パキスタン総選挙  テロ再燃 女性の投票を阻む壁 中国「一帯一路」構想への影響 | 碧空
2018-07-26 22:35:30

パキスタン総選挙  テロ再燃 女性の投票を阻む壁 中国「一帯一路」構想への影響

テーマ:パキスタン関連

(パキスタンのモーリプール村で、女性たちに選挙に行くように話すソーシャルワーカーで地方議会の議員でもあるビスミラ・ヌール氏(左、2018年7月7日撮影)【7月22日 WSJ】)

【「反汚職」と「反軍」の争いは、軍部支援の「反汚職」の勝利】
25日に行われたパキスタン総選挙は、同国における政治実権を握る軍部と距離を置き、その軍部によって排除されたとみられるシャリフ元首相率いる勢力と、軍部の後押しを受けシャリフ政権の汚職体質を批判する元クリケット有名選手カーン氏の率いる勢力との争いとなりました。

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「反汚職」か「反軍」か=下院選、25日投票―パキスタン****
・・・・今月上旬の世論調査では、反汚職を掲げる第3党パキスタン正義運動(PTI)と、軍の政治介入を批判する第1党イスラム教徒連盟シャリフ派(PML―N)が伯仲。(中略)

「もしここにいる候補者が汚職に手を染めたら、私が監獄にたたき込む」。PTIのイムラン・カーン党首(65)は23日深夜、激戦区の東部ラホールで開かれた選挙集会で声を張り上げた。

南アジアや英国で人気のクリケットの元パキスタン代表でキャプテンを務めたクリーンなイメージで売り込み、今月、汚職で有罪判決を受け収監されたPML―Nの事実上のリーダー、シャリフ元首相(68)との差異を強調。

演説を聴いた大学生ハムザ・ナビードさん(21)は「汚職がなくなれば海外からの投資が増え、経済が成長し雇用が安定する」と期待を寄せた。

一方、パキスタンで最強の権力を握るとされる軍の「静かなクーデター」を批判するのがPML―N。過去にクーデターを起こされた経緯から軍と距離を置いていたシャリフ氏の汚職疑惑は、軍に仕組まれたものだと主張する。

23日はシャリフ氏の腹心で首相を継いだアバシ前首相(59)がイスラマバードで「(市民の)投票に尊厳を」と訴え、軍の政治介入を止めようと気勢を上げた。

ラホールの文房具商モハンマド・ズベイルさん(36)は「シャリフ氏は教育、医療、道路を与えてくれた。クリケット選手に国は治められない」と語った。

反汚職と反軍の姿勢以外に「政策に大きな差は無い」(政治評論家アミール・ラナ氏)状況。大勢は25日中にも判明する見通しだ。【7月24日 時事】 
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事前調査では支持率などは拮抗していましたが、“勢い”には差がありました。

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ポスターはがされ…総選挙前にパキスタンで進む与党離れ****
パキスタンの総選挙が25日、投開票される。与党は政治介入を強める軍部と対立し、思うような選挙運動ができない。逆に、軍部と蜜月関係の野党第2党は勢いづく。(中略9

同国で最大の人口を抱えるパンジャブ州。与党「イスラム教徒連盟シャリフ派(PML―N)」(改選前議席190)の地盤だが、州都ラホールの街頭で目立つのは、野党のポスターや旗だ。「どんどん与党のポスターがはがされる」と与党支持の運転手ニクラス・マスィさん(36)は言う。与党離れを物語る現象だ。「元気のない党に票を預ける仲間は少ない」とマスィさんは語った。

与党は堅調な経済成長で、財界などから強い支持を得てきた。だが軍の元トップの訴追や、隣国インドへの融和姿勢から、軍部との関係が悪化した。

幹部が次々に失脚し、13日には与党を率いるシャリフ元首相が資産隠しの罪で収監された。党幹部への銃撃や逮捕状のない拘束も続く。

テレビ各局は与党の選挙運動の報道を控える。ラホールが拠点のテレビ局幹部は取材に対し、「軍部の嫌がらせを避けるためだ」と説明した。

軍に近い野党 与党と並ぶ
一方、躍進しそうなのが野党第2党の「正義運動(PTI)」(同31)。党首はクリケットの元スター選手イムラン・カーン氏。「政権を奪取して汚職を一掃する」と訴える。

また反米感情や隣国への敵対心をあおって若者の支持をひき付ける。いずれも軍部の意に沿う主張だ。順調に選挙運動を進め、地盤の北西部に加え、パンジャブ州で与党の切り崩しを狙う。

昨年まで与党が圧倒していた民間世論調査の支持率は、6月調査でPML―Nが26%、PTIが25%と並んだ。逆転を伝える調査もある。(中略)

両党の連立候補として注目されるのが、野党第1党の「人民党(PPP)」(同47)だ。南部シンド州を地盤にブット元首相の長男ビラワル氏が率いる。同じ6月の世論調査で支持率は16%。ビラワル氏は軍部との対抗姿勢で与党と一致。「連携の用意がある」と与党に秋波を送る。【7月24日 朝日】
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結果は、軍部に担がれたポピュリズム政党・パキスタン正義運動(PTI)が圧勝しましたが、過半数には届いていないようです。

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「反汚職」の野党が勝利宣言=変革期待、政権交代も―パキスタン下院選****
任期満了に伴い25日に実施されたパキスタン下院選(定数342)で、「反汚職」を掲げる第3党の野党パキスタン正義運動(PTI)幹部は26日、報道陣に対し「(第1党として)われわれが政府を形成する」と述べ、事実上の勝利宣言を行った。

ただ、単独での過半数確保は困難な情勢で、PTIが政権を樹立できるかは、今後の連立協議の結果次第となる。
 
PTIは、変革を求める若者を中心に支持を集め、女性や非イスラム教徒に割り当てられる特別枠を除いた272議席のうち、110議席超を確保する勢い。第1党だったイスラム教徒連盟シャリフ派(PML―N)は65議席程度に減らす見込み。
 
PTIは選挙戦で、これまでPML―Nや第2党パキスタン人民党(PPP)などによる特権階級中心の政治が続いてきたと主張。南アジアや英国の人気スポーツ、クリケットの元スター選手だったイムラン・カーン党首(65)を前面に押し出して変革を訴え、支持を広げた。
 
PML―Nは昨年7月、軍と距離を置いていた実質的代表のシャリフ元首相(68)が汚職疑惑で首相職を失い、投票日直前に有罪判決を受けて収監されたことを「軍による政治介入だ」と批判。軍と関係が近いとされるPTIを攻撃したが、伸び悩んだ。
 
PTIが掲げる反汚職や教育問題への取り組みといった11項目の政策目標には「具体性がない」(パンジャブ大のシャビール・アフマド・カーン准教授)という指摘もある。実際に政権を担い、経済成長や雇用確保などの変革を成し遂げられるかは不透明だ。【7月26日 時事】 
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PTIを軸に、協力関係にある少数政党との連立政権になるとみられています。
もともと、パキスタン政治における最強勢力は軍部でしたが、今後はさらにその傾向が強まることが予想されます。


【再燃が懸念される“テロ地獄”】
カーン氏の政治手腕、軍部との関係は今後の話として、今回選挙で気になった現象は、このところは静まったかに思われていたテロの再燃です。

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パキスタン治安部隊、149人が死亡した自爆攻撃の首謀者殺害****
パキスタンの治安部隊は20日、情勢が不安定な同国南西部バルチスタン州マストゥングで先週発生し、少なくとも149人が死亡した選挙集会での自爆攻撃の首謀者を殺害した。当局が明らかにした。

今回の作戦は、同州カラート県にある村の住宅に、ヒダヤット・ウラー容疑者と特定されたイスラム過激派組織「イスラム国」の工作員がいるとの情報提供を受けて実施された。(中略)

自爆攻撃としては同国史上最多の犠牲者を出したマストゥングでの事件については、ISが犯行声明を出している。(中略)

ただ、2014年に北西部のペシャワルにある学校が襲撃され、武装勢力による襲撃事件としては同国史上最多となる、主に子どもたち150人超が犠牲となった事件以降、パキスタンでは暴力沙汰が著しく減少している。

同国の軍部は学校襲撃事件を受けて、アフガニスタンとの国境に接する部族地域で武装勢力に対する作戦を強化し、劇的な治安の改善につながった。

だが専門家らはかねてから、パキスタンは過激主義の根本的な原因に対処しておらず、武装勢力はマストゥングでの自爆攻撃のように、大掛かりな襲撃を実行する能力を維持していると警鐘を鳴らしている。【7月22日 AFP】****************

7月22日には、北西部カイバル・パクトゥンクワ州デライスマイルカーンで、パキスタン正義運動(PTI)の州議会選立候補者が乗った車を狙った自爆テロがあり、地元当局によると候補者とその運転手が死亡しています。

パキスタン全土では総選挙の安全を確保するため、軍37万人以上、警察官45万人が配備されましたが、投票日の25日には、南西部バルチスタン州の州都クエッタで投票所を狙った自爆攻撃があり、少なくとも30人が死亡、数十人が負傷しています。


【女性の政治参加と、これを阻む壁】
“反汚職と反軍の姿勢以外に「政策に大きな差は無い」”という争いでしたが、女性の政治参加という観点では重要な試みもありました。パキスタンはマララさん銃撃事件にみられるように、女性の社会参加に対する根強い反発が強い地域です。

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パキスタン選挙管理委員会は、各選挙区で投票の少なくとも10%を女性が占めていなければ、選挙結果を無効にすると宣言した。選挙管理委員会によると、2000万人近くが新たに選挙人名簿へ登録をしたが、うち913万人が女性だったという。

人口約2億700万人のパキスタンでは家父長制が根強く、女性の権利向上のための闘いが長らく続いている。今回の選挙規定の変更もその一歩となる。

2013年の選挙では男女の不均衡を正す取り組みはほとんどされず、結局男性の選挙人名簿への登録数が女性を約1100万人上回った。【7月22日 AFP】
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この流れをつかもうとする動き、一方で従来どおり女性の政治参加を阻もうとする動きのせめぎあいもあったようです。

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女性が投票を禁じられた村、選挙が家父長制に逆らう手段に パキスタン****
パキスタン・パンジャブ州にあるモーリプール村の男性たちは1947年頃、女性たちが選挙に行くことを禁止した。それ以来、女性たちはその規則に従ってきた――今年までは。パキスタンの選挙法が改定され、女性たちの選挙に対する姿勢も大きく変わるかもしれない。

少なくとも、パキスタン中部の都市ムルタンから60キロほど離れた村で、強い日差しを逃れムラサキフトモモの木の下に集まっている大勢の女性にとって、これは希望だ。

だが、女性たちがAFPの取材を受けているのを腹立たし気に見ている男性たちが、7月25日に行われる選挙に女性たちを行かせるかどうかは別の問題だ。

村の長老たちは、投票所に行くことが女性たちの「名誉を汚す」として、何十年も女性が選挙に行くことを禁止してきた。

「名誉」という言葉は、南アジアに広がる家父長制度をよく言い表している。「名誉」はしばしば、夫を自分で選んだり、家の外で働いたりするなど伝統的保守主義に逆らう女性の殺害や抑圧を正当化する。(後略)【7月22日 AFP】
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結局、上記モーリプール村の女性は、厳しい現実の前で投票を断念しました。
ただ、変化を経験した地域もあったようです。

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夫に逆らい投票を誓った女性たち、しかし最終的には断念 パキスタン****
女性の投票を禁じていたパキスタンの村で、女性たちが男性に逆らい、25日の総選挙に初めて投票に行くと宣言していたが、最終的に投票所に現れた女性は一人もいなかった。

民主主義の基本である選挙権を女性たちが行使することなく終わった理由は、夫たちに脅迫されたからだという。(中略)
村の選挙人名簿に記載されているのは、男性約8000人に対し、女性は約3200人。だが、選挙管理委員会や村唯一の投票所を取材したAFP記者によると、女性は結局、1人も投票に現れなかったという。
 
AFPの取材に応じたタンヤ・ビビさんは「私たちは、もし投票に行けば離婚すると、夫たちから脅されたのです」と言いながら、学校内に設置された投票所の中には入らずに通り過ぎた。
 
一方、男性たちは身分証を握りしめ、長蛇の列を作っていた。並んでいたムハンマド・シャムシェーさんは「私たちは投票に来ているが、女性たちは投票したことがない。それが、私たちが守り続けてきた古い伝統だからだ」と語った。
 
女性に投票を呼び掛ける活動を行っていた弁護士のカシル・アッバス氏さえもが、最終的には妻を投票所に連れて行かなかった。「村人たちが私の家族を避けるようになるかもしれないと思うと怖かった」と、アッバス氏は語った。
 
地元のNGOに所属するビスミラ・イラム氏は、村のモスクが、女性は投票所に行くべきではないとする声明を出したのだと述べた。(中略)

■「とてもうれしい」
今回の総選挙を前にしてパキスタン選挙管理委員会は、各選挙区の投票数の少なくとも10%が女性票でない場合には、選挙結果を無効にすると宣言していた。これを受けて、女性による投票が増加することへの期待が高まっていた。(中略)

投票数の全容はまだ明らかになっていないが、ラホールやカラチなどの主要都市では、投票所前で女性たちの列も見られた。(中略)

他の保守的な地方都市の女性たちは、モーリプールよりも良い経験をしたようだ。特に顕著だったのが、北西部カイバル・パクトゥンクワ州のローワーディール地区だ。ここも女性による投票が許可されたのは初めてだった。
 
サマルバグ町在住で3人の子を持つバクト・サニア・ビビさんは、AFPの取材に対し「今日、投票に行った。自分の基本的な権利を手にして、とてもうれしく感じる」と語った。
 
またコト町在住で同じく初めて投票したサジダ・ハリームさんは、2013年と2015年の選挙では投票を阻止されたと述べた。
 
社会福祉学の修士号を持つハリームさんはAFPの取材に対し、「いつも、『なぜ男性たちが私たちのことを決めるのだろうか。私たち女性が彼らのことを決められるだろうか?』と思っていた」と話し、「今日、私は完全なパキスタン人になったと感じる。18歳の時から否定されてきた自分の権利を手に入れたのだから」と続けた。【7月26日 AFP】
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女性の政治参加を促す取り組みが今後も加速することを期待します。


【政権交代で中国「一帯一路」構想の中核事業見直しか】
もうひとつ、今回選挙の影響としては、前政権が接近した中国との関係が、汚職・腐敗の温床として見直される可能性があります。この点では、マーレシアのマハティール氏復活とも重なり、中国にとっては厳しい局面です。

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中国「一帯一路」構想、パキスタンで暗雲 *****
中国による貸し出しを伴う不透明な取引で壁が露呈

米国の強大な影響力に取って代わり、世界の地政学的地図を塗り替えようとする中国にとって、パキスタン初の地下鉄路線「オレンジライン」の建設は、その勝利への第一歩を誇示するはずだった。

中国国営企業が資金を融通し、建設も手掛けるオレンジラインは、同国北東部の都市ラホールを高架で走る路線。中国はパキスタンで計画する総額620億ドル(約6兆9000億円)のインフラ計画の第一弾として、建設費用20億ドルを投じて空調完備の地下鉄を開通させるつもりだ。

これによりムガル帝国および大英帝国の植民地支配が残した過去の遺物を一掃し、中国が世界的に展開するインフラ攻勢のショーケースになることが期待された。

だが実際は、中国の目指す現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」に、想定外のつまずきが生じていることを示す象徴的事例となった。

中国による計画開始から3年、パキスタンは債務危機に近づいている。オレンジラインのような大規模事業のために中国からのローンや輸入が急増したことが一因だ。パキスタン当局はオレンジラインを運営するには政府の補助金が必要になると話す。(中略)

パキスタン総選挙の投開票が迫る中、勢いづく野党はオレンジラインをはじめ中国主導のプロジェクトの詳細な資金状況を公表すると約束している。(中略)

今年の秋口にはこうした問題が顕在化する見通しだ。パキスタンの新政権は国際通貨基金(IMF)に2013年以来となる緊急支援を要請する公算が大きい。

救済が行われる場合、借り入れや支出に制限が課されることとなり、一帯一路構想の中核をなす「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」が計画縮小に追い込まれる可能性がある。(中略)

またIMFは今後、「中パ経済回廊」の既存プロジェクトについても、パキスタンの新政権に透明性の向上を求めるとみられる。現政権は競争入札を用いることなく、不透明な取引によって無駄の多い政治的プロジェクトに資金を流用していると批判を浴びていた。

「オレンジラインのような取引を秘密にすることはあり得ない」。反汚職を掲げる野党パキスタン正義運動(PTI)のチャウドリー・ファワド・フセイン報道官はこう語った。

同氏によると、PTIは中パ経済回廊を支持するものの、全ての取り決めを議会に明らかにし、審議を受けるべきだと主張している。(中略)

「赤字垂れ流しの巨大プロジェクトを建設する真の理由はいつも多額のリベートだ」。野党PTIの党首でクリケットの元スター選手イムラン・カーン氏は3月にこうツイートした。(後略)【7月24日 WSJ】
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経済合理性に依らず、政治的思惑と腐敗・汚職に動機づけられた計画は政変によって容易に覆りますが、国民批判を惹起することで、そうした政変を引き起こす原因ともなります。

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