パレスチナ・イスラエル 止まらない報復の応酬 アメリカの自制要請も効果見られず | 碧空

パレスチナ・イスラエル 止まらない報復の応酬 アメリカの自制要請も効果見られず

(エルサレムのパレスチナ人地区に踏み込むイスラエル治安部隊【225日 共同】)

 

【繰り返される事件 止まらない報復の連鎖】

イスラエルでネタニヤフ首相が復権し、極右勢力を取り込んだ「最も右寄り」の政権となったこともあって、パレスチナでの緊張が高まっていることは、15日ブログ“イスラエル 「最も右寄り」政権の閣僚で極右政党党首の聖地訪問が惹起した緊張”でも取り上げました。

 

その後も緊張の高まりに歯止めがかからず、イスラエル軍とパレスチナ武装勢力の間で攻撃と報復の連鎖が続いています。

 

****イスラエルの対パレスチナ武装勢力の作戦が激化 1日で9人死亡****

中東・パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区で、イスラエルの治安部隊が掃討作戦を行い、9人が死亡しました。周辺では去年から衝突が激化していて、イスラエル側・パレスチナ側合わせて200人以上が死亡しています。

イスラエル軍は26日、ヨルダン川西岸地区にあるジェニン難民キャンプで、イスラエル治安部隊が掃討作戦を行ったと発表しました。

ロイター通信などによりますと、治安部隊と武装組織のメンバーとの間で銃撃戦となり、高齢女性を含むパレスチナ人9人が死亡し、20人以上がけがをしたということです。

イスラエル軍は声明で、イスラム武装組織イスラム聖戦が「大規模テロの準備をしていた」として、3人の戦闘員を排除したと説明。巻き添えになった犠牲者について調査するとしていますが、パレスチナ自治政府は「国際的な沈黙の中で大虐殺が起きた」と反発しています。

周辺の地域では、去年4月からパレスチナ人とイスラエル人の衝突が激化していて、イギリスBBCによると、これまでに29人のイスラエル人が死亡。イスラエル治安部隊による掃討作戦でパレスチナ人180人以上が死亡していて、緊張が高まっています。【127日 TBS NEWS DIG

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パレスチナ自治政府はこの事件を受けて、安全保障に関するイスラエル政府との協力関係を見直すと発表。

 

****パレスチナ、イスラエルとの協力見直し示唆 襲撃事件受け****

パレスチナ自治政府は26日、ヨルダン川西岸にあるジェニン難民キャンプでイスラエル軍とパレスチナ武装組織が衝突し、パレスチナ人9人が死亡したことを受け、安全保障に関するイスラエル政府との協力関係を見直すと発表した。(後略)【127日 WSJ

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また、ガザ地区からはイスラエルへのロケット弾攻撃が行われました。

 

****イスラエル南部にガザからロケット弾、急襲作戦に報復か****

イスラエル軍によると、パレスチナの武装勢力が27日、ガザ地区からイスラエル南部に向けてロケット弾2発を発射したが、防衛システムに撃墜された。負傷者は報告されていない。

(中略)ガザ地区を実効支配するイスラム組織「ハマス」と過激派「イスラム聖戦」は報復を予告したが、ロケット弾について犯行声明は出ていない。(後略)【127日 ロイター

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後日、パレスチナの過激派「イスラム聖戦」が犯行声明を出しています。

 

攻撃を受けたイスラエルはガザ地区を空爆。

 

****イスラエル、ガザを空爆 報復の応酬、緊張続く****

イスラエル軍は27日、パレスチナ自治区ガザからイスラエル領内に向けてロケット弾が発射され、報復としてガザを空爆したと発表した。イスラエル、ガザ双方に死傷者は確認されていない。(後略)【127日 共同

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アメリカはブリンケン国務長官の中東歴訪を前に、双方に鎮静化を呼び掛けています。

 

****ヨルダン川西岸の衝突を懸念 鎮静化呼びかけ****

米ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は27日、イスラエルとパレスチナ自治区ガザとの間で発生している攻撃の応酬について米国は深く懸念しているとし、全ての当事者が事態の鎮静化に直ちに取り組む必要があると述べた。(中略)

ブリンケン国務長官は2931日に中東を歴訪。カービー氏は、ブリンケン長官はヨルダン川西岸地区の事態鎮静化の必要性など、さまざまな問題について議論すると述べた。【128日 ロイター

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しかし、緊張状態では触発・刺激された事件も起きます。そのことで緊張は更に高まります。

 

****エルサレムで銃撃テロ、ユダヤ人7人死亡 緊張高まる****

エルサレム北部にあるシナゴーグ(ユダヤ教会堂)付近で27日夜、パレスチナ人の男(21)による銃撃テロ事件があり、ユダヤ人7人が死亡、3人が負傷した。イスラエルで起きたテロでは犠牲者数がここ数年で最多となり、イスラエルとパレスチナの関係がさらに悪化しそうだ。

 

イスラエル警察によると、男はエルサレム在住。27日午後8時ごろ、シナゴーグ付近で通行人を銃撃した後、礼拝を終えて出てきたユダヤ人数人に銃を乱射した。男は現場から車で逃げたが、駆けつけた警察官と銃撃戦になり、射殺された。

 

男は単独犯で、武装組織には所属していないとみられる。イスラエルメディアによると、イスラエルで7人以上が殺害されたテロは2011年以来。

 

パレスチナへの強硬姿勢で知られるベングビール国家治安相は27日、テロ防止のため、市民の銃規制を緩和する意向を示した。ネタニヤフ首相は27日、テロに対して「緊急の対策を取ることを決めた」と述べたが、詳細は明かさなかった。

 

パレスチナ自治区ガザ地区を支配するイスラム組織ハマスの報道官は27日、「占領者(イスラエル)の犯罪に対する自然な反応だ」と述べ、テロを称賛した。(後略)【128日 毎日

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128日にも

 

****エルサレムでまた銃撃、2人負傷****

イスラエル警察によると、エルサレム旧市街付近で28日午前、銃撃事件があり、2人が負傷した。撃ったのは少年(13)で、パレスチナ人とみられる。【128日 共同

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イスラエルはこうした事態への報復として、入植地の拡大を強化することを発表。

 

****イスラエル政府、報復策を発表 入植地の拡大策を強化 銃撃事件受け***

エルサレムでパレスチナ人による2件の銃撃事件が起きたことを受け、イスラエル政府は28日、新たなテロ対策を発表した。パレスチナへの報復として、ヨルダン川西岸でのユダヤ人入植地の拡大を念頭にした政策の推進や、市民への銃規制の緩和などを行う。

 

ネタニヤフ政権の極右閣僚は、国際法違反とされる入植地を拡大し、パレスチナ人が多く住むヨルダン川西岸の併合をもくろむ。

 

発表によると、ネタニヤフ首相は今回の銃撃事件を受け、入植地政策の「強化」を決めた。具体策については今後、協議する。

 

また市民が自衛できるように銃取得の条件を緩和し、取得の手続きを早める。また、テロを起こす容疑者の家族から社会保障の権利などを剥奪し、移動を制限する。ネタニヤフ氏は28日、「(銃撃事件に対して)我々は強く、素早く対応する。我々に害を与えようとする者に対し、我々は危害を加える」と述べた。(後略)【129日 毎日

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【アメリカ・ブリンケン国務長官が中東歴訪で双方に自制を求めるも効果なし】

前記のように中東を歴訪したアメリカ・ブリンケン国務長官は130日、ネタニヤフ首相と会談し、改めて「自制」を求めています。

 

****米国務長官、緊張緩和訴え イスラエル首相と会談****

ブリンケン米国務長官は30日、イスラエルを訪問しネタニヤフ首相と会談した。同国とパレスチナの暴力の応酬で悪化する治安情勢について協議。

 

ブリンケン氏は会談後「緊張緩和に向け対策を講じるよう求める」と述べ、双方に自制を要求した。事態の沈静化に向けたバイデン米政権の役割や具体策は語らなかった。

 

イスラエル政府はパレスチナ人による暴力への対抗策として、占領地ヨルダン川西岸でのユダヤ人入植地拡大に言及している。ブリンケン氏の訪問が緊張緩和につながるかどうかは不透明だ。【131日 共同

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ブリンケン国務長官は31日にはパレスチナ自治政府・アッバス議長と会談、パレスチナ国家建設の「2国家共存案」への支持を再確認し、イスラエルの入植地拡大に反対しています。

 

*****米国務長官、パレスチナ議長と会談 2国家共存案への支持再確認****

ブリンケン米国務長官は31日、ヨルダン川西岸ラマラを訪れ、パレスチナ自治政府のアッバス議長と会談した。激化しているイスラエルとパレスチナ間の暴力の応酬を終わらせるよう訴え、「2国家共存案」を脅かすいかなる行動にも反対すると表明した。

 

1月だけでもイスラエルとパレスチナ間の暴力の応酬でパレスチナ人35人が死亡したとみられている。

 

ブリンケン長官はエルサレムでの記者会見で、2国家共存案こそが「人々に安心感をもたらす状況を作り出す唯一の方法だ」と指摘。

 

2国家共存案を脅かし得る行為について、あらゆる当事者に対して警鐘を鳴らした上で、「このような行為には入植地の拡大、前哨部隊の合法化、取り壊しや立ち退き、聖地の歴史的地位の崩壊、そしてもちろん暴力の扇動や黙認といったものを含むことを明確にしてきた」と述べた。

 

アッバス議長は「今日の情勢はイスラエル政府に責任がある。2国家共存案を損ない、署名された協定に反している」と非難した。

 

ブリンケン長官は30日にエルサレムで行ったイスラエルのネタニヤフ首相との会談でも激化している情勢の沈静化を促し、「2国家共存案が紛争解決に向けた唯一の道」という認識を再確認した。(中略)

 

ブリンケン氏はまた、海外からの援助に大きく依存しているパレスチナ経済に対する米国の支援についても強調。米国が国連を通じて5000万ドルの追加資金を提供するほか、パレスチナ人に対する高速通信規格「4G」サービスの提供で合意に達したと語った。【21日 ロイター】

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しかし、双方に自制を求めたブリンケン米国務長官帰国直後にイスラム過激派の攻撃が再開。イスラエルの報復も。

 

***イスラエルにガザ地区からロケット弾ブリンケン米国務長官の訪問直後****

イスラエル軍は1日、パレスチナ自治区ガザ地区からイスラエル南部にロケット弾1発が発射され、対空防衛システム「アイアン・ドーム」で迎撃したと発表した。ブリンケン米国務長官がイスラエルとパレスチナを訪問し、緊張緩和に向け自制を求めた直後の攻撃で、事態収束のメドは立たない。

 

被害は確認されていない。ガザを実効支配するイスラム主義組織ハマスや、ハマスと共闘する武装組織「イスラム聖戦」はいずれも、犯行声明を出していない。(後略)【22日 読売

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****イスラエルがガザ空爆、ロケット弾発射に報復****

イスラエル軍は2日、パレスチナ自治区ガザを夜間に空爆したことを明らかにした。1日のロケット弾発射に対抗し、ガザを実効支配するイスラム組織ハマスが使用するロケット・武器製造拠点を標的に空爆を行ったと述べた。

現時点で死者や重傷者は報告されていない。(後略)【22日 ロイター

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213日にも

 

****イスラエル、ハマスのロケット弾製造拠点を空爆****

イスラエル軍は、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスの地下のロケット弾製造拠点を空爆したと発表した。ロイター記者は13日未明にガザで爆発が数回起きたのを確認した。

空爆による負傷者はこれまでのところ報告されていない。イスラエルは週末にガザから発射されたロケット弾を撃墜したと発表していた。パレスチナ側から犯行声明は出ていない。

また、ヨルダン川西岸のナブルスでは部隊が民家を包囲し、銃撃戦が起きたとの目撃情報がある。

ナブルス周辺のパレスチナ人による武装組織「デン・オブ・ライオンズ(ライオンの巣)」は、軍部隊を待ち伏せして攻撃したと表明。イスラエルはコメントしていない。【213日 ロイター

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【イスラエル新たな入植地 アメリカは6年ぶりに安保理でのイスラエル批判に同調】

更に、イスラエルはヨルダン川西岸で新たに9カ所のユダヤ人入植地を承認。これに対し、アメリカを含む欧米は反他を表明しています。

 

****イスラエル政府の新たな入植地承認、欧米主要国が反対表明****

英国、フランス、ドイツ、イタリアおよび米国の外相らは14日、イスラエルのネタニヤフ首相が、同国が占領するヨルダン川西岸で新たに9カ所のユダヤ人入植地を承認したことを非難する共同声明を発表した。

 

共同声明で5カ国外相は「イスラエル人とパレスチナ人の緊張を悪化させ、交渉による2国家間解決を達成するための努力を損ねることにしかつながらない一方的な行動に強く反対する」としている。(中略)

 

ブリンケン米国務長官は「非常に憂慮している」と述べていた。

 

1967年の第3次中東戦争でイスラエルが占領したパレスチナ自治区ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地について、世界の大半の国は国際法違反とみなしている。

 

イスラエルはこれに反論し、聖書や歴的、政治におけるヨルダン川西岸とのつながりや安全保障上の利益を主張している。

 

民間非営利団体のピース・ナウによると、第3次中東戦争以降、イスラエルは占領地で入植活動を進め、パレスチナ人が将来の国家の中核と見なす土地で入植地の数は現在132となっている。【215日 ロイター

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国連安保理も「深い懸念と失望」を表明する議長声明案を全会一致で採択しましたが、アメリカがイスラエル非難に米国が同調するのは2016年12月以来、約6年ぶりとのこと。

 

****イスラエル入植非難、米国が6年ぶりに同調…トランプ前政権から変化****

国連安全保障理事会は20日、イスラエルが占領地で加速させる入植活動について、「深い懸念と失望」を表明する議長声明案を全会一致で採択した。安保理のイスラエル非難に米国が同調するのは2016年12月以来、約6年ぶり。

 

声明では、イスラエルの入植地拡大に伴う「パレスチナ人の土地の没収や民家の取り壊し」などを非難し、「(イスラエルとパレスチナの)『2国家共存』による解決策を危険なほど脅かしている」と指摘した。

 

 議長声明の採択を受け、イスラエル首相府は20日に声明を出し、「ユダヤ人が歴史的な故郷に住む権利を否定する一方的なものだ」と反発し、「米国は決してそれ(声明の採択)に加わるべきではなかった」と批判した。

 

 米国のトランプ前政権は親イスラエルを鮮明にし、安保理でイスラエルを非難する声明を採択できない状況が続いていたが、バイデン政権は、入植地拡大に反対姿勢を明確にしている。【222日 読売

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【イスラエル軍の急襲作戦で本格衝突の懸念も】

しかし、222日にはヨルダン川西岸地区でイスラエル軍の大規模作戦が行われ、対立・緊張は拡大の方向。

 

****イスラエル軍、西岸で急襲 パレスチナ人10人死亡****

イスラエル軍が占領するヨルダン川西岸北部ナブルスで22日、軍が反イスラエルのパレスチナ人武装勢力を拘束しようと急襲作戦を実施し、パレスチナ自治政府保健省によると、パレスチナ人10人が死亡、100人以上が負傷した。

 

昨年末にイスラエルで対パレスチナ強硬派の極右政党が参加するネタニヤフ政権が発足して以後、イスラエル、パレスチナ双方による暴力が相次いでいる。

 

自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスは「西岸でエスカレートする占領軍(イスラエル軍)の犯罪を静観してきたが、我慢の限界だ」との声明を発表した。【223日 共同

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この作戦後も、ロケット弾と空爆の応酬が。

 

****イスラエルとパレスチナ 本格衝突の懸念****

イスラエルとパレスチナ武装勢力の衝突が激化しつつある。イスラエル軍が22日、ヨルダン川西岸のナブルスで実施した武装勢力に対する急襲作戦で多数の死傷者が出たのを受け、パレスチナ側はロケット弾を発射して報復。イスラエル軍は23日、これに空爆で応戦した。本格的な軍事衝突への懸念が高まり、国連などが調停に乗り出した。(後略)【224日 産経

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アメリカは再びイスラエルに自制を求めてはいますが・・・

 

****米国防長官、西岸の緊張緩和促す イスラエル国防相と電話会談****

オースティン米国防長官は24日、パレスチナ武装勢力との衝突が激しさを増しているイスラエルのガラント国防相と電話会談した。

 

イスラエル軍がパレスチナ武装勢力を拘束しようとヨルダン川西岸で22日に実施した急襲作戦で民間人の死傷者が出た事態を踏まえ、イスラエル、パレスチナ双方で高まる緊張を緩和するよう促した。

 

イスラエルでは、対パレスチナ強硬派の極右政党が参加するネタニヤフ政権が発足後、暴力の応酬が続いている。オースティン氏は、イスラエルの安全保障に対する断固とした関与を強調。テロから国民を守るとするイスラエルの主張には理解を示した。【225日 共同

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これまでの経緯を見ると、アメリカの自制を求める要請にイスラエル側は「無視」の構えです。

水面下でそのように“話がついている”のか、アメリカの存在感が低下しているのか。

 

一方、ハマスは「(イスラエル軍の)犯罪を静観してきたが、我慢の限界だ」と言っていますが、要するにイスラエル相手に本格的にことを構える力が今はない・・・ということのようにも見えます。

そうであれば、“小競り合い”は別にして、衝突が本格化することもないのかも。ただし、事態は当事者が意図しない形にもなりえます。