タイ  空白が長引く首相指名 前進党ピター氏排除で貢献党が主導権 更にタクシン氏帰国も | 碧空

タイ  空白が長引く首相指名 前進党ピター氏排除で貢献党が主導権 更にタクシン氏帰国も

(【720日 FNNプライムオンライン】 19日の憲法裁による前進党ピター党首の議員資格停止に国会前で抗議する支持者)

 

【司法も巻き込んで進むピター氏排除 第1回投票では過半数得られず

タイでは首相指名をめぐって目まぐるしく事態が動いていますが、首相が決まらない政治空白が長引いています。

 

514日に行われた総選挙では、王制改革や徴兵制廃止を掲げる前進党(ピター党首)が選挙直前に若者らを中心に急速に支持を伸ばし、それまで勝利が確信されていたタクシン元首相系の貢献党を抑えて下院(500議席)の第1党の座を獲得しました。

ー氏の首相就任が実現すれば、軍部主導のタイ政治、あるいは、従来のタクシンvs.反タクシンという構図からタイが抜け出す可能性が膨らみます。

 

しかし、下院第1党となった前進党・ピター党首が首相に指名されるにはかなり高いハードルがあることは、73日ブログ“タイ 総選挙に勝利した前進党・ピタ党首は首相になれるのか? その前途は多難”でも取り上げました。

 

“前途多難”の理由は、貢献党を含めた反軍部勢力を合わせても、軍部の意向で選任された上院を含めると過半数に足りないこと、前進党・ピター氏の王制改革や徴兵制廃止といった主張に軍部などの拒否感が強いこと、ピター氏のメディア株保有問題というその拒否感を実現するための恰好の攻撃材料があることなどです。

 

そうした事情から予想はされたことですが、ピター氏排除の流れが現実のものとなりました。

 

713日に行われる1回の首相指名投票直前の12に、軍の意向を受ける選挙管理委員会は憲法裁判所にピター氏の議員資格停止の検討などを要求。

 

****タイ憲法裁が判断へ=首相候補のメディア株問題****

タイの選挙管理委員会は12日、5月の総選挙で第1党となった前進党のピター党首のメディア株保有問題について、憲法違反の疑いがあるとして、憲法裁判所に資料を提出して判断を求めた。議員資格停止の検討も要求しており、13日の首相選出投票に影響を与えそうだ。

 

憲法裁は今後判断を示す。前進党が公約に掲げた王室への不敬罪改正は、国家転覆を図るもので違法という訴えについても受理した。

 

ピター党首は5月、現在は放送事業を停止している放送局「iTV」の株式4万2000株を巡る問題が浮上。立候補者も含めた政治家のメディア株保有を禁じた憲法に違反するなどとして、親軍の政治活動家から選管に告発された。【712日 時事

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下院議員選挙法の第42条は、メディア企業の株式を持つ候補者の立候補を禁止。第151条は、選挙に立候補する資格がないことを知りながら出馬した場合、10年以下の禁錮と20万バーツ(約82万円)以下の罰金が科せられ、選挙権を20年間剝奪すると規定しています。なおピター氏は総選挙後に親族に株式を譲渡しています。

 

活動休止中の放送局「iTV」の株式は父親から相続したもので、ピター氏は“「iTV」は長い間マスメディアとして活動していないため、規則違反にはならない”と主張しています。

 

こういう問題になることはわかっていたところで、選挙前に処分しておけば・・・と思いますが、今回選挙だけでなく2019年の前回総選挙への立候補も問題になるため、ピター氏としては対処しようもなかった・・・というところでしょうか。

 

こうした揺さぶりもあってピター氏は票の上積みが出来ず、1回目の投票では過半数を得ることができませんでした。

 

****タイ第1党党首のピター氏、首相指名選挙で過半数届かず 再投票へ****

タイ国会は13日、首相指名選挙を行ったが、5月の下院選で第1党になった革新系野党「前進党」のピター党首(42)は指名に必要な過半数の票を得られなかった。

 

ピター氏は連立政権を目指す野党8党の統一候補として指名選に臨み、他に候補者はいなかった。19日にも再投票が行われる見通し。ピター氏は2014年のクーデター以降続く親軍政権からの交代を目指している。

 

投票は上院(定数250)と下院(同500)の合同で行われ、ピター氏は324票を獲得したが、両院を合わせた議員数の過半数には届かなかった。

 

8党の下院での保有議席数は計312で、事実上軍政が任命した上院で票を上積みする必要があった。ピター氏は選挙結果という民意を尊重して投票するよう上院議員に呼びかけていたが、多くの議員が棄権や欠席により投票を避けた。

 

野党8党は次の投票に向けて、ピター氏を引き続き候補とするのかも含めて対応を協議するとみられる。

 

一方、親軍派はクーデターから9年にわたり政権を率いてきたプラユット首相が指名選の直前に政界引退を表明した。プラユット氏は下院選前に与党を分裂させて新党を結成していたが、政界引退により与党側の再編が進む可能性もある。次回投票で過半数を獲得する候補者がいなければ、政治空白はさらに長引くことになる。

 

指名選を翌日に控えた12日、選挙管理委員会はピター氏がメディア企業の株式を保有したまま下院選に立候補したのは憲法違反にあたる疑いがあるとして憲法裁判所に判断を委ねた。ピター氏は議員資格を停止される可能性がある。国会議員でなくても首相になれるが、混乱は避けられず投票にも影響した。

 

前進党の支持者らは親軍派からの妨害ともとれる動きに反発し、投票が行われていた国会議事堂の周辺に集まり抗議の声を上げた。【713日 毎日

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【憲法裁、ピター氏の議員資格停止 更に、国会は第2回投票への立候補認めず】

そして第2回目の投票が行われる当日に・・・

 

****ピター氏の議員資格停止=タイ憲法裁、首相投票直前に****

タイの憲法裁判所は19日、5月の総選挙で第1党となった前進党のピター党首のメディア株保有問題を巡り、最終的な判断を下すまで同氏の議員資格を停止すると発表した。

 

同氏が立候補する2回目の首相選出投票は同日午後に予定されているが、実施されるか不透明となった。首相に議員資格は必須ではないものの、ピター氏が選ばれるのは極めて厳しい情勢だ。(後略)【719日 時事

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司法機関も軍部の影響下にあるとされるタイにあっては予想された憲法裁判断で、前進党の前身、新未来党の党首だったタナトーン氏も2019年の総選挙で当選したものの、翌20年に憲法裁に議員資格を剝奪され、さらに党そのものも解党命令を受けています。

 

議員でなくても首相にはなれますが、国会はピター氏の立候補自体を認めませんでした。理由は、同じ会期に同じ議案を審議しない原則から「各議会会期で1度しか候補になれない」(ピシェート副議長)というものです。

 

【主導権はタクシン派のタイ貢献党に 親軍政党との「大連立」も】

これにより2回目の首相選出投票は27日に延期されました。

 

****「ピター首相」実現せず=タイ国会が再立候補拒否政権樹立、主導権は貢献党に****

タイの国会は19日、5月の総選挙で第1党となった前進党のピター党首について、2回目の首相選出投票への立候補を認めないと決めた。これにより、ピター氏の首相就任が実現しないことが確定。

 

政権樹立の主導権は、第2党で旧野党のタクシン元首相派、タイ貢献党に移り、同党の不動産開発会社元社長、セター氏が首相候補となる。次回の首相選出投票は27日にも行われる見通しだ。

 

また、憲法裁判所は19日、保有株の問題に関連してピター氏の議員資格停止を決定した。国会審議中に議員資格停止を伝えられたピター氏は「5月の総選挙でタイ社会は変わった。ただ、(首相就任のための)戦いはまだ続く」と述べ、議場を出た。

 

19日の審議には上下両院の議員が出席。首相選出投票にピター氏が再立候補できるかどうかが議論され、715人による投票の結果、「立候補できない」が過半数となった。

 

今後の焦点は、貢献党が前進党との連携を維持するかどうか。旧与党の親軍政党などとの「大連立」を組むという臆測も広がっている。【719日 時事】 

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タクシン派のタイ貢献党が主導権を握ったことで、以前から取り沙汰されてきた貢献党と親軍勢力の「大連立」の可能性も現実味を帯てきました。

 

****「大連立」に現実味=保守派、前進党の政権入り拒否タイ****

タイの首相選出を巡り、保守派の上院議員や旧与党議員らは21日、相次いで「連立政権に不敬罪改正を掲げる(第1党の)前進党が入るならば支持しない」と表明した。

 

次回の首相選出投票は27日に行われる予定だが、候補を出す旧野党のタイ貢献党と旧与党側との「大連立」が現実味を帯びてきた。

 

貢献党は2006年以降、クーデターで2回政権を倒されたタクシン元首相派。親軍政党と連携することになれば、支持者らの反発を招きそうだ。【721日 時事】 

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以前のブログでも触れたように、既成政治の枠を壊そうとする前進党に対し、旧敵同士とは言え、貢献党も親軍政党も既成政治の枠内にあるという点では共通の土俵上にあって、その意味では“手を結びやすい”関係にあるのかも。

 

貢献党の首相候補は不動産開発会社元社長、セター氏の他に、選挙戦で党の顔ともなったタクシン氏の次女ペートンタン氏(36)もいます。ペートンタン氏がセター氏立候補に同意しているのか・・・など、両者の関係についてはよく知りません。ペートンタン氏ではタクシン色が強すぎるという判断でしょうか。

 

いずれにしても、国民の多くは前進党ピター氏を望んでいます。

 

****国民の43%「ピター氏は選出まで立候補を」****

タイの国家開発管理研究所(NIDA)が16日発表した首相選出に関する調査結果で、国民の4割以上が「下院総選挙で最多議席を獲得した前進党のピター党首が上下院で首相に選出されるまで、何度でも候補にするべきだ」と考えていることが明らかになった。

 

「上下院による第1回の首相指名でピター党首が首相に選出されなかった場合、どうするべきか」との質問で、43.2%が「ピター氏が首相に選出されるまで何度でも候補にするべきだ」、20.69%が「あと1~2回はピター氏を候補にするべきだ」、13.0%が「前進党は、大半の上院議員が反対している政策を取り下げるべきだ」、7.9%が「8党連立の主導権を、議席数第2位のタイ貢献党に譲るべきだ」(中略)と回答した。

 

「ピター氏の首相選出が失敗した場合、誰にチャンスが回ってくると思うか」では、38.6%が「タクシン・チナワット元首相の末娘(次女)でタイ貢献党の首相候補であるペートンタン氏」、35.0%が「宅開発大手サンシリの前社長兼最高経営責任者(CEO)で、タイ貢献党の首相候補であるセター氏」、6.8%が「プラユット首相」、5.7%が「分からない」「関心がない」「回答しない」だった。

 

調査は1112日、全国の18歳以上を対象に実施。1,310人が回答した。【717日 NNA ASIA

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【27日に予定されていた第2回目、再延期】

しかし、(裏事情はよく知りませんが)ピター氏の首相指名選挙の候補資格を認めないとした議会の19日の決定を巡り、見直しを求める申し立てがなされたことなどを理由に、27日に予定されていた首相選出投票は再度延期されることに。

 

****タイ首相選出投票が延期、ピター氏の資格無効の見直し申請受け****

タイの国会のワンムハマドノー下院議長は27日に予定されていた首相選出投票を延期した。地元メディアが25日報じた。

5月の総選挙で第1党となった前進党のピター党首の首相選出が保守派議員らによって阻まれたため、第2党の貢献党が首相候補を指名するとみられていた。

ワンムハマドノー氏はニュースサイト、リポーターズのインタビューで「27日は会議を開かない。次回の投票の日程は追って知らせる」と述べた。

ピター氏の首相指名選挙の候補資格を認めないとした議会の19日の決定を巡り、見直しを求める申し立てがなされたことが延期の理由の一つと説明した。

前進党の要請を受けてオンブズマンは議会の決定を見直すよう憲法裁判所に申し立てた。議会の規則が首相指名に関する憲法上の規定に優先することはできないと訴えている。

ワンムハマドノー氏は憲法裁がオンブズマンの要請を退ければ、次回の投票は8月3日になるだろうと述べた。

25日に予定されていた野党8党の会合は取りやめとなった。ただ貢献党の議員は、打開策を見出すための協議は続いていると述べた。【725日 ロイター

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オンブズマンの要請とのことですが、憲法裁がその主張を受け入れるとは思えません。おそらくピター氏排除で進むのでしょう。

 

ただ、“2回目はピター氏に代わって貢献党から候補者が出るとみられていたが、保守派も含めた党派間の駆け引きが続いている。”【725日 毎日】と、状況は不透明です。

 

【810日にタクシン氏が帰国 恩赦の裏取引か】

更に、“新たな混乱要素”が。あの亡命中のタクシン氏が帰国するとのこと。かねてより、孫(ペートンタン氏が選挙直前に出産した子供)の世話をしたい・・・とは言っていましたが。

 

****タクシン氏「8月10日に帰国」=次女が公表、恩赦期待かタイ****

タイのタクシン元首相の次女ペートンタン氏は26日、フェイスブックに「父は8月10日に帰国する」と投稿した。タクシン氏は7月中に帰国する意向を示していたが、首相選出を巡る政治的混乱が続く中、慎重に日程を決めたとみられる。

 

ペートンタン氏によると、タクシン氏はバンコクのドンムアン空港に到着予定。26日はタクシン氏の74歳の誕生日で「父は家に帰る決断をした」と投稿した。

 

タクシン氏は2006年の軍事クーデターで失脚し国外逃亡中。公権力乱用罪などで計10年の実刑判決が確定しており、帰国すれば通常なら収監される。

 

先の総選挙を受けた次期政権樹立では、第1党となった前進党からの首相選出が保守派に阻まれ、第2党でタクシン派のタイ貢献党が主導権を握っている。

 

貢献党が前進党との連携を解消して親軍政党などと「大連立」を組むとの観測が広がる中、タクシン氏には貢献党主導の政権ができれば自身が恩赦の対象になるという思惑もあるもようだ。【826日 時事】 

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タクシン氏も10年間収監されるということなら帰国しないでしょう。何らかの恩赦の目途が立ったということでしょうか。

 

タクシン派の貢献党が前進党との連携を解消して親軍政党などと「大連立」、その条件としてタクシン氏の恩赦・・・というのはわかりやすいシナリオですが、そういう動きになるのか・・・。そのためには、首相は娘のペートンタン氏では露骨すぎる、他の人間の方がやりやすい・・・ということでしょうか。ただ、それでタイ世論がおさまるのか。