(なんの騒ぎだろう・・・・!?)

慌てて外へ駆け出すと・・・・
負傷兵1「聞いたか?!織田軍が城の正面を突破したらしい」
負傷兵2「ああ、伝令に聞いた!落城も目前だってな」
(・・・っ!そうなんだ)
怪我をして野営地で待機している兵たちの側へ、急いで駆け寄る。
「詳しく聞かせてもらえますか?!」
負傷兵1「ゆう様、もちろんです!謙信軍は籠城を諦め、撤退を始めているそうです」
負傷兵2「残念ながら、こちらも随分手ひどく兵力を削られましたので・・・・敵を深追いはせず、城を抑えることを最優先にするとのことでした」
「そうですか・・・。教えてくれてありがとうございます」
(よかった・・・!できるだけたくさんの人が生き延びて、戦が終わるんだ・・・・)
ほっとして兵たちに礼をし、踵を返した。
(戦が終われば、信長様も、みんなも、帰ってくる。一緒に安土に帰れる・・・・!)
兵1「だが、あの戦狂いの上杉謙信が、このまま黙っているとも思えないな・・・・」
「え・・・?」
気になるつぶやきが聞こえて足を止めたその時・・・・
兵2「っ・・・?!おい、あれを見ろ!」
真っ青になって兵が叫び、つられて後ろを振り向いた。
(な、何・・・?!)
青い軍旗を翻し、白い馬がこちらへと駆けてくる。守りの兵たちを少数の隊が瞬く間にけちらし、白い馬が私の目の前で止まる。

謙信「見つけたぞ。お前が信長の女だな?」
「あ、あなたは・・・」
謙信「----上杉謙信。名くらいしっているだろう?」
冷ややかな笑みが、馬上から私に降り注ぐ
(どういうこと?!謙信は城にこもって戦っているはずじゃなかったの?!とにかく逃げないと・・・っ)                                           走り出そうとするけれど、腕を掴まれ、馬上へと引きずりあげられる。
「きゃ・・・・っ」
謙信「騒ぐな。お前には、信長をおびき出す餌になってもらう」

(え・・・・・っ?)

「離してください!」

謙信「何度言えばわかる。俺の前で黄色い声を上げて騒ぐな」

(わっ・・・・・・)
さびれた小屋の中へと、手足を縛られたまま転がされる。

「っ・・・いた・・・・・・、何するんですか!」

謙信「-----・・・俺は、黙れ、と言っている」

「・・・・・・!」

謙信が抜き放った刀の切っ先が、真っすぐ私に向けられた。

(なんて人なの・・・・・・)
数時間前、謙信は少ない手勢だけを率いて、織田軍の後方の陣を急襲し・・・なぜか、私をここへさらってきた。


------

謙信「見つけたぞ。お前が信長の女だな?」

「あ、あなたは・・・・・・」

謙信「------・・・上杉謙信。名くらい知っているだろう?」

逃げ出そうとした私を、謙信は無理やり馬上へと引きずり上げた。

「きゃ・・・・・・っ」

謙信「騒ぐな。お前には、信長をおびき出す餌になってもらう」

------


(この人は私を知っているみたいだった。いったい何が起きてるの?そもそも謙信は、信長様達が攻めてる城にたてこもってたはずなのに・・・)
謙信をにらみながら、縛られた脚をどうにか動かし、壁際へと下がる。

謙信「ようやく静かになったか。それで良い」

謙信は満足そうに笑って刀を鞘(さや)におさめ、優雅に腰を下ろした。恐怖とあせりがじりじりと胸を焦がす。けれど同時に・・・謙信の身にまとう空気や仕草が、妙に視線を惹きつけた。
(なんだか、変わった人・・・・・・とにかく冷静にならなきゃ。じゃないと何にもできない。小屋の外は、謙信が連れてた部下達が守りを固めてる。逃げ出すのは無理そうだし、どうにか状況を聞き出そう)

「・・・・・・質問を、してもいいですか」

謙信「また騒ぐ気か?お前はよほど俺の剣の味を味わいたいらしいな」

「違います・・・っ」

声が震えないよう願いながら、言葉を絞り出す。

「騒ぎはしません。尋ねたいことがあるだけです」

謙信「ほう・・・。ずいぶん肝が据わっているな。あの信長を籠絡(ろうらく)するだけのことはあるようだ」

片眉を上げ、謙信が私を鋭い目で見据えた。

「あなたはなんで、信長様と私の関係を知ってるんですか?」

謙信「俺の家臣どもから報告があったのだ。戦場で、俺の部下に囲まれた信長を、お前は単身助けようとしたそうだな?」

(もしかして、あの時のこと・・・⁉︎)
顕如との戦の直後に、上杉軍に不意打ちをされた日のことが頭をよぎる。


--------

信長「笑わせてくれる。後悔など、俺は生まれてこの方したことがない。当然、今後もする気がない。よって・・・貴様ら全員、斬り伏せる」

敵兵達「っ・・・おのれ・・・!」

「危ない!」

信長「・・・・・・!ゆう⁉︎」

敵兵「女・・・っ。お前、何者だ⁉︎」


---------

謙信「事実を確かめるため、信長の配下の者を捕えて吐かせた。信長がゆうという女を寵愛(ちょうあい)している、と」

(だからこの人、私のことを知ってたんだ)

謙信「その女はこの度の戦にも同行し、後衛で負傷兵の看護をしているとも聞きだした。それで、信長が城攻めに注力している隙をついてはみたが・・・これほど他愛なく捕えることができるとは思わなかった」

「私をどうするつもりなんですか・・・?」

謙信「----・・・お前も戦況は聞き及んでいるだろう。我上杉軍の支城が、信長に攻め落とされるのは時間の問題だ。精鋭はそろえたものの数で押し負けたのは、俺の不覚だ。だが・・・・・・戦では、将の首を獲った者の勝ちだ。」

「どういうことですか・・・・・・っ?」

謙信「先ほども言っただろう。お前を餌に、信長を釣る。すでにあの男の元へは伝令を送ってある。 ”ゆうの命が惜しくば、ひとりで俺と勝負しろ” とな」

(私を人質に、信長様をここにおびきだそうとしてるってこと・・・っ?信長様を倒して、この戦を逆転するために・・・)
冷たい汗が、背中を濡らしていく。

謙信「しかし・・・・・・第六天魔王とも呼ばれる男が変わり果てたものだな。」

「え・・・?」

謙信「俺はな、この度の戦で信長と刀を合わせることだけが楽しみだった。だというのに・・・・・・骨のない攻め方をされては退屈でならん」

「骨のない攻め方・・・・・・?」

謙信「焼きうち、水攻め、城を落とす手は無数にあるというのに・・・あの男は、無血開城をこの俺に言い渡した」

(無血開城って・・・・・・戦わずに城を明け渡すよう申し出たってことであってるよね?)

「それ、本当ですか・・・・・・っ?」

謙信「残念ながら、事実だ。 ”城から撤退すれば、兵はひとりも殺さん” などと・・・張り合いのないことこの上ない」

(信長様が、そんなことを・・・・・・)

こんな状況に置かれているのに、嬉しさが胸に広がった。
(無血開城を申し出たのは、きっと家臣の皆のためだよね)

後方で看護をしていた私は、皆がどれほど傷を負い、疲れ切っているか目の当たりにしてきた。
(だけど、それだけじゃない気がする。信長様が、敵をひとりも殺さないって言うなんて、今までだったら考えられないことだ。あの方は、大望のためなら人をためらいなく殺すって言ってたけど・・・少しずつ、変わってるのかもしれない)

謙信「女などにかまけているから、敵に情けをかけるような腑抜けになるのだ」

(え・・・・・・っ?)
湧きあがった温かい気持ちを、謙信の冷ややかな声がしぼませる。

謙信「恨むぞ、ゆう。俺の戦相手を骨抜きにしたことを。戦に情けなど無用だと、俺の刀で信長に思い出させてやる」

(何、それ・・・・・・っ)

「信長様の申し出に、悪いことなんてひとつもないじゃないですか・・・!」

謙信「何・・・?」

(それに・・・・・・っ)

「信長様は元々、優しい人です!優しくて、誰よりも強いんです」

(あの方が取り戻し始めた温もりを、誰にも壊して欲しくない。誰にも、それが悪いことだなんて言わせない・・・っ)

謙信「あの男のせいで戦に巻き込まれ、人質にまでなっているというのに、お前は信長をかばうのか。呆れた女だ」

「好きな人をかばうのは当たり前のことでしょう・・・っ?」

謙信「・・・・・・」

(あっ、また騒ぐなって言われるかな・・・)

謙信「・・・・・・・・・・・・」

謙信はいらだたしげな目で、じっと私を見つめ返している。

(な、何・・・・・・?)

謙信「俺には、お前のような女を手元に置いている信長の気がしれん」

不意に、謙信の眼差しが哀しげに陰った気がした。

謙信「・・・・・・くだらん恋情は心を濁らせるだけだ」

「え・・・・・・?」

謙信「・・・・・・少し、しゃべり過ぎたようだ。お前はもう口を閉じていろ」

(あ・・・・・・)
背中を向けられ、声をかけることができなくなる。

(なんであんなこと言ったのか、気になるけど・・・・・・気にしてる場合じゃないよね。この人は、信長様を罠にはめようとしてるんだから。------・・・あの方の足を引っ張りたくなかったのに。きっとあの方は私を助けに来てくれると思う。でも・・・疲れ切ってる信長様に、刀を振るって欲しくなかった)
みすみすさらわれたことが悔しくて堪らない。
手首を縛る縄をほどこうと全力で引っ張ってみるけれど、結び目が固く手解けない。

(つ・・・信長様、ごめんなさい・・・)
痛みに耐えながら、縄をほどこうともがいていると・・・

謙信の部下「謙信様!信長が姿を現しました!」

謙信「-------・・・来たか」

(っ・・・・・・!) 
謙信は笑みをたたえて立ち上がると、縛られた私を片手で軽々担ぎあげた。

「嫌、下ろして!」

謙信「人質は大人しくしていろ。命を落としたくはないだろう」

身をよじるけれど謙信の腕が解けず、私は小屋の外へと連れ出された。

(あ・・・・・・っ)
外へ出た私の目に、平野にひとりたたずむ信長様の姿が飛び込んできた。

「信長様・・・・・・!」

信長「ゆう・・・。待たせたな」

(やっぱり、来てくれた・・・・・・っ。迷惑をかけたくなかった。でも・・・・・・)
信長様の笑みが、私の心を落ち着かせていく。

謙信「本当にひとりで来おったか。よほどこの女が大事と見える」

呆れたように告げ、謙信は家臣達に、顎で信長様を指し示した。

謙信「あやつを囲め。逃げ出すことができんようにな。ただし手を出すな、俺の獲物だ」

謙信の部下「はっ」

十数名の謙信の家臣が槍をかかげ、円を描いて信長様を取り囲む。謙信は私を無造作に抱えたまま、距離を置いて信長様に向き合った。
(こんなふうに囲まれて戦うなんて、攻撃を避けようがないじゃない・・・!)

「信長様、逃げてください・・・!ひとりで戦うなんて無茶です!」

信長「貴様は黙って見ていろ、ゆう」

(でも・・・・・・っ)

信長「謙信、まずは、その女から手を離してもらおう。ゆうに触れて良いのはこの俺だけだ」

謙信「お前の口から、そんな言葉を聞くことになるとはな。この女のせいでお前は骨の髄まで腑抜けたらしい」

信長「いいや、逆だ」

謙信「は・・・・・・?」

(え・・・・・・っ?)

信長「その女がいればこそ、俺は、死ぬ気がせん」

腰の刀を抜き放ち、信長様が謙信を真っすぐに睨み据えた。瞳に激しい怒りがともり、燃えている。

信長「--------・・・来い、謙信。俺の女に手を出したこと、とくと後悔させてやる」




「待たせたな」だって〜‼️

「ゆうに触れて良いのはこの俺だけだ」だよ〜

ドキューン ‼️

もう惚れちゃうよねー、惚れ直しちゃうよね〜‼️