中国をめぐり、豪は関係改善、フィリピンは対立激化、インドネシアは関係強化 | 碧空

中国をめぐり、豪は関係改善、フィリピンは対立激化、インドネシアは関係強化

(フィリピン沿岸警備隊の船(右)に、中国の船(左)が衝突。フィリピン政府提供【1022日 日経】)

 

【オーストラリア 首相訪中を前に関係改善加速】

中国とオーストラリアの関係は3年前、オーストラリアが新型コロナウイルスの発生源について独立した調査が必要だと表明したことをきっかけに急速に悪化、米中対立が深まる中でオーストラリアの自由党・モリソン前政権が対中強硬姿勢を強め、中国側がオーストラリア側へ次々と貿易などの制限措置をかけるなどしてきました。

 

現在でも、米英との「AUKUS(オーカス)」の枠組みによる原子力潜水艦保有計画を進めるなど、オーストラリアは中国への安全保障分野での対抗姿勢は崩していません。

 

ただ、経済面ではオーストラリアにとって中国は最大の貿易相手であり、去年5月、労働党・アルバニージー政権が誕生して以降関係修復が進み、中国は石炭への輸入制限や大麦の制裁関税を相次いで撤廃しています。

 

****オーストラリア首相が中国を訪問へ コロナの「起源」めぐり悪化した関係の改善進む ASEANでも両国首脳が会談*****

中国政府は、オーストラリアのアルバニージー首相が中国を訪問すると発表しました。両国の関係は一時冷え込んでいましたが、アルバニージー政権誕生以降、中国が大麦の制裁関税を撤廃するなど関係改善が進みつつあります。

中国外務省 毛寧報道官
「中国はアルバニージー首相が李強首相の要請に応じて訪中することを歓迎する。オーストラリア側と共同で各種準備作業を共同で進めたい」

中国外務省の毛寧報道官は7日の記者会見でこのように述べた上で、「意見の食い違いを適切に処理し、両国の全面的戦略パートナーシップの改善と発展を推進したい」と強調しました。

これに先立ち、ASEAN=東南アジア諸国連合に関連する首脳会議が開催されたインドネシアでは、李強首相とアルバニージー首相の会談が行われ、中国国営の新華社通信によりますと、両首脳は関係強化の考えで一致したということです。

オーストラリアと中国の関係は一時、人権問題や新型コロナの起源をめぐって悪化していましたが、去年5月のアルバニージー政権誕生以降、中国が8月に大麦の制裁関税を解除するなど改善に向けた動きが進んでいます。【97日 TBS NEWS DIG

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97日、北京では中断していた官民による対話の枠組みのハイレベル対話が再開、オーストラリアからはエマーソン元貿易相やビショップ元外相ら超党派の政界要人のほか、財界や学界などの代表ら18人が参加しました。

 

オーストラリア側の一行と会談した王毅(ワンイー)党政治局員兼外相は、「過去数年に起きた曲折は両国関係の本質とは言えないし、それによって両国の協力の歩みが阻害されてはならない。中豪は脅威ではなく、パートナーだ。第三国の影響や干渉を取り除く必要がある」などと呼びかけています。

 

11月に予定されているアルバニージ首相訪中に併せて、両国の関係改善も加速度を増しています。

 

中国との関係悪化を背景に、拠点港湾であるダーウィン港の中国企業へのリースについて見直し作業が行われていましたが、アルバニージ首相の中国訪問を前に、豪政府は「契約に問題はない」との結論を出しています。

 

****ダーウィン港 中国企業へのリース権破棄せず****

見直しが行われていたNT(ノーザンテリトリー)準州ダーウィン港の中国企業との99年リース権契約について、「破棄の必要はない」と判断されたことが分かった。連邦政府のアルバニージ首相が中国の習近平国家主席と会談するため北京を訪れるのを前に発表された。

 

ダーウィン港のリースをめぐっては、2015年にターンブル政権がNT準州と共同で中国共産党とのつながりが報告されている中国企業、ランドブリッジのオーストラリア子会社に5600万ドルのリース権を付与していた。

 

首相・内閣府が実施した見直しによると、監視体制は「十分」であり重要なインフラに及ぶリスクを管理するための「強固な」規制システムが存在することが判明したという。20日午後に発表した声明の中では、「結果として、リースを変更したり取り消したりする必要はない」と説明した。

 

一方、VIC州選出の自由党上院議員、ジェームズ・パターソン氏はソーシャルメディア上で、「なぜ首相による過去の懸念が蒸発してしまったのか」と述べ、オーストラリア国民はこの決定について、明確な説明を受けるべきだと見解を述べた。

 

リース権契約の見直しは、2022年にアルバニージ政権が誕生した後に行われたもので、国防の専門家たちが国家安全保障を理由に、リース権契約を打ち切るよう求める声が続いたことを受けて行われていた。【1021日 JAMS.TV

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また、首相訪中発表に併せて、中国がオーストラリア産ワインに発動した制裁関税の見直しに着手することで両国が同意したことも発表されています。

 

****豪州首相が約7年ぶり訪中へ 豪産ワインの制裁見直し着手で合意****

オーストラリアのアルバニージー首相は22日、中国を11月4〜7日に訪問すると発表した。オーストラリアの首相による訪中は2016年以来、約7年ぶりとなる。

 

アルバニージー氏は、中国が豪州産ワインに発動した制裁関税の見直しに着手することで両国が同意したことも明らかにした。

 

アルバニージー氏は、北京で習近平国家主席や李強首相と会談するほか、上海を訪れて習政権が力を入れる大型見本市「中国国際輸入博覧会」に出席する予定だと説明している。

 

両国関係を巡っては、2020年にオーストラリアのモリソン前政権が新型コロナウイルスについて第三者による発生源の調査を求めたことに中国が反発し、中国側が事実上の報復措置として豪州産ワインに高関税を設定するなど経済的な圧力をかけた。昨年5月に誕生したアルバニージー政権は関税撤廃を目指し、中国側と交渉を重ねていた。

 

豪州産ワインへの制裁関税については、今後5カ月を掛けて見直す。アルバニージー氏は、中国はオーストラリアにとって最大の貿易相手国だと強調し、「安定的で生産的な関係を確実にするための重要な一歩として訪中を楽しみにしている」と表明した。【1022日 産経

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【フィリピン 南シナ海での緊張状態 ついに衝突事故】

一方、南シナ海の南沙諸島(スプラトリー諸島)周辺アユンギン礁をめぐる中国とフィリピンの対立はエスカレートしています。

 

「九段線(最近は台湾を含む十段線とも)」と称するラインで南シナ海のほぼ全域の管轄権を主張する中国に対し、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は2016年、中国の主張には法的根拠がないと否定する判決を出していています。フィリピンが領有を主張するアユンギン礁の管轄権についても否定されましたが、中国は判決を受け入れず、フィリピン船への妨害活動を繰り返しています。

 

今月初めには、両国の艦船が「1m」まで接近。

 

****中国海警局船、比の巡視船を妨害 南シナ海、1mの至近距離に接近****

フィリピン沿岸警備隊は6日、南シナ海のアユンギン礁(英語名セカンド・トーマス礁)のフィリピン軍拠点に4日、補給物資を届ける任務を支援する際、中国の海警局と海上民兵の船9隻に妨害されたと発表した。

 

海警局の船がフィリピンの巡視船に対しわずか1メートルの至近距離まで接近するなど、8件の危険行為に直面したと非難した。

 

沿岸警備隊が公開した映像によると、中国海警局の船はフィリピン巡視船の進路の直前を横断。地元メディアによると、巡視船は衝突を避けるため、動力を逆回転させて急停止を強いられた。

 

沿岸警備隊は、中国海軍の軍艦1隻もフィリピンの巡視船から1キロ以内の距離に近づいたほか、中国軍機が監視飛行を行ったと指摘した。

 

フィリピンの巡視船には、マルコス大統領が「特別な懸念」に対応するため中国担当特使に任命したロクシン前外相が乗り込んでおり、妨害状況を目撃した。

 

アユンギン礁では、フィリピンが1999年に老朽艦をわざと座礁させて軍事拠点化。兵士を常駐させ、定期的に補給船団を送ってきた。【107日 共同

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その後も緊迫した状況が続いていました。

 

****中国海警がフィリピンの艦艇を駆逐と発表も、フィリピン軍は反論独メディア****

20231010日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、中国海警が南シナ海でフィリピン戦を駆逐したと発表したことについて、フィリピン軍が「政治的ブロパガンダ」と批判したと報じた。

 

記事は、中国海警局の報道官が10日「フィリピン海軍の小型砲艦が再三の警告を無視してわが国の黄岩島近隣海域に意図的に侵入したため、然るべき措置を講じて駆逐した」と発表したことを紹介。

 

これに対してフィリピン軍武装部隊のロメオ・ブラウナー参謀長が同日「中国海警局は当時現場に姿を見せたが、海上パトロールを行っていたフィリピン海軍の船は駆逐されることなく航行を継続した」と中国側の駆逐情報を否定するとともに、「われわれは、中国による政治的プロパガンダだと認識している」と述べたことを伝えた。

 

そして、中国側の言う「黄岩島」について、南シナ海のスカボロー礁のことであり、主権や漁業権を巡る争いがアジアで最も活発な海域の一つであると説明。フィリピンの排他的経済水域(EEZ)内に位置するものの、中国が「争うべくもない主権」を主張し、12年以降は中国が実効支配していると紹介した。

 

また、南シナ海域を巡っては先月、中国がスカボロー礁に設置していた長さ300メートルのフローティングバリアをフィリピン沿岸警備隊が切断したこと、今月9日には中国側がフィリピンに対しセカンドトーマス礁(中国名・仁愛礁)での「挑発」をやめるよう警告していたことを紹介。

 

フィリピンで昨年マルコス政権が発足して以降両国の関係が悪化しており、同大統領が米国による台湾に近い地域を含む多くの軍事基地への進入を許可するなど米国との関係を深めていることを伝えた。【1011日 レコードチャイナ

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そして、ついに衝突。

 

****フィリピン政府 南シナ海で軍の船に中国海警局の船衝突と発表****

フィリピン政府は中国と領有権を争う南シナ海で、フィリピン軍の輸送船が中国海警局の船から危険な接近を繰り返された末に衝突されたと発表しました。


フィリピン側は「危険で無責任だ」と強く非難した一方、中国側は「責任はすべてフィリピン側にある」などと反論しました。

 

フィリピンの国家安全保障会議は南シナ海の南沙諸島、英語名スプラトリー諸島の海域で22日朝、フィリピン軍の輸送船が中国海警局の船から危険な接近を繰り返された末に衝突されたと発表しました。

フィリピン軍が公開した映像には、中国海警局の船の船首が軍の輸送船の後部にぶつかる様子がうつっています。

その後、現場海域では、軍の輸送船を警備していたフィリピン沿岸警備隊の巡視船にも中国の海上民兵の船が接触したということです。

フィリピン側の船はいずれも軍の拠点に補給に向かっていたところで、フィリピン側は声明で、中国側を「危険で無責任な違法行為だ」として強く非難しました。

これに対し、中国海警局は衝突時に撮影したとみられる映像などを公開したうえで、「フィリピン側の船は中国側の警告を無視し、危険な方法で中国側の船に接近し、衝突した。責任はすべてフィリピン側にある」などと反論しています。

フィリピン側は、今月4日にも中国海警局の船がフィリピンの巡視船に1メートルの距離にまで接近したと発表し、中国側がこれに反論するなど、南シナ海をめぐって両国が非難の応酬を続けています。【1022日 NHK

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【インドネシア 中国との全面的な戦略的協力の深化】

同じASEAN内でもインドネシア・ジョコ政権は中国との関係を強化しています。

 

****中国支援のインドネシア高速鉄道が開業 総工費膨張、需要も見通せず****

インドネシアで2日、中国の支援で建設された高速鉄道の開業式典が行われた。東南アジア初の高速鉄道だが、総工費は当初の計画から72億ドル(約1兆780億円)と約3割膨張。開業延期を繰り返し、予定より4年遅れでの開業となった。

 

高速鉄道は首都ジャカルタと西ジャワ州の都市バンドンの142キロを約40分で結ぶ。2日の開業式典でジョコ大統領は、高速鉄道の名称を「Whoosh(ウーシュ)」と明らかにした。インドネシア語の「時短、最適な運転、優れたシステム」の頭文字から取ったという。

 

高速鉄道は日本が安全性を重視した新幹線方式を売り込んだが、中国が巨大経済圏構想「一帯一路」の主要事業とするために入札に参入。ジョコ政権は2015年、インドネシアに公費負担を求めないとする中国案を採用した。

 

中国は当初、総工費55億ドルとしていたが、工期延長や土地収用の難航で膨張。最終的にインドネシアは公費投入に追い込まれた。また、既に同区間には在来線があって需要が見通せず、高速鉄道が利益を出すまでに「40年掛かる」との試算がある。【102日 産経

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****中国・インドネシア、全面的な戦略的協力の深化に関する共同声明を発表****

インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は習近平国家主席の招きに応じて、1016日から18日まで中国を公式訪問して、第3回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムへの出席とその他の活動を行いました。

 

両国指導者は会談を通じて、中国・インドネシアの全面的な戦略的パートナーシップと運命共同体の建設を深化させつづけるとの重要な共通認識に達しました。

 

双方は今年、両国が全面的な戦略的パートナーシップを樹立して10周年を迎えたことを契機に、『中国・インドネシアの全面的な戦略的パートナーシップ強化行動計画(20222026)』の全面的かつ効果的な実施を推進し、より力強く、多元的で質の高い、互恵的な二国間関係を構築することを決定しました。

 

双方はジョコ大統領の中国滞在期間中に、中国・インドネシア外相防衛相対話メカニズム、「一帯一路」共同建設の協力業務協調メカニズムの構築、発展協力の強化によるグローバル発展イニシアチブの実行推進、農村の発展と貧困削減での協力、持続可能な発展協力などの分野での協力文書を締結しました。【1019日 レコードチャイナ

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中国外交については、今回は取り上げませんでしたが、従来から中国の影響力の強いカンボジア・ラオスでの一帯一路事業も進行しています。もちろん、こうした周辺国との関係だけでなく、アメリカやロシアとの関係、イスラエル・パレスチナの中東情勢への対応等もあります。 

 

あっちと喧嘩したり、こっちと手を結んだり大忙し・・・・それだけ国際情勢における中国の存在感が強まっているということでしょう。