ぴりぴりと張り詰めた空気の中、広大な原っぱに風が吹く。今、私の目の前では、とんでもないことが始まろうとしていた------

謙信「やはり、安土にゆうを置いてはおけん。抜け、信長。俺が勝てば、ゆうは越後に連れていく」

いや、謙信様、私の気持ちは。。。?

信長「------その勝負、受けてたつ」

(うそでしょう? なんでこんなことに・・・・・・!)

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それは、この前の休日のことだった。私が城下へ行こうと歩いていると・・・・・・

「あ・・・! 信長様」

信長「ゆうか」

信長様は、広間の方へ向かっているようだった。

「これからお仕事の会議ですか?」

信長「ああ」

そう言って、ふと信長様が私の頬に触れる。

「? もしかして私の顔に何か・・・・・・?」

(さっきの朝ご飯かな、恥ずかしいな・・・・・・)

信長「いや。随分と嬉しそうにしていると思っただけだ」

「これから反物の買い出しに行くんです。最近針子の仕事が忙しかったから、出かけるのは久々で、つい嬉しくて」

(・・・・・・あれ?)
心を躍らせる私とは反対に、信長様が、何か考えこむような顔をしているのに気付く。

信長「ひとりで行くのか」

「はい」

信長「・・・・・・貴様はまだ知らんだろうが、近頃、城下の店が荒されたり、民が暴力にあったりと治安が乱れている」

「え・・・・・・」

(城下が?)

「いったい、誰がなんの目的で?」

信長「わかっているのは、毎回、特定の連中が暴れているということだ。奴らを捕えるための情報を収集しているが、まだ時間がかかるだろうな」

(最近城下に行ってないから、全然知らなかった)
思わず目を伏せていると・・・・・・

「・・・!」

頭に手を置かれ、はっと目線を上げる。

信長「心配するな。必ず解決し、貴様が好きな元の安土城下に戻す」

「信長様・・・・・・わかりました。信長様が治めている国なんですから、きっと大丈夫って信じます」

信長「ああ。それで良い」

「あ・・・・・・でも、それじゃあ、反物の買い出しは控えた方がいいでしょうか」

信長「どうしても必要なのか」

「・・・・・・はい。針子の仕事で使う予定で、みんなに頼まれてるものもあるんです」

じゃあせめて、ひとりで行かず、針子仲間みんなで行けばいいのに。。。

信長「俺はこれから、秀吉たちと城下の警護について打ち合わせがある。買い出しには家臣をつける。貴様ひとりで行くよりは安全だ」

なんだ、信長様護衛してくれないの?警護の打ち合わせなら、秀吉さんに任せて大丈夫じゃないかしら?
信長様が護衛できないなら、じゃあ政宗でも。。。できれば、光秀さんがいい ♡

「・・・! ありがとうございます。助かります」

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家臣の人と城下に行った私は、無事、反物を買うことができた。

「お待たせしました。もう用は終わったので帰れます」

家臣「承知しました。では行きましょう」

それから歩いてしばらくすると・・・・・・
(ん?)

騒がしい声が聞こえてきた。

浪人「酒問屋なのに酒がねえだと!?」

店主「もうさっきので全部なんです。勘弁してください・・・!」

(あれってもしかして・・・・・・信長様が言ってた、城下を荒らしてるっていう人たち?)
見ていると、不意にその中のひとりと目が合ってしまう。

浪人2「おい、いい女がいるぞ」

男たちはこちらに近づいてきて・・・・・・

浪人3「ちょうど酒の相手を探してたんだ。俺らと遊んでいけよ」

家臣「お前たち、下がれ!」

(あっ)
家臣の人が、刀を抜くと同時に殴り飛ばされた。

はい? 織田の家臣ってそんな弱いの?殴り飛ばされたって。。。信長様、せめてもう少し強い家臣をつけてください!

(この人たち、刀を前に全くひるんでない・・・・・・!)

浪人1「ほら、来いって」

「放して・・・!」

腕を掴まれた瞬間------

??「その女に触れるな」

謙信「さもなくば、すぐに斬る」

「謙------っ」

振り向いて見えた姿に、慌ててその名を呑みこむ。
(どうして謙信様がここに・・・・・・?)

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謙信がゆうを庇いながら戦っている、すぐ近くの路地で、男がひとり、壁にもたれてその様子を眺めていた。

元就「こんなもんは、まだまだ序の口よ」

元就の瞳に、ぎらりとした光が宿る。

元就「安土を・・・・・・いや、この日ノ本を火の海に変えるのはこれからだ」

そうこぼし、元就はそのまま裏道へと消えていった------・・・

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(まさか、謙信様に助けてもらうなんて思わなかった)

「酒屋の店主さん、怪我がなくてよかったですね」

謙信「お前も怪我はないな?」

「はい。絡まれてすぐに、謙信様が声をかけてくださったので・・・・・・」

倒された男たちは、家臣の人が呼んだ兵たちに捕縛され・・・・・・私はこの場に残り、謙信様にお礼を伝えた。
(誰も、謙信様の正体には気づかなかったみたいだな)

「謙信様、今日はどうして安土に・・・?」

謙信「所用だ」

その瞳がじっと私を捉える。

謙信「近頃、あのような連中が、安土城下を荒らしているというのは本当か?」

「・・・! 」

(謙信様も知ってたんだ・・・・・・)

「本当です。私も、今日聞いたばかりですけど・・・・・・」

謙信「信長のことだ、既に奴らの正体を探り始めている頃だろう。であれば・・・・・・」

謙信「しばし待て」

「? 謙信様?」

謙信様は、さっき助けた酒問屋の店主に筆と紙を持ってこさせて、素早く文のようなものをしたためた。

謙信「信長に持っていけ」

畳まれた文を受け取り戸惑う。

「あの、これはいったい・・・・・・」

(謙信様から信長様への手紙なんて、戦の果たし状くらいしか思い浮かばないけど・・・・・・今回は違うみたい)

謙信「奴に渡せばわかる。ではな」

そう告げて、謙信様はさっさと行ってしまった。
(とりあえず、言われた通りにするしかない・・・・・・か)

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安土城に着くと・・・・・・
(あれ?)

信長「ゆう。帰ったか」

信長様の姿が見え、足早に近づく。

「信長様。なぜこんなところにおひとりで・・・------!」

ぐいっと腕を引かれる。信長様と顔が近づいて、鼓動が跳ねた。

信長「怪我はないようだな」

余談だけど、さっきの家臣、大丈夫かしら?