「送ってくださってありがとうございました」

光秀「ああ」

光秀さんと肝試しをした帰り、私は部屋まで送ってもらったのだった。
(これから一人になるのか・・・・・・。どうしよう、ちょっと怖いかもしれない)

行燈でこころもとなく照らされた部屋を見渡して、さらに不安が募る。そんな私を一瞥して、光秀さんは薄く笑った。

光秀「どうした、心細くてたまらないという顔だな」

温かな手がくしゃりと私の髪を撫でる。

「どう考えても光秀さんのせいです・・・・・・!」

光秀「そうか。それは悪かったな」

あー、なんかこのしれっという光秀さん好きだナ♡

(う・・・・・・)
しれっと言う光秀さんからは、まったく悪いと思っていない様子が伝わってくる。

(光秀さんがあんな話をするからなのに)

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時をさかのぼること、一時間ほど前------

「城下とはいえ、肝試しって言われると少し緊張しますね・・・・・・」

時折、風で揺れる柳の音にびくびくしながら、私は光秀さんと肝試しをしていた。闇に溶けてしまいそうな私の小さな呟きに、光秀さんはにやりと笑う。

光秀「そういえば知っているか。この辺りで昔、恐ろしい事件があったらしい」

「えっ」

光秀「聞きたいか?肝試しがもっと愉しくなるぞ」

「け、結構です」

光秀「遠慮をするな。落ち武者の霊が、夜な夜な------」

光秀さんは、怖がる私を見て心底愉しそうに話を続けて・・・・・・

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(結局、最後まで話を聞かされたんだよね)

「光秀さん、怖い話をするのが上手すぎます・・・・・・」

光秀「お前の怯える顔が愛らしくて脅かし過ぎたか」

(愛らしくてって・・・・・・)
平然と放たれた言葉にとくっと心臓が跳ねる。

光秀「仕方ない。俺にできることがあればしてやろう。どうすればお前の恐怖が取り除かれる?」

「え?」

光秀さんの思わぬ申し出に戸惑いながらも、おずおずと提案してみる。

「じゃあ・・・・・・少しの間、一緒にいてもらってもいいですか?」

(誰かとお話していれば、怖くなくなるかもしれない)

光秀「随分とささやかな頼みごとだな。良いだろう」

(散々からかったり脅したりする癖に、最後は優しいんだよね。そういうところ・・・・・・ずるいな)

「ありがとうございます」

薄暗い部屋で、光秀さんと隣り合って座る。
(いつもより距離が近い気がする・・・・・・。私を安心させるためかな)

少しだけ緊張する私を見て、光秀さんが唇の端を吊り上げた。

光秀「それにしても、お前がここまで怖がりだとは思わなかった」

「っ、仕方ありません。ひとりだと部屋が静かすぎて落ち着かないんです。温かい布団にくるまってテレビでも見られたら気が紛れますけど」

光秀「てれび?」

(あ、いけない)

「ええっと・・・・・・音楽とか人の会話とかが聞けたらいいのに、ってことです」

光秀「なるほどな。では、こちらに来い」

おいで!   じゃないんだ。

「え? ・・・・・・あっ」

不意に引き寄せられて、ぴくりと肩が跳ねる。後ろから抱くような姿勢で座り直されて、心臓がうるさく騒いだ。

「な、何するんですか」

光秀「こうして耳元で喋っていれば、お前も沈黙を感じずに済むだろう」

笑みを含んだ声が甘く耳をくすぐる。わざとらしく耳にかかる息に、肌の内側が熱くなった。
(からかわれてる・・・・・・っ)

・・・・・・離して、ください」

光秀「お前が怖くなくなったらな」

「っ・・・・・・もう、怖くないです」

(だって、それどころじゃなくて・・・・・・)

光秀「その割には震えている」

「それは、光秀さんが・・・・・・っ」

光秀「俺が何だ」

(う・・・・・・)
困り果てた私を見て、光秀さんはやっぱり愉しそうにしている。

(・・・・・・悔しいな)

「きっと、光秀さんには怖いことなんて何もないんでしょうね」

光秀「少なくとも、幽霊のような不確かなものは怖くないな。そんなものが存在するのなら、俺は恨みを買った奴らから、とっくに呪われている」

「呪われるって、そんな怖いこと言わないでください」

事もなげに言う光秀さんに、胸がざわりとした。

光秀「だから、幽霊も呪いも存在しないと言っているだろう?」

「でも・・・・・・」

からかうような言葉とは裏腹に、その腕は優しく私を抱き寄せる。背中から伝わる温もりが不安を溶かしていった。

抱き寄せた?   きゃあっ!

(光秀さんが、皆に黙って色々な策謀をめぐらせてるってことは知ってる。だけど、本当は優しい人だってことも・・・・・・わかってる)

「いつもいつも、あまり無理をしないでくださいね。光秀さんが誰かに傷つけられたらと思うと、私はそれが一番怖いです」

ぽつりと漏らした私を見て、光秀さんがわずかに身じろぎをする。

光秀「・・・・・・ゆう。俺は生き様を変えるつもりはない。だが・・・・・・もしお前に本気で恨まれることがあれば、それが俺にとって一番恐ろしいことかもしれないな

「光秀さん・・・・・・?」

(それって、どういう・・・・・・)
気になってしょうがないのに、その表情を窺うことはできなくて・・・・・・どういう意味かもわからないまま、ただ後ろから抱きすくめるられる。

後ろからー? 抱きすくめる?
なんか0抱きの牢屋の中思い出したな。。。後ろからって、いいな。好きかも。。

(こんなに近づいてても、肝心の光秀さんの心が読めない)
それでも、うなじに当たる光秀さんの吐息が切なさを帯びた気がして、心の一番奥の部分が静かに熱くなっていった・・・・・・