イスラエル  多数派の権利行使、「ユダヤ人国家」法 ガザ地区とゴラン高原方面双方で脅威も | 碧空
2018-07-28 23:14:11

イスラエル  多数派の権利行使、「ユダヤ人国家」法 ガザ地区とゴラン高原方面双方で脅威も

テーマ:中東情勢

(ユダヤ人国家法制定に抗議するアラブ系議員【7月20日 ロイター】)

【「イスラエルではユダヤ人だけが自決権を持つ」 アラブ系市民への差別合法化の批判も】
保守強硬派とされるイスラエル・ネタニヤフ首相は、2015年総選挙でアラブ系市民の脅威に言及するなど扇動的な手法で極右・宗教保守勢力の票も吸収する形で、戦前予想を覆して勝利、極右勢力や宗教右派などとの連立政権を樹立。

こうしたネタニヤフ首相の右傾化は、当時のアメリカ・オバマ政権との関係を非常に悪化させる、イスラエルにとっては危険な選択でもありました。

しかし、そのアメリカがトランプ政権に代わると、エルサレム首都容認・大使館移転で強力にネタニヤフ政権を後押しするようになりました。

アメリカと協調したイラン敵視政策、国際的に批判を浴びる入植政策へのアメリカの後押しなどもあって、ネタニヤフ政権はさらに強硬姿勢を強めています。

イスラエルは全人口の2割近くをアラブ系住民が占めており、独立宣言では、「すべての居住者の利益のために」国家の発展に尽力することや、「宗教、人種、性別に関わらずすべての居住者の完全に平等な社会的、政治的権利」を確立する必要があること、「国連憲章の原則」を遵守することがうたわれています。

そうした建国の理念を無視するような露骨な“ユダヤ人第一主義”ともとれる「ユダヤ人国家」法が国会で承認されました。

同法には、「イスラエルはユダヤ人にとって歴史的な母国であり、民族自決権はユダヤ人の独占的権利」とされています。

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自らを「ユダヤ人国家」と定めたイスラエルは、建国の理念も捨て去った****
イスラエル国会は19日、「イスラエルではユダヤ人だけが自決権を持つ」ことを定めた「国民国家法」を可決した。全人口の2割近くを占めるアラブ系住民は「人種差別、アパルトヘイト(人種隔離政策)を合法化するもの」と猛反発している。

新法では、アラビア語が公用語から「特別な地位」に格下げされたほか、パレスチナ自治政府が将来の首都と主張する東エルサレムをも含む「統一エルサレム」がイスラエルの首都と宣言。またイスラエルは「ユダヤ人の歴史的な国土」だと明記した。

ユダヤ人に「唯一の民族自決権」があると定めたこの法律を、反対派は人種差別的だと猛反発し、イスラエルが「アパルトヘイト(人種隔離)国家」になりつつある証拠だと糾弾している。

国会での審議は約8時間に及び、最終的に賛成62、反対55の賛成多数で可決した。

イスラエルでは4月にトランプ米大統領も出席して、建国70周年の祝賀行事が開催されたばかり。一方で、パレスチナのガザ地区ではパレスチナ人による抗議行動が続き、イスラエル軍の制圧で死者が出ているさなかの法案可決だった。

権利を否定されたアラブ系住民
国民国家法は象徴的な意味合いが強いが、全人口の約2割を占める180万人のアラブ系住民にとっては大きな痛手だ。

1948年のイスラエル建国にあたって、約75万人のパレスチナ人が国外へ逃れたり住居を追われたりしたが、その後も国内にはアラブ系が少数派として暮らしている。

こうしたアラブ系イスラエル人は法律上は平等の扱いを得ているものの、活動家によればアラブ系はあくまで「2級市民」で、雇用、教育、医療、住宅取得などあらゆる面で差別を受けているという。

法案は国会採決の最終段階で、レウベン・リブリン大統領やアビハイ・マンデルブリト司法長官ら反対派からの批判を受け、いくつかの条項を変更した。

地元紙「タイムズ・オブ・イスラエル」によると、この法律は憲法と同等の位置付けをされる「基本法」で、他の裁判の判例の基準となり、通常の法律よりも撤廃するのが難しい。

当初の法案では、ユダヤ人だけが住むことができるコミュニティを明文化し、関連の判例がない場合にはユダヤ教の儀式規則が他の法律よりも優先されることなどが盛り込まれていた。

こうした条項は変更されたが、可決した新法でも「ユダヤ人入植の拡大」について、イスラエル政府が「奨励して促進する国家的価値」と明確に支持している。

アラブ系議員のアフマド・ティビは、同法が「民主主義の死」を意味し、「衝撃と悲しみ」をもって受け止めたと語っている。

一方、右派政党リクードの党首、ベンヤミン・ネタニヤフ首相は、「イスラエルのユダヤ人国家としての地位を将来に渡って保証する法律」と語っている。政府は引き続き少数派の権利を保護するが、「多数派もまた権利を有し、多数派が判断を下す」とも通告した。

アラブ少数派の法的権利擁護センター「アダラー」は声明を出し、この法律が「イスラエルの人種的、宗教的特性がユダヤだけに限られることを保証し、ユダヤ人市民が享受する特権を擁護するものだ。同時にパレスチナ人市民への差別を恒久化し、パレスチナ人の排斥、差別、体系的不平等を合法化する」と非難する。

アダラーのハサン・ジャバリーン所長は、法律には「アパルトヘイトの主要な要素」がすべて含まれていると主張し、それらは「倫理的に問題なだけでなく、国際法上もはっきりと禁止されている」と反発する。

「統治権と民主的自治権が唯一ユダヤ人だけにあると規定したことで、イスラエルは差別を合憲化し、ユダヤ人優位を制度の根幹に据えることを明言した」と話す。(後略)【7月20日 Newsweek】
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この「ユダヤ人国家」法を「ヒトラー精神の再出現」と激しく批判したのがトルコのエルドアン大統領。
ネタニヤフ首相は「エルドアン氏はシリア人やクルド人を虐殺し、何万人もの国民を投獄している」「トルコは暗黒の独裁国家」と応酬しています。まあ、どっちもどっち・・・という感も。


【毎週金曜日に繰り返されるガザ地区境界の混乱】
国内的右傾化の背景には、対外的緊張の高まりもあるように思われます。
ガザ地区境界での衝突は依然として続いています。

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イスラエル 兵士1人死亡 ガザ境界でハマスが銃****
パレスチナ自治区ガザとイスラエルの境界で20日、ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスがイスラエル兵を銃撃し、兵士1人が死亡した。2014年夏の大規模軍事衝突以降、ガザ関連で任務中のイスラエル兵が死亡したのは初めて。

イスラエル軍は報復として、ハマスの施設など68カ所を戦車で砲撃するなどした。
 
20日はガザ境界でのデモもあり、この際の衝突や報復攻撃でパレスチナ人計4人が死亡、120人が負傷した。【7月22日 毎日】
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毎週金曜日になると同じような事態が繰り返されています。

“アラビア語メディア及びhaaretz net 等は、27日境界付近の衝突でミスラエル兵の銃撃、催涙類ガスによりパレスチナ人2名が死亡し(うち1名は14歳の児童)、246名(または184名、haaretz net によれば90名)が負傷したと報じています。”【7月28日 「中東の窓」】

イスラエルは、ガザ地区からの“風船攻撃”にも苛立ちを募らせています。

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<ガザ地区ルポ>若者ら重火器に風船攻撃で応戦****
パレスチナ自治区ガザ東部のイスラエル領との境界付近で、イスラエルや米国に抗議するパレスチナ人とイスラエル軍による衝突が3月末に始まってから100日以上が過ぎた。

イスラエル軍の重火器に、ガザの若者たちは発火物をくくりつけた風船やたこを飛ばして応戦。イスラエル領内で火災を頻発させている。

ローテク攻撃に業を煮やしたイスラエル側は、ガザ封鎖をさらに強化する方針だ。(後略)【7月13日 毎日】
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“イスラエルメディアによると、7月上旬までに約1000カ所で火災が起き、農地や自然保護区など約40平方キロが焼失。農作物や家畜などの被害は3億5000万円以上とされる。”【同上】とも。

ロケット弾・迫撃砲による攻撃も続いているようです。

こうした緊張の高まりに、国連は「戦争の瀬戸際」にあるとして、双方へ自制を呼びかけています。

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イスラエルとガザは「戦争の瀬戸際」、国連が自制呼びかけ****
イスラエルとパレスチナのガザ地区の間で衝突が激化している状況について、国連の特別調整官が「戦争の瀬戸際」と位置付け、双方に自制を促した。

イスラエル国防軍によると、これに先立ちガザからイスラエルには200発の発射体が撃ち込まれ、その報復として、イスラエルは数十回の空爆を行った。

国連のニコライ・ムラデノフ中東和平プロセス特別調整官は15日にガザ地区で行った記者会見で、「昨日、我々は戦争の瀬戸際にいた」と述べ、イスラエルとガザの衝突を「誰も望まない衝突、誰もが敗者となる衝突」と形容した。

ガザでは人道状況が悪化し、政情や治安も悪化しているとムラデノフ氏は述べ、「(ガザの)住民の生活は一層困難になっている。手持ちの現金は限られ、経済は崩壊し、電気や水は乏しい」「ガザに住むパレスチナ人200万人が現在のように劣悪な状況で暮らしているのを、黙って見過ごすことはできない」と力を込めた。

その上で、パレスチナ人に対しては「平和的な抗議活動の維持」を求め、パレスチナの各勢力に対してはロケット弾や迫撃砲などの発射を中止するよう要求した。

イスラエルに対しては、ガザへの反応に自制を求め、狙撃手には「子どもを撃たないでほしい」と呼びかけた。
イスラエルは4月にパレスチナ人のデモが激化して以来、ガザとの境界フェンスでパレスチナ人を実弾で射撃しているとして批判されている。

在イスラエル米大使館のエルサレム移設に抗議して5月14日に行われたデモでは、イスラエル軍によってパレスチナ人60人が殺害された。このうち8人は子どもだった。

イスラエルは、デモ参加者に対しては過剰な武力を行使していないと主張。ガザを実効支配する武装組織ハマスがデモを組織しているとして非難している。【7月17日 CNN】
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パレスチナ側にはイスラエルに対抗できる戦闘能力がありませんので、「戦争の瀬戸際」というのはいかがなものか・・・という感も。ただ、偶発的混乱を機に、苛立ちを強めるイスラエル側が一気に軍事行動を本格化させる可能性はあります。


【ゴラン高原方面:アサド政権支配地域拡大により、イランの進出を警戒】
一方、シリア・アサド政権が支配地域を拡大して迫るゴラン高原方面の情勢にもイスラエルは神経を尖らせています。イスラエルの最大の懸念は、シリア政府軍を支援するイラン・ヒズボラがこの地域に進出してくることです。

24日にイスラエル国防軍は、シリア軍のスホイ戦闘機がイスラエル領空に約2キロ侵入した時点で、地対空パトリオットミサイルを2発発射し撃墜したと明らかにいしました。

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撃墜、シリア緊迫 イスラエル、イランを警戒****
24日に起きたイスラエル軍によるシリア軍機の撃墜で、関係国間の緊張が高まっている。イスラエルは、敵対するイランの部隊がシリアの政権軍支援を名目に自国近くに進出してくることに神経をとがらせる。
 
イスラエル軍は、シリア軍の戦闘機が「イスラエル領空に約2キロ侵入した」と説明した。イスラエルが1967年の第3次中東戦争でシリアから奪い、占領しているゴラン高原の上空とみられる。
 
イスラエル軍はシリア方面への対空防衛を強化していた。23日には、内戦が続くシリアから発射されたロケットが自国領に及ぶ危険があったとして、中距離の対空防衛システム「デービッド・スリング」を初めて作戦で使用した。
 
イスラエルが神経をとがらせているのは、ゴラン高原と隣接するシリア南部地域をアサド政権軍が制圧しつつあるためだ。
 
シリア内戦で反体制派が支配してきたダラアを中心とする南部地域に対し、アサド政権軍は6月中旬から本格的な攻勢をかけてきた。

イスラエルと敵対するイランは、アサド政権軍を支援。精鋭部隊の革命防衛隊などを派遣している。この地域にイランの部隊が出てくれば、イスラエルと直接向き合うことになり、緊張は極度に高まる。
 
イスラエルは、イランを排除するため、アサド政権軍の後ろ盾であるロシアにも外交ルートで接近していた。ネタニヤフ首相は11日、モスクワでプーチン大統領と会談し、イラン部隊がシリアから撤退すれば、アサド政権打倒を目指さないとの考えを伝えた。
 
ネタニヤフ首相は23日には、イスラエルを訪問したロシアのラブロフ外相、制服組トップのゲラシモフ参謀総長らと会談した。
 
イスラエルメディアなどによると、ロシアは、イラン部隊がイスラエル領から100キロ以内に近づかないよう緩衝地帯を設ける案を提示した。しかしイスラエルは長距離ミサイルに懸念を示し、イラン部隊の完全撤退を求めたという。
 
関係国の思惑が交錯する中で発生したシリア軍機の撃墜は、不測の事態を招きかねない。

 一方、シリア内戦でアサド政権軍が優位を固める中、「イランはシリアからの出口戦略を模索している」と語るイラン政府関係者もいる。

イランにとって、いま外交の最重要課題は、核合意を破棄した米トランプ政権の経済制裁への対応だ。この関係者は「部隊の撤収という選択肢は、イスラエルと蜜月にある米国に制裁緩和を求める取引材料になりうる」と話す。【7月26日 朝日】
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シリアでは、アメリカに代わり、ロシア・プーチン大統領が調停役を担っています。

ロシアがイランを捨ててまでイスラエルに協力する背景には、イスラエル全人口のおよそ5分の1を占めるロシア系ユダヤ人約150万の存在が指摘されています。

“東西冷戦崩壊後、旧ソ連から大量流入したためで、国内にはロシア語テレビや新聞もある。旧ソ連で迫害された彼らは左派嫌いが顕著で、イスラエル右派を熱烈に支持する。同国の極右政党を率いるリーベルマン国防相も旧ソ連モルドバ出身だ。”【7月24日 三井美奈氏 産経】

上記のように、イスラエルはガザ地区とゴラン高原方面の両方で脅威を抱えています。

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悪化し続けるガザ情勢****
・・・・毎度のと言っては何ですが、毎週金曜日になると同じことの繰り返しのように、境界線の近くで衝突が起き、多数の死傷者が出ていますが、haaretz は、それにもかかわらず、ハマスは紛争を望んで居らず、仲介をしてきたエジプトも慎重な楽観論を維持しているとしています

しかし、y net news は解説として、イスラエルはゴラン高地方面(北部戦線)とガザ(南部戦線)の2つで、重大な脅威に面していて、このままでいけば両方面で重大な決断をする(要するに地上進攻等の大規模攻撃のことか)ことを迫られることになるとしています。

特にガザ方面では、IDFの抑止戦略は破産したとしており、要するにパレスチナ側からの挑発に対して、それに倍する力で対応することで、それ以上の衝突の拡大を抑えるという戦略が、破産して、IDFとしては事態を鎮静化するすべを失っているということのようです。

また、北部においても、イスラエルのロシアを通じる働きかけにもかかわらず、政府軍は境界線の目と鼻の先にせまっている(確か昨日のアラビア語メディアには、数メートル先、などと言う記事もあったかと思う)が、そもそも政府軍は内戦当初から兵士の少ないことに苦しんできていて、それを革命防衛隊やヒズボッラーその他シーア派民兵で補ってきたのが実情ですから、今後イスラエル隣接地域に政府軍以外の武装勢力が入ってくる可能性はあるでしょう

ということで、今すぐどうと言うことではないかもしれませんが、イスラエルを巡る状況が大幅にエスカレートする可能性が出てきているように思われます。【7月28日 「中東の窓」】
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戦闘能力がないハマスも、アメリカへの対応で手いっぱいのイランも、イスラエルとの戦闘を望んではいないでしょうが、緊張が高まれば“不測の事態”も起きえます。特に、イスラエル側が強硬姿勢を強めている現状では。

“倍返し”(“十倍返し”と言うべきか)がイスラエルの基本姿勢です。

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イスラエル、入植地で住宅400戸建設へ ナイフ襲撃事件受け****
イスラエルのアビグドル・リーベルマン国防相は27日、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸内の入植地に住宅400戸を建設すると明らかにした。同地区でイスラエル人3人がパレスチナ人に刃物で襲われ、1人が死亡した事件を受けた措置だという。(中略)
 
事件を受けてリーベルマン国防相は27日、「テロリズムに対する最良の答えは入植地の拡大だ」とツイッターに投稿。エルサレム北方の入植地アダムで新たに住宅400戸を建設すると発表した。(後略)【7月28日 AFP】
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