ゆう「信長様・・・・・・以前のように、私と賭けをしてくれませんか?」
「賭けだと?」
ゆう「はい」
(一体、何を考えている)
訝(いぶか)しむ信長に動じることなく、ゆうは板張りの床の上に花札をそっと置く。
「それで、俺と勝負をする気か?」
ゆう「そうです。賭けるのは、前と同じく『私』を賭けます」
「何?勝負を受けてやるのは構わん。だが先に何故そんなことを言い出したか理由を教えろ」
ゆう「それは・・・・・・」
ややあって、ゆうは意を決したように信長を見つめ返した。
ゆう「家康に、聞きました。織田軍に敵対する側の人にとって、想像上の私は恐ろしい女なんだって」
「・・・・・・っ」
(ぬかったな。すでに、ゆうの耳にまで入っていたとは)
「・・・・・・それとこの賭けと、なんの関係がある」
ゆう「信長様、以前私に『織田信長」のことを聞きましたよね?」
こちらを窺いながら慎重に言葉を選びつつ、ゆうが続ける。
ゆう「もしかして・・・・・・私が未来で『魔王の女』として記録されるかもしれないって心配してくださったんじゃないですか?」
「何故、俺が貴様のことを心配して距離を置くなどと・・・・・・そう考えた」
ゆう「城内で流れている噂も聞きました。信長様が私よりも素敵な女性を見つけたとか、なんとか・・・・・・だけどそんな噂なんかより、家康の話から想像したことの方がよっぽど納得出来ました。信長様の優しさも、温かさも・・・・・・私は、知っているから」
「ゆう・・・・・・」
言葉の端々に、信長へのひたむきな信頼と愛があった。
(まったく・・・・・・ゆうにはどうしてか、俺すら気づかぬ俺の奥底が見えるのだな。こんなにも真っ直ぐに、俺の隣にあろうとする女を・・・・・・今更、表舞台だけだろうが距離を置くなど出来るはずもなかった)
雑談ですが・・敬虔な愛ってことかな。
AAAの曲で、「WISHES」って有るんだけど、詩の中で🎶
『きっと誰もが 欲しがるような 敬虔(けいけん)な愛の強さで ずっと…』
っていうのがあって、調べたら、尊敬とか信頼 っていう意味があるみたいなんだけど、正に信長様とゆうはそんな敬虔な愛だよね💗
すれ違っていた想いを、ゆうが自ら歩み寄って埋めてくれる。その深い想いが沁みて、信長の胸の内を熱く焦がしていく。
ゆう「私は『魔王の女』と言われても構いません。覚悟した上で、信長様を愛しているんです。だから、もう一度『魔王の女』として私を奪・・・・・・っ、きゃ!」
ゆうから花札を取りあげ、想いのままに彼女をきつく抱き締める。
「貴様の目論見は失敗だ、ゆう」
ゆう「え・・・・・・?」
「もう一度『魔王の女』として俺に奪えと、そのための賭けだったと。貴様はそう言いたいのだな?」
ゆう「は、はい」
「ならば勝負など、するまでもない。貴様の覚悟を見誤った。今度の勝負は俺の負けだ」
ゆう「・・・・・・っ!」
目を丸くするゆうを見つめながら、信長の口元がわずかに緩む。
(先程、俺に勝負を挑んできた顔つきとは大違いだな)
その素直さに惹かれ、信長はゆうの頬に手を伸ばす。
「ゆうが勝った場合の約束を、まだ聞いていなかったな」
横髪をそっと耳にかけてやる。
ゆう「私が、勝ったら・・・・・・どんな時でも、信長様のそばにいさせてください」
「・・・・・・ゆう」
恐れも何もない、純粋な想いが信長の心を震わせる。
「たわけ」
ゆう「わっ」
ぺちっと、可愛らしい音を立てて、信長はゆうの額を優しく小突く。
なんかいいな。この二人💕
ゆう「何するんですか!」
「するまでもない、どころか・・・・・・それでは勝負の意味がないではないか」
ゆう「そ、そうですけど・・・・・・っ。それでも・・・・・・今の私が望むのは、信長様と一緒にいることなんです」
(貴様は羅刹どころか、天女すらも超える。それほど、只者ではないな。この俺に、貴様を選んで良かったと、幾度となく思わせるとは)
膨らむ一方の想いを隠さずに、信長はゆうを抱く腕に力を込めた。
「貴様の突拍子もない宣戦布告で目が覚めた。後の世がどう語り継ごうが構うものか。俺の隣から、決して離してやらん」
ゆう「っ、はい・・・・・・!」
包むようにゆうの頬に手を添えると、至近距離で視線が絡み合う。
「本当に、貴様は良い女だ」
ゆう「きゅ、急になんですか」
「わざと遠ざけていた反動だな。気にするな」
ゆう「気になりますよ・・・・・・!」
「反動が解消されるまで、今宵はたっぷりと伝えてやる」
ゆう「んん、っ」
抱く腕を解くことなく、深く口づけを繰り返して・・・・・・そのままそっと、ゆうを褥(しとね)へと組み敷く。
「二度と離さん。だから貴様も、生涯俺の隣に居続けろ」
ゆう「はい・・・・・・」
(後世に何が残っていようとも、俺が愛した女はゆうだけだ)
柔らかく唇を重ねながら、ふたりの身体がもつれるようにして真っ白な布の中に沈む。これからの覚悟と想いを伝えるように、空が白むまで互いの温もりを奪い合った------・・・