光秀さんの御殿に泊まった翌朝。
(どうしよう。昨日買ってもらった着物、作りが特殊で上手く着つけが・・・)
私は、身支度にすっかり手間取っていた。
光秀「ゆう。支度はできたか?」
「っ、ちょっと待ってください・・・帯がまだ・・・」
慌てて帯を締めようとしたけれど、
「えっ・・・」
襖が開かれ、驚きに目を見開いた。
光秀「手伝ってやろう」
私の様子を察し告げた光秀さんが、何食わぬ顔で部屋に入ってくる。
おいおい、まるで恋仲♡みたいだな。着つけ手伝うとか。。。なんか動じない、何食わぬ顔だと、女慣れしてるなって思って、胸がズキン!ときたよー!
「手伝うって・・・・・・光秀さん、女性の着付けなんてできるんですか?」
(こんな格好をみられるなんて、恥ずかしすぎる)
平静を装うものの、中途半端に乱れている着物の状態に、頬が熱くなった。
光秀「見ればなんとなくわかる」
(あ・・・)
答えた光秀さんが、そのまま背後に回り、私の手から帯を取り上げる。
(何この体勢・・・・・・っ)
まるで後ろから抱きしめられているような体勢に、鼓動が騒いだ。
着物の帯だもんね。そうなるか。。。ん?これ狙いでワザと入ってきた? だったら、嬉しいな(o^^o)
光秀「そんなに身を固くしなくても、取って食いはしないから安心しろ」
いや、体勢に照れてるの。。むしろ取って食べてくださいっ! お願い!(笑)
愉しげな笑い声に思わず振り向くと------
「! あ・・・・・・」
光秀「うっかり唇がぶつかるところだったな」
「もう・・・・・・からかわないでください・・・」
光秀さんの胸を押し距離を取ろうとするけれど、
「っ!」
逆に手首を掴まれ、息をのむ。
光秀「頬紅をさし過ぎたか? 随分真っ赤だが」
(私の反応を見て、絶対面白がってる・・・!)
「誰のせいだと思ってるんですか?」
光秀「仕方ないだろう。お前の顔に意地悪してくださいと書いてある」
「本当に意地悪ですね。書いてませんよ、そんなこと・・・・・・」
光秀「わかったわかった。では、」
「わかったわかった」って、大人の男っぽさ出てるよね〜
ん? それとも私が子供扱いされてる?
でも、こんないい方が好き
(えっ・・・・・・)
光秀さんは掴んだままだった手首を離すと、今度は私の指を絡め取った。
光秀「そろそろ出るぞ」
「何で手を・・・」
聞き返した私を見て、光秀さんは何でもないことのようにふっと笑みを滲ませた。
光秀「今日のお前は『織田家ゆかりの姫』ではなく、『俺の許嫁の姫』だからな」
「えっ、聞いてませんよ?」
(光秀さんの婚約者のフリをしろってこと?)
光秀「初めて言ったからな。俺の許嫁役が不服か?」
「いいえー、最高に幸せですっ❣️」
「・・・・・・そういうわけじゃありませんけど・・・」
そこまで言いかけて、ふとあることに気付く。
(もしかしたら・・・女好きの領主から守りやすいとか、光秀さんなりに考えてくれたのかもしれない)
「わかりました。頑張ります」
気を取り直し、まっすぐにその瞳を見つめ返した。
光秀「ああ」
そして私たちは領主の城へと出発し------
------
領主「さあさあ。どうぞ飲んでください。この辺りの有名な地酒なんですよ」
「ありがとうございます」
歓迎の宴が始まり、私は緊張を悟られないよう必死に笑みを浮かべる。
領主「明智殿が羨ましい。このような美しい許嫁がおられるとは」
「・・・・・・!」
領主の男ににやりと笑みを向けられ、手を取られた。
(女好きっていうのは本当だったんだ・・・)
振り払いたい気持ちを何とか押し込め、再び笑みを取り繕う。
光秀「ゆう。お酌を」
「あ、はい」
そっと領主の手を離し、光秀さんへお酒を注ぐ。
(今の・・・・・・光秀さんがさりげなく気を遣ってくれたんだよね)
ちらっと光秀さんを見ると・・・・・・
光秀「・・・・・・」
(あ・・・)
光秀さんとばっちり目が合った。
安心させるような光秀さんの柔らかな視線にドキドキしながら、徳利を置く。
すっかり許嫁ごっこじゃん!ごっこなの?安心させてくれたんだよねー?
光秀「ところで一つお伺いしたいことが」
光秀さんは領主に向き合い、口火を切った。
光秀「近頃の信長様のやり方をどう思われますか?」
領主「! ・・・・・・それはどういう意味ですかな」
(光秀さん、何を言いだすんだろう・・・)
嫌な緊張感が漂い、私も居ずまいを正す。
光秀「もしも私が、信長様を裏切る腹積もりでここに来た、と言ったら?」
(相手を油断させるための作戦・・・・・・ってことだよね)
領主「・・・・・・なるほど、そういうことでしたら・・・」
領主が悪い笑みを浮かべた時、襖の外が騒がしくなる。
家臣「御館様!」
領主「何事だ・・・!」
家臣が歩み寄り、領主に何やら耳打ちをする。すると、領主はさっと顔色を変えて私と光秀さんを冷ややかに見やった。
光秀「なるほど。ネズミは奴一匹ではなかったということですか」
「え・・・・・・」
(それって・・・・・・軍議を立ち聞きしていた間諜の他にも、領主の手下がいたってこと?)
身体を強張らせる私と裏腹に、光秀さんは余裕綽々(しゃくしゃく)の笑みをうかべている。
領主「その者たちを牢へ」
「!」
光秀「・・・・・・」
光秀さんを見ると、何かを考え込むように口を閉ざしていた。
何を考えて込んでるのかな?
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領主「生きて帰すと思うな」
吐き捨てた領主が、がしゃんと牢の鍵を閉めて去っていく。手首を縛られた私たちは、二人して地下牢に投獄されてしまった。
「・・・・・・光秀さん」
不安になり、思わず声をかけるけれど・・・
光秀「ああ。大変なことになったな」
光秀さんは何でもないことのように肩をすくめていて、ちっとも大変そうに見えない。
「もしかして・・・・・・いつもみたいに既に策を練ってあるっていうことですか?」
(だとしたら、この余裕な態度も納得出来る。光秀さんのことだからあり得るかもしれない)
わずかな期待を込め、返事を待つ。
光秀「いや?間者がもう一人いたことは想定外だったからな」
「じゃあ・・・・・・本当にここから出る方法は何もないってことですか?」
光秀「どうだろうな?」
どうだろうな?って。。。
(嘘でしょ・・・・・・?)
光秀さんの読めない表情をいくら見つめても、答えを教えてもらえることはなさそうだった。
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それから少しの沈黙が続いた。
「くしゅっ・・・・・・」
(ここ、寒いな・・・地下みたいだし・・・これからどうなっちゃうんだろう)
不安と寒さでぶるっと全身が震えた。
光秀「ゆう」
名前を呼ばれ、反射的に振り向く。
光秀「こちらへ来い」
「えっ・・・・・・」
光秀「寒いんだろう。温めてやる」
「温めるって・・・・・・どういうことですか?」
(いきなりそんなこと言われても・・・・・・どうしよう)
戸惑いだけではない、鼓動の高鳴りに言葉が詰まってしまう。
光秀「いいから、俺の前に座れ。足は縛られていないだろう」
優しく低い声が牢に響く。
(無理だって、言えばいいのに・・・・・・どうして言えないんだろう)
おずおじと歩み寄り、光秀さんの前まで来て、背中を向けて座った。
光秀「良い子だな」
柔らかな声がすぐ後ろから聞こえてくる。
光秀「ほら。もっと身を寄せろ」
光秀さんは、しばられた腕を上げ、そのまま私をすっぽり抱きしめた。
「っ・・・・・・光秀さん・・・?」
光秀「髪飾りが邪魔だな」
結われた髪を避けるようにして、光秀さんはぴったりと私の肩に顎をのせる。
「! 近いです・・・・・・っ」
光秀「仕方がないだろう。この複雑な髪形のせいだ・・・------少しの間、じっとしていろ」
↑すいません、ボイスください!
「っ・・・・・・」
耳元で甘やかすようにささやいて、どきりとする。
(捕まっちゃって大変な状況なのに、着つけをしてもらった時よりずっとドキドキする・・・------心臓が壊れそう)
光秀さんの髪が視界の端に映りこみ、その距離の近さを意識した。
光秀「お前はずっとそわそわしているな。何か気になることでもあるのか?」
「っ、これは・・・・・・光秀さんが近すぎるから、落ち着かないだけです」
光秀さんが耳元で喋るだけで、びくっと反応してしまう。
光秀「まったく・・・・・・飽きないな。そんな反応をされても、この状況では文字通り、手も出せないぞ」
面白がるような声に、かあっと頬が熱くなった。
「こんな時くらい意地悪しないでください」
光秀「・・・・・・それもそうだな。この状況をあえて利用して、お前をとことん甘やかしてやろう」