2022年花市場取扱高、底を打ちV字回復へ | 宇田 明の『もう少しだけ言います』

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花のグラフは右肩下がりがあたり前と思いこんでいました。
それがコロナ禍の苦境を脱したうえ、右肩上がりにまでなるなんて・・。
毎年恒例、花卉園芸新聞が、卸売市場協会のデータをとりまとめた「2022年市場取扱高」です。

 


画像 花卉園芸新聞 2023年7月1日

 

2022年(1月~12月)の花き卸売市場協会加盟116業者の取扱高は3,645億2,952万円(税込)(図1)。
前年はもとよりコロナ禍前の2019年の取扱高をも超えました。
1998年をピークに20年以上つづいていた長い長い下り坂が2020年に底を打ったようです。
いちば取扱高は卸売業者だけではなく、花産業全体の成績表。
一体、なにが起こっているのでしょうか?



図1 花き卸売市場協会加盟116社の取扱高と消費税率の推移

   花卉園芸新聞、日本農業新聞のデータを宇田が作図(以下の図おなじ)

 

まず、花き園芸新聞と日本農業新聞の最近の見出しを見てみましょう(表1)。



表1 花き卸取扱高を伝える花卉園芸新聞・日本農業新聞の見出し変遷

 

主見出し
2019年「花き卸取扱高3%減」
2020年「花き卸取扱高最低更新」
2021年「コロナ前の回復」
2022年「2年連続で伸びる」

2020年に過去最低の3,175億円(税込)を記録し、その後どれだけ回復したのでしょうか?


花産業のバブルは世間より遅れてやってきました。
花いちば取扱高の最高は、世間のバブルがはじけたあとの1998年で5,675億円(税込)。
今思うと夢のような取扱高。
このころの右肩上がりの取扱高を前提に、オランダをモデルとして花いちばの統合大型化がはじまっていました。
1998年をピークにこんなに長く右肩下がりになるなんて、だれも予想していなかったでしょう(たぶん)。

取扱高がピークの1998年5,675億円を100としたときの比率が図2。



図2 取扱高ピークの1998年5,675億円(税込)を100としたときの比率の推移

 

取扱高最低を更新した2020年にはピークの56%にまで落ちこみました。
それが21年に61%、22年に64%に回復しました。
回復したといっても、まだピーク時の36%減。
V字回復にはちがいがないでしょうが、2017年レベルの取扱高にもどっただけ。
原点回帰にはまだまだ先が遠い。


しかもこれらの金額は消費者税が含まれています。
1998年当時は消費税3%、2019年からは10%、
7ポイントの下駄をはかせてもらっています。
税抜きなら22年は3,314億円で、98年の61%です。


さらには、最近は地方のいちばの集荷力が落ち、東京の大手市場からの買い付けが増えています。
これらはいちば間を循環しているだけで取扱高の二重計上。
取扱高の実態はみかけよりかなり少ない(はず)。


3,645億円から市場手数料を引いた金額が、2022年に生産者と輸入業者に支払われているわけではありません。
そして、21年、22年の取扱高増加は、「切り花の数量減で単価アップ」ですから、いちばは空前の利益であっても、生産者には生産コスト高もあって、そこまでの実感はないでしょう。


切り花と鉢ものには明暗。
コロナ禍のステイホームで観葉植物などがよく売れたのがなつかしいような‥。

2021年5月20日「ステイホームでプチ園芸・ガーデニングブーム」
https://ameblo.jp/awaji-u/entry-12677399819.html


図3 切り花と鉢ものの取扱高の推移(税込)

 

プチ園芸ブームが到来かと思いましたが、長続きしませんでした。
コロナが落ちつき、インフルエンザ並みの5類になると、ひとはいままでのうっぷんを晴らすかのように外出。
おうちで観葉植物を愛でるよりも、旅行、帰省、外食・・。
花卉園芸新聞いわく「鉢もの おうち消費など減少」
業界の努力、活動で手繰りよせた消費拡大ではありませんから、「風」がやむと消費も止まるのは仕方がないでしょう。
しかし、園芸初心者が「育てる」よろこびを経験したことは、多くの潜在的な消費者を獲得できたことになります。


切り花はV字回復に見えますが、国内生産者が減ったための「数量減で単価アップ」ですから本物のV字回復ではありません。
国内生産が減りどまり、輸入が円安や運賃高騰を克服して回復すると、つまでも「数量減」は続きません。
また、いちば取扱高が回復したほど、家計調査による家庭の切り花購入額が増えていないことも気がかりです。

 



図4 切り花と鉢ものの取扱高(税込)のピーク時対比の推移

   切り花のピーク:1998年の3,864億円、鉢もののピーク:1999年の1,630億円を100

 

2023年は半分終わってしまいましたが、切り花も鉢もののようにV字回復が腰折れするか、さらにVの字がつづくか、後半戦にかかっています。
まさに2023年が正念場。


次回は、あっさりと300億円の大台を超えた大田花きを筆頭に、好調な花いちば(卸売業者)取扱高からV字回復を検証します。

 

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https://www.jacom.or.jp/column/

 

宇田明の『もう少しだけ言います』(No.384  2023.7.2)

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