門松の松は山から切ってくるの? | 宇田 明の『まだまだ言います』

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宇田 明が『ウダウダ言います』に引き続き、花産業のお役に立つ情報を『まだまだ』発信します。

松、千両の役物(やくもん)市が終わり、
いよいよ年末商戦はラストスパート。
バトンは生産者から花屋さんに移りつつあります。

今回のお題は「松」。

わが町では、
年末になると、町内会から画像のような印刷した門松が配られてきます。
どこの町でも同じだと思います。

「紙門松」あるいは「門松カード」というそうです。

「市町村」と「緑化推進協議会」の名称が印刷されています。



画像 「紙門松」
   わが町では、毎年、年末に町内会から配布がある

謎1
なぜ市役所が「紙門松」を配布するのか?

謎2
「紙門松」と「緑化推進」がどんな関係があるのか?

こたえ
戦前戦後のエネルギー事情を知る必要があります。

石油産出国ではない日本。
炊事、暖房のエネルギーは古代から薪(まき)と炭。
材料は山の木。

人口が急増した明治以降には大量の山の木が切られた。

特に戦時中、
南方からの石油輸送船がことごとく米軍の潜水艦に沈められた。

軍艦を走らせ、飛行機を飛ばす燃料さえもない。
松の根から油(松根油;しょうこんゆ)をとるところまで追いつめられた。



画像 戦時中の松根油緊急増産運動
   松の根からガソリンをつくり、飛行機を飛ばすほどの石油不足   

民生用はもっと不足。
山の木を切るしかない。
その結果、近郊の山はどこも「はげ山」
雨が降ると土砂崩れ、川の氾濫で、町は大きな被害。

この状態は戦後には一層厳しくなった。



画像 昭和40年代までの六甲山
   樹が燃料に切り倒された「はげ山」
   日本中の山が同じ状況だった
   今では神戸市民の憩いの場として緑が豊か

その対策として「森林保護」が重要課題。

紙門松がなぜ森林保護?

そのこたえが今回のお題。

「門松の松は山から切ってくるの?」

これは花市場の新入社員の質問。

松市に大量に出荷されてくる松。
新入社員諸君は、山から切ってきたと思っていた。
松=山に生えている樹で、
松=畑で栽培とは夢にも思っていない。

花屋さんの店員さんも、そう思っている人が多いのだろう。

花産業で働くひとがそうだから、
世間の多くの人は「松は山から切ってくる」と思っているだろう。

花の業界人には釈迦に説法。
松は、露地のキクと同じように農家の人が、畑で栽培している。
松はたねをまき、苗を畑に植え、3~4年育てて12月に出荷します。
松ぼっくりにたねが入っています。
森林破壊の産物ではありません。

松の作り方は、多くの生産者がHPで公開しています。
一例として、茨城県波崎の農業生産法人ミゾグチファーム
http://mizoguchi-farm.jp/matusenryou1/matuseihinka.html



画像 松ぼっくりにたねが入っている


画像 松のたね
   松はたねをまいて苗を育てる
   ヒマワリやケイトウと同じ


画像 松は、苗を畑に植え、育てる


画像 畑で育った松
   ここまで大きくなるには3~4年

戦後、昭和30年代のころには、
門があるお金持ちの家は門松を飾ったが、
普通の家は画像のように水引でくくった松の枝を玄関に飾っていた。
これは年末になると専門の業者が売りに来ていた。
それは山採りが多かったのかもしれない。


画像 紙門松を張る前は実物の松を飾っていた

つまり、
門松→山の松を切る→森林破壊→紙門松で代用→森林保護→めでたしめでたし!

そのため、市役所で紙門松の配布を担当しているのは、林業や緑化担当。
わが町では、林務課。
財源は税金や、緑の羽運動の収益など自治体によりさまざま。

ネットで検索すると、
紙門松を伝統文化の破壊と憤る人が、
「せめて山の松の枝を切り、玄関に飾りましょう」と呼びかけていた。

ここでも大きな誤解!

①この伝統保護論者は、門松の松は山から切ってきていると思っている。
②花屋さんに門松の松が売っていることをしらない。
③山に松は、はえていますが、すべて国や個人など持ち主がいます。
勝手に枝を切ると窃盗で、罰せられます。

紙門松を市役所が配布する理由のふたつめ

戦後の「新生活改善運動」

http://www.nikkeihyo.co.jp/critiques/view/130

敗戦後、戦前の因習をあらため、民主主義を生活に定着させるために、
国が国民によびかけた活動。

その活動は多岐にわたる。

1.新しい道徳運動の展開
人権の尊重、公共精神の涵養、遵法精神の徹底などのほかに、
純潔観念の涵養もあります。

2.社会生活環境と風俗の刷新
風俗の改革、迷信・因習の打破、冠婚葬祭の簡素化、祝儀・不祝儀の返礼の廃止、虚礼廃止、宴会の自粛、寄付の明朗化、樹を植える運動・・

3.家庭生活の科学的合理化
家族計画の促進、家計の合理化、貯蓄の奨励、食生活と栄養の改善、住生活の合理化、余暇の善用・・

おせっかいといえば、おせっかいな官製運動。
いまなら物議をかもすが、敗戦後の日本は進駐軍GHQの指示で、
古い因習をあらため、民主主義国家へ生まれかわる必要性にせまられていた。

さて、お正月の門松。

新生活運動の項目2の「迷信・因習の打破、冠婚葬祭の簡素化、虚礼廃止」でアウト。

その対策として「紙門松」が登場。

これが現在まで続いている。

すこし近代的になったこと。
現物を配布するのではなく、
必要な人は、HPから勝手にダウンロード、印刷してくださいという市役所が増えたこと。
たとえば岡山市

http://www.city.okayama.jp/hishokouhou/hishokouhou/hishokouhou_t00004.html

「紙門松の謎」解明にてまどりました。

紙門松でわかったこと。

花産業の情報発信不足。

「松=森林破壊」という都市伝説を永年にわたり放置。

松は、ふつうの農作物、キャベツやたまねぎ、キクと同じように
農家が、畑でつくっているという情報をお客さま=国民に伝えなかった。

花産業のムラの中だけで生きていると、
お客さまが漠然と「松=森林破壊」と思っていることにさえ気がつかない。

どうするか?
紙門松でさえ玄関に張る家庭が減っている時代。
まして、紙門松を廃止して、
伝統文化の本物の松を飾るなんてことは不可能。

せめて、「松=森林破壊」の汚名はそそぎたい。
それが、伝統文化を守り、
絶滅危惧種化した松の生産を守るひとつの手段。
花の消費拡大にもつながる。

そこで、
①まず、花産業で働く人が、
松は、農家がたねをまいて、畑で育てているという事実を共有する。

②「国産花きイノベーション事業」予算を活用して、
作っている側の情報をお客さま=国民に発信。

③花育
現在の花育は、生け花やフラワーデザインなど芸術系に偏る。
花は、「誰が、どこで、どのように」作っているか(輸入を含め)を
知ってもらうことも重要。

④「松=森林破壊」のような都市伝説的な誤解がほかにもないか、調べ、対策。
調査はコンサルなどを使うのではなく、大学の研究室に依頼。
産官学の連携。


追悼 島木譲二
   「大阪名物ぱちぱちぱんち」
   「みんな元気ださんとあかんで!!」

「宇田明の『まだまだ言います』」(No.50 2016.12.18)

2015年以前のブログは
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