「令和」の出典に登場する蘭はどんなラン? | 宇田 明の『まだまだ言います』

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新元号「令和」フィーバーは一段落したようです。
令和の出典については、

新聞、ネットなどで多くの情報が発信され、
万葉集の梅花の宴の序文から選ばれたことを、

わたしたちは知りました。

以下は、伝統園芸研究会会員の先生方の受け売りです。

(青字部分が引用)
伝統園芸研究会は九州東海大学農学部の田中孝之先生が主宰される規約なし、会費なしの情報交換の会です。
http://hort.club/traditional_horticulture/index.html
 

下記は、

矢原徹一先生(九州大学大学院理学研究院)の

JBpressの記事を引用。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55996



画像 矢原徹一先生の記事

「令和の出典に登場する「蘭」、家人が見た景色とは?」 

万葉集20巻 梅花の宴序文(国会図書館デジタルコレクション)

(JPpress 2019年4月4日)

 

令和出典の序文は次のようなものです。

「初春月 氣淑風 梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香」

「初春の令月にして 
 気淑(よ)く風和ぎ 
 梅は鏡前の粉を披(ひら)き 
 蘭は珮(はい)後の香(こう)を薫(かおら)す」

(意味)
「初春の佳き月で、
空気は清く澄みわたり、
風はやわらかくそよいでいる
梅は佳人の鏡前の白粉のように咲いているし、
蘭は貴人の飾り袋の香にように匂っている」



 

園芸少年OBが気になるのが、
「蘭は珮(はい)後の香(こう)を薫(かおら)す」

今回のお題は、「この蘭はどんなランか?」を考えます。

万葉の奈良時代、胡蝶蘭やシンビジウムなどの洋ランであるわけがない。
では、山野に自生している春蘭やエビネでしょうか?

それもちがいます。

この時代の蘭は現在のランではありません。

蘭が現在のようなラン科植物になったのは、

宋の時代(10~13世紀)と考えられています(青木正児)。


万葉の時代、

蘭は、秋の七草のひとつであるキク科の藤袴(フジバカマ)

(Eupatorium japonicum)のこと。
フジバカマの中国名は蘭草。


画像 藤袴(フジバカマ)(Eupatoriumu japonicum)

    フジバカマにはアサギマダラ(蝶)が飛来します

    昆虫少年にとっては、フジバカマ=アサギマダラ

 

万葉の時代、

蘭とは藤袴や東洋蘭のように、

香りのよい植物の総称でした。
生の場合には、香りはありませんが、

り取った茎葉を半乾きの状態にすると、

桜餅の葉のような香りがします。 
これは、クマリン、クマリン酸、チモハイドキノンによるもので、

古く中国では、

花の一枝を女の子の簪(かんざし)にしたり、

香袋(かおりぶくろ)として身につけていました(細木先生)
『楚辞』によると、

楚国では蘭を腰から下げる(佩おびる)風習があったそうです。

フジバカマは漢名の異名が多いのですが、

そのひとつに「佩蘭」があります。(久保先生)

画像 藤袴の匂い袋(京都市右京区水尾地区で栽培されたフジバカマの葉が原料

 

さて、ここまでが受け売り。

ここからは、お金儲けにまい進する生産園芸の世界。

フジバカマは切り花としてけっこう流通していることは

花業界ではよく知られています。
フジバカマとユーパトリウムのふたつの名前で

市場に入荷しています。

画像 ユーパトリウム切り花(はなどんやアソシエHP)

    種類は不明

 

これは園芸でよくあるように、

和名か学名(または欧米名)かのちがいです。
アジサイとよぶか、ハイドランジアとよぶか、
トルコギキョウとよぶか、ユーストマとよぶか

(リシアンサスは昔の学名)

流通では原則的に

生産者(出荷者)の出荷伝票に書かれた名称で

せりにかかり、花店に引取られます。
花店では市場伝票の表記の名称で販売されます。
ですから、

生産者がフジバカマと書いて出荷したらフジバカマ、

ユーパトリウムと書けばユーパトリウムになり、

そのまま花屋さんの店頭に並びます。
植物学的な判断はどこにもありません。


植物学的には、

フジバカマとユーパトリウムは同じではありません。
フジバカマはEupatorium japonicum 。
種名のjaponicum でわかるように日本の自生植物。

(中国から渡来したとの説もありますが、万葉の時代には雑草化?していた身近な植物)
いまは準絶滅危惧種に指定され、絶滅寸前。

画像 京都藤袴サミット in 大原野

    自生植物フジバカマを復活させる取り組み(2016年)

 

日本で切り花として流通しているフジバカマは

自生種ではなく、

いわゆる西洋フジバカマよよばれるユーパトリウム。
植物学的には、

オランダの切り花カタログから推定すると、

Eupatorium purpureum、 

Eupatorium ligustrinum、

Eupatorium cannabinum と

これらの品種が混在しているようです。

ユーパトリウム(西洋フジバカマ)には

アゲラタムとそっくりな花のものがあります。
アゲラタム切り花の代用として、

ユーパトリウムを使うこともあるようです。

画像 アゲラタムの切り花(はなどんやアソシエHP)

 

Amazonはすごいですね。
いろいろなフジバカマのたねが買えます。


カタログに多くのフジバカマの種類が掲載されています。
マルバフジバカマ

白花丸葉フジバカマ
青色西洋フジバカマ
菊葉フジバカマ

サワヒヨドリなど

また、コバノフジバカマも流通しているようです。

 

結局、生産園芸でフジバカマとよばれている植物は、

日本自生のフジバカマではなく、

オランダから切り花用として

輸入されたユーパトリウム(西洋フジバカマ)や

中国原産のコバノフジバカマなど

多数の種類が入り混じり、

混在していると考えられます。

 

これはある面危険です。

自生フジバカマは弱弱しく、

絶滅危惧種です。

西洋フジバカマ(ユーパトリウム)や

中国原産コバノフジバカマは強すぎるほど強い。
地下茎で猛烈な勢いで増え、

侵略的な帰化植物になる恐れがあります。
フジバカマとよばれている植物の株を野外に捨てないこと、

人間がコントロールできない場所に

植えないなどの注意がいります。

さて、フジバカマは秋の七草。 
万葉集巻8

山上憶良が吟じた秋の七草の歌。
「秋の野に 咲きたる花を 指折り(およびをり) かき数ふれば 七種(ななくさ)の花」
「萩の花 尾花 葛花 撫子の花 女郎花 また藤袴 朝貌の花」

尾花はススキ、
女郎花はお盆の切り花オミナエシ、
朝貌(あさがお)は朝顔ではなく桔梗(キキョウ)のこと。


画像 秋の七草

 

ことしの秋には、令和を記念して、

うんちくをかたむけて藤袴を売ってみたらいかがでしょうか?
熱しやすく冷めやすい花業界ですが、

秋まで令和の出典に登場するフジバカマを忘れないでください。

 

宇田明の『まだまだ言います』」(No.170 2019.4.14)


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