「信長様・・・・・・大好きです」
信長「・・・・・・よくわからんが・・・・・・まあ、良い。もっと俺への想いを、その唇で告げろ」
唇が触れ合いそうなほど、信長様の顔が近づいて------
(あ・・・・・・)
信長様の唇が、優しく私の唇を塞いだ。
(信長様・・・・・・)
抱きしめられた腕の温もりも、何もかもが愛おしい。そっと広い背に手を回すと、それに応えるように口づけが深くなっていく。
「んっ・・・・・・」
強く触れ合う唇から、熱が全身に伝わっていくようだ。滑り込んだ舌が愛撫を始め、私もぎこちなく舌を絡める。
(私も、信長様の想いに応えたい・・・・・・)
けれど信長様が小さく笑う気配がして、たどたどしく動く私の舌先はあっさりと絡め取られた。
「っ・・・・・・ふ、ぁ」
堪え切れずに、私は大きく息を吐き出す。
信長「息をすることすら忘れたか」
わずかに唇を離し、信長様が笑う。
「っ・・・・・・信長様の、せいですよ」
信長「それは結構なことだな」
信長様の手が、熱く火照った私の頬を撫でた。
(悔しいな・・・。いっつも、私ばっかり余裕がなくなってる。でも、大好き)
信長「それにしても・・・・・・貴様がホトトギスを好きだとは知らなかった」
「好きというわけではないんですが・・・・・・ホトトギスってどんな鳴き声でしたっけ・・・?」
信長「妙な質問をしておいて、覚えていないとはな」
私の頬を撫でながら、信長様がおかしそうに笑う。
「私が前に住んでたところには、野鳥はあんまりいなかったので・・・・・・信長様はホトトギスの鳴き声を聞いたことありますか?」
信長「当然だ。貴様のように、聞いたことのない者の方が珍しいだろう」
「そういうものですか・・・?」
信長「あのさえずりを聞いたこともないのに、なぜ鳴かないホトトギスについて尋ねたりしたのだ、貴様は」
「そ、それは、昨日の夜、なぜか急に気になりだして」
(私じゃなくて、佐助くんが、だけど・・・)
信長「俺が貴様を想って一人寝をしている間、そんなくだらんことを考えていたとはな」
(え・・・・・・)
苦笑いを浮かべ、信長様が親指で私の唇をなぞった。
「ぁ・・・っ」
まだ濡れている唇を拭うようなその仕草に、胸がとくんと鳴る。肩を震わせる私を見つめ、信長様が優しく微笑んだ。
信長「貴様の声には及ばんが・・・・・・ホトトギスも、なかなか良い声で鳴くぞ」
「ここにいれば、いつか聞けますよね」
信長「いつか、などと言わず、今すぐ聞けば良い。ゆうにあの鳥のさえずりを聞かせてやる」
信長様が私の手を取り、引き寄せて------
信長「出掛けるぞ、ゆう」
信長様は私の手を引くと、歩き出す。
「出掛けるって、どこへ・・・・・・」
信長「ホトトギスを探しに行く」
(私が聞いてみたいって言ったから・・・・・・?)
信長「貴様と遠出するのも久しぶりだな」
(遠出・・・・・・つまりデートするってことだよね?)
「はい・・・・・・!」
嬉しくて、私は笑顔でうなずいていた。
------
(わあ・・・・・・)
湖のほとりで、私はホトトギスの声を聞いた。
(こんなかわいい声で鳴くんだ)
しばらくさえずりに耳を傾けた後、私は信長様を振り返った。
「信長様、ありがとうございます」
信長「礼には及ばん」
その言葉はそっけなく聞こえなくもないけれど、信長様の顔を見るとそうじゃないことがわかる。穏やかで、優しそうな目をしているから。
「でも、捕まえて鳥かごに入れて、鳴き声を聞かせるんじゃなくて・・・・・・こうして外へ連れて来てくれるところが信長様らしいですね」
信長「俺らしい・・・・・・?」
「はい。誰かに、捕まえてこいって命令してもおかしくない立場なのに、ホトトギスが自由に飛び回る姿を見せようとしてくれたんですよね」
信長「それもあるが、ここならば邪魔が入らんからな」
「え?」
信長「今日、俺は貴様にのみ時を費やすと決めた」
(それで、城から私を連れだしたんだ・・・・・・)
二人きりで向かい合い、信長様をじっと見つめる。強い光を宿した瞳に私だけが映っていることが、嬉しくて堪らない。
信長「貴様も同様に、俺にすべての時を費やせ」
「はい、もちろんです」
信長「そうしろ。家康や秀吉にはひと時たりともくれてはやれんからな」
(え・・・・・・?信長様、秀吉さんだけじゃなくて、私と家康が話してたのも見てたのかな)
見られて困るような話はしていないだけに、信長様が気にしてくれていたことが素直に嬉しい。
信長様は、どこか憮然としたように腕組みをしている。
(これって、もしかして・・・・・・)
「焼きもち妬いてくださってますか・・・・・・?」
信長「焼きもち・・・・・・?そうではない。俺は、ただ単に・・・」
信長様の手が伸び、私の腰を抱き寄せる。
(あ・・・・・・っ)
信長「貴様を俺に独占させろ、と言っている」
「嬉しいです」
信長様の広い背に手を回し、ぎゅっと抱きつく。
「・・・・・・ようやく、二人でゆっくりできますね」
信長「そうだな」
「離れてる間、ちょっとだけ、寂しかったです」
信長「ほう、『ちょっとだけ』か」
少し意地悪に微笑み、信長様が私の顔を覗き込む。甘えろ、と言われているようで、本音が口をつく。
えーい!甘えちゃえ〜〜
「・・・・・・嘘、つきました。本当は、『すごく』寂しかったです」
信長「------素直で良い」
「信長様は・・・・・・寂しかった、ですか」
信長様「いや」
「・・・そうですか」
少し残念な気持ちが湧くけれど・・・
信長「寂しくなどなかったが・・・貴様が寂しがっているだろうから、早々に帰らねばならん、と思っていた」
(信長様・・・・・・)
深い声が、しぼんだ心をすぐさま温めた。信長様の顔が近づき、唇が重なり合う。
「ん・・・・・・っ」
あんなにはっきりと聞こえていた鳥のさえずりが、ぼんやりとして遠ざかっていく。それなのに、信長様の吐息だけが、はっきりと聞こえる。
「っ・・・・・・」
最初は小鳥のついばみのような口づけが、角度を変えるごとに深くなる。濡れた舌先で唇をなぞられ、背中が震えて身体が熱を上げた。
(声も、出ない・・・・・・)
これ、愛おしさ溢れる口づけってやつよね。。
端までなぞられた後、唇を割り、舌が忍び込む。
(力が・・・・・・抜ける・・・・・・)
ゆっくり味わいながら、じわりと私を攻め落としていくような口づけに、抗う術はない。与えられるほどに渇いていく気がして、私は信長様の首に回した腕に力を込めた。
(もっと近くに・・・・・・ぴったりくっついて、離れずにいたい)
声もなく激しい願いが湧きあがった時、信長様が、少しだけ唇を離した。
信長「------鳴いても、鳴かずとも、貴様はやはり愛おしいな。鳥を愛でるより、貴様を愛でている方がずっといい」
「信長様・・・・・・んっ」
囁かれた言葉に応える前に、また唇を塞がれてしまう。
(甘くて、くらくらする・・・・・・)
湖畔が静かに揺れ、鳥たちが舞い踊る中、二人きりで過ごせる大事なひと時を、私達はいつまでも、口づけを交わして過ごした------。