パレスチナ  国際世論はイスラエル大規模攻撃に厳しい風向き 米も抑制 米・イスラエルの国内世論 | 碧空

パレスチナ  国際世論はイスラエル大規模攻撃に厳しい風向き 米も抑制 米・イスラエルの国内世論

(ロンドンを拠点にパレスチナの人々に医療物資の提供を行っている慈善団体の代表は、病院の発電機を動かすための燃料が届かなければ、ガザ地区にあるNICU=新生児集中治療室の赤ちゃんが48時間以内に命を落とすことになると訴えました。【1025日 NHK】 報道がなされてから48時間が経過しましたが・・・)

 

【地上侵攻になかなか踏み切れないネタニヤフ首相】

イスラエルとハマスの戦争状態については連日山のような情報が流されており、取り上げていたらきりがありませんが、スペースが許す範囲でいくつか。

 

全体的な雰囲気としては、徹底したイスラエルの空爆に曝されて毎日多数の犠牲者を出し(1日で700人を超えるような数字の信ぴょう性についてはバイデン大統領は疑問を呈していますが)、水・食糧・燃料も事欠くガザ地区住民の惨状(燃料が尽きれば命も尽きる病院保育器の新生児、亡くなった際に身元だけは分かるように手に名前を書く子供など、かつて住み家を追われたパレスチナ難民が「もう二度と動きたくない。ここで死にたい」と避難を拒んでいる姿・・・など)が報じられるにつれて、従来に比べイスラエルの地上戦など今以上の軍事行動を諫め、停戦(あるいは人道的な一時休戦)を求める国際世論が強まっています。

 

****ガザで“最大の地上作戦” イスラエル国民や軍に対しての“ガス抜き”か米・バイデン大統領「人質解放を優先するべき」****

イスラエル軍はガザの北部で、これまでで最大の地上作戦を行ったと発表した。
今回の作戦は、なかなか地上侵攻が始まらないことに疑問を抱いているイスラエル国民や、国防省や軍に対してのガス抜きのようにも思われる。


一方で、イスラエルによるガザ地区への空爆は続き、6547人が死亡。世界中で人道危機を懸念する声が上がっている。

 

これまでで最大の地上作戦を行う

(中略)イスラエルメディアによると、軍は数日前から大規模な地上侵攻をする前に、限定的な地上作戦を何回も行う方針を固めたという話もあり、今回の攻撃がその一環だったのでは、という話も出ている。


一方、地上侵攻を巡って、イスラエルの国民の多くは、ハマスのせん滅を目指す政府を支持しており、軍による地上侵攻への期待も大きいのは事実だ。 しかし、なかなか始まらない現状に疑問を抱いている。

 

また、イスラエル軍や国防省も、1週間以上前から地上侵攻の準備が整っているにもかかわらず、実行できていないことに不満をもっているとみられる。


そのため、ネタニヤフ首相に青信号、つまりGOサインを待っていると話していた。なかなか地上侵攻を決断しない首相に、明らかに決断するように迫っている形だ。

 

そこで今回、戦車を使ったこれまでで最大規模の地上作戦を行い、限定的ではあるもののハマスの拠点を直接攻撃したことは、国民のガス抜きだけではなく、国防省や軍に対してのガス抜きのようにもみえる。(中略)


まだ大規模な地上侵攻には至らず

(中略)こうした動きに先立って、アメリカのバイデン大統領は、日本時間26日朝の会見で、「人質が地上侵攻の前に安全に解放される可能性があるならば、『人質解放を優先するべきだ』」と発言した。


そして、イスラエルに自衛する権利があるとした上で、これ以上、民間人の被害が拡大しないよう「全力を尽くすべき」と要望した。(中略)
バイデン大統領は、イスラエルを支援する姿勢は崩していないが、バイデン大統領はガザ地区の人道状況の改善や人質解放の必要性を、これまでより踏み込んだ形で話している。

 

バイデン大統領と電話会談をした、イスラエルのネタニヤフ首相は、イスラエル軍のガザ地区への地上侵攻について「我々は準備している」としながらも、「いつ始めるかなど詳細は言えない」と話した。

 

ネタニヤフ首相のこの発言は、これまでと少し変化があるようにも感じられる。7日のハマスのテロ直後は、すぐにでも地上侵攻があるのでは、という観測も飛び交うような状況だったが、現在このトーンが少し変わってきている。

 

バイデン大統領は否定しているが、アメリカのウォールストリート・ジャーナルは、アメリカとイスラエルの政府当局者の話として、「イスラエルがアメリカからの要請に応じて、地上侵攻を遅らせることで合意した」などとも報じている。


ハマスのテロ攻撃から20日になろうとしているが、さまざまな交渉が行われ、大規模な地上侵攻には至っていない。

一方で、イスラエルによるガザ地区への空爆は続き、パレスチナ保健当局によると、6547人が死亡し、避難先と指定された南部地域での死者数が65%を占めている。

 

世界中で人道危機を懸念する声が上がる

ガザ地区の状況が悪化の一途をたどる中で、外交や政治レベルとは異なる重要人物からも、衝突と人道危機を懸念する声が上がり、世界の注目を集めている。

 

22日、バチカン市国で行われた、ローマ教皇フランシスコの水曜の定例謁見。多くの人々が集まる中、ローマ教皇・フランシスコは「私は常にパレスチナとイスラエルの悲惨な状況について考えている」と今の状況を憂慮し、ハマスにとらわれた人質解放と、ガザ地区の市民への援助物資の搬入を訴えた。(中略)

 

イスラエルの隣国、ヨルダンのラーニア王妃の発言も世界的なニュースになっている。
ラーニア王妃はアメリカCNNの番組に出演し、「パレスチナ人であってもイスラエル人であっても、民間人の殺害を強く非難する。たとえ、イスラエルの同盟国でも、ただ支持するのでは何の役にも立たない」などと、停戦を要求しない西側諸国を批判した。

 

(中略)ラーニア王妃は53歳だが、その華やかな外見などから、欧米のファッション誌などにも取り上げられる人物だ。「ユニセフ子どものための大使」でもある。ヨルダンは重要なポジションで、アラブ世界の周辺諸国でイスラエルと外交関係があるのはエジプトとヨルダンのみだ。そのため、キープレイヤーの国の1つともいえる。(後略)【1027日 FNNプライムオンライン

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【イスラエルの責任を問う国連グテレス事務総長】

国際世論の流れを受けるところもあってか、国連グテレス事務総長はイスラエルのパレスチナ占領政策の責任を問う、かなり踏み込んだイスラエル批判を行い、イスラエルは事務総長の辞任を求めるバトル状態にもなっています。

 

****国連事務総長、ガザ空爆非難 イスラエル猛反発し辞任要求****

国連のグテレス事務総長は24日の安全保障理事会で、イスラム原理主義組織ハマスのイスラエルへのテロ攻撃を非難する一方、ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザの人道危機に懸念を示し、イスラエル軍のガザ空爆を「国際法違反」と非難した。イスラエルは猛反発し、グテレス氏の辞任を求めた。

 

イスラエル軍によるガザ空爆では国連職員も死亡している。グテレス氏は遺族のためにも空爆を「非難する義務」があると訴えた。

 

グテレス氏はハマスのテロ攻撃についても「何もないところから突然起きたわけではない」と主張。「パレスチナの人々は56年間、(イスラエルの)息苦しい占領下に置かれてきた」と述べ、ハマスのテロ攻撃が起きた歴史的な背景を認識する必要があると強調した。

 

イスラエルのコーヘン外相はグテレス氏を指さして「あなたの下で国連は最悪な時期にある」と非難。イスラエルのエルダン国連大使は「グテレス氏が倫理観と公平性を失った」と語り、国連事務総長の辞任を求めた。

 

コーヘン氏の演説が始まると、アラブ諸国の外交官らが一斉に安保理議場から退席した。【1025日 産経

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グテレス事務総長はポルトガルの元首相ですが、社会主義インターナショナル議長を務めた左派系で、国際連合難民高等弁務官の経歴もあります。上記のような認識はそうした政治姿勢・経歴を反映したものでもあるようです。

反発するイスラエルは25日、国連職員への査証発行停止を決めています。

 

【イスラエルに抑制を求め始めたアメリカ 国内世論動向も影響か】

上記【FNNプライムオンライン】のように、アメリカ・バイデン大統領の言動も、従来のイスラエル支持一辺倒から、支持はするものの、イスラエルに抑制を求める姿勢にやや変化が見られます。

 

“「人質解放まで地上侵攻を控えるべき」バイデン大統領、イスラエルに伝達”【1026日 ABEMA NEWS

 

****西岸のユダヤ人入植者に懸念=米大統領、「火に油」と批判****

バイデン米大統領は25日、ホワイトハウスでの記者会見で、「ヨルダン川西岸でパレスチナ人を攻撃し、火に油を注いでいる過激派の入植者を警戒し続けている」と述べ、一部のユダヤ人入植者の行動に懸念を表明した。パレスチナのイスラム組織ハマスによるイスラエル攻撃以来、バイデン氏が同国批判と受け取られる発言をするのは珍しい。

 

バイデン氏は「われわれはイスラエルがテロリストから身を守るために必要なものを確保する」と述べ、改めてイスラエル支援の方針を表明。一方で、「イスラエルは罪のない市民を守るために、困難ではあっても全力を尽くさなければならない」と民間人保護を訴えた。

 

ハマスとイスラエルの軍事衝突以降、中東では反イスラエル感情が高まっている。バイデン氏はこれを踏まえ、ユダヤ人入植者による攻撃を「今すぐ止めるべきだ」と求めた。【1026日 時事

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****アメリカからの「戦闘中断」要請に反発、イスラエルが国連職員へのビザ発行停止****

国連安全保障理事会は24日、イスラエルとイスラム主義組織ハマスが衝突するパレスチナ自治区ガザの情勢に関する閣僚級会合を開いた。米国のブリンケン国務長官はガザへの人道支援を優先すべきだと主張し、戦闘中断の検討を求めた。

 

米高官が公の場で、戦闘の中断に言及したのは初めて。ブリンケン氏は会合でハマスの攻撃を「野蛮なテロだ」と批判しつつ、「ガザの人々に食料や水などの必要な支援を届けなくてはいけない。人道的な中断を検討しなければならない」と述べた。

 

イスラエルの本格的な地上侵攻を支持する米国は、18日の安保理会合での戦闘中断を求める決議案採決の際、「イスラエルの自衛権が明記されていない」として拒否権を行使し、批判を浴びた。ブリンケン氏の今回の発言で米国はガザへの人道支援を重視する姿勢をより鮮明にし、これまでの外交姿勢を修正した。(後略)【1025日 読売

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アメリカの姿勢変化の背景には、世界で、特に中東において高まる停戦を求める声への配慮、イスラエルの軍事行動拡大でもたらされる中東混乱への懸念(中東から手を引き、対中国にシフトしたいアメリカにとっては、中東に引き戻される事態は避けたいところ)がありますが、イスラエル支持とされるアメリカ国内の世論も、確かにイスラエル支持が多数ではありますが、若者や政権基盤の民主党支持者の間ではパレスチナへ寄り添う声も強くあり、そうした国内世論動向も影響していると思われます。

 

****米国人の大多数がイスラエル報復支持、若者ほどパレスチナにも同情 最新世論調査****

イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区のイスラム勢力ハマスの衝突をめぐり、米国人の大多数がイスラエル側に同情を寄せ、ハマスの攻撃に対するイスラエル軍の反応は正当化できると考えていることが、CNNの最新世論調査で分かった。(中略)

 

今回の衝突や米国の対応に対する考え方は、支持政党や年齢層によって大きな違いがあった。

 

ハマスの攻撃に対するイスラエル政府の軍事的対応については、50%が「完全に正当化できる」、20%が「部分的に正当化できる」と回答した。一方、「一切正当化できない」は8%にとどまり、「分からない」は21%だった。

 

支持政党別に見ると、「完全に正当化できる」は共和党が68%だったのに対し、支持政党なしは45%、民主党は38%にとどまった。

 

年齢別では65歳以上の81%が「完全に正当化できる」と答えたのに対し、50~64歳の層は56%、35~49歳は44%、18~34歳は27%のみだった。

 

7日のハマスの攻撃に関してイスラエルの人々に「大いに」同情を感じるという回答は71%に上るなど、96%がイスラエルに何らかの同情を示している。

 

一方、パレスチナの人々に対しても、87%が少なくともある程度の同情を示しているが、「大いに」同情するという回答は41%と少なかった。今も戦闘が続く中で、84%はイスラエルとパレスチナの双方に対し、少なくともある程度の同情を示している。

 

パレスチナに大いに同情するという回答は年齢が若いほど多かった。

 

今回の調査は今月12~13日にかけ、CNNがSSRSに委託して成人1003人を対象に、ショートメール経由で実施した。【1016日 CNN

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上記調査は1213日に行われたものですが、その後の展開・報道を受けて、パレスチナへの同情的な声は更に増加していると思われます。

 

“バイデン政権が、イスラエルによる地上侵攻で多くの民間人が犠牲になる事態を避けようと奔走しているのは、国際社会の懸念の高まりに加え、こうした世論への配慮がある。”【1020日 毎日

 

【イスラエル世論は人質救出優先で、地上戦には慎重】

世論調査ということでは、イスラエルの調査も興味深いものがあります。「大規模地上攻撃に乗り出すべきか」との問い49%が待った方が良いと回答。人質救出を優先すべきとの声でしょう。

 

****ガザ侵攻延期、イスラエル国民49%が支持=世論調査****

イスラエル紙マーリブが27日掲載した世論調査によると、半数近くの国民がパレスチナ自治区ガザへの侵攻を遅らせることを支持した。ガザを実効支配するイスラム組織ハマスに対する反撃の次の段階を巡り支持が低下している可能性を示唆した。

イスラエル軍が直ちに大規模地上攻撃に乗り出すべきかとの問いに29%が賛同した一方、49%は待った方が良いと回答、22%はどちらとも言えないと答えた。

マーリブによると、今月19日の調査では65%が大規模地上攻撃を支持していた。

同紙は回答の内訳から、支持する政党や人口動態による相違はないと指摘し、最重要課題に浮上している人質問題の動向が世論の変化に影響したのはほぼ間違いないと分析した。

ハマスは過去1週間に人質4人を解放した。さらなる解放に向けた周辺国の仲介努力も行われている。【1027日 ロイター

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パレスチナから攻撃を受けたら“10倍返し”が当たり前のイスラエルにあって、冒頭【FNNプライムオンライン】記事にある“なかなか地上侵攻を決断しない首相”の背景には、こうした国内世論も大きく影響していると思われます。もし地上侵攻して多数の人質が犠牲になれば、ネタニヤフ首相は政治責任を問われかねません。

 

以上、総論的なところを取り上げてきました。

もう少し的を絞った論点、例えば、エジプトとの境界にあるラファ検問所からのパレスチナ人避難を認めないエジプトの思惑、欧州のなかでもイスラエル支持が強いドイツのユダヤ人への“負い目”、今回ハマスによって多くが殺害され、また、人質となっているイスラエルにおけるタイ労働者の問題・・・などを取り上げたいのですが、話が長くなるので、また別機会に。