(あれって、真田幸村・・・・・・!?)


思いがけない人の登場に、身体に緊張が走った。
佐助くんが私と同じような顔で、目の前に現れた政宗を見ている。
(こ、これは予想してなかった)

政宗「・・・・・・・・・・・・」

隣から、隠そうともしない殺気がビシビシと肌を刺す。真田幸村と政宗は、十歩ほど距離を置いた間合いのまま、黙って睨み合った。
(悪いのは私だ・・・・・・!政宗を連れて行くって、言ってなかった)

「佐助くん、ごめん、政宗も来るって伝えておけばよかった・・・・・・っ」

慌てて、佐助くんにこっそり呼びかける。

佐助「いや、こっちも急に幸村の同行が決まったんだ。出ていく所を見つかって。道中危ないから、幸村も一緒に行けって、信玄様にけしかけられたんだ」

(そうなんだ・・・武田信玄も、案外優しい人なのかも。って、見ず知らずの人に感心してる場合じゃなくて!)

佐助「まあ結果的に、逆に危険な道中になりそうだな」

「・・・・・・佐助くん、ちょっと楽しそうじゃない?」

佐助「ああ。有名な武将二人の対峙を、二度も見られるなんて、ついてる」

(佐助君って本当に変わってるよね・・・・・・)

佐助「まあ、でも・・・・・・幸村には本当に世話になったからできれば最後に見るのは無事な姿でいて欲しいけど」

(・・・・・・そうだよね。佐助くんにとっては、真田幸村や上杉謙信たちが、私にとっての安土のみんなみたいな存在だもん)
ぴりぴりした空気のなか、政宗がにっと口端を上げた。

政宗「よお、戦場で会って以来だな。元気だったか?」

幸村「何でお前がここにいるんだ」

政宗「ゆうの護衛だ。早速、出番が来るとは思わなかったがな」

幸村「相変わらず血の気の多い奴」

(な・・・・・・っ)
言い合うやいなや、ふたりが同時に刀の柄に手をかける。

「ま、待って!」

幸村・政宗「!」

思わず声を張ると、ふたりが一緒に私を見やる。

1. 今はやめましょう

2. 落ち着いて      ♡

3. お店に迷惑が


「あの、お、落ち着いて・・・・・・!は、話せば、わかります!」

政宗「・・・・・・お前が落ち着け」

「幸村さんは、佐助くんの見送りに来たんですよね。なら、今は政宗とは、敵同士じゃなくて、ゆ・・・・・・友人の友人、だと思ってもらえませんでしょうか」

幸村「政宗は佐助の友人じゃねえだろ」

「ええと、政宗は、佐助くんの友人である私の・・・・・・恋人なので、友人の友人の恋人だと思っていただけると」

幸村「・・・・・・何言ってるんだ、お前?」

我ながら苦しい言い訳だけれど、ここは引き下がれない。

政宗「おい、ゆう」

「政宗も・・・・・・お願い。二人が戦ったら、どっちも無傷で済むわけない。幸村さんが怪我して佐助くんが悲しむところなんて、見たくない」

政宗「・・・・・・相変わらず、だな」

「・・・・・・うん、ごめん」

(でも、政宗は私に、変わらなくてもいいって言ってくれた。甘ったれた考えのままの私が好きだって)

「今、この旅の間だけでもいいから、お願い。それに、政宗が怪我したら、私も悲しい」

「くそ・・・・・・、しょうがねえな」

政宗は考え込むような沈黙のあとで、刀の柄から手を離した。

政宗「幸村、今は、いったん勝負を預けといてやる」

幸村「は・・・・・・?」

政宗「道中怪しい動きが少しでもあれば、容赦しないから、そのつもりでな」

(・・・・・・っ、よかった)

政宗「ゆう、覚えとけよ」

「っ、わ」

政宗に、こつんと額をこづかれる。

政宗「惚れた弱みにつけ込みやがって」

「う・・・・・・」

(・・・・・・そっか、信条を曲げてまで、刀から手を離してくれたのは、私の気持ちも、大事に思ってくれてるから・・・・・・なんだよね)

「・・・・・・ごめん。でも嬉しい、ありがとう」

政宗「この旅の間だけだからな」

幸村「・・・・・・政宗に言うこと聞かせるなんて、すげえなお前」

ふと見ると、刀を納めた真田幸村が、ぽかんとした顔でこちらを見ていた。
(そういえば、この人とちゃんと落ち着いて話すのは、初めてかも)

「あの、幸村さんも、刀を納めてくださって、ありがとうございます」

幸村「そう警戒すんなよ、やりづれーな。幸村でいい。敬語もいらねえ」

嫌味のない笑みを浮かべ、幸村がこちらに向き直る。

幸村「俺も、佐助を無事送り届けるまでは、お前らのことは友人の友人、ってことにしてやるよ」

「・・・・・・うん。ありがとう、幸村」

(幸村が、自分から斬りかかってくるような人じゃなくてよかった。初対面の時も、崖に落ちそうになったところを助けてくれたし、・・・・・・根が優しい人、なのかな)

佐助「さて、挨拶もすんだしそろそろ行こう」

幸村「そうだな」

幸村と佐助くんが、茶屋のそばにつないである馬を連れに離れていく。

政宗「ゆう、あまり幸村と仲良くなるなよ」

「えっ・・・?どうして?」

政宗「お前が幸村に情を移すと、あとあと面倒だ」

「面倒って?」

政宗「お前が幸村と仲良くなってから、俺と幸村が戦うことになったらお前はどっちが勝っても悲しむだろ。戦いづらい」

(悲しませたくないから、敵に情は映すなってこと・・・・・・?)

「・・・・・・ありがとう。でも、ちょっと遅かったかも」

政宗「もう情が移ったのか?数分しか話してないのに」

「いい人そうだから」

政宗「・・・・・・しょうがねえな」

政宗が、呆れたというようにため息を吐いて、笑った。
(私も、政宗の信念を大事にしたい。戦いの邪魔はしたくない。けど・・・・・・)

「ごめんね。敵だからとか味方だからとか、私はやっぱり割り切れないみたい・・・・・・懲りずにそばにいてくれる?」

政宗「当たり前だろ。そういうところも含めて、お前を好きになったんだ、今さら頼まれたって、離してやらねえよ」

(・・・・・・っ)
かすめるような口づけが唇に落ちた。離れた直後に、佐助くん達が馬を連れて戻ってくる。

幸村「待たせたな・・・・・・どうしたゆう、顔、赤いぞ」

「え、あ、なんでも、ないよ!」

政宗「気にするな、よく赤くなるんだ、こいつは」

(もう・・・・・・!)

政宗「な?」

私の顔を赤くした張本人を睨むと、愛おしげに微笑まれて、余計に顔がほてって、しょうがなかった。

--------

城下の町を抜けて、京都へ向け、野山を馬で駆ける。

幸村「は?飯?お前料理できるのか?」

政宗「ああ。何だよその顔は」

幸村「似合わねー。お前まともな料理作れんのかよ」

政宗「少なくとも、お前よりは美味いもの作れる自信があるな」

馬を並べながら、幸村と政宗は終始、他愛ない言い合いを繰り広げていた。
(敵同士の会話じゃないな。なんていうか・・・・・・気のおけない友人?)

佐助「案外、仲良くなれるかもしれないな」

「そうだね、意外と、気があうかも」

幸村「ゆう、こいつが護衛で本当にいいのか?」

佐助くんと一緒に傍観していると、幸村がふいにこちらに矛先をむけた。

幸村「こいつのそばにいたら逆に危険に巻き込まれるだろ。命がいくつあっても足りねーぞ」

(秀吉さんと同じこと言ってる・・・・・・)

「大丈夫です。巻き込まれても、政宗が守ってくれるから」

笑って答えると、政宗が私の頭に顎を乗せてくる。

政宗「そういうことだ」

幸村「・・・・・・その言い方、なんかすげームカつくな」

終始そんな調子で、賑やかに旅は続き、本能寺到着を翌日に控えた夜には、私達はすっかり気のおけない旅の仲間になっていた。

佐助「ごちそうさまでした」

政宗が作った夕飯を平らげて、佐助くんが丁寧に両手を合わせる。

佐助「すごく美味しかった。野営食とは思えないくらい」

政宗「そうか、よかった」

佐助「戦国時代最後の食事は、干し飯みたいな簡素なものになると思ってたから政宗さんが一緒に来てくれて、得した気分だ」

幸村「まあ、確かに料理の腕だけは、認めざるを得ねえな」

政宗「そうだろ。ざまあみろ」

幸村「料理だけな。お前、無駄に寄り道する癖なんとかしろよ」

政宗「旅に寄り道は不可決だろ」

幸村「不可欠じゃねえよ。だいたいお前は・・・・・・」

佐助「またはじまった」

「もう慣れちゃったね」

もはや旅の名物みたいになっているふたりの言い合いを、佐助くんと笑いながら見つめる。
(やっぱりふたりとも、意外と波長が合うのかもなあ。敵同士って言われなきゃ、普通の友達みたい)

政宗「そろそろこの辺の見回りに行ってくるか。佐助、火の始末よろしくな」

佐助「了解」

「私も手伝うよ」

政宗を見送り、佐助くんと二人で残り火に土をかけて消す。

佐助「ゆうさんが言ってたこと、ここ数日一緒に過ごして、ちょっとわかった」

手の土をパッパッと払いながら、佐助くんが穏やかにそう呟いた。

「・・・・・・なんのこと?」

佐助「ゆうさんが政宗さんのことが大好きだってことと・・・・・・」

「・・・・・・っ、それと・・・・・・?」

佐助「それから、政宗さんが、不思議と惹かれる人だってこと」

「・・・・・・うん、そっか」

佐助くんが優しい目で政宗を語るのが嬉しくて、唇が緩む。

佐助「最初はどうなることかと思ったけど、幸村も打ち解けてるみたいだし」

幸村「・・・・・・別に、打ち解けてねえ」

(幸村・・・・・・?)

幸村「・・・・・・確かに、政宗自身に恨みはない。ちょっと血の気が多いけど、いい奴だとも思う・・・・・・けど、織田に味方する限りは、政宗も、ゆうも・・・・・・敵に変わりはない」

(幸村・・・・・・?)
幸村の表情は、言葉とは真逆に悲痛そうで、なぜか胸が痛む。

幸村「・・・・・・ちょっと歩いてくる」

幸村は立ち上がると、政宗が行った先とは逆方向へふらりと行ってしまった。

佐助「気にしないで。幸村にも色々と・・・・・・複雑な事情があるんだ」

「うん・・・・・・」

佐助くんに返事をしつつも、今しがた見た幸村の横顔がよぎる。
(・・・・・・すごく辛そうな顔で、”敵” って言葉を使うんだな。幸村はもしかしたら、戦うのが嫌いなのかも知れない)

佐助「・・・・・・あれ、ゆうさん、あの子は?一緒に連れてきた子虎。いなくなってる」

「えっ?・・・・・・あれ、本当だ、いつの間に」

さっきまで、近くの草むらでじゃれていた照月の姿が見当たらなかった。

「近くにいると思うから、探してくるね」

佐助「うん、気を付けて」

照月を探すために、私はその場を離れた。
野営していた場所から少し離れると、綺麗な花畑へと出た。

政宗「もう寝る時間だろ、お前。なんでついて来た」

照月「みゃあ」

政宗「ずっと馬の上で退屈だったか」

(あ・・・・・・いた)
照月は、草の上に腰を下ろす政宗にじゃれついていた。

(照月と遊んでるってことは・・・・・・見回り、終わったのかな)

「・・・・・・政宗」

そっと呼びかけて、政宗のそばに歩み寄って隣にしゃがむ。

政宗「ゆう?何かあったか」

「ううん、照月を探しに来たの。政宗と遊びたかったのか」

照月「みゃっ」

政宗「・・・・・・あ、こら」

照月は政宗の胸元にじゃれついて、懐に潜り込もうとする。
ふとその時、はだけた政宗の胸元から、何かが滑り落ちた。

「あれ、これって・・・・・・」

拾い上げたそれは、政宗にせがまれて描いた私の絵だった。

(誘拐された時に、くしゃくしゃになって、しかも政宗が撃たれた時、
血で汚れちゃったはずなのに)
綺麗に折りたたまれているそれを見て、少し驚く。

「・・・・・・捨てたかと思ってた」

政宗「捨てるわけないだろ」

「雨と血で、ボロボロになっちゃってたし・・・・・・」

政宗「いいんだよ」

私から絵を奪うと、政宗がまた左胸にしまいこむと、伸びをして、大の字に寝転がった。

政宗「お前も寝ろ、気持ちいいから」

「えっ?わ・・・・・・っ」

手を引っ張られて、花の上に私も寝転がる。
そのまま、頭を政宗の胸に抱き寄せられた。

「・・・・・・その絵、いつも持ってるの?」

政宗「ああ。心臓の一番近くに置いてる」

押し当てられた胸から、政宗の鼓動が伝わってくる。

政宗「どんな窮地でも、俺が俺の死に場所を、思い出せるように」

「死に場所・・・・・・?どうして、その絵で思い出すの・・・・・・?」

政宗「お前のことを、思い出すから」

(え・・・・・・?)

政宗「俺の死に場所は、お前の隣。それも、お前を守って守って守りぬいてからだ。それまで死ねない」

「政宗・・・・・・」

私を見つめる政宗の眼差しは、誓を立てるように真剣で、とくんと心臓が音を立てる。

政宗「・・・・・・お前のせいで、俺は死に場所も選べなくなったってわけだな」

「私のせい・・・・・・?」

政宗「ああ」

ぐい、と身体を引き寄せられて、政宗の胸の上に乗り上げる。
政宗は私を見上げて、愛おしげに笑った。

政宗「お前が俺を好きにさせたせい」

「・・・・・・っ」

政宗「俺の命はお前のものだ。それを確かめるために、この絵はずっとここに置く」

政宗は私の手を取って、左胸に触れさせた。
手のひらから、規則正しい心音が届いてくる。
(・・・・・・自分の心音より、ずっと、落ち着く。これから先もずっと、この音を聞いて、生きていきたい)

「・・・・・・私の命も、政宗のものだよ」

政宗「・・・・・・ああ」

囁くと、政宗は嬉しそうに笑って、私の身体を、ゆっくりと引き寄せた。

翌朝早く出発した私達は、陽が暮れる頃、本能寺へと辿り着いた。

(なんだか、懐かしいな・・・・・・)
タイムスリップした時と同じ本能寺を、感慨深く見つめる。

佐助「ゆうさん、君がこの時代へ来た時、現れた場所を教えてくれる?ワームホールがどの程度の影響範囲なのかわからないから、確実に接触するために、同じ場所にいたい」

「わかった。・・・・・・って言っても、私も記憶が曖昧だから、一緒に本能寺へ入って探してもいい?」

佐助「ああ。でも天候が怪しくなってきたら、すぐに本能寺を出て。巻き込まれたら困るから」

政宗「どんなものが現れるのか、見ものだな」

幸村「俺は人が立ち入らないように見張る」

政宗「行かないのか?」

幸村「おー、もともと佐助ともその約束だ。佐助、じゃあな」

佐助「幸村、ありがとう」

ふたりが向き合い、笑みを交わす。

佐助「信玄様に、よろしく。謙信様には、酒はほどほどにって言っておいて」

幸村「ああ。気をつけてな」

佐助くんの言葉に、幸村がひらりと手を振った。
幸村を残し、私達は本能寺の中へと足を踏み入れた。

「あ・・・・・・あそこだ」


------

信長「っ・・・・・・?誰だ、お前は」

「自己紹介はあとでします!立って、今すぐ!」

(何が何だかわからないけど逃げなきゃ!この人、殺されちゃう・・・っ)

「私の手に捕まってください!」

------


隣接した部屋から、外廊下をのぞいた時、懐かしい記憶が蘇った。
(あれから、お寺の中をめちゃくちゃに走って、なんとか脱出したんだっけ)

視線を室内に戻すと、興味深そうに政宗たちも外廊下を眺めていた。

政宗「へえ・・・・・・あそこでお前が、信長様を顕如から助けたのか」

「うん。あの廊下に、信長様が倒れてた」

佐助「わかった、案内してくれてありがとう。想定時刻まであと少しだから、あそこに立って、待ってみる。皆とは、ここでお別れ------」

佐助くんが言い掛けた時、不意に空が陰り、不穏な風に障子がガタつき始めた。

(っ、これって、タイムスリップの予兆・・・・・・?)
暗雲が立ち込める夜空に、低い落雷の音が響く。

照月「!」

「あっ、照月・・・・・・!」

音に驚いたのか、照月が私の腕から抜けて部屋を飛び出していった。

佐助「あの子虎は賢いな。ふたりも、急いでここから出た方がいい。現代からタイムスリップした時は、雷が目の前に落ちた。ここに居たら、危険だ」

「そっか・・・わかった。・・・・・・佐助くん、元気でね」

佐助「ゆうさんも。政宗さんとお幸せに」

政宗「達者で暮らせよ、佐助」

佐助くんが外廊下へ出るのを見送る。

(佐助くん・・・・・・無事に現代に帰れるといいな・・・・・・これで私も、現代とはさよならだ)
感慨深く出入口を見つめていると、政宗がくるりとこちらを振り向いた。

政宗「後悔はないか?」

返答はわかってる、というように、政宗の唇には淡い笑みが浮かんでいる。
私もにっこり笑い返した。

「後悔なんて、あるわけないでしょ。私の幸せは、政宗のそばにあるんだから」

私の答えに優しく目を細めて、政宗が手を差し伸べる。

政宗「それじゃ、帰るぞ」

「うん」

政宗の手を取ろうとした、その時だった------

「・・・・・・っ!?」

轟音が、耳をつんざいた。

政宗「ゆう!」



あー!ダメだ。。。  イケメン戦国の武将のセリフで一番好きなやつ〜〜 

{C6736D16-6201-4A47-BA80-02C50F45B6EC}

{95353349-BB17-4513-82E8-5E5C5AE65B79}



政宗「俺の死に場所は、お前の隣。それも、お前を守って守って守りぬいてからだ。それまで死ねない」

これ以上の嬉しい言葉はないよー❣️

これ私の中の、NO.1 ❗️