中ロと米の対立の状況で進む核兵器軍拡競争 | 碧空

中ロと米の対立の状況で進む核兵器軍拡競争

(アメリカ国立公文書記録管理局より、アメリカ陸軍のパーシング2準中距離弾道ミサイル【20181022日 YAHOO!ニュース】 パーシング2は中距離核戦力(INF)全廃条約により廃棄されました)

 

【高まる中ロと米の対立緊張】

ロシアのウクライナ侵攻以後の世界は、ロシアと実質的にロシアを支援する中国の連携(これまでも取り上げてきたように、その内実は「蜜月」という言葉だけでは言い表せない問題・それぞれの思惑も多々ありますが)とアメリカの対立という構図が深まっています。

 

そうした情勢のあらわれに関する最近のニュースを二つ。

 

****ロシアと中国の核搭載可能な爆撃機、米アラスカ付近をパトロール****

ロシアと中国は両国の核兵器搭載可能な戦略爆撃機が25日、米アラスカ州付近をパトロールしたと発表した。これを受けて米国とカナダは戦闘機を緊急発進させた。

ロシア国防省はロシア軍のTu95MS「ベアー」戦略爆撃機と中国軍のH6戦略爆撃機がチュクチ海、ベーリング海、北太平洋のパトロールに参加したと明らかにした。

5時間の飛行中、ロシアのSu30SMとSu35S戦闘機が両国の爆撃機を護衛したとし、外国の領空を侵犯した事実はないと説明した。

北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)は米国とカナダの戦闘機がアラスカ防空識別圏(ADIZ)でロシアと中国の航空機を監視したと発表した。

「ロシアと中国の航空機は国際空域にとどまり、米国とカナダの主権空域には進入していない」と指摘した。「アラスカ防空識別圏におけるロシアと中国の活動は脅威とは見なされていない」とし、監視し続ける方針を示した。

中国国防省の張暁剛報道官は、今回の共同パトロールは両軍の戦略的相互信頼と協調を深めたと述べた。「現在の国際情勢とは何の関係もない」と語った。

ロシアも「2024年の軍事協力計画の一環として行われたものであり、第3国に対するものではない」とした。【725日 ロイター

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****中ロ連携、北極圏構図に変化=安定維持へ同盟国と協力米新戦略****

米国防総省は22日、北極圏に関する戦略文書を発表した。中国とロシアの連携強化が「北極圏の安定と脅威の構図を変える可能性がある」と警戒。地政学的変化に対応するには「新たな戦略的アプローチが必要だ」として、同盟国やパートナーと協力して安定維持を図る方針を示した。

 

北極圏では、気候変動の影響で海氷が減少し、資源開発や新たな航路開拓を巡る各国の競争が激化している。米国は砕氷船建造が進まず、ロシアなどに比べて出遅れを批判されている。

 

戦略では、ロシアを「北極圏で最も発達した軍事力を持っている」と分析し、「米本土や同盟国の領土を危険にさらす可能性がある」と懸念を示した。中国については「長期計画の中で影響力と活動の拡大を図っている」と指摘した。

 

2022、23両年に中ロ両海軍が米アラスカ州沖で合同パトロールを実施したほか、中国海警局とロシア連邦保安局(FSB)が協力で合意したと例示。両国の連携が北極圏での中国のさらなる影響力拡大につながる恐れがあると警鐘を鳴らした。

 

これを踏まえ、国防総省は戦略の中で「監視と対応」のアプローチを採用すると表明。北極圏での情報収集能力を高めるほか、米軍部隊の訓練などを通じて即応態勢を強化すると明記した。

 

北欧のスウェーデンとフィンランドが北大西洋条約機構(NATO)に加盟し、「北極圏8カ国のうち、米国を含む7カ国がNATO加盟国になったことで安全保障態勢が強化された」とも説明。同盟国や北極圏の先住民族などと連携し、「安全と国益を守るために一丸となって取り組む」との姿勢を打ち出した。【723日 時事】 

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北極海を「わが庭」としたいロシアがこの地域に重点を置いていることは当然ですが、中国も北極圏で3隻の砕氷船を運用しているほか、ロシア海軍と北極圏で合同作戦をするなど軍事的な存在感も持っています。

 

アメリカにとっては北極圏のスウェーデンとフィンランドがNATOに加盟してロシアに対抗する態勢を構築できるようになったことは大きな得点でしょう。

 

【トランプ前大統領による「中距離核戦力(INF)全廃条約」破棄により進む米ロの再配備 中国の存在でより複雑化】

こうした中ロとアメリカの緊張関係を更に危ういものにしているのが、緊張激化のブレーキ機能をは担ってきた米ロ二国間条約「中距離核戦力(INF)全廃条約」がトランプ前大統領時代に破棄されたことです。

 

****中距離核戦力(INF)全廃条約****

米国と旧ソ連が地上配備の中・短距離ミサイル(射程500〜5500キロ)を発効後3年以内に全廃すると定めた条約。1987年12月調印、88年6月発効。特定分野の核戦力の全廃を盛り込んだ史上初の条約となった。

 

査察制度も導入し、91年までに計2692基を廃棄。米国は2018年10月、ロシアの違反を理由に条約破棄の方針を表明。19年8月に失効した。条約に縛られない中国は開発・配備を進めてきた。【629日 産経

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2010年代、ロシアは巡航ミサイルの開発を進めたが、アメリカはこれが条約違反に当たると指摘。2014のアメリカ連邦議会向けの報告書では、ロシアが条約違反をしていることが記載された。

 

このように条約違反を巡ってたびたび米ロ両国が対立してきたほか、この条約に参加していない中国がミサイル開発を推し進めている懸念を持ち続けていたアメリカは20181020、ドナルド・トランプ大統領が本条約を破棄すると表明。201921日、アメリカはロシア連邦に対し条約破棄を通告したと発表し、翌2日からの義務履行停止も同時に表明した。

 

ロシア連邦もこれを受けて条約の定める義務履行を2日に停止した。条約は予定通り半年後の201982に失効した。【ウィキペディア】

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ブレーキ機能を失った状況で、米ロの核戦略強化が進行しています。

 

****ロシア、短・中距離核ミサイルの生産再開へ プーチン氏が表明 米国への対抗と主張****

ロシアのプーチン大統領は28日、米露間の中距離核戦力(INF)全廃条約が2019年に失効した後、ロシアが停止していたとする中・短距離ミサイルの「生産と配備を開始すべきだ」と述べた。

 

米国が中・短距離ミサイルを欧州やアジアに搬入していることへの対抗措置だと主張した。オンライン形式で同日開かれた露国家安全保障会議の会合で発言した。

 

プーチン氏はロシアが核戦力の増強に乗り出す方針を改めて示した形。ウクライナ侵略を背景とした米露間の緊張がさらに高まるのは避けられない情勢だ。

 

プーチン氏は「米国の身勝手な離脱によりINF全廃条約が失効した後も、ロシアは米国が中・短距離ミサイルを世界各地に配備しない限り、中・短距離ミサイルの生産や配備をしないと表明してきた」と指摘した。

 

その上で、米国が最近、軍事演習名目でデンマークとフィリピンに中・短距離ミサイルを搬入した上、その後も搬出したかは分かっていないと主張。「ロシアはこれらの攻撃システム(中・短距離ミサイル)の生産を開始し、その後、どこに配備するかを決定する必要がある」と述べた。

 

米国は19年2月、ロシアがINF全廃条約を順守していないとして条約の破棄をロシアに通告。条約は同年8月に失効した。ロシアは「米国がINFを欧州などに配備した場合、対抗措置をとる」と警告する一方、双方が条約失効後もINFの新たな配備を自制することを提案していた。

 

ロシアは米国との軍拡競争の激化に伴う財政の悪化を懸念し、INF配備の相互自制を提案していたとみられている。【629日 産経

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****米国、ドイツに長距離兵器の配備開始へ 2026年から****

米国は2026年、欧州防衛強化を目的にドイツに長距離攻撃システムの配備を開始する。両国が10日共同声明で明らかにした。「スタンダード・ミサイル6」(SM6)や「トマホーク」ミサイル、極超音速兵器が含まれる。(後略)【711日 ロイター

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状況を複雑にしているのが、「中距離核戦力(INF)全廃条約」の枠外にあった中国の存在です。

 

****米ロが中距離兵器を再配備、中国巻き込み軍拡競争複雑化****

米国は40年前、ソ連の中距離弾道ミサイル「SS20」に対抗するため、核ミサイル「パーシングII」と巡航ミサイルを欧州に配備した。この動きは冷戦の緊張をあおったが、一方で数年後の歴史的な軍縮合意にもつながった。

 

米国とソ連は1987年12月、射程距離500―5500キロの地上発射型弾道ミサイルと、核弾頭もしくは通常弾頭を搭載可能な巡航ミサイルを両国で全廃する二国間条約「中距離核戦力(INF)全廃条約」で合意。ソ連のゴルバチョフ書記長は米国のレーガン大統領に「この苗木を植えたことはわれわれにとって誇れることだ。いつの日か巨樹に育つだろう」と語りかけた。

 

この苗木は2019年まで生き延びたが、この年に当時のトランプ米大統領はロシアが合意に違反しているとして条約を破棄。その後米国とロシアは新たな兵器配備計画を打ち出しており、INF全廃条約の崩壊がいかに危険なことだったかが今になってようやく明白になりつつある。

 

ロシアのプーチン大統領は6月28日、短・中距離陸上ミサイルの製造を再開し、必要なら配備地を決定すると公言した。西側諸国は、いずれにせよロシアは既にこうしたミサイルの製造を始めているのではないかと疑っていた。専門家によると、これらのミサイルは通常弾頭と核弾頭のいずれも搭載が可能とみられる。

 

一方、米国は7月10日に対空ミサイル「SM6」や巡航ミサイル「トマホーク」、新型極超音速ミサイルなどの兵器を2026年からドイツに配備すると発表した。これらは通常弾頭搭載型だが、理論的には核弾頭を搭載できるものもある。

 

こうしたミサイル配備計画が打ち出された背景にはウクライナ戦争を巡る緊張の高まりと、西側諸国がプーチン氏の核兵器に対する発言を威嚇的だと受け止めたことがあるが、双方が軍備増強を決めたことで脅威は一段と高まった。また、両国の兵器配備には中国とのより広範なINF軍拡競争の一部という側面もある。

 

オバマ米政権で核不拡散担当の特別補佐官を務めた米国科学者連盟のジョン・ウォルフスタール氏は、「現実として、ロシアと米国の両国が、相手国の安全を損なうかどうかに関係なく、自国の安全を強化すると信じる措置を講じている。その結果、米国とロシアの一挙手一投足が、敵対国に対して政治的、軍事的に何らかの対応を迫ることになる。これが軍拡競争というものだ」と話す。

 

<攻撃シナリオ>

国連軍縮研究所のアンドレイ・バクリツキー上級研究員は、計画が浮上した兵器配備によって「ロシアと北大西洋条約機構(NATO)加盟国の間で直接的な軍事衝突が起きるシナリオが高まる」と指摘し、全ての関係者は身構える必要があると警告する。

 

ウクライナ向けの西側兵器が保管されているポーランドの基地をロシアが攻撃したり、ロシアのレーダーや司令部を米国が攻撃したりするといった事態も想定されるという。

 

専門家によれば、こうしたリスクは緊張を一段とあおり、事態を連鎖的に激化させる。

 

ウォルフスタール氏は、米国が計画しているドイツへのミサイル配備について、欧州の同盟国に安心感を与えるためのもので、軍事的に大きな利点はないと指摘。「軍事的な能力は向上せず、危機が加速し、制御不能に陥る危険性が高まる恐れがある」と語る。

 

平和研究・安全保障政策研究所(ハンブルク)の軍備運用専門家、ウルリッヒ・キューン氏は 「ロシアの立場からすれば、この種の兵器が欧州に配備されれば、ロシアの司令部や政治的中枢、戦略爆撃機を配備している飛行場や滑走路に、戦略的な脅威がもたらされる」とし、ロシアが対抗措置として米国本土を標的とする戦略ミサイルの配備を増強する恐れがあるとの見方を示す。

 

<中国の反応>

ロシアと米国が中距離ミサイルを配備すれば、これまで全廃条約に縛られることなくINF兵器を増強してきた中国がさらなる軍備拡張に動く可能性もある。

 

米国防総省は2023年の議会への報告書で、中国のロケット軍が射程300―3000キロのミサイルを2300基、射程3000―5500キロのミサイルを500基保有していることを明らかにした。

 

中国のミサイルに対する懸念は、トランプ氏がINF全廃条約破棄を決断した大きな要因の1つであり、米国は既にアジアの同盟国への中距離兵器配備に着手している。

 

キューン氏は「軍拡競争はロシアと米国およびその同盟国との二者間のものではなく、もっと複雑になるだろう」と危惧する。

 

専門家3人はいずれも、1980年代にレーガン氏とゴルバチョフ氏が合意したような画期的な軍縮協定がロシアと米国の間で結ばれる可能性は低いとみている。

 

国連軍縮研究所のバクリツキー氏は、たとえロシアと米国の両国が軍拡は無意味だとの考えに至っても、米国は中国のことを考えてINF全廃条約の復活には動けないと指摘する。【720日 ロイター

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米国は既にアジアの同盟国への中距離兵器配備に着手・・・当然、日本もその流れの中に組み込まれていくことになります。

 

【世界は危険な方向に】

ロシアは包括的核実験禁止条約(CTBT)からも離脱しており、従来の核拡散防止体制は崩壊しつつあります。

そもそも、アメリカはCTBTを批准していません。

 

****ロシアは核実験を再開するのか?CTBTから離脱、プーチン大統領は「準備を万全とする」よう命じた 「シベリアでやれ」「米国に分からせろ」相次ぐ強硬発言、核拡散防止体制に危機****

ロシアのプーチン大統領が11月2日、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を撤回する法律に署名、同国の事実上のCTBT離脱が決まった。ウクライナ侵攻を巡る西側との対立が深まる中、ロシアが国際的な核軍縮の求めに反して核実験に踏み切るのではとの懸念が強まっている。(共同通信=太田清)

 

▽大統領「準備万全に」

ロシアのCTBT離脱の動きはかねてあった。2月21日に行われた毎年恒例のロシア上院に対する年次報告演説で、プーチン大統領は、米国の核兵器について「核弾頭の性能を保証する期限が切れつつあることを知っているし、新たな核兵器開発が行われ、核実験の可能性を検討していることも分かっている」とした上で、国防省と国営原子力企業ロスアトムに対し、「核実験の準備を万全とする」よう命じたことを明らかにした。(中略)

 

▽20年以上も批准せず

CTBTについて、核二大国の米国とソ連はともに1996年に署名。ソ連の核兵器を継承したロシアは2000年6月に批准した。

 

一方、米国は1999年、共和、民主両党の党派対立などから、権限を持つ上院での批准に失敗。その後も(1)ロシアなどが小規模核実験を行っても検知できない恐れがある(2)安全保障上のフリーハンドが持てない。実験なしでは核兵器の信頼性が確保できない(3)潜在的敵国である中国、北朝鮮、イランなどが署名または批准せずに核開発・強化を進めるなど、CTBT、核拡散防止条約(NPT)は既に形骸化している―などの主張が強く、批准に必要な3分の2の賛成票を得られていない。

 

米国は92年に実験のモラトリアム(一時停止)を始め、現在まで行っていないものの、ロシアの批准から20年以上にわたってCTBT未批准の状況が続いている。

 

▽ウクライナ問題

ロシアはなぜ今になって、核実験再開に結びつく動きに出たのか。公式には、未批准の米国への対抗措置との立場を取っているが、背景には米国の実験再開に対する警戒とともに、ロシアとの戦争でウクライナを支援する西側へのけん制の狙いがあるのは間違いない。(中略)

 

▽連鎖反応

万が一、ロシアが核実験再開に踏み切ることがあれば、世界はどのように変化するのか。

 

米ソの核軍縮交渉にも参加した核軍縮問題分析の第一人者、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所のアレクセイ・アルバトフ国際安全保障センター長はコメルサント紙に対し、こう警告した。

 

「ロシアのCTBT離脱で世界各国の条約離脱と核実験開始という、連鎖反応を引き起こす可能性がある。CTBTがNPT体制を支える重要な主柱であることを考えると、同体制が崩壊し、核保有国がさらに増え、核のカオス(無秩序)に陥る恐れすらある」【20231129日 47NEWS

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これまでまがりなりも国際緊張高まりにブレーキをかける役目を担っていた中距離核戦力(INF)全廃条約や包括的核実験禁止条約(CTBT)の無効化、中国の軍拡競争参入、中ロとアメリカの対立構造の先鋭化・・・世界は危険な方向に向かっているようです。