邪魅の雫 | aya風呂

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ちょっとまた書いてみようかな(´u`)

幻の「鵼の碑」を除くと、これで百鬼夜行シリーズの本篇が終わった。
立体パズルのようなお話だった。
それぞれ自分の世界で精一杯立ち回っているが、少しずつの勘違いや落とし穴のせいで全体としてうまくまとまった(?)事件になっている。
そこに731部隊、科学者の罪が効いてくる。
ばれなければ罪じゃない。法律違反でなければ。社会が許せば。
でも刻印は消えない、心の傷は消えない、世間は許さない。
社会と世間は違う。

批判的論評を受けて不安定になった関口に対し、京極が辛口ながらも憑き物落としをする場面が印象的。
作品となったものはもはや作家のものではなく読者のものだから、自由に解釈されて当たり前。
ただ、書評は作品を見て後から作られた別の作品と言える。
作家は先を見なければ書評家が困る、だから書評をいちいち振り返ることはないと。

作品あっての書評。


要所要所で笑かしが入るのが京極作品ハマリポイントのひとつ。
箱根事件のやけどで後頭部が禿げた山下の描写、箱根事件を知ってると「大変だなあ」とは思うけどかなり笑える。そこがやけに目につく。

そう云うのじゃないんだよと山下は云って、髪の毛を掻き上げた。撫で付けられた髪型は別に乱れてはいなかったのだが。

山下は今度こそ本当に髪の毛を掻き乱した。

青木が問うと、山下は頭を掻き毟った。

刑事部屋の扉が開いて、疲労困憊した山下が顔を覗かせた。髪の毛がくしゃくしゃに乱れている。

益田は前髪を揺らしてすみませんどうぞ、と云って壁に身体を寄せた。


『邪魅の雫』