十三階シリーズを描いてきた吉川さんの久々の新作となります。
警視庁の暴力団対策課の刑事の妻である仲野誓は、ある日、同じ課で働く夫の賢治が銃撃される場面に出くわす。
そして、その捜査のため、「警視庁初の女マル暴刑事」である薮とコンビを組み、内偵を進める。
重体だった夫は手術によって一命を取り留めたが、下半身不随の身体となってしまい、誓は暴力団事務所へと一人で乗り込む。
そこで待っていたのは、片腕が無い、組長の向島との出会いだった。
向島と因縁の出会いをした誓だったが、不思議と恐怖はなく、むしろ、不思議な出会いだと思いながら、証拠も見つからず、その場を退去する。
捜査の末、夫を銃撃したのは、花岡という、元ヤクザの仕業だと知った誓は、結婚によって警察を退職していたのだが、マル暴に復帰し、花岡の行方を追うのだが、渋谷でビル爆発事件に出くわす。
それが暴力団の仕業だと感じ、薮と一緒に事件を追いかけるのだが、そこには複雑に絡み合った事実があった。
伝説の刑事と呼ばれていた桜庭功の娘としてマル暴で活躍していた誓は、暴力団の組長である向島に惹かれていくのが丁寧に描かれていきます。
向島にも誓にも血族としての秘密がありますが、それはおいおい描かれていき、物語の中ではクズがたった一人だけ出現し、それはラストで暴かれます。
捜査本部での方針に背き、独断で操作をする誓の暴走っぷりもとても頼もしいのですが、それ以上に伝説の刑事の娘としての「役目」のようなものを背負わされた誓にとってそれが重荷ではないのかなぁと思い読み進めますが、一方の暴力団の組長である向島は敵対している相手を粛清するため、その人物の身体の皮を剥ぐという残忍な一面がありました。
しかし、その事実を知りながら、誓は得体の知れない、どこまでも闇の部分を持っていると思っていた向島に、夫がありながら、無性に惹かれていきます。
暴力団同士の壮絶な地のやり取りがこれでもかと描かれ、物語は佳境に入っていきます。
物語のどこにも綻びがなく、桜の血族として向島と相対していた誓の活躍が頼もしいです。
吉川さんといえば、公安警察小説の十三階シリーズで警察内部を描いてきましたが、こちらの書籍もシリーズ化するのかなぁとラストを読みながらふと思いました。(でも、暴力団の抗争は結局のところ、止んではいないので、きっとシリーズ化するんじゃないかと踏んでいます。というか、希望です)
なぜ、表紙の絵が手錠と刀なのかは本文で明らかになりますが、一気読み必死の本かと。