映画のある生活 -5ページ目

ボウリング・フォー・コロンバイン

Bowling for Columbine
2002年、アメリカ・カナダ・ドイツ
120min、カラー

監督:Michael Moore
出演:Michael Moore、Marilyn Manson、Charlton Heston

「なぜアメリカだけが銃による死者が多いのか?」
簡単に銃が手に入るから?ではカナダは?
歴史のせいだろうか?ではドイツや日本は?
環境のせい?ではイギリスはどうだろうか?
暗いニュースが不安感を呼び起こすから?

※ネタバレ※
公開時から気になっていた作品をついに観ました。
内容は確かに興味深い。でも映画としてはあまり評価できない。

監督がインタビューでも話しているとおり内容にまとまりがない。
Michael Mooreは問題を提起するだけして結論を放り投げている。
監督は何が言いたかったのか。人々に考えさせたかったのでしょう。
アメリカが好きなのでしょう。だからこそ今のアメリカに疑問を持てと。

特定の人物、集団に対して攻撃的にまとめられているのが気になる。
人々がこの映画だけを観て物事を判断するのは危険だと思います。
ドキュメンタリーといえども偏りがないとは言い切れないでしょう。

この映画でもっとも好きなシーン。黒人のコメディアンが言います。
「銃規制じゃなくて弾規制をすればいい。5000ドルの弾だ。重みがある」

Michael Mooreの映画を好きとは言えない。でも彼は嫌いではない。
きっと今後もなんだかんだ彼の動向に注目してしまうでしょう。

アカデミー賞
・ドキュメンタリー長編賞(Michael Moore、Michael Donovan)
カンヌ国際映画祭
・55周年記念特別賞(Michael Moore)

リトル・ダンサー

Billy Elliot
2000年、イギリス・フランス
110min、カラー


監督:Stephen Daldry
出演:Jamie Bell、Julie Walters


「鉄の女」サッチャー政権下の80年代のイングランド北部の炭坑町。

ボクシング教室に通うBillyは、偶然目にしたバレエに夢中になる。

強い男になって欲しいと願う父親はバレエを習うことに猛反対。

情熱を抑えきれないBillyはWilkinson先生とひそかに練習を続ける。

クリスマスの夜、生き生きと力強く踊るBillyを見た父親は・・・。


※ネタバレ※

バレエダンサーを夢見る男の子と家族、先生、友人との感動の物語。

何といってもBillyが可愛い。頑固で素朴で朴訥な父親もすごくいい。

親が子を想う気持ちが身に染みます。家族愛で涙したい方にお薦め。

私が映画にはまったきっかけとなった作品なので想い入れが強いです。


オープニング。少年が選んだのは「Cosmic Dancer」(T.Rex)。

踊ることによって自我を見い出した少年の人生を彷彿させる音楽。

固定されたままのカメラが、ベッドの上で飛び跳ねてフレーム・イン、

アウトを繰り返すBilly少年を躍動感たっぷりに映し出します。

少年の表情は生き生きとしていて、眩しいくらいに輝いています。


リズム感溢れる動作で、おばあちゃんの朝食の準備をする少年。

目を離した隙にふらふらと野原に迷い込んでいくおばあちゃん。

想い出を噛みしめるように母親の形見のピアノを切なげに奏でる少年。

炭鉱で働く父と兄はストライキで失業中のためピリピリしている。

順風満帆ではなく、悲壮感すら漂う当時の時代背景を思わせます。


父親は毎週なけなしの50ペンスでBillyをボクシング教室に通わせます。

バレエと出会ったBillyはグラブを手に、トゥシューズをお腹に隠し持ち、

父親に内緒で、ボクシング教室に通うお金でバレエ教室に通い始める。

画面は自宅からバレエ教室へ。そしてまた自宅、教室、自宅、教室。

同じ動作の練習をひたすら何度も何度も繰り返すBilly。


事実を知った父親が現れると、Billyは静かにバレエ教室を後にします。

大激怒する父親に反抗し、Billyは「Children of the Revolution」(T.Rex)を

BGMに家を飛び出します。Billyが向かった先はWilkinson先生の家。

ロイヤルバレエスクールを目指し、こっそり練習しようという先生に、

「僕に気があるんですか?」「悪いけどないわ 消えて」「先生こそ」

そんなやり取りの中で見せるBillyの笑顔はすごくセクシーで魅力的。

Julie Walters演じるWilkinson先生の一連の表情の展開も秀逸です。


レッスン初日、Billyは自分の大切な物を持って体育館を訪れます。

母親からの手紙を読み上げ「すばらしい方だったのね」と言う先生に、

「普通の母親だよ」としらっと答えるBilly。その眼差しは宙に浮いたよう。

2人は曲名そのままに「I Love To Boogie」(T.Rex)を実践します。


家族の問題、試験へのプレッシャー。苛立つBillyは先生に暴言を吐く。

それでも薄光の差し込む体育館で練習を重ねるBillyとWilkinson先生。

オーディション前日。2人の手が天に向かい伸びていくシーンが美しい。

明るく希望に溢れた未来を暗示させるかのように思われました。


オーディション当日、Billyは裁判所にいる。Tonyが逮捕されたのです。

間に合わないことを理解しつつ、警備員に時間を確認し落胆するBilly。

いつまでも現れないBillyに痺れを切らしてBillyの家へと向かう先生。

Wilkinson先生はオーディションの話をBillyの家族に打ち明けます。


家族と先生の自分を巡る諍いにやり切れなくなり家を飛び出すBilly。

やり場のない怒りを激しく表現する「Town Called Malice」(The Jam)。

坂道を一直線に駆け上がり、壁にぶつかり、もたれかかるBilly。

息を切らせながらもその意志の強い眼は厳しく一点を見つめています。


Michaelに名前を呼ばれて立ち上がるBilly。場面が変わっています。

空から美しい粉雪が舞い落ち、Billyもダウンジャケットを羽織っている。


楽しいはずのクリスマス。Billyの家族の間に流れている重苦しい空気。

父親は母親の形見のピアノを斧で切り裂き、暖炉の火へと投げ込む。

哀しそうに見つめるBilly。涙を堪えきれない父親。最低のクリスマス。


運命の瞬間が訪れます。Michaelに体育館でバレエを教えるBilly。

それを目撃する父親。Billyは覚悟を決めて父親にダンスで挑戦します。

力強いダンスに心を揺さぶられ、その足で先生の家を訪れる父親。

家に帰ると、Billyの眠るベッドにそっと座り無言でBillyを見つめます。


一番のハイライトとなるのは、父親がスト破りを決行するシーン。

泣きながら、共にストを続けてきた父親をなだめるTonyに、

父親は「おれたちに未来が?Billyには未来がある」と泣き崩れる。


オーディションのための費用は、町の皆の協力で集められることに。

父親は妻の残した貴金属を静かに見つめ、きつく握り締め、質屋へと。
ロンドンへ向かう道すがら、喜びを隠し切れず自然と踊り出すBilly。

ロイヤルバレエスクールに着いた瞬間、裕福なライバルたちを目にし、

場違いな自分を認識し、絶望と不安を感じ弱気になってしまいます。


Billyの感情が先行している荒削りなダンスに呆気に取られる審査員。

審査員の質問に、父親までもが戸惑うほどぶっきらぼうに答えるBilly。

「踊っているときは どんな気持ち?」最後の質問を投げかけます。

Billyはたどたどしく、でも自分の言葉を探るように率直に答えます。

「踊りだすと すべてが消えます 自分が変わって 体の中に炎が

宙を飛んでいる気分 鳥のように 電気のように・・・」


家族や町の人たちの期待がプレッシャーとなりBillyに重くのしかかる。

ついにロイヤルバレエスクールから結果を報せる通知が届きました。

そわそわしながらも、かしこまってBillyの帰宅を待つ家族。

Billyは封書を手にし、一人部屋に閉じこもる。文書に目を通したBilly。

ソファーに深く座り込みクッションを抱えながら呆然としています。


なかなか部屋から出てこない息子に、父親は「不合格」を悟ります。

そっとドアを開く父親。息子の口から出てきた言葉は、「受かった」。

勢いよく家を飛び出し、組合の仲間に吉報を告げに行く父親を

待ち受けていたのは、組合が譲歩してストは終わったという報せでした。


柵に腰掛けるBillyと父親。「イヤなら戻ってきていい?」Billyが問う。

「バカ言うな 部屋を貸しちまった」。部屋にはまだ兄が残っています。

野原に倒れこみ、父親に抱きつく無邪気な笑顔のBilly。抱擁する父親。

父親の顔からは喜びだけではなく、寂しさも感じ取れるように思います。

切ないまでに淡々と、特別な感情を見せることなくBillyを送り出す先生。

真正面を見つめたままBillyを抱き寄せ、無言で突き放すおばあちゃん。

トランクを重そうに運ぶBillyから、トランクを奪い合う父親と兄。

いつものところにいるいつもの青い洋服の少女もBillyに別れを告げる。

Michaelに軽くキスをし、笑顔で去っていくBilly。Michaelの表情は硬い。


バスに背を向けた状態で、Billyを持ち上げて強く強く抱きしめる父親。

Billyがバスに乗り込んでからもなかなか後ろを振り向くことができない。

Tonyはポケットから何かを取り出そうとしている。出てきたのはVサイン。

思わず笑ってしまうBilly。ふとTonyの笑顔が崩れる。「I'll miss you」。

Tonyの声は窓ガラス越しのBillyには届かない。2人は炭鉱へと戻る。

練習の想い出が残る薄暗い体育館をうろうろと歩き回るWilkinson先生。


Billyを運ぶバスは、14年後、父と兄がロンドンへ向かう電車へと変わる。

そわそわして落ち着かないTony。緊張のあまりか呆然としている父親。

逞しくなったBillyが白鳥の衣装を纏い風格を漂わせ舞台袖に現れる。

家族が来ていることを告げられるBilly。Billyは舞台へと羽ばたく。


誇らしく、力強く、そして美しく・・・。


エンディング。「Ride A White Swan」(T.Rex)、「I Believe」(Stephen Gately)

と続き、そしてラストは「Burning Up」(Eagle-Eye Cherry)。


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「鉄の女」サッチャー政権による経済政策が行われていた時代。

彼女は市場経済を強く信頼し、効率化のために徹底的に無駄を排除、

次々と民営化を進めていきます。結果的にイギリス経済を復興させた

わけですが、その裏には少なからず犠牲となったものがありました。


炭鉱で働く人々がその犠牲のうちの1つでした。彼らはストライキを

起こすことで徹底抗戦します。劇中に流れるThe Style Councilの曲は、

当時の社会混乱を歌っているものだそうです。いつも同じ場所にいる

青い洋服を来た少女は、先行きの見えない炭鉱町の閉塞感の象徴の

ように思われました。


この映画では音楽が重要な役割を果たしています。全編に渡り音楽が

ストーリーをリードしています。随所に訪れる画面の切り替えも面白い。

テンポ良くスムーズに物語が展開していきます。脇役とのエピソードが

Billyの魅力をうまく引き出し、後に繋がる伏線を残しています。


ストーリー展開にほとんど無駄がないように思いました。近年の作品と

比べて、無意味な台詞や無駄な台詞がほとんどない。表情や、視線、

独特の「間」で語られる部分が多い。この映画を好きな理由の1つです。


俳優たちの演技がとても自然な感じがするんです。それに、それぞれ

キャラクターがしっかり描かれ、演じられています。特に父親役の

Gary Lewisの演技は素晴らしい。古風で頑固で、それでいて愛情深い

父親を見事に演じ切っています。彼の無言の演技が特に秀逸。行動、

表情、視線、それらに彼の想いが全て集約されています。言葉なんて

必要ないですね。Billy少年も言葉ではなく、踊ることで情熱を表現し、

周囲の協力を得て夢を叶えました。


脚本を書いたLee Hallはこの作品を作るに当たって、ロイヤル・バレエ・

スクールに所属する2人のダンサーをモデルにしたそうです。Billyと

似たような境遇を持つPhilip Mosleyと、83年にナイトの称号を受けた

舞踏家・Kenneth MacMillanの2人。


最後に成功したBillyを演じるのが、イギリスを代表するバレエ・ダンサー

であるAdam Cooperというのも感慨深いです。彼はロイヤル・バレエ・

スクールに進学後、ロイヤル・バレエにトップ・ダンサーとして所属した

素晴らしいダンサー。名振付家であるMatthew Bourneの「白鳥の湖」を

引っ下げて97年にロイヤル・バレエを退団。現在はフリーランスで活躍

されています。


彼の踊る「白鳥の湖」は正統派のクラシック・バレエではありません。

このことについて彼は次のように話しています。「アグレッシブな姿が、

成長したBillyにふさわしいと思ったんじゃないかな。体制に対する

反抗心のようなものも感じられてね。」


前評判は決して高くなく、本人たちも「日曜日の午後に笑ってもらえれば

いい」という気持ちでしたが、カンヌ映画祭などで徐々に評判を高め、

大ヒットを収めました。オーディションで2000人もの応募者の中から、

Billy役のJamie Bellを見つけ出せたことも大きな要因ですね。監督は、

Jamie Bellとの出会いを「干草の中から針を見つけた」と表現しています。

Jamie Bellは本作でRussell Crowe、Michael Douglasなどを押さえて見事

英国アカデミー主演男優賞を受賞しました。


Jamie Bell自身も6歳から友人に内緒でタップ・ダンス教室に通っており、

Billyと重なる部分があります。彼も素晴らしい表現力を持っています。

表情が素晴らしい。ふと、笑顔に変わる瞬間に何ともいえない魅力を

持っています。口許が少し歪んだ笑顔がセクシーなんです。ダンスは

荒削りではありますけれど力強かったですね。今後の活躍が期待され

ます。良い作品に出会って欲しいものです。

グッド・ウィル・ハンティング-旅立ち

Good Will Hunting

1997年、アメリカ

126min、白黒


監督:Gus Van Sant

出演:Robin Williams、Matt Damon、Ben Affleck



全米の秀才が集まるマサチューセッツ工科大学。

フィールズ賞受賞のLambeau教授が掲示した数学の証明問題が、

一夜にして完璧に解かれていた。解答者は大学清掃係のWill Hunting。

彼は天涯孤独の孤児で、暴行傷害で裁判係争中の身であった。

里親の下を転々と愛を知らずに育ったため、人を信じることができない。

才能を高く評価したLambeau教授は、彼にカウンセリングを受けさせる。


※ネタバレ※

誰にも心を開けない。開くのが怖い。結果、自分の殻に閉じこもる。そして悪びれる。なぜ?それは受け止めてもらえないことを、自分が傷つくことを恐れているから。本当は自分のことを理解して欲しいと人一倍願っている。しかし怖いのである、拒否されることが。多くの人の心に潜んでいる感情だと思う。本当は"大丈夫"と存在を認めて欲しいのだと思う。


Willはとても恵まれていました。Willの能力に気づいてくれたLambeau教授、忍耐強く彼に心を開くきっかけを与えてくれたセラピストのSean、そして彼を誇りに思っている友人たち。皆、Willが自分の本当の気持ちに向き合うためには欠かせなかった人物たち。皆がWillを愛し、彼の才能を誇りに思い、彼に羽ばたいて欲しいと願っている。彼の成功を妬む者などいません。彼の成功を自分のことのように喜べる仲間たち。


SeanがWillに何度も繰り返し言うセリフ。「君は悪くない」「君は悪くない」「君は悪くない」・・・。自分の過ちを許してもらえ、自分の存在を認めてもらえたことで、やっと自分に素直になれたのだと思います。今まで張っていた虚勢や警戒心を取り除くことができたのだと思います。そして、最愛の妻を癌で亡くし、心に傷を負ったSeanもまた、Willの攻撃的な発言のおかげで、再び自分とWillと真剣に向き合うことによって、妻の死による哀しみから踏み出すことができたのだと思います。


Chuckieのような素晴らしい親友を持っているWillは本当に幸せ者。親友の成功を心から願い、そのためには自分から離れていってしまうことさえも怖れない。「・・・20年後に、まだいてこんなところで働いていたらぶっ殺してやる・・・」。Willのことを本当に考えてくれている親友だからこそ言えた言葉。怒ってくれる、突き放してくれる人物なんてそういない。きっとWillが今までの自分、環境から旅立つことを誰よりも願っていたのでしょう。Ben Affleckのさりげない演技がとても良かったです。


癒されない孤独を抱えた者同士が出会い、触れ合うことによって、それぞれが旅立ちの勇気を持つ過程を、爽やかな感動に包み込んで描く珠玉のヒューマンドラマ。幼い頃からの親友であるMatt DamonとBen Affleckが共同で脚本を書いています。


劇中のセリフ、表情の一つ一つが私の心に染みました。


アカデミー賞

・助演男優賞(Robin Williams)

・脚本賞(Ben Affleck、Matt Damon)

ゴールデン・グローブ賞

・脚本賞(Ben Affleck、Matt Damon)

ヴェネチア国際映画祭

・銀熊賞[貢献賞](Matt Damon)

アンデルセン-夢と冒険の物語

Andersen Hans Christian Andersen:My Life as a Fairy Tale
2000年、アメリカ
138min、カラー

監督:Philip Saville
出演:Kieran Bew、Emily Hamilton

1805年デンマーク。貧しい靴直し屋に生まれたAndersenは、
幼少の頃から父に「アラビアンナイト」などの物語を聞かされて育った。
ある日"コペンハーゲンへ行けば世界は開かれる"という予言を授かり、
コペンハーゲンを訪れると、政治家のCollinとその娘Jetteと出会う。
CollinとJetteを相手に様々な創作の物語を語っていくAndersen。
子供だけでなく、大人にも感嘆と愛を感じさせる魅惑のお伽話だった。

※ネタバレ※
空想的な作品で、Andersenの童話と物語がうまく絡められていました。

でも主人公の行動や話の展開が理解に苦しむシーンがいくつかあり、

あまりストーリーに入り込むことができなかったのが残念です。

衣装やセットがとても綺麗に作られており、映像もなかなか綺麗でした。


Andersenはかなりの夢想家でその破天荒な行動から周囲の空気に

適応できているとはとても言えませんが、Collinの支援を得た上で、

どこまでも自分と自分の信念を信じる力、理想を追い求める力を

持ち続けたことが、彼を童話作家として成功させたのかもしれない。

彼の希望に満ちた眼差しや型破りの人懐こさは相手を惹きつけます。


Andersenは天真爛漫で無邪気過ぎる性格に加えて、自分の成功と、

また、Jennyにあまりにも執着し過ぎることにより、他人の気持ち、

特に義兄妹の気持ちを蔑ろにし、踏み躙ることになってしまいます。

支援してくれた人たちの存在を軽視し過ぎているように思えて不愉快。


最期まで迷惑や負担を掛けることなく、彼を想い続けるJetteが切ない。

最後の最後にJennyではなくJetteの存在の大きさに気付いたことが

唯一の救いでしたが、しかし、もう遅過ぎました。


多くのお伽話を生み出したAndersenの若き日々と生涯を、

幻想的かつ忠実に描いたファンタジーアドベンチャー。

ニュー・シネマ・パラダイス 完全オリジナル版

Nuovo cinema Paradiso

1988年、イタリア・フランス

175min、カラー


監督:Giuseppe Tornatore

出演:Jacques Perrin、Philippe Noiret



映画監督として成功したSalvatoreは、"Toto"と呼ばれた少年時代を

過ごした故郷シチリアの小さな村に、30年ぶりに帰郷する。

彼が父代わりに慕っていた親愛なるAlfredoの訃報が届いたのだ。

葬儀に参列したSalvatoreは、映画に夢中だった少年時代、

淡い恋を経験した青年時代を想い出す・・・。


※ネタバレ※

この映画にはたくさんの愛が溢れていました。映画への愛、Alfredoの愛、Elenaとの愛、母親の愛。主人公は映画への愛を貫き通して成功を収めることができた。しかし彼はどこか哀しげで、満たされてはいないようにみえる。成功の代わりに失ったものが彼にとっては大きすぎたのかもしれません。


私にとって映画とはある意味、現実逃避の手段。怠惰な日常へのスパイスとして映画を観ることで、様々な空想に想いを馳せ、気持ちを高ぶらせる。もちろん、映画は現実とは違い、空想にしか過ぎない。村の人たちも素敵な一時の夢を見るために映画館に足を運んでいたのでしょう。様々な刺激と夢を与えてくれる、映画の力はそれだけで充分。


すでに閉館になってしまった映画館の"パラダイス座"は、第二次世界大戦直後の当時、村で唯一の娯楽施設でした。子供のTotoも映画に魅せられてしまい、映写室に行っては映写技師のAlfredoと話をしていました。


青年になったTotoはAlfredoの強い勧めのもと、映画に携わる人生を歩む決意をし、結果的にElenaとの愛と故郷を捨てることになります。それは一生彼の心の中に消化しきれない出来事として残ってしまう。事実、彼は何十年も複雑な想いの残る故郷に帰ることができませんでした。


AlfredoはTotoのことを心から愛していました。Totoの将来を誰よりも期待し、Elenaとの身分違いの愛にTotoが傷つくことに心を痛めていたのだと思う。しかし彼の描いていたTotoの幸福な人生と、Totoの求めていた幸福な人生では方向性が違っていたのかもしれない。AlfredoはTotoが映画を限りなく愛していたことは知っていましたが、それと同じくらいElenaに焦がれていたことに気づかなかったのでしょう。彼のTotoへの愛に全く偽りはないのだけれど。


Elenaは平凡な家庭を築いており、彼女にとってTotoとの愛はもう過去の出来事。彼の出現はあまりにも遅過ぎました。Totoの心の時間は村を出たあの時のまま止まってしまっていたのでしょう。最後、Alfredoが遺したたくさんのキスシーンが降りしきる中流したTotoの涙は、Alfredoの死、Elenaとの愛の終わりによって引きずり戻された、本当の現実においての郷愁の念だったのだろうと想像します。Totoは過去の出来事をどこか割り切れず、その出来事と冷静に向き合うことから逃げてきたのだと思う。


少年時代のTotoが母親に怒られても懲りずに映画館へ通うシーンがとても印象的でした。Totoのあざとい表情が私にはとても微笑ましく映りました。劇場版とはストーリーの本質が異なるようなのでそちらも観てみるとより一層思い入れが強まるのかもしれません。


少年と映写技師との友情を通して映画への愛をうたいあげた感動作。