台湾  「有事」への備え強化 東沙諸島などの離島が「発火点」になる可能性 | 碧空

台湾  「有事」への備え強化 東沙諸島などの離島が「発火点」になる可能性

(【202095日 産経】台湾本島からは約480キロメートル。香港から310キロメートル。台湾より本土に近い東沙諸島です)

 

【台湾 「有事」への備えを強化】

台湾にとって中国の軍事進攻というのは現実的脅威であり、厳しい国際情勢にあって中国の脅威への警戒感も強まっています。

 

これまで男性に課されていた兵役は段階的に期間が短縮されてきましたが、中国への脅威増大を受けて、昨年末に現在の4か月から1年に延長されることが決定されました。

 

****台湾 兵役を4か月から1年間に延長 中国の軍事的圧力に対抗****

台湾当局は中国の軍事的な圧力が強まっていることから、18歳以上の男子に義務づけている兵役の期間を現在の4か月間から1年間に延長することを決めました。台湾の蔡英文総統は、27日、国家安全会議を招集してこの決定を行い、その後、記者会見して内容を明らかにしました。

 

現在、台湾では18歳以上の男子に4か月間の兵役を義務づけています。
これを再来年からは1年間に延ばし、200511日以降に生まれた男子に適用するとしています。

兵役期間を延長した理由は、中国の軍事的な圧力が近年強まっているためです。
台湾内部だけでなく、台湾防衛の最大の後ろ盾であるアメリカからも期間延長の必要性を指摘する声が上がっていました。

ロシアによるウクライナ侵攻を機に一層その機運が高まっていました。

記者会見で蔡総統は「4か月の兵役では今の軍備の必要に対処できない」としたうえで「台湾が自衛力を強化してこそ、国際社会からより多くの支持を勝ち取れる。われわれがしっかりと準備をすればするほど、中国が早まったことをする可能性は小さくなる」と述べました。

兵役の延長は若者にとっては負担が増すことになりますが、蔡総統は「台湾が十分に強くありさえすれば、戦場にはなりえず、若者も戦地に行かなくてすむ」と述べ、理解を求めました。

 

台湾の兵役期間の経緯

台湾では、1950年代から80年代にかけては、2年間または3年間の徴兵制が敷かれていました。

その後、国際情勢の変化、それに少子化などを背景に、90年代以降兵役期間は段階的に短縮され、2008年からは1年間になりました。

徴兵制から志願兵制への移行も進められ、2018年を最後に、1年間の兵役に服する義務のある人はいなくなり、現在は4か月間の軍事訓練が義務づけられるだけとなっています。

総統府の報道官によりますと、兵役の期間を再び延長する検討には2年余り前から取りかかったということで、ことし2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻を機に、一層その機運が高まっていました。【20221227 NHK

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更に退役女性兵士を対象に予備役訓練が始められました。

 

****台湾、初の女性予備役訓練を開始****

台湾・桃園で9日、退役した女性兵士14人を対象とした5日間の予備役訓練が始まった。女性予備役の訓練が行われるのは初めて。台湾は対中国の防衛能力強化を進めている。

 

台湾の国防部(国防省)は1月、戦力増強の一環として、200人以上の退役女性兵について志願制の予備役に登録することを初めて認めると発表した。

 

台湾では現在、男性のみに兵役や軍事訓練の義務があるが、女性も志願すれば入隊できる。

軍事アナリストは台湾政府に対し、女性への訓練拡充などを通じて予備役を増やし、中国による侵攻に対する民間人の備えを進めるよう促している。

一部の議員からは、女性にも何らかの形で兵役義務を課すべきだとの提案も出ている。【510日 時事

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また、防空壕の存在など一般市民生活においても「有事」への備えが現実のものであり、高校においても授業の一環として射撃訓練が行われているそうです。

 

****「有事への備え」台湾はいま……有働キャスターが現地取材 夜市の隣に「防空壕」、高校に「射撃場」も“圧力”で街に変化****
中国本土まで300キロ高雄で取材

日テレNEWS有働キャスター

(中略)「実際台湾に来ると、日本で想像するような台湾と中国の緊張は、一般の人たちの生活からは表立っては感じられません。ただ高雄は中国本土まで300キロ、日本なら東京と仙台ほどの距離です。中国が軍事侵攻した際には、上陸地点の1つになるとも言われています」(中略)

 

有事の際に街の中に多くの避難施設が

日テレNEWS有働キャスター

「有事に備えて、台湾の市街地にもさまざまな変化が起きています。高雄の夜市のすぐ隣の施設には『防空避難』、英語では『シェルター』と書かれた標識がはられています。これは防空壕で、普段は普通の駐車場として使われています」

 

「こうした避難施設になる所はたくさんあります。台湾当局は、こうした場所の標示についてより市民の目を引くよう、『しっかりと街の中で示すように』と指示しました」(中略)

 

兵役を延長、高校でも射撃訓練が

日テレNEWS有働キャスター

「皆さんの生活の中に出ている影響の1つは、兵役です。今までは4か月でしたが1年に延長されることになっています」

 

21日に高雄市立三民高校に行ってきましたが、今年から軍の射撃訓練場が校内にできました。生徒たちが、軍で使われているものと同じ重さ、同じ型の銃を持ち、まるで部活動をするかのように授業の一環として当たり前のようにやっていたことに驚きました」

 

「また、簡単に入手できるアプリがあります。地図上に黄色い点で示されるのが全て防空施設です。こうしたものを市民がすぐ手に入れやすいという備えも始まっています」

 

「来週には中国の軍事侵攻を想定した台湾の大規模な軍事演習も行われます。この後も台湾で取材してお伝えします。(721日『news zero』より)【722日 日テレNEWS

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毎年恒例の大規模軍事演習に併せての空襲などを想定した大規模な避難訓練も行われていますが、今年は対象地域が拡大しています。

 

****「車が一台も走ってない」閑散とした街台湾有事に備え、大規模避難訓練始まる****

台湾で、空襲などを想定した大規模な避難訓練が始まりました。中国の軍事的圧力が強まる中、去年より対象地域を拡大しています。

台北市内の市場。警報音が鳴り響く中、明かりが消され、従業員らが避難します。空襲などに備えた避難訓練です。
外の様子も一変します。

記者 「許可をもらって撮影していますが、避難訓練が始まったため、この大通り、普段は車の通りが多いのですが、いま一台も走ってない状態です」

年に1度のこの訓練は、きょうから4日間、台湾のすべての地域で行われます。
市民は屋内や地下などの安全な場所へ避難する必要があり、指示に従わない場合、最高およそ67万円の罰金となります。

避難訓練に参加した市民 「もしも戦争が起こったとき、避難が速やかに出来ます。(中国側は)何十年も『攻める』と言っていますが、大いに可能性はありますね」

台湾ではきょうから毎年恒例の大規模軍事演習も始まり、避難訓練もこれに合わせたものです。

国防部によると、今年は対象地域を拡大。中国が軍事的圧力を強める中、市民の防衛意識の強化を図る狙いがあるとみられます。【724日 TBS NEWS DIG

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ことしの訓練は27日まで4つの地域に分けて1日ずつ行われることになっています。

 

避難訓練の様子については、以下のようにも。

 

****台湾で防空避難訓練 中国のミサイル攻撃など想定****

台湾で、中国によるミサイルなどの攻撃を想定した年に1度の防空避難訓練が、24日から始まりました。

 

“空襲警報” 街から消えた人影

ことしの訓練は27日まで4つの地域に分けて1日ずつ行われることになっていて、きょう24日は台湾北部の7つの市と県で行われました。

予定の時刻になると、街頭では空襲警報のサイレンが鳴り響き、スマートフォンにも警報のメッセージが届きました。

警報が出てから30分間、市民は屋外にいることは禁じられていて、警察官らの誘導に従わない人は罰せられることが法律で定められています。

台北駅に近い繁華街では、サイレンが鳴る前から大勢の警察官が出て、通行人に建物の中や地下に入るよう促しました。

サイレンが鳴ったあとは、大通りから人影が消え、路線バスなどの車両も路肩に停止し、商店も一時的に営業をとりやめるなど、街は静まりかえりました。

地下街では、足止めされて地上に出られない人たちがスマートフォンを見るなどして訓練が終わるのを待っていました。(後略)【724日 NHK

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【中国 ロシアのウクライナ侵攻難航を見て、台湾侵攻の成功に懐疑的になっている 米CIA分析

一方の中国。

中国にとっても軍事進攻は共産党政権の命運をかけたものになります。失敗は許されないし、成功が確信できなければ踏み出せません。

 

ウクライナ侵攻に難儀するロシアの状況を見て、習近平政権が侵攻の成功に懐疑的になっている・・・米CIAはそのように分析しているようです。

 

****「習氏は台湾侵攻成功に懐疑的」 ウクライナの反攻が影響とCIA長官****

バーンズ米中央情報局(CIA)長官は21日までに、台湾侵攻の準備を続ける中国の習近平政権が侵攻の成功に懐疑的になっているとの分析を示した。

 

ロシアがウクライナの侵略に難航する状況を受け、台湾侵攻に伴う犠牲が許容できるかとの疑問があるという。西側の支援を受けたウクライナの反攻の成功が、中国の抑止に結びつくことを強調したといえる。

 

バーンズ氏は今年2月、習氏が2027年までに台湾侵攻の準備を整えるよう軍部に指示していたとの情報を明らかにしている。

 

20日、コロラド州で開かれたシンポジウムでバーンズ氏は、27年をめぐる発言を「紛争が差し迫っているとか避けられないという意味ではない」と指摘。そのうえで「習氏と人民解放軍指導層は、台湾への全面的な侵攻が許容できる犠牲でうまく成功するか懐疑的になっている」と述べた。

 

バーンズ氏は、習氏ほどプーチン露大統領のウクライナ侵略を注視する外国指導者はいないと指摘。小規模のウクライナ軍が高い士気を維持して大規模な露軍への反撃に成功し、露側のシステム上の欠陥も明らかになったことが、台湾を想定する際の疑問につながっていると分析した。

 

さらに「プーチン氏だけでなく習氏も、バイデン大統領がウクライナへの強固な支援に西側を結束させ、対露制裁の経済的な負担も進んで受け入れていることを過小評価した」と指摘、そうした要因も「中国指導層を躊躇(ちゅうちょ)させている」との見方を示した。しかし、「台湾を支配しようとする習氏の決意を米情報機関の誰も過小評価していない」とも強調した。(後略)【722日 産経】

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【台湾本島侵攻より“低リスク”で一定の成果を示せる離島への侵攻】

習近平政権にとって台湾本島への軍事進攻は、台湾側の抵抗、アメリカの出方、国際的孤立など極めて危険な賭けにもなりますが、もっと軍事的に容易で、アメリカのとの直接対決の危険も少ない・・・という低リスクで一定の「成果」を国内的に示すことができる方策として、台湾が支配する離党を奪取するという方法があります。

 

****もう一つの台湾有事 東沙諸島という米中対立の火薬庫****

シンガポールのリー・シェンロン首相は今年4月、同国の国会で、米中の緊張が高まる中、最も危ない発火点は台湾だと指摘した。米中衝突は台湾周辺でいつでも起こりうる。中でも南シナ海に浮かぶ小さな東沙諸島が、特に危険な火薬庫になる恐れがある。

 

東沙諸島は台湾の高雄市が管轄し、台湾本島からの距離は約480キロメートル。東にバシー海峡、西に中国・海南島。香港から310キロメートルと近く、広東や香港に向かう船にとって玄関口に位置する。

 

最大の東沙島(プラタス島)は面積1.79平方キロメートル、海抜は最高7.8メートルの平らな島。青い海に浮かぶサンゴ砂の白い孤島は、美しさと裏腹にきな臭さに包まれている。

 

東沙諸島周辺で米中あわや衝突か

香港の英字紙、サウスチャイナ・モーニングポストが今年5月、東沙諸島周辺で米軍と中国軍が衝突しそうになる事態が起きたと報じ、世界の耳目を集めた。(中略)

 

中国のメリット大きい離島侵攻

中国軍が侵攻するかもしれない台湾の離島は、東沙諸島のほか、大陸に近い金門島と馬祖列島、台湾海峡の澎湖諸島、南シナ海の南沙諸島(スプラトリー諸島)の太平島がある。

 

うち東沙諸島は、208月にも中国が上陸作戦の演習を行ったと日本の共同通信に報じられ、台湾で緊張が一気に高まった。  

 

米国防総省が22年末に公表した中国の軍事力に対する報告書によると、東沙諸島、南沙諸島なら、通常の軍事訓練を上回る程度の準備で侵攻が可能。比較的防備が整った金門と馬祖でも、中国軍は既に侵攻の能力を持っている。 

 

報告書によれば、中国にとって離島侵攻はメリットが大きい。軍事的能力も政治的な決意をアピールでき、目に見える形での領土獲得が可能になる。

 

台湾の報道によると、台湾の軍事専門家も、中国にとって離島侵攻は、明確な武力攻撃を伴わない手段で台湾に打撃を与えられる「グレーゾーン作戦」で主たる目標となっているとしている。  

 

ただし、別の台湾の軍事専門家によれば、金門島と馬祖列島、澎湖諸島は台湾から比較的近く、台湾本島の防空、対艦ミサイルの射程圏内にある。中国軍が上陸作戦を行うため揚陸艦で押し寄せても、台湾本島からの精密射撃の餌食になる。東沙諸島と太平島は本島から遠く防衛が困難で、侵攻される可能性が一層高い。  

 

米シンクタンク、ケイトー研究所の研究員、テッド・ゲイラン・カーペンター氏は2111月に米誌ナショナル・インタレスト(電子版)で、中国が台湾の離島、特に東沙諸島を狙う可能性が高いと指摘して注意を呼び掛けた。  

 

同氏によれば、台湾海峡中間線を越えて飛来する中国軍機の大半は、東沙諸島に近い台湾南西の防空識別圏(ADIZ)内に侵入している。台湾国防省の日々の発表でも、中国軍機の飛来が台湾南西部のADIZに集中する状況は現在も変わっていない。  

 

カーペンター氏によれば、中国にとって離島侵攻は台湾への全面侵攻よりもリスクが低い。台湾防衛に向けた米政府の決意を試す場ともなる。

 

フィリピンの米軍基地と連携か

東沙諸島は、グレーゾーンでなく、ずばり軍事面でも極めて重要な位置にあるようだ。  

陸上自衛隊OBで防衛省情報本部の情報分析官を務めた軍事評論家の西村金一氏は「中国海軍の艦艇や潜水艦が、フィリピンと台湾間のバシー海峡を通過して、太平洋に出ることを阻止する上で重要な位置にある」と話す。(中略)

 

台湾の最新揚陸艦が就役

台湾自身も離島防衛に力を入れている。台湾の軍事新聞通信社によると、台湾海軍初の排水量1万トン級の大型の新型揚陸艦「玉山」が6月に就役し、高雄・左営軍港の水星岸壁で記念式典が行われた。平時には離島守備部隊への人員や物資の輸送のほか、災害救助などに使用。戦時には水陸両用部隊に編入され、中国軍が離島を侵攻した時の奪還作戦などに従事する。(中略)  

 

本島だけでない「台湾有事」

東沙島には既に40年も前に、強固な陣地が構築済みだ。台湾紙の自由時報によると、1980年代に当時の郝柏村参謀総長(後に行政院長=首相=に就任)の命令で、東沙島に立体的で坑道を巡らせた地下防御陣地を構築した。砂以外のセメントなどの材料を本島から送り込み、将兵一丸の突貫工事で完成させた。(中略)  

 

東沙島の陣地は現在も健在で、約500人の海兵隊員が守備している。しかし、西村氏は「平坦地だと、いくらコンクリートで陣地を構築しても、中国軍が上陸すればすぐにやられてしまう」と語る。

ただ、フィリピンの米軍基地と連携し、周辺の海上と航空の優勢が保たれていれば、東沙諸島の攻略は容易でないという。  

 

「台湾有事は日本の有事」としばしば言われる。東沙諸島の重要性を考えると、この場合の「台湾」が、本島だけに限られないことは間違いない。【718日 WEDGE

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東沙諸島が中台の発火点に・・・という考えは以前からあるものです。

習近平国家主席が国内政治的にどうしても「成果」を示す必要に迫られたとき、“低リスク”の離島への侵攻を行う・・・というのは現実的に可能性が比較的大きい選択でしょう。