フランス大統領選挙 左右両サイドの偏り・混乱のなかで大きく空いた真ん中を走るマクロン前経済相 | 碧空

フランス大統領選挙 左右両サイドの偏り・混乱のなかで大きく空いた真ん中を走るマクロン前経済相

(写真は【http://hkmtiz.com/4322.html
39歳のマクロン前経済相の隣はお母さん・・・ではなく、奥さんのブリジッドさん(63歳) 年の差は24歳 マクロン氏が高校生のときのフランス語教師だったそうです。 
マクロン氏は、エリート校のグランド・ゼコール入試のために、パリの名門アンリ4世高校に転校する際、24歳年上で人妻、3人の子供の母であるブリジッドさんに対し、「僕を忘れないで! 戻ってきて先生と結婚する!」と、結婚を誓ったとか。そして実際、30歳の時に結婚 ルノー・ベルレー、ナタリー・ドロンの「個人教授」のような、昔のフランス青春映画的な二人です。)


【「真ん中がぽかんと空いたところにマクロン氏の道ができた」】
フランス大統領選に関しては、極右勢力・ルペン氏の不気味な追い上げなどを、2月22日ブログ“フランス大統領選挙 ジワジワと差をつめる極右ルペン候補 左派統一候補という新たな波乱要因も”http://ameblo.jp/azianokaze/day-20170222.htmlで取り上げました。

最近の世論調査によると、4月23日に実施される第1回投票では、中道系独立候補のマクロン前経済相と極右政党・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首の支持率がきっ抗しており、マクロン氏首位を予測する調査も出てきています。

また、5月7日の決選投票がマクロン・ルペン両氏の争いになった場合、マクロン氏がルペン氏を大きくリードする数字になっています。

****
仏大統領選、マクロン氏が第1回投票で首位の見通し=世論調査****
調査会社ハリス・インタラクティブが9日公表したフランス大統領選に関する世論調査によると、第1回投票で中道系独立候補のマクロン前経済相が、極右政党・国民戦線(FN)のルペン党首を上回る票を獲得し、決選投票でルペン氏に勝利することが見込まれている。

マクロン氏が第1回投票で得票率トップになるとの見通しが出たのは、オドクサの調査に次いで2回目となる。

調査はフランス・テレビジョン向けに3月6─8日に実施され、有権者4932人から回答を得た。

最新の調査によると、4月23日に行われる第1回投票の得票率はマクロン氏が26%と、2週間前の調査から6%ポイント上昇。ルペン氏は25%と横ばい。共和党(中道右派)候補のフィヨン元首相は20%と、1%ポイント低下した。

5月7日の決選投票ではマクロン氏が65%の票を獲得し、ルペン氏(35%)を制すると予測されている。2週間前に比べ、マクロン氏の決選投票での得票率は5%ポイント上昇した。

2週間前の調査以降、マクロン氏は公約を発表し、また有力政治家で中道のフランソワ・バイル元教育相の支持を得ている。【3月9日 ロイター】
******************

もっとも、今回フランス大統領選挙は情勢がコロコロ変わる展開であること、また、反移民・反EUの極右勢力ルペン氏の勢いが侮れず、アメリカ・トランプ現象の再来もありえるとの危機感もあること、二大政党からの決選投票進出が難しいとされるような異例の展開となっていることなどから、今後の情勢変化も十二分に考えられます。
国内でテロ事件など発生すれば、選挙情勢も大きく変化します。

そうしたことはあるにしても、現段階では中道系独立候補のマクロン前経済相が順調に支持を伸ばし、ダークホース的な存在から“主役”へと変身しています。

マクロン前経済相にとっては、“野党・共和党のフィヨン候補は党内右派。与党・社会党のアモン前国民教育相は党内左派。政治学者のレミ・ルフェーブル氏は「真ん中がぽかんと空いたところにマクロン氏の道ができた」と話す。”【3月3日 朝日】という極めて幸運な展開となっています。


【左派・社会党からも「勝ち馬」のマクロン氏支持に流れる動きが加速】
しかも、左サイドについては、前回2月22日ブログでも触れた急進的左派の統一(与党・社会党など左派陣営のアモン氏と共産主義の支持を集める急進左派のメランション氏)は結局実現せず、むしろ社会党からは急進的で勝利が見込めないアモン氏に見切りをつけてマクロン氏に乗り換える動きが出ています。

****
マクロン氏、左派取り込み伸長=社会党迷走深まる―仏大統領選****
4〜5月のフランス大統領選に向けて、現段階で最有力視される中道系独立候補のマクロン前経済相(39)が、かつて所属していた左派与党・社会党から幹部や支援者を取り込み支持を伸ばしている。

一方、社会党が擁立したアモン前教育相(49)の人気は低迷。党が結束してアモン氏を推す機運は高まらず、議員らが「勝ち馬」のマクロン氏支持に流れる動きが加速している。
 
「左右両陣営とも内輪もめばかり。われわれには究極の自由がある」。マクロン氏は2月末に仏西部アンジェで開いた集会で、内紛に揺れる社会党と右派野党・共和党の2大政党を皮肉った。(中略)

アモン氏は、オランド政権が進めた労働規制緩和などに反発する社会党内急進左派勢力の支持を得て1月の予備選を制した。最近では「私は解雇や減給をしやすくなる制度を望まない」と政権の改革を見直す考えを表明。オランド大統領を支えてきた党中道左派勢力との溝が広がる。
 
マクロン氏は2016年夏まで経済相としてオランド政権の一翼を担い、政策に関する考え方は党中道左派勢力に近い。今月に入り、アモン氏の言動に不満を持つ中道左派系のドラノエ前パリ市長や、ルドリアン国防相ら党重鎮が相次いでマクロン氏を支持する動きが表面化した。マクロン氏が大統領になれば、ルドリアン氏が首相を務めるという観測すら浮上する。
 
アモン氏は、支持率調査でマクロン氏や極右政党・国民戦線(FN)のルペン党首(48)らに届かず、4位に沈み逆転は困難な情勢だ。

マクロン派に転じた社会党議員らがアモン派の一層の切り崩しを画策する中、「左派の分裂は深刻で、もはや後戻りは難しい」(現地紙)と厳しい見方が広がっている。【3月12日 時事】
******************


【“自殺”的とも評されるフィヨン氏の出馬固執】
一方の右サイドの混迷・迷走は左派以上です。

フィヨン氏の妻らの不正給与疑惑を巡って訴追される見通しになったことで、共和党内からも出馬断念を求める動きが大きくなりましたが、フィヨン氏がこれを拒否したことと、有力な代替候補のジュペ元首相が出馬を否定したことで、結局フィヨン氏で突き進むことになりました。しかし、極めて厳しい“袋小路”的な情勢です。

****
<仏大統領選>共和党、フィヨン元首相の支援継続****
フランス大統領選(2回投票制)を巡り、最大野党の共和党は6日、幹部会を開き、中道・右派候補、フィヨン元首相(63)の支援継続を決めた。ただ、代替候補として待望論が出ていたジュペ元首相(71)がフィヨン氏を批判するなど、中道・右派が一枚岩となるのは難しい情勢だ。
 
フィヨン氏が1日、妻らの不正給与疑惑を巡って訴追される見通しを明らかにしつつも、出馬辞退を否定したことで、陣営からは離反者が続出。昨年11月の中道・右派の予備選で敗れたジュペ氏が候補者となれば、決選投票に進めるとの世論調査もあり、ジュペ氏の出馬を求める声が高まっていた。
 
フィヨン氏は5日にパリで開かれた集会に妻を伴って出席し、出馬断念を否定。ジュペ氏は、6日に発表した声明で出馬しないことを明言。フィヨン氏のかたくなな態度が「袋小路を招いた」と厳しく批判した。ジュペ氏が出馬を否定したこともあり、共和党の幹部会は満場一致でフィヨン氏の支持を決めた。
 
だが、フィヨン氏が、中道・右派票を結集するのは難しい状況だ。候補者の差し替えを求めていた中道政党の民主独立連合のラガルド党首は「勝ち目がないのに出馬に固執する強情さは中道・右派の支持者を悲嘆させる」と仏ラジオで失望を表明した。【3月7日 毎日】
*********************

更に、フィヨン氏に関しては、「友人」から高級オーダースーツを受け取っていたことが報じられ物議を醸しています。

“フィヨン氏は12日、友人からの贈り物だと認めた上で「それがどうした」とコメントした。
仏週刊紙ジュルナル・デュ・ディマンシュによると、フィヨン元首相は2012年以後、老舗高級紳士服店アルニスのスーツなど約4万8500ユーロ(約600万円)相当を受け取っていたとされる。”【3月13日 AFP】

違法性はともかく、何百万円ものスーツを贈られて「それがどうした」というのも、一般国民からの共感は得にくいでしょう。フィヨン陣営の広報担当者は、フィヨン氏に対するネガティブキャンペーンだと非難していますが。


【国民はユーロ支持で、ルペン氏とは差異も】
左右両サイドが各ラインよりの偏った候補を立てたうえに、両サイドとももたつきが顕著で、右サイドに至っては選手交代でもめるという状況・・・こうした状況でマクロン氏は中央をひたすら走れば勝利もつかめる・・・という展開です。

決選投票に残れば、ルペン氏との戦いでは有利とは言われていますが、ルペン氏の勢いをそぐためにも、第1回投票を首位で通過したいところでしょう。

すっかり大きな政治的存在になったルペン氏ですが、反移民はともかく、ユーロ離脱の主張はフランス国民の大勢とは異なっています。

****
フランス、72%がユーロ圏離脱に反対=世論調査****
仏レゼコー紙に10日掲載されたエラベの世論調査によると、フランス人の約72%がユーロ圏離脱に反対で、うち44%は「強く反対」と回答した。ユーロ離脱を主張する極右政党・国民戦線(FN)のルペン党首にとっては悪いニュースとなった。

一方、欧州連合(EU)加盟国であることは、「利益よりも不利益の方が多い」との回答が約37%と、「利益の方が多い」の約31%、「どちらとも言えない」の32%を上回った。

ルペン氏は、4─5月に行われる仏大統領選の有力候補者の1人だが、世論調査によると、親EUの中道・無党派候補、エマニュエル・マクロン前経済相、もしくは中道・右派の統一候補、フィヨン元首相に敗れる見通し。【3月10日 ロイター】
****************

ルペン氏が乗っかれるような、イギリスのEU離脱を求める動きみたいな大波はフランスにはないようです。

“IMFのラガルド専務理事は、フランス極右政党・国民戦線(FN)のルペン党首が公言している通り同国がユーロ圏を離脱した場合、同国は短期的に深刻な不透明感や貧困に見舞われるとの見方を示した”【3月10日 ロイター】とも。

一方のマクロン氏はルペン氏に対抗する形で、親EUの姿勢を明確にしています。

“「新しいフランスをつくる」と題した公約は約100項目。「欧州」という章をたて、共通通貨ユーロ圏としての予算や議会、財務相ポストなどを創設し、成長や投資を促すことを提案した。企業の経済活動や防衛などでも欧州を重視するという。国内の重要課題の雇用対策では、企業と労働者の双方に配慮を示した。”【3月3日 朝日】

こうした真ん中を進めば勝利も近い・・・とも見えますが、どうでしょうか?選挙は水物ですから・・・。


【公共施設の建設現場の作業員にフランス語の使用を義務付ける新法令】
移民など外国人労働者に対するフランス人の反感のほうは、相当に強いものがありようです。

****
公共建設現場でフランス語の使用義務付け、仏パリ圏****
フランスの首都パリ(Paris)を含むイル・ド・フランス地域圏は9日、公共施設の建設現場の作業員にフランス語の使用を義務付ける新法令を承認した。同国各地でみられている外国人労働者を締め出そうとする動きに追従した形だ。
 
同圏で承認された「小企業法」は、自治体の公共事業をもっとフランスの小企業に発注させようとするものだが、公的支出による建設計画や輸送機関、研修現場などの事業に従事する企業に対し、フランス語の使用を義務付けるいわゆる「モリエール(Moliere)条項」が含まれている。
 
イル・ド・フランス地域圏のジェローム・シャルティエ副知事は「この条項は必要で、フランス語を話さない従業員たちだけでやって来ようとする外国企業を対象としている。そうした企業は改善する必要がある」と語った。
 
欧州連合(EU)は、加盟各国が公的調達において、国籍だけを根拠に他の加盟国の企業を差別することがないよう規則を定めている。だが、この規則によって企業は東欧を中心として安価な労働力を一時的に流入させることができ、フランスでは地元の労働者の賃金が下がるとして長らく批判がある。
 
モリエール条項の反対派は、フランスに来たばかりの外国人たちは職場で仏語を学ぶことで同国の社会に溶け込むことができるとし、新法令は外国人を不利な立場に置くことになると指摘している。また実際に法令が順守されているかどうかを監視し、徹底させることも難しいとされる。【3月11日 AFP】
*****************

英語を話せない移民がごく普通に大勢暮らすアメリカにあって、“アメリカ第一”のトランプ大統領でも「英語の使用を義務付ける」とまでは言っていません。

オランド大統領は差別的なトランプ氏を強く批判していますが、フランスの場合、外国人労働者への経済的な反感に加えてフランス文化への偏愛がありますので、アメリカ以上に先鋭的な動きもあるようです。

こうした“体質”が国民戦線・ルペン氏台頭の背景にもあるのでしょう。