教えることにした。
「こうして、相手の紐を自分の手に移し取って、新しい形を作ります。それを可能な限り続けていくっていう遊びですね」
信長「つまり、何も作れなくなった方が負けだな。貴様が負けたら、俺の言うことを何でも聞いてもらおう」
(いつの間にか勝負になってる・・・・・・)
まずは私から始めることになった。
「はい、『はしご』ができました」
信長「『松明(たいまつ)』」
思わず前のめりになり、信長様の手の中をじっと覗きこんでいると・・・・・・
(えっ?)
突然、唇を奪われた。
「信長様、急に何を・・・・・・?」
信長「囲碁のように、あやとりにも、相手の心を揺さぶる策が使えるのかを試した。どうやら有効なようだ。貴様も俺を揺さぶってみるが良い」
(そうだ。これはかなり勇気がいるけど・・・・・・)
信長様の脇腹に、おそるおそる手を伸ばしかけた時だった。
信長「『それ』だけは許さんと前に言ったはずだが-----後でどうなるか、相応の覚悟はできているのだろうな?」
「・・・・・・いえ。やめておきます」
(じゃあどうしよう)
真剣に考える私を見て、信長様が笑みを浮かべる。
信長「もうすっかり、『暇だ』と思っていたことは忘れたようだな」
「あ・・・・・・」
(もしかしたら、私の暇を紛らわせるために、相手をしてくださったのかもしれないな)
そう思うと、心が温かくなる。日が差しこむ部屋で、信長様との楽しい時間が流れていった------・・・