差し伸べられた政宗の手を取り、私は笑顔で頷いた。
(私は、この手を離さない------ずっと)


安土城を後にした私達は、数日に渡る長い旅を終え、政宗の本拠地である、青葉城へ到着した。

政宗の家臣たち「お帰りなさいませ、御館様!」

門の前に経つとすぐに、政宗の家臣達の熱烈な歓迎を受けた。

政宗「お勤めご苦労。長く不在にして悪かったな。変わりないか」

政宗の家臣「はっ。こちらは変わらずです」

政宗は馬を降りながら、家臣といつか領地の様子について言葉を交わしている。
(こうして見ると、政宗ってやっぱり、一国一城の主なんだな・・・・・・)

貫禄のある姿に感心しながら、私も馬を降りると、

政宗の家臣「ところで政宗様、そちらが噂の姫君ですか?」

「えっ?」

政宗の家臣たちの視線が私に集まっていることに気がついた。

政宗の家臣「政宗様や、一緒に安土に行った者達からの文で、お噂(うわさ)は伺っていたんですよ。政宗様のお気に入りの姫君がいると」

(お気に入り・・・・・・)

政宗の家臣2「噂に違わず、可愛らしいお方だ。お名前は?」

「あ、失礼しました。はじめまして、ゆうと言います」

温かい笑顔を向けられて、挨拶をしてお辞儀をする。

政宗「俺の妻になる女だ。手、出すなよ」

(えっ?)
ぽんとなげかけられた言葉に、驚いて顔を上げた。

(今・・・・・・さらっと妻って言った?)
政宗はさっさと踵(きびす)を返すと、城の方へ歩いて行ってしまう。私同様、家臣たちも、なぜか驚いた顔でその背を見送っていた。

政宗の家臣「ま・・・・・・政宗様があんなことを仰るなんて」

政宗の家臣2「安土から政宗様が許嫁をつれていらっしゃったぞー!」

政宗の家臣3「なに、許嫁だと⁉︎」

私よりもうろたえている家臣の様子に、ますます戸惑う。

「そんなに大騒ぎしなくても・・・・・・っ」

与次郎「いや、そりゃあ、騒ぎますよ。今までずっと、政宗様は特別な方を作ろうとはなさらなかったんですから。ゆう様は本当に・・・・・・特別なんですよ」

(・・・・・・そう、なの?政宗・・・・・・)
与次郎さんの言葉を聞いて、じわじわと嬉しさが膨らみ、驚きにとってかわる。城門に消える政宗の背中を、今すぐ駆け寄って抱きしめたくなって、私はその衝動をなんとか堪えるのに必死だった。政宗の帰還と私の歓迎の祝宴のあと、私は政宗に、青葉城の御殿の中を簡単に案内してもらっていた。

「政宗のお城の御殿も、広いんだね・・・・・・」

政宗「迷子になるなよ」

「・・・・・・頑張る」

(安土城に住み始めた時も苦労したっけ・・・・・・これからまたひとつひとつ、このお城のことも、それ以外の政宗の国のことも、覚えていくんだ)
これからの暮らしを想像して幸せな気分に浸っていると、少し前を歩いていた政宗がこちらを振り返った。

政宗「お前のための部屋も、ちゃんと用意してある。今から、案内してやるよ」

(私のための部屋・・・・・・?)
その言葉に、少しだけ、寂しさを覚える。

( ”私の” ってことは、政宗のとは別の部屋なのかな)

「政宗の部屋とは、離れてるの?」

政宗「さほど遠くないが、続き部屋ではないな。・・・・・・それがどうかしたか」

(やっぱり別の部屋なんだ・・・・・・政宗は案内したら、自分の部屋に戻っちゃうのかな)
政宗はこの城の城主だから、安土城の御殿にいた時とは、色々勝手が違うのかもしれない。頭では納得しようとしても、寂しい気持ちが抑えきれなかった。

(せめて、今夜だけ)

「・・・・・・今夜は、離れたくないな」

政宗「・・・・・・!」

本心が、口をついて出てしまう。焦がれるような気持ちで、目を瞬かせている政宗をじっと見つめた。

政宗「馬鹿だな、お前」

政宗は私の手を引いて、さっきと同じペースで歩き始める。
(・・・・・・だめって、ことかな)

視線の先にある広い背中を見上げ、胸がぎゅっと締めつけられた。
(馬鹿でも、いいから・・・・・・そばにいたいよ)

(わ・・・・・・、広くて綺麗な部屋だな・・・・・・)
政宗に手を引かれるまま連れてこられたのは、豪華な襖絵のある立派な部屋だった。

「ここが私の部屋?」

政宗「違う、俺の部屋。俺が ”お前の部屋” って言ったのは、お前が絵を描いたり服を作ったりする部屋のこと」

「え・・・・・・っ?」

思いがけない言葉に、驚いて目を見開く。政宗は驚く私の反応を楽しむみたいに、真っ直ぐに私を見つめている。

「そんなお部屋・・・・・・、どうして用意してくれたの」

政宗「お前が、そうしたいだろうと思って」

(え・・・・・・)

政宗「この城でも、お前の好きなことしろよ。お前がお前らしいことして、笑ってるのが俺は好きだ」

繋いだままの手を引いて、政宗がそっと距離を詰める。愛しげに伸ばされた政宗の指先が、私の頬をくすぐった。

政宗「・・・・・・先にその部屋をみせてやろうと思ったのに、お前があんな可愛いこと言うからそっちは、明日までおあずけだ」

「え・・・・・・?」

政宗「今夜は、離れたくないって?」

からかうような声で囁かれて、さっと耳まで熱が走った。

(・・・・・・っ、私、勘違いして、あんなこと)
恥ずかしさに真っ赤になる私を見下ろして、政宗はおかしそうに笑う。

政宗「お願いされなくたって、ずっと一緒にいてやるよ」

「・・・・・・ん」

柔らかく唇が重なる。唇を重ねたまま、そのままもつれるように褥の上へと押し倒される。

政宗「この城でお前が寝るのは、俺と同じ褥に決まってるだろ」