風のように去っていく佐助くんを見届けてから、私はすぐに襖を開く。

政宗「開けるの早いな。そんなに俺に逢いたかったか」

こういうセリフが一番似合う、政宗 

「っ、政宗の声がしたから開けたんだよ!」

政宗「素直じゃない奴だな」

(わ・・・)
政宗は後ろ手で襖を締めると、拒む隙も与えず私を抱きしめる。

「ま、政宗・・・っ」

政宗「困る顔もいいな、お前」

「からかわないで・・・っ」

政宗「俺はいつも大真面目だ。お前も素直になれ。じゃなきゃ罰として・・・」

(あ・・・まさか)
引き止めるより早く、政宗が噛み付くように唇を重ねてくる。

「っ、・・・・・・んん」

柔く唇で食まれて、呼吸を乱される。

心臓が張り裂けそうなほど音を立てて、私は政宗の胸元を弱く押し返した。

「っ・・・また、勝手にこういうことする・・・!」

政宗「吠えてないで喜んどけ」

(もう、油断も隙もない・・・)
逢うたびにまるで恋人同士のような触れ合いを求めてくる政宗にペースを乱されたまま、私にできる抵抗と言えば、その場で怒ってみせるばかりだけど・・・・・・

(だめだな、私。好きな人にキスされるの、心の底では嬉しいって思っちゃってる・・・・・・政宗は、どう思ってるんだろう。私の存在が政宗にとって特別だって、うぬぼれていいの・・・・・・?)
ぐるぐる考えている私をよそに、政宗が壁に立て掛けていた着物へ目を向けた。

政宗「なんだこの着物、見慣れねえ刺繍だな」

「あ、それ、私が縫ったの。じっとしてるの申し訳なくて、針子さんたちのお手伝いしてて。おかしいかな?」

政宗「いや、なかなか斬新でいい。こっちの生活にも、馴染んだみたいだな。今度、俺の故郷にも連れてってやる」

「政宗の故郷って、奥州?」

政宗「ああ、あっちの針子たちも喜ぶ。お前みたいな存在は貴重だろうからな」

(そうだと嬉しいな・・・政宗ってただ自由奔放じゃなくて、案外周りのことを見てるんだよね)

戦の時の荒っぽい表情とは違う、優しい笑顔に心があたたかくなる。
(ここに来てまた日は浅いけど、政宗のことを本当の意味で理解した気がするな)


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「・・・政宗は戦いが好きなんだね」

政宗「ああ、好きだ。生きていることを実感できる」

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あの時の政宗の言葉も、今は別の意味が込められているように感じる。

「政宗が戦うのも・・・、奥州の長っていうことに関係あるの?」

政宗「ああ。俺は奥州を豊かにして、その先を切り開いていく。そのために、信念を持って戦いに挑む」

「信念か・・・」

(だから・・・、政宗はあんなに強いんだ)
胸のどこかでわだかまっていたものが、するすると解けていく。

「私、ずっと政宗のこと、理解できないって思ってた」

政宗「今はできてるのか?」

「ううん。理解できないままでもいいんだって気づいただけ」

(私が好きになったのは・・・、そんなありのままの政宗だから)
たとえ全てが理解できなくても、政宗のそばにいたい。その一瞬を大切にすることこそが、私自身の後悔しない生き方なんだと気づく。

「色々、ありがとう。政宗」

心から笑顔を浮かべて言うと、政宗が優しく私の頬を包み込んだ。

政宗「礼はいい。俺はお前のそのふにゃふにゃした笑顔が好きだからな」

「ふにゃふにゃって・・・そこまで間抜けな顔してないよ」

政宗「いいんだ、お前はそれで。だからもう、二度と俺の許可なく無茶な真似はするな」

(え・・・?)
静けさを帯びた声で告げると、政宗が真剣な眼差しで私を見つめる。

政宗「あの時、戦場で刀を向けられたゆうを見て・・・、一瞬、頭が真っ白になった。お前の笑顔をみられなくなると・・・俺は困る。柄じゃねえけどな。だからお前は、ずっとふにゃふにゃした甘ったれのままでいい」

「政宗・・・」

(そんなに心配してくれてたんだ・・・)
飾らない政宗の言葉に、胸がいっぱいになる。

政宗「無茶させないためにも、これからはずっとお前を俺のそばに置く。お前は一生、俺のそばで笑ってろ。いいな?」

「っ・・・、それって・・・」

(なんだか、プロポーズみたいなんだけど・・・)
真面目な顔で告げられて、意識せず頬が赤く染まっていく。

(でもまだ、『好き』も何も言われてないし・・・)

政宗「ゆう・・・もっとこっち、来い」

「っ、ち、ちょっと待って・・・っ」

政宗「・・・!」

また顔を近づけてくる政宗の口元を、慌てて手で覆う。

政宗「こら、なんで止める」

「だ、だから、口づけの前に色々と段取りがあるんだってば。まだちゃんと付き合ってもいないのに・・・」

政宗「付き合うってなんだ?」

「えっと、恋人・・・好き同士の人たちのことを、そう呼ぶんだよ」

政宗「だったらもう、とっくに解決してるだろ。俺はお前が好きだからな」

「っ・・・」

真正面から言い切られて、ひときわ大きく鼓動が跳ねた。

政宗「お前も俺が好きだろ?」

「っ、嫌いなわけない・・・けど」

政宗「もっとちゃんと言ってみろ」

言わせるんだ〜❤️

低く通る声も悪戯めいた囁きも、何もかもが私の心を占める。
(政宗には、かなわない・・・)

返事をわかってるというような自信に満ちた眼差しに、抗う術なんてどこにもない。

「・・・政宗が好き。誰よりも、愛してる」

もう、伝えずにはいられなかった。返事を聞いた政宗の目元が、かすかに緩む。

政宗「ああ、知ってる。お前はもう俺のものだ」

「ん・・・・・・」

言葉と同時に唇を寄せられて・・・今度はちゃんと口づけを受け止めた。
(ずっと、政宗のそばにいたい。きっとこれから、離れる時もあるだろうけど・・・)

優しい口づけに酔いしれながらも・・・、戦で政宗と離れた数日間の寂しさが、頭の片隅をよぎる。

「・・・政宗はこれからも、戦場に行くんだよね?」

政宗「ああ。言っとくが、俺はお前を戦場には連れていかねえぞ」

(私だって、政宗に心配はかけたくない。でももし、また命を掛けて政宗が戦場に行くことがあれば・・・)
瞼を伏せて、いつか来るその時のことを想う。

(たとえ何もできなくても・・・、私はやっぱり・・・)

「・・・ごめん、まだ、素直に頷けないかも」

政宗「は?どうして」

「だって政宗は、信念をもって戦いに挑んでるでしょう?私だって同じように・・・信念があるから」

政宗「お前の信念?」

「私には、何もできないかもしれないけど・・・大切な人が死ぬかもしれない時に、ただ待つだけなんてできないと思う。政宗と一緒に生きていくんだから」

政宗「・・・・・・」

(根拠なんて何もないことは分かってる。でも・・・政宗を失いたくないって思うのは、私だって同じだから)

一瞬の間を置いて、政宗がわずかに微笑んだ。

政宗「・・・いい度胸だ。じゃあお前の命は、俺が預かる。一生、どんな時もだ」

(あ・・・)
政宗の手が、私の心臓の上にあてがわれる。手のひらから伝わるぬくもりが、更に胸を高鳴らせていく。

政宗「これから嫌っていうほど、教えてやる。俺がお前をどのくらい愛しているか」

「・・・うん」

頷いた瞬間、政宗が包み込むように背中に腕を回した。ぎゅっと強く抱きしめられて、嬉しくて、涙が零れそうになる。

(これからも、政宗が刀を握るたびに苦しむこともあるかもしれない。それでももう、政宗を離したくない・・・)

確かな熱を持った青い炎が、私の心に灯る。
(ふたり一緒なら後悔することなんて、なにもないから・・・)

燃え尽きることのない愛しさを、政宗の腕の中でも感じる。芽生えたぬくもりを離さないように、私は政宗の背中をぎゅっと抱き締めた------・・・