政宗「・・・・・・甘えるな」

(え・・・・・・)

政宗「お前が武家に生まれた以上、武士として逃げ出すことは許されることじゃない」

政宗は宗二郎くんの目をしっかりと見つめて告げる。



政宗「自分の運命から逃げるな」

宗二郎「っ・・・・・・はい」

宗二郎くんは、政宗の言葉にはっきりとした声で返事をする。
(宗二郎くん・・・・・・まだ幼いのに、きちんと受け止めてる・・・・・・政宗は子どもだからといって決して甘やかしたりしないけど、宗二郎くんのことを真剣に想って言っているのは伝わったんだろうな)

政宗「わかってるならいい」

政宗は、褒めるように宗二郎くんの髪をくしゃっと撫でつけた。

宗二郎「政宗様、俺・・・・・・」

政宗「話はここまでだ」

何か言いかける宗二郎くんを、政宗が止める。

政宗「続きは、一番伝えたい相手に話せ。ちゃんとお前の気持ちを言葉にして伝えろ。いいな」

宗二郎「あ・・・・・・」

宗二郎くんは、一度唇をきゅっと引き結んでから頷く。

宗二郎「わかりました。・・・・・・ありがとうございます」

目を潤ませる宗二郎くんに、政宗もふっと口元を緩めた。

政宗「よし。じゃあこれから。お前の屋敷まで送ってやる」

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その後、政宗と一緒に宗二郎くんを家まで送って行った。

政宗「ここでいいのか」

宗二郎「はい」

大きな屋敷の前まで来た時------

???「宗二郎!!」

屋敷から綺麗な女性が飛び出してきた。
(もしかして・・・・・・)

宗二郎「! 母上・・・・・・」

お母さんは一目散に宗二郎くんのところへ駆け寄ったけれど・・・・・・
(えっ!?)

再会を果たした瞬間、宗二郎くんの頬を引っ叩いた。

宗二郎「・・・・・・!」

「あっ・・・・・・」

政宗「・・・・・・待て」

とっさに二人の元に駆け寄ろうとした私の腕を、政宗が掴んで引き留める。政宗の目が、静かに見守ってやれと告げていた。
(政宗・・・・・・)

頷き返して、もう一度、宗二郎くんたちに視線を向ける。

宗二郎「母上・・・・・・」

宗二郎の母「っ・・・・・・どれだけ心配したと思っているのですか」

(あ・・・・・・)
その唇も、宗二郎くんを叩いた手も、小刻みに震えているのが見てとれる。

(そうだよね・・・・・・突然、自分の子どもが帰ってこなかったら、心配するに決まってる。それに・・・・・・愛されてないなんてこと、ないよ)
潤んで揺れるお母さんの瞳は、きちんと宗二郎くんを映している。

政宗「宗二郎」

今まで黙って様子を見守っていた政宗が口を開く。

政宗「まずは、母親に言うことがあるだろう」

宗二郎「・・・・・・はい」

そして、宗二郎くんは改めてお母さんへと向き直り、深く頭を下げる。

宗二郎「心配をかけてごめんなさい・・・・・・母上」

宗二郎「でも俺・・・・・・政宗様と出会ったからこそ、自分の意思で、ここに帰ってくることができました」

宗二郎の母「宗二郎・・・・・・」

宗二郎くんのお母さんは、少し大人びた息子に驚いたようだった。

宗二郎の母「政宗様には、なんとお礼を言っていいのやら・・・・・・」

政宗「俺のことはいい。そいつの話、聞いてやってくれ」

宗二郎の母「・・・・・・はい。では、宗二郎、戻りますよ」

宗二郎「はい。母上」

頷いた後、宗二郎くんは私たちの方へと向き直った。

宗二郎「政宗様、本当にありがとうございました。それにゆう様も・・・・・・」

「私は何もしてないよ」

宗二郎「いえ、毎日俺のことを心配してくださってたこと、気付いておりました」

「えっ・・・・・・」

(こっそり見てたのに、ばれてたんだ・・・・・・)

政宗「ほら、さっさと行け。またあの粥が食いたくなったら、いつでも御殿に来ればいい」

宗二郎「はい!」

満面の笑みで返事をした宗二郎くんは、お母さんと一緒に屋敷の中に入っていく。並んで歩く二人の後ろ姿を、政宗と見送る。

政宗「・・・・・・」

母子の後ろ姿を見つめる政宗の瞳は優しくどこか穏やかで、胸が甘く軋んだ。

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帰り道、政宗の隣をゆっくりと歩いていく。

「宗二郎くん、よかったね」

政宗「そうだな」

(・・・・・・あれ?)
話しながらふと、御殿に向かうのとは違う方向に歩いていることに気づいた。

「政宗、この道って・・・・・・」

政宗「ああ、ちょっと寄り道していくぞ」

歩いている間に、陽の沈みかけていた空は暗くなっていき------

政宗「着いたぞ」

(わ・・・・・・川に月が映ってる)
緩やかな流れの川面に、映り込んだ月の光が揺れてきらきらと輝いている。政宗が連れて来てくれたのは、町外れの橋だった。

「綺麗・・・・・・」

政宗「あんまり覗きすぎて落ちるなよ」

政宗は笑いながら私の頭をぽんぽんと撫でた。

「っ、落ちないよ」

政宗「どうだか」

(すぐからかうんだから・・・・・・)

こんな二人の関係好きだな♡

「今夜は月が大きくてすごく綺麗だね」

政宗「ああ、星もずいぶん出てるしな」

大切な人とながめる景色は、特別に思える。

「今頃、宗二郎くんもお母さんと一緒に月を見上げてるかな・・・・・・」

政宗「ゆう」

不意に真剣な声音で名前を呼ばれ、月から政宗に視線を移す。

「なに?」

政宗「いろいろ付き合わせて悪かったな」

「ううん・・・・・・むしろ、嬉しかったよ」

政宗「何がだ?」

「政宗のこと、改めて好きだなあって思ったし・・・・・・」

政宗「随分とぼんやりした言い方するな」

「え、わっ・・・・・・」

伸びてきた政宗の腕が、私の腰を抱き寄せた。

政宗「ほら。どういう意味か説明してみろ」

顔がそばに迫り、唇を指でなぞられていく。

「説明って・・・・・・?」

政宗「お前が今、俺に一番伝えたいこと。ちゃんとこの口で言ってみろ」


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政宗「話はここまでだ。続きは、ちゃんと一番伝えたい相手に話せ」

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(そういえば、そう言ってたよね・・・・・・)

「私は・・・・・・」

(政宗が、宗二郎くんを変えたんだよ、とか、政宗のおかげだね、とか、伝えたいことは山ほどあるけど・・・・・・

「説明なんかできないくらい、政宗の全部が大好きだよ」

一番伝えたい想いを、政宗の目を見て言葉にする。素直に伝えると、政宗はふっと笑った。



政宗「よくできました」

褒められるのとほぼ同時に、唇が落ちてくる。どこか甘やかすように柔らかい口づけが続きぬくもりを重ねるたびに愛しさが溢れていく。
(政宗が好き・・・・・・大好き)

数え切れないくらい唇を合わせ------口づけが解けると、熱を孕んだ瞳と見つめ合った。

政宗「・・・・・・」

(政宗・・・・・・?)
黙ったままの政宗に首を傾げる。すると、次の瞬間、耳元にそっと政宗の唇が寄せられて・・・・・・

政宗「・・・・・・------」

「え・・・・・・」

------『いつかお前との子どもも、見てみたいな』

きゃー!政宗〜〜♡

囁かれた言葉と抱きしめてくれる温かさに、多くは語らない政宗の愛を感じる。胸が熱く震え、声にならない想いが込み上げ・・・・・・
(政宗・・・・・・------、愛してる)

私も同じ気持ちで、政宗を強く抱きしめ返した。