「------・・・絶対私が、死なせない」


誓いを立てるように声に出し、ぎゅっと、抱えた鉄砲を握りしめた。
(弾は込めてあるし、種火もついてる。あとは、引き金を引く、覚悟だけだ)

光秀さんに教わった鉄砲の手順を、頭のなかだけで再確認する。
(戦場に出てしまったら火縄銃は一発勝負・・・・・・失敗はできない)

平野の向こうから、雄叫びが聞こえてくる。
少し離れた場所で政宗も、その方向に掲げられた旗をじっと見ていた。

政宗「・・・・・・向こうも、準備万端のようだな。よし、お前ら!出陣だ!」

政宗の家臣達「おうっ!」

政宗の声を号令にこちらの旗が上がり、出陣の合図が鳴り響く。
陣形を組んだ兵達が一気に駆け出した。政宗は、前衛の部隊がぶつかり合うのを静かに睨んでいる。

「政宗たちは、まだ動かないんですか?」

家康「政宗さんの率いる騎馬隊は、敵の壁の薄いところを一点突破して、敵将に直接迫る役割だから、飛び出したら、一気に最前線に出る」

家康さんが説明した次の瞬間、政宗の黒馬を筆頭にした騎馬隊が駆け出した。

「・・・・・・っ、すごい、本当にまっすぐに突っ込んでく」

家康「・・・・・・こっちも、出るよ」

家康さんが手綱を握り直して、兵の一団へと向き直る。

家康「お前たちは回りこんで、敵の鉄砲衆を仕留めろ!」

兵士たち「はっ!」

家康「騎馬隊は予定通り、伊達の騎馬隊の援護だ。俺と来い。ゆうも、ついて来て」

「・・・・・・っ、はい」

次々に的確に指示を飛ばすと、家康さんはすぐに馬を走らせた。私も、家康さんに借りた馬をつたない手綱さばきでなんとか走らせる。
(・・・・・・っ、人が、どんどん倒れてく・・・・・・これが、戦場なんだ)

短く息を吐き出し、馬上から前方の様子を伺う。

家康「あれは・・・・・・」

「え?」

家康さんが敵陣を眺めて呟いた。

家康「予想通り、か」

「何が・・・・・・ですか?」

家康「普通は本陣に引っ込んでるはずの敵将も、先陣切ってきたんだよ。向こうの前線に、上杉謙信がいる」

(上杉謙信・・・・・・⁉︎ ”軍神”、なんて言われてた人だよね・・・・・・?)

家康「あっちの将も、こっちの将も・・・どうしてこう、戦バカばっかなんだか。さっきも言ったとおり、政宗さん率いる騎馬隊は、敵将へ一点集中だ。必然的に、謙信と中央でぶつかる。政宗さんの様子、ちゃんと見てなよ」

「・・・・・・っ、はい」

(敵も味方も入り乱れてるから、すぐ見失いそうになる。一瞬でも、・・・・・・政宗から、目を離さないようにしないと)
前線では両軍の兵がぶつかり合い、早くも乱闘になっていた。

政宗「ひるむな!押し通れ!」

政宗の家臣「おう!」

政宗を筆頭に、伊達の部隊が上杉軍の前衛の兵を突き崩そうとした、その時。

謙信「下がれ」

兵達を一掃するように告げ、謙信が馬を前へやった。

政宗「・・・・・・敵将自ら前に出てくれるとは、願ったりだな」

謙信「右目の眼帯・・・・・・お前が伊達政宗か。何だ、手負いの獣のような顔だな」

政宗「そういうお前は上杉謙信だろう。戦狂いとは聞いてはいたが、拠点を守る立場で最前線に飛んでくるとはな」

謙信「後方で指揮をとっているだけでは、退屈で仕方がないからな」

至極冷静に呟くと、謙信はひらりと馬から降りた。
予想しなかった行動に、政宗が眉をしかめる。

政宗「・・・・・・何のまねだ?」

謙信「馬上ではどうも間合いが広くてまどろっこしい」

政宗の家臣「敵将が降りたぞ、打ち取れ!」

謙信「・・・・・・貴様らに、用はない」

すぐさま斬りかかっていく伊達の兵を、謙信はいともたやすくうち倒す。

政宗の家臣「っ、く!」

政宗「お前ら、手出し無用だ!・・・・・・こいつは俺がしとめる」

謙信「お前は馬上からでも構わんぞ。すぐに引きずり下ろしてやる」

政宗「・・・・・・噂に違わぬ狂人っぷりだな」

兵を抑え、政宗も馬から降りた。

謙信「なるべく長く楽しませろよ、伊達政宗」

政宗「はっ、こっちのセリフだ」

睨み合う間もなく、政宗が刀を振り上げた。
前線後方、少し小高くなった丘の上。
兵の指揮を取る家康さんのかたわらで政宗の姿を伺っていると。
(・・・・・・あれ、政宗は?どこだろう、さっきまではあの黒い馬の上に・・・・・・)

「えっ!?」

(な、なんで馬を降りてるの・・・・・・⁉︎)
驚いたのもつかの間、始まったあまりに烈しい打ち合いに、息を飲む。

(上杉謙信も、政宗も・・・・・・どっちも殺す気で戦ってる)
政宗は、撃たれた右腕で刀を振るっているように見えた。

(周りの兵達も、敵兵を食い止めるのがい精一杯見たい。あれじゃ、ほとんど一騎打ちだ・・・・・・)

家康「弓兵、放て!」

「え・・・・・・⁉︎ わっ!」

家康さんの声に驚く間もなく、後方から、矢が放たれた。

家康「槍兵、前へ!」

(すごい、押してる・・・・・・)
こちらの弓矢と槍に押されて、上杉側の兵がじわりと後退する。

家康「謙信を政宗さんが引き
つけている間に、敵兵を押し込んで謙信を孤立させる。政宗さんがいくら不調でも、一騎打ちじゃない、まわりに充分な兵がいる状況さえ作れれば・・・・・・万が一にも、やられるなんてことは-----」

言い掛けた途端、近くで大きな悲鳴が上がった。

「な、なに・・・・*1・っ!?」

振り返ると、家康さんの後衛部隊の背後から赤い甲冑の一団が迫っていた。

家康「・・・・・・っ、真田幸村!」

(どうして真田幸村がここに・・・・・・!?)

家康さんの部隊の背後をついて、赤い甲冑の一団が襲いかかった。

家康「っ、いつの間に、背後に・・・・・・!」

幸村「後衛を潰せ!前線の援護をさせるな!」

家康「奇襲に怯むな!迎え撃て!」

家康さんの号令を受け、前線を援護していた兵たちが迎え撃つ。

(さっきまで姿も見えなかったのにいきなりこんな近くに・・・・・・っ)
すぐそばで始まった戦闘に息を飲む。

家康「謙信は前線、幸村も後衛に奇襲・・・・・・敵も捨て身ってことか・・・・・・!」

(こんな状態じゃ、前線にいる政宗達の援護なんて無理だ・・・・・・!)

前線へ視線を送ると、二人に近づく者を容赦なく切り捨てる謙信の姿が見える。
(謙信も政宗も、周囲の兵たちから、どんどん離れていってる)


-------

「きっと政宗の家臣たちが、政宗を守ってくれると思うけど・・・・・・」

-------


(上杉謙信は、そんな甘い相手じゃなかったんだ・・・・・・っ、そばに行かなきゃ・・・・・・あれじゃ、もし刀を取り落としたりしたら・・・・・・!)

「家康さん・・・・・・っ、私・・・・・・!」

家康「いいよ、行きな」

(えっ・・・・・・)

家康「いざという時はあんたの目と足で、なんとかしな、って言ったでしょ」


------

家康「言っておくけど、俺も政宗さんのことばかり見てられないし、馬だって、いつまでも無事だと思わない方がいい。
いざという時はあんたの目と足で、なんとかしなよ」

------


(・・・・・・っ、家康さん)

家康「今、政宗さんにもしものことがあるなんて、前線の誰も思ってない。怪我のことなんて知らないから。政宗さんに何かあった時、真っ先に気づけるのは、あんたか俺だけど、俺は、幸村の相手で手一杯だ」

ぶつかり合う兵士越しに、幸村と睨み合う家康さんの頬を、汗が伝う。

家康「これから騎兵隊の一部だけでも、前線の援護に送る。それと一緒に行きな」

1. ありがとうございます      ♡

2. ・・・・・・はい

3. わかりました。

「・・・・・・っ、ありがとうございます」

(政宗が生き延びられるなら・・・・・・、私は、なんでもしよう)

家康「あんたを戦場に送り出すことになるとはね・・・・・・不本意だけど政宗さんをよろしく」

家康さんの言葉に、私は静かに頷いた。

家康「騎兵第一部隊、前線の援護へ!」

家康さんの掛け声とともに、騎馬隊が駆け出す。
彼らと一緒に、私も馬を駆った。
(弓矢が、どこから飛んでくるかわからない。政宗にたどりつくまで、当たりませんように・・・・・・っ)

両軍が乱れる中を、中央に向かって進む。
そして------
(・・・・・・いた!)

烈しく打ち合う謙信と政宗の影を見つけた。

政宗「・・・・・・っ!」

家康さんの騎馬隊と共に、私は二人の間に躍り出た。

謙信「・・・・・・何だ、貴様らは」

家康の家臣「上杉謙信、覚悟!」

謙信「邪魔だ、どけ」

(え・・・・・・っ⁉︎)

瞬きの間に、家康さんの騎兵が複数名、馬を斬られて落馬した。

家康の家臣「・・・・・・っ、くそ!まだだ・・・・・・っ!」

謙信「今良いところだ、邪魔立ては許さん」

落馬した兵達を、無慈悲な刃が斬り伏せていく。
(これが・・・・・・上杉謙信)

言葉に出来ない程の威圧感に圧倒されそうになる。

政宗「おいっ、そこのお前・・・・・・早くどけ、死ぬぞ!」

(っ、政宗・・・・・・!)
はっとした時には、目の前に上杉謙信の刃が迫っていた。

謙信「・・・・・・貴様も、早うどけ」

謙信の刀がひらめき、切っ先が馬の前足を傷つける。

「・・・・・・っ!」

バランスを崩し、馬が倒れるのと一緒に、私はすすきの上に転がった。

(・・・・・・っ、痛・・・・・・!)
痛みに、地面に倒れたまま思わずうずくまる。

謙信「余計な邪魔が入ったな・・・・・・独眼竜、続けるとしようか」

政宗「ああ・・・・・・そろそろ決着つけないと、どんどん犠牲者が増えそうだ」

うずくまった視線の先で、二人が刀を構え向かい合うのが見える。
(・・・・・・っ、ここからなら、気付かれずに撃てる)

はっとして、鉄砲を見ると、幸い火種は消えていなかった。

(っ、私に・・・・・・できる?)
覚悟が揺らぎそうになった、その時、

政宗「・・・・・・っ!」

傷が傷むのか、一瞬顔を歪めて、政宗が刀を取り落とした。
(政宗・・・・・・⁉︎)

謙信「戦で刀を取り落とすとは軟弱な。早う拾わんと、首が飛ぶぞ!」

(斬られる------!)

「っ、待て!」

振り上げられた刃を見た瞬間、私は思わず叫んでいた。

政宗「・・・・・・っ!」

政宗は身をかわし、謙信の刃を避けると素早く刀を拾い上げた。
(・・・・・・っ、よかった・・・・・・!)

胸を撫で下ろしたのもつかの間、謙信の冷たい眼差しに見据えられてはっとする。
(しまった、死んだふりして遠くから打てばよかったのに・・・・・思わず、叫んじゃった・・・・・・!)

謙信「・・・・・・貴様、女か」

政宗「今の声、まさか・・・・・・」

(・・・・・・もう、気付かれずに撃つのは無理だ)
痛む身体を無理やりに起こした拍子に、兜(かぶと)が地面に転がり落ちた。

政宗「お前・・・・・・っ」

謙信「戦場になぜ女がいる?」

(もしまた政宗が刀を取り落としたら、今度こそ斬られる・・・・・・やるなら今しかない!)
怪訝そうにこちらへ歩み寄ろうとする謙信に向けて、私は体の下に隠していた鉄砲を素早く構えた。

謙信「・・・・・・っ!」

政宗「ゆう・・・・・・!」

(この引き金を引いたら、もう、戻れない)
一瞬、恐怖が胸をよぎる。

(っ、迷っちゃダメだ・・・・・・!)

政宗「っ、やめろ!」

迷いを振り切るように、私は、引き金を引いた・・・・・・------

けたたましい音と共に、銃口から、煙が立ち上がる。けれど、目の前の謙信は・・・・・・無傷でそこに立っていた。

謙信「・・・・・・なんの真似だ?」

(え・・・・・・?)
ゆっくり視線を上げると、横から鉄砲の筒を誰かが掴んでいる。
私の放った銃弾は、空へと向けられたらしい。

政宗「お前も相当馬鹿だけど・・・・・・俺も、大概馬鹿だな」

すぐそばで、呆れ笑いのような声が聞こえる。

政宗「お前がこんなことするまで、こんな大事なことに気づかないなんて」

(え・・・・・・?)

「政宗・・・・・・⁉︎」

気が動転して、謙信と政宗を交互に見やる。
(どうしよう、失敗した・・・・・・!)

「あ・・・・・・!」

ただ焦る私の手から、政宗は鉄砲をもぎ取ると、地面に放り投げた。

政宗「お前はこんなこと、しなくていい」

(政宗・・・・・・?)
ぎゅ、と、かすかに私を抱える腕に力がこもる。
全身を、政宗の身体の熱が巡った。

謙信「・・・・・・戦場に女連れとはな」

一瞬で間合いを詰めた謙信の刀が、容赦なく振り下ろされる。

「・・・・・・っ!」

(・・・・・・・・・・・・あれ?・・・・・・?)
衝撃を覚悟した後で、 驚いて目を見開く。
政宗が、眼前で謙信の刀を受け止めていた。

政宗「お前に鉄砲なんて渡した、俺が間違ってた」

政宗が力強く謙信の刀を弾き、一瞬のうちに、ふたりの間合いが開いた。謙信を見据えたまま、政宗が私の耳に唇を寄せる。

政宗「俺のこと理解できないって怒って怖がってる、お前のままでいいんだ」

穏やかな声色を崩さないまま、政宗が囁く。

「・・・・・・っ、でも、それじゃ、政宗の力になれない」

政宗「役に立つ、立たないなんて、問題じゃない」

私を支えながら、政宗が立ち上がる。
左手にある刀を持ち直すと、謙信に向かい真っ直ぐにそれを構えた。

政宗「俺についてくるなら、殺し合う覚悟を決めろなんて言ったが、撤回だ。お前はそのままがいい。そのままで俺のそばにいろ」

(っ・・・・・・でも)

いまだ痛ましげな政宗の右肩が、私の目に映る。

「でも、覚悟がなかったから、政宗に怪我させた・・・・・・っ」

政宗「うるせぇ!怪我くらいさせろ!」

(な・・・・・・っ)

政宗「腕の一本持ってかれるより、お前の平和ボケしたのん気な笑顔が見れなくなるほうがよっぽど大打撃なんだよ。だからお前は黙って、俺の後ろで怖がってろ!」



やっと、政宗が気付いたのよねー。。。

「うるせぇ!怪我くらいさせろ!」だって 

「腕の一本持ってかれるより、お前の平和ボケしたのん気な笑顔が見れなくなるほうがよっぽど大打撃なんだよ。」だって 

素敵  政宗かっこいい〜〜 

ズキューン 💘だよ 


でもね。。。? 

「お前に鉄砲なんて渡した、俺が間違ってた」

  

戦国時代、鉄砲覚えといて損はないよ。

政宗だって、この先いつでもどんな時でもずっと一緒に居られるわけじゃないし〜 ‼️