ロシア・アフリカ首脳会議  穀物無償提供表明のロシア対応に南ア大統領「物乞いではない」 | 碧空

ロシア・アフリカ首脳会議  穀物無償提供表明のロシア対応に南ア大統領「物乞いではない」

(首脳会議での記念撮影で握手を交わすロシアのプーチン大統領(右手前)とアフリカ諸国からの出席者ら=ロシア北西部サンクトペテルブルクで2023728日、ロイター【729日 毎日】 握手しているのは南アフリカのラマポーザ大統領(多分))

 

【アフリカ諸国にとってロシアは、欧米や中国に依存し過ぎないための「第三の選択肢」】

ロシアのウクライナ侵攻に対し結束して対抗する欧米諸国ですが、アフリカなどのいわゆる「グローバルサウス」と呼ばれる国々は必ずしもロシア批判ではなく、中立に近い立場を取ることが多いことはこれまでもしばしば取り上げてきました。

 

ロシアとアフリカの関係については、植民地支配の過去がないことや冷戦時代からのつながりもありますが、近年では軍事・安全保障面でのつながりが目立ちます。

 

****ロシア重視は「第三の選択肢」****

アフリカの対外貿易に占めるロシアの割合は2%に満たず、経済や援助の面では中国や欧米諸国に遠く及ばない。

ウクライナ産食料輸出を巡る合意からロシアが離脱したことで、アフリカ諸国には不満もくすぶる。

 

それでもアフリカの多くの国々がロシアと友好関係を維持する背景には、軍事・安全保障面での期待や、冷戦時代から続く交流がある。

 

マリではこの10年ほどイスラム過激派の活動が活発で、政府は当初は旧宗主国のフランスに支援を求め、掃討作戦を続けた。しかし、過激派の抵抗は収まらず、連携相手をロシアに切り替えた。

 

ロシアは大量の武器の供与に加え、民間軍事会社「ワグネル」の戦闘員も派遣。マリ国民の間では、これらの支援がテロ対策で一定の成果を上げていると評価されている。

 

同じく過激派に悩む隣国ブルキナファソもロシアとの軍事面での連携を急速に進める。中央アフリカは反政府武装勢力への対策としてワグネルを受け入れた。

 

ロシアは欧米が重視する民主主義や人権にこだわらないため、その支援は強権的な国にとって「使い勝手が良く、即効性がある」のが特徴だ。

 

一方、南アフリカは1990年代まで続いた黒人へのアパルトヘイト(人種隔離)政策で、反対闘争をするアフリカ民族会議(ANC)がソ連から軍事訓練などの支援を受けた。

 

ANCは政権を握った後、ソ連を継承したロシアとの関係を重視しており、ウクライナ侵攻に関しても直接的なロシア批判を避けている。また、アンゴラのように、政権がかつて内戦でソ連の支援を受けていたケースもある。

 

ロシアは、英国やフランスと異なりアフリカで植民地支配をしたことがないため、進出に当たってアフリカの市民から反発を受けにくい。アフリカ諸国は、欧米や中国に依存し過ぎないための「第三の選択肢」として今後もロシアを重視することになりそうだ。【729日 毎日

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ロシアにとっては、ウクライナ問題におけるアフリカ諸国の欧米とは一線を画する対応は、国際的孤立を避け、自らの正当性を主張するのに重要な役割を果たしています。

 

【西アフリカで顕著なワグネルの役割 クーデターのニジェールでも・・・】

そうした重要なアフリカ諸国とつながりのなかでも、上記記事にもあるように特にマリ、ブルキナファソ、中央アフリカなど西アフリカにおいて、イスラム過激派・反政府勢力への民間軍事会社ワグネルの活用が顕著です。

 

ワグネルは欧米のように民主主義だの人権だの“うるさいこと”言わずに、敵対勢力を鎮圧してくれますので。そのため民間人殺害などの重大な人権侵害も起きますが、ワグネルを重用する国は、そういうことにはあまり関心がないようです。

 

こうしたアフリカ諸国におけるワグネルの存在価値が、ロシア国内での「ワグネルの乱」にもかかわらず、プーチン大統領がワグネルを存続させようとしている理由でもあります。

 

そして、西アフリカにおいてまた一国、親ロシア国家が増えそうです。

 

26日に西アフリカのニジェールで大統領警護隊チアニ将軍によるクーデターが起きて現在事態は進行中です。

拘束されたバズム大統領は“米欧諸国と良好な関係を維持してきた。隣国マリ、ブルキナファソはイスラム過激派の動きが活発で、米国がニジェールに軍事訓練で協力するなど、ニジェールは米欧諸国による対過激派作戦の拠点になってきた。”【727日 読売】というように親欧米的な立場でした。

 

これに対し、イスラム過激派に対しマリやブルキナファソと同様の対応、要するにロシア・ワグネルを使用した強硬な対応をとることを求めてのクーデターだったようです。

 

****大統領警護隊長が新指導者 ニジェール、国営テレビが紹介****

ロイター通信によると、西アフリカ・ニジェールの国営テレビは28日、バズム大統領の追放を発表したクーデターの指導者が大統領警護隊トップのチアニ将軍だと紹介した。肩書は政権移行を目指す暫定評議会の「議長」とされ、クーデターが成立して新政権が発足した際には暫定大統領に就任するとみられる。

 

チアニ氏は国営テレビで演説し、バズム政権がイスラム過激派への対テロ作戦で隣国マリやブルキナファソと協力的でなかったと批判した。マリとブルキナファソでは近年クーデターが起き、発足した軍事政権が対テロ作戦でロシアに近づいた。【728日 共同

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こうした事態に、生死も定かでなかったワグネルの創設者プリゴジン氏が早速反応しています。

 

****プリゴジン氏、ニジェールの反乱称賛=ワグネル活動先として注目か****

ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏は、西アフリカ・ニジェールのクーデターを称賛した。関連団体が27日、同氏の音声メッセージを通信アプリに投稿した。ワグネルの戦闘員派遣に言及しており、新たな活動先として注目している可能性がある。

 

プリゴジン氏はクーデターについて「独立を獲得し、植民地主義者を排除することを意味する」と強調。西側諸国の治安・テロ対策ではニジェール国民を守れなかったと主張した上で、「ここにワグネルへの期待がある。戦闘員1000人で秩序を回復し、テロリストを粉砕することができる」と派遣の用意を示唆した。【729日 時事】 

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【ロシア・アフリカ首脳会議 ウクライナ問題では溝埋まらず】

ロシア・プーチン政権はアフリカ諸国とのつながりを強化すべく、27,28日にロシア北西部サンクトペテルブルクでロシア・アフリカ首脳会議(サミット)を開催しました。

 

前述のようにウクライナ問題でアフリカ諸国は欧米とは一線を画していますが、かと言ってロシア支持という訳でもなく、ロシアにウクライナとの和平を進めるように求めています。

 

****ロシアとアフリカ、反植民地主義で結束演出 ウクライナ問題では溝か****

ロシア・アフリカ首脳会議(サミット)は28日、2日間の日程を終え、多岐にわたる分野での協力を確認した。欧州の国々がアフリカのほぼ全域を植民地支配した歴史を批判する点でも一致。一方、ロシアがウクライナで続ける「特別軍事作戦」を巡っては溝が埋まらなかった模様だ。

 

ロシアとアフリカ諸国の首脳会議は2019年以来2回目。今回はロシア北西部サンクトペテルブルクで開き、アフリカから49カ国が参加。うち17カ国は首脳が出席した。会議では、テロ対策での協力宇宙空間での軍拡防止今後3年間の協力計画――などの合意文書を採択した。

 

サミットの宣言では、ロシアがソ連時代も含めて、アフリカ諸国と「伝統的な植民地主義の根絶に向けた共同の闘い」を実践してきたと主張した。ロシアのプーチン政権は、ウクライナでの特別軍事作戦を理由に対露制裁を科した欧米諸国への対抗姿勢を鮮明にし、植民地支配という負の歴史を取り上げている。

 

一方、特別軍事作戦やこれに伴う問題を巡りアフリカ諸国の首脳がプーチン氏に注文する場面もあった。

 

アフリカ諸国は6月、露軍のウクライナからの撤収や、国際刑事裁判所(ICC)がプーチン氏に出した逮捕状の停止などを盛り込んだ和平案を提示したが、ロシアとウクライナは拒否した。コンゴ共和国のサスヌゲソ大統領は28日の会議で「アフリカのイニシアチブは注目に値し、過小評価すべきではない」と発言。和平案の再考を促した。

 

プーチン氏は、和平協議に関心はあるが、ウクライナが拒んでいるため再開されていないと訴えた。

 

ロシアは今月中旬、黒海経由でのウクライナ産穀物の輸出を保障する合意から離脱した。このため国際的な穀物価格の高騰や、アフリカなどでの食糧危機の懸念が高まっている。エジプトのシシ大統領は28日の会議で「必要としている国を考慮し、穀物に関する合意で同意を得る必要がある」と述べ、合意に復帰するようロシアに呼び掛けた。

 

19年はアフリカから43カ国の首脳が出席したが、今回は17カ国にとどまった。ロシアは「米国やフランスなどが厚かましく干渉した」(ペスコフ大統領報道官)ことが理由だと主張している。【729日 毎日

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アフリカ諸国のつなぎ止めにロシアも腐心しているようです。

 

****プーチン大統領 アフリカ諸国の“3兆円以上の債務”帳消し****

ロシアのプーチン大統領は28日、サンクトペテルブルクで開いた国際会議で、3兆円以上にのぼるアフリカ諸国の債務を帳消しにしたと発表しました。アフリカ諸国を取り込む狙いがあるとみられます。

 

プーチン大統領は28日、アフリカ諸国との会合でロシアが帳消しにした債務総額は230億ドル(32000億円)にのぼると発表しました。

 

その上で、ロシアはアフリカの発展のためにさらに9000万ドル以上を(120億円以上)供与すると述べました。

 

プーチン大統領は27日にも「アフリカ6か国に穀物を無償で提供する」と述べていて、経済支援を通じてアフリカ諸国を取り込む狙いがあるとみられます。(後略)【729日 日テレNEWS

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【ウクライナ産穀物輸出へのロシア対応にアフリカ側の不満が 南ア大統領「物乞いでない」】

今回首脳出席が少なかったことは、一昨日ブログ“ロシア 黒海穀物合意離脱 代替ルートへも攻撃 ロシア・アフリカ首脳会議で孤立回避図る”でも取り上げたところですが、ロシアのウクライナ対応への不満でしょうか。

 

特に、ウクライナからの食糧供給が滞る事態となっていることでは、「アフリカ6か国(中央アフリカ、マリ、ブルキナファソ、ソマリア、ジンバブエ、エリトリア)に穀物を無償で提供する」というロシアの対応にもかかわらず、アフリカ側に懸念・不満があります。

 

****ロシアのアフリカ穀物支援案は不十分、停戦必要=アフリカ連合議長****

アフリカ連合(AU)議長を務めるコモロのアスマニ大統領は28日、ロシアのプーチン大統領によるアフリカへの穀物提供の提案は十分ではないとの見解を示した。同時に、ウクライナ停戦が必要と表明した。(中略)

 

アスマニ大統領は首脳会議閉幕にあたり「プーチン大統領は穀物供給でアフリカを支援する用意があると表明した。これは重要なことだが、十分ではない。(ウクライナ)停戦を実現する必要がある」と述べた。

 

その上で「プーチン大統領は対話に応じ、解決策を見出す用意がある姿勢を示した。今は相手側を説得する必要がある」と語った。【729日 ロイター

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南アフリカのラマポーザ大統領の「私たちはアフリカ大陸への贈り物を乞うためにここに来たわけではない」という発言は更にストレートなロシア批判です。

 

****南ア大統領、穀物合意再開を要請=ロシアの無償提供に「物乞いでない」****

ロシアを訪問中の南アフリカのラマポーザ大統領は28日、プーチン大統領に対し、ウクライナ産穀物輸出合意の履行再開を求めた。ウクライナ問題を巡るアフリカ7カ国首脳らとプーチン氏の協議の場で発言した。

 

プーチン氏は穀物輸出合意履行を停止後、食料価格高騰に見舞われるアフリカ最貧国に穀物の無償供給を約束していた。これについてラマポーザ氏は「私たちはアフリカ大陸への贈り物を乞うためにここに来たわけではない」と苦言。アフリカが求めているのは合意の再開だと主張した。【729日 時事

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【8に南アフリカで開催されるBRICSの首脳会議へのプーチン大統領出席をめぐり南ア苦慮】

ラマポーザ大統領の苦言は、8に南アフリカで開催されるBRICSの首脳会議への国際刑事裁判所(ICC)の逮捕状が出ているプーチン大統領出席問題で、ロシア側に振り回されたことへの感情的なもつれもあってのことでしょうか。

 

ウクライナへの侵攻を巡り国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ているロシアのプーチン大統領が来訪した場合、ICC加盟国である南アフリカは同氏を逮捕しないといけない立場にあります。もしプーチン大統領を入国時に拘束しなければ、経済的つながりの深い欧米との関係悪化は必至です。

 

そのため、プーチン大統領に欠席を求めましたが、ICC逮捕状の有効性を認めることにもなる欠席にロシアが同意せず、南アフリカは対応に苦慮した経緯があります。

 

****南ア、プーチン大統領でジレンマ BRICS欠席提案も拒否****

南アフリカのマシャティル副大統領は14日、地元メディアのインタビューで、中国やロシア、南アなどBRICS8月の首脳会議を巡り、ロシアのプーチン大統領の欠席を提案したものの、ロシアなどが拒否したと明らかにした。

 

南アには、ICCの逮捕状が出ているプーチン氏が入国した場合、拘束する義務がある。マシャティル氏は「われわれにとって大きなジレンマで逮捕するわけにはいかない。友人を家に招待して逮捕するようなもので欠席が最良の解決策になる」と語り、引き続き欠席を求める考えを示した。

 

首脳会議は8月下旬に南アのヨハネスブルクで開催。南アはBRICS加盟国に(1)プーチン氏の代理としてラブロフ外相の出席(2ICC未加盟国の中国への会場変更(3)オンラインでの開催3案を示したものの、いずれも受け入れられなかったという。

 

ロシアはサンクトペテルブルクで今月2728日、ロシア・アフリカ首脳会議を開催する。マシャティル氏は同会議に出席する南アのラマポーザ大統領を通じて、プーチン氏に翻意を求めていくとした。【715日 共同

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結局、この問題はプーチン大統領がオンラインで参加し、ラブロフ外相が対面で出席するということで落ち着いたようですが、一時は「プーチン氏を逮捕すればロシアと戦争になる恐れがある」(南アのラマポーザ大統領)【719日 毎日】と言うように南ア側を悩ませました。大国の身勝手な振る舞いに対し、南ア側に「いい加減してくれ」といった思いがあっても不思議ではありません。