政宗「それより・・・・・・、お前をちゃんと、感じたい」

(あ・・・・・・)
弄ぶみたいに、指先を絡められ、片手を捕まえられる。
そのまま、政宗の胸元にぐっと引き寄せられた。

政宗「待った、は・・・・・・聞かないからな」

「待ってなんて、言わないって、わかってるくせに・・・・・・」

政宗「そうなのか?」

からかうように耳元をくすぐっていく囁きに、身体が甘くうずく。
(もっと、触れたいのは、私も・・・・・・同じだから)

その腕に身体を預けると、政宗が私の服に目を留めた。

政宗「・・・・・・妙な着物だな」

「え?」

シャツとスカートを見下ろして、はっと気がづく。
(そうか、私、現代の服のまま来ちゃったんだ)

「五百年後は、こういう服が普通なんだよ」

政宗「へえ・・・・・・」

私の服を純粋に観察するように、政宗が視線を注ぐ。

「・・・・・・っ」

(な・・・・・・なんか、恥ずかしいな)
興味津々の眼差しを身体に注がれて、思わず顔を背けたくなる。

政宗「これ、どうやって外すんだ」

「あ・・・・・・それは・・・・・・」

政宗の指先が、胸元のボタンをぴんと弾いた。
(ボタンって、この時代にはないの・・・・・・?)

「こ、こうして、穴をくぐらせて、だよ・・・・・・」

(なんだろうこれ、すごく恥ずかしい・・・・・・)
じいっと観察するように手元を覗かれながら、一番上のボタンをひとつ外す。

「・・・・・・ほら」

少し胸元がはだけたのを恥ずかしく思いながら、示して見せる。

政宗「・・・・・・わかった」

満足気に笑うと、政宗はぐっと私の身体を引き倒した。

「・・・・・・っ、ん」

背中をかばわれて衝撃はなかったけれど、急に仰向いた視界に驚く。

政宗「じれったい着物だってことは、よくわかった」

「・・・・・・政宗?」

政宗が腰に差していた短刀を鞘から抜くと、ためらいなく胸元のボタンへと切っ先を引っ掛けた。

「っ、なに、してるの」

政宗「じっとしてろ」

ぶつ、とたよりない音がして、あっさりと細い糸が切れる。

「っ、あ・・・・・・あ、待って、ここじゃ、やだ」

刃の先が次々と、ボタンを外していく。
陽の光が、さらけ出されていく胸元に降り注いで、逃げ出したくなる。

政宗「待ったは聞かないって、言っただろ」

(あ・・・・・・)
最後に下着もふつりと斬られて、思わず隠そうと持ち上げた手は、すぐに政宗の手に捕らえられて、顔の両側に拘束されてしまった。

「や・・・・・・見ないで」

政宗「嫌だ。全部見せろ」

カラン、と短刀が転がる音がどこか遠くに聞こえる。

「い・・・・・・、いじわる」

政宗「お前の顔に、意地悪してって書いてあったからな」

(・・・・・・っ、もう・・・・・・!)

くすくす笑って、政宗が首筋に唇で触れてくる。
政宗の手や唇が触れるだけで、心地よさからめまいがしそうだった。

「っ・・・・・・、あ・・・・・・」

政宗「・・・・・・ゆう」

潤んだ視界に、余裕を失った瞳が映る。熱い吐息が絡み合うなか、私はそっと政宗の頬に指先で触れた。

「幸せ・・・・・・だね」

(また、泣いたりしたら・・・・・・さすがに呆れるかな)

政宗「・・・・・・そうだな」

政宗が幸せそうに笑って、ますます泣きそうになる。
(もう・・・・・・離れない。ずっと、そばにいられる。政宗と・・・・・・ずっと一緒にいられるんだ)

何度も何度も、お互いに触れ合えることを確かめるように抱きしめ合う。一年の時を経た逢瀬が、私の心も身体も溶かしていった。
------静かに、けれど確かなぬくもりに満ち足りたひとときが過ぎて、本能寺の一室でまどろんでいた私の身体に、政宗が優しく柔らかな着物をかけてくれた。

「・・・・・・これは?」

政宗「お前、着るものないだろ?それ、着とけ」

「・・・・・・着るものないのは、政宗がボタン切っちゃったせいだけどね」

掛けてくれた着物に視線を落とすと、華やかな模様に目を奪われた。
(・・・・・・あれ?)

「・・・・・・これ、どこかで見たような」

その見覚えのある色合いに、思わずつぶやく。

政宗「・・・・・・あの絵、血で汚れてたから、色はちょっと違うかもな」

「政宗、まさか、この着物って・・・・・・」

政宗の胸元にずっと入っていた、あの和紙に描いた絵を思い出す。
それは、絵の中で女性が来ていた振り袖だった。

「・・・・・・また作ってくれたの?」

政宗「お前が戻ってきた時、着るものがないと困るだろうと思って」

「・・・・・・ありがとう」

(作ってくれたことも、嬉しいけど戻ってくるって、本気で思ってくれてたの・・・・・・嬉しいな)
久しぶりの着物の生地は、すぐに私の肌に馴染んだ。

政宗「思った通り、似合ってる。俺の城に来たら、それを作った針子たちに見せてやってくれ。きっと喜ぶ」

「・・・・・・うん、もちろん」

(ああ・・・・・・そっか、やっと私、政宗のお城に行けるんだ)
一年前に夢見た、政宗との新しい暮らし。
それが実現することが、とんでもない奇跡だと、今ならわかる。

「・・・・・・政宗」

政宗「ん?」

「ふつつかものですが、よろしくお願いします」

かしこまり、三つ指をついてお辞儀をする。
小さな笑い声と共に、頭上から政宗の口づけが降ってきた。

政宗「ああ。一生、よろしくな」



現代の洋服のボタンの外し方、説明のやりとりが、なんか二人とも可愛いな。

やっと、城に行けるんだね〜❣️