BL表現を含みますので、苦手な方はスルーでお願い致しますm(_ _)m
< The view from Yunho>
チャンミンの同僚と駅で別れると、俺は二人きりになったタイミングでそれとなくチャンミンに揺さぶりをかけ、同僚からちょっかいを出されていた事実を引き出した
大胆にも俺がいる席でチャンミンにちょっかいを出すのだから、大した神経の持ち主だ
向かいのホームの電車が出て行ってすぐ、その電車に乗っていたはずの同僚が再びホームに上がってくるのが見えて、おや?と思った
恐らくトイレか何かで一度改札階に戻ったのだろうか、俺とチャンミンがホームにいるのに気付くと、彼は少し離れた位置に移動した
チャンミンは、彼がまだホームにいる事を知らない
これは...チャンスかもしれない
吉と出るか凶と出るか、まさにギリギリのラインである事を思い付いた俺は、迷わずそれを実行に移した
これはある意味、牽制だ
朝、出社して自分の部屋に向かうと、ドアの前にチャンミンの同僚が立っていた
鋭い視線を俺に向けているのを見て、昨日のあれで来たな..と思った
「おはよう、随分と早いね」
「おはようございます
あの..出社早々で申し訳ないんですけど、ちょっといいですか?」
「あぁ、いいよ、ちょっと待ってて」
ドアを開けて中に招き入れると、とりあえずソファに座らせ、俺は自分のデスクにカバンを置いてコーヒーメーカーのスイッチを入れた
「コーヒーでいい?」
「あ、結構です
時間がもったいないので、このままで...」
「...分かった」
俺は自分のカバンからミネラルウォーターのペットボトルを取り出すと、それを持って彼の向かいに座った
彼の表情から、緊張が伝わって来る
「朝からどうしたの?」
「あの...昨日はご馳走していただいてありがとうございました
それで、あの後...シムは無事に帰れましたか?」
「あぁ、ちゃんと帰ったと思うけど...まさかそれを聞きに来たの?
デスクが隣なんだから、直接本人に訊けばいいのに」
「いえ、それが聞きたかったわけではなくて、ここに伺ったのは別件で...」
彼はキョロキョロと視線を彷徨わせてから、意を決したようにキッと顔を上げて俺を見た
「勘違いだったらアレなんですけど...
俺が昨日、帰りのホームで見たのは何だったのか、ちょっと気になって...」
「帰りのホーム?
僕たち、駅で別れたよね?その後の事?」
「そうなんです
その...チョンさんとシムが同じホームにいるのが見えて...それで、何となく二人の様子を見てたんですけど...その...何て言うか、チョンさんがシムに...その...何て言うか...」
そう言いながら彼の顔が徐々に赤くなって行った
まさかと思いながらも、確かにあの時自分の見た光景はそういうシーンだった、そう思い出してでもいるのだろうか
「僕とシム君がどうしかした?」
「え、だから...その...キ...ス?みたいな...してたって言うか...何て言うか...」
それから彼は気まずそうに後頭部を掻いてぎこちなく笑った
「まさかですよね?だって駅だし..っていうか何でチョンさんがシムにキ...スをするんだ?って話ですよね」
俺は彼のぎこちない笑顔をじっと見て、何と答えようか考えた
彼がチャンミンを本気で狙っているのならば、中途半端に誤魔化したりせず、真っ向勝負に出た方がいい
きっと間違いなくチャンミンは腹を立てるだろうけれど、そこは仕方がない
「...見られてたんだ?」
「え?」
「誰も見てないと思ったんだけどね」
「えっ...どういう事ですか?」
「申し訳ないけど、この事は誰にも言わないでくれるかな」
「え...ちょっと待ってください、チョンさんとシムは、キスするような仲って事ですか?」
「まぁ、そうだね」
彼は絶句して、瞬きもせず数秒固まっていた
それからようやく我に返ると、今度はパチパチとせわしなく瞬きをした
「あの...何か、全然頭が追い付いてないんですけど、チョンさんとシムは付き合ってるんですか?
え、ちょっとマジで意味分かんないんすけど...」
「混乱させて申し訳ない、でも、これ以上はちょっと話せないや
もし聞きたかったら直接シム君に聞いてくれて構わないよ
まぁ、彼がどこまで答えてくれるかは分からないけど
ごめん、電話が掛かって来てるからもういいかな」
「あ、はい、すいません、失礼しました」
彼が慌てて部屋を出て行くと、俺は鳴ってもいないスマホを開いて少し考えてからチャンミンにメールを入れた
昼休み、公園のベンチに座ってぼんやりと足元の鳩を眺めていると、足音が聞こえて来て俺の目の前でピタリと止まった
顔を上げると、チャンミンが険しい表情で俺を見下ろしていた
「あのメール、どういう事ですか?
駅でキスしてるところを見られてたって、あいつは帰ったんじゃなかったんですか?
っていうか、仕事中に僕とユノの事をあれこれ聞いて来て困ってるんですけど」
「ごめん、俺が話しちゃったんだ」
「話したって何をですか?」
「うん...とりあえず一旦座ろうか」
チャンミンが不安げな顔で隣に腰を下ろすと、俺は今朝の出来事をそのままチャンミンに話した
話し終わると、チャンミンの表情は一層不安げになっていた
「僕たちの事を話して大丈夫ですか?」
「だって仕方がないだろ?
彼が君を狙ってる以上、俺だってそれなりに対抗せずにはいられないし、黙っていたらまたいつ君にちょっかいを出すか分からないし」
「...心配ですか?」
「え?」
「僕が取られるんじゃないか..って、心配ですか?」
チャンミンは期待を込めるような眼差しでじっと俺を見た
過去の俺だったらきっと、何を言っているんだと言って笑って流していただろう
「そうだって言ったら、俺の事を女々しい男だと言って笑う?」
「まさか!!
むしろ心配してくれなかったら、薄情な人だなって思って嫌いになります」
「嫌いになるの?」
「それはまぁ...ちょっと言い過ぎました
でも、愛されてないのかなって思うのは確かです」
「そっか
チャンミンは気付いてないかもしれないけど、俺はいつだって心配だよ」
「本当ですか?」
「本当だよ
前に、チャンミンの元カノだって子がいただろ?あの時はまだチャンミンの気持ちがどこまで本気なのか分からなかったから、内心ではヒヤヒヤしてたんだ」
「あぁ、そういえばありましたね、そんなこと
逆に僕は、彼女がユノを狙ってるんじゃないかって思って焦りましたけどね
ユノが素敵過ぎるから、いつだって気が気じゃないんです」
大きな瞳が俺を可愛く見上げるから、思わずチャンミンの頭にポンと触れた
俺たちはお互いにお互いが誰かに取られるのではないかと常に心配して気を揉んでいる、どうしようもないカップルなのだ
"でも.."と言って、チャンミンは真顔になった
「もし他の人に言い触らされたらどうするんですか?」
「多分、彼はそういう事はしないと思う
少なくとも、チャンミンに嫌われるような事はしないよ」
「そんなの断言できますか?
愛が憎しみに変わる事だってあるんですよ?」
「大丈夫、でも、ぎくしゃくはするだろうな」
「既にそうなってます」
「そうだった、ごめん
用心に越したことはないけど、心配しなくていいと思うよ
とりあえず俺は会社に戻るよ、やりかけの仕事があるんだ」
「え~...一緒にここでお昼にしないんですか?」
「さすがに昨日の今日ではね」
眉を八の字にしてガッカリするチャンミンを残して、俺は会社に戻った
確かにリスクはある
あの彼がコンプライアンス違反で人事に通報でもしたら、俺の立場は危うくなるかもしれない
でも、今まで数多くの会社を見て来た経験上、彼にその心配はないと、根拠のない自信が俺にはあった
実際それから1週間経っても、1ヶ月経っても特に変化はなく、チャンミンと同僚の気まずさだけが多少残った
そんな中、会社の業績が徐々に改善されている事が実績として出て来るようになり、俺が常駐しなくても、定期的に介入して行けばいいという方向に決まった
仕事帰りの居酒屋でその話をすると、チャンミンは不満そうにビールのジョッキについた結露を指先で撫でてコースターを濡らした
「じゃあ、もうユノさんの部屋はなくなっちゃうんですか?そんなの寂し過ぎます...」
「でも、その方がずっと自由に会えるんだ
人目を盗んで会うより堂々と会える方がいいに決まってる、そうだろ?」
「そうですけど...」
確かに離れてしまうのは寂しい
でも、委託業務で出向している立場の俺と、委託元の社員のチャンミンが恋愛をするのはやはり問題があるわけで、そういう意味では離れた方がむしろ恋愛はしやすい
「二度と会えないわけじゃないんだし、俺の会社はすぐ近くなんだ
仕事終わりに待ち合わせたっていい」
「絶対にそうしてくれますか?」
「あぁ、約束する」
俺がそう言うと、チャンミンは半分納得、半分不満というような顔でジョッキのビールを飲み干した
※画像お借りしました※