こんにちはドキドキautrose930ですピンク薔薇

お読みいただいてありがとうございます

 

韓国ドラマ「月の恋人 歩歩驚心 麗」

第18話の番外編的な「ナレの日」

今回はその第4回目 終章となります

 

あのナレの日二人はどんな夜を過ごして

どんな朝を迎えたのでしょう?

autroseがお勝手に考えて

綴ったものですラブてへぺろ照れ

ドラマに戻るときは

どうぞリセットしてくださいね注意ベル

 

 

 

 暗い室内に朝の最初の光がわずかに差し込む頃、まだ鳥たちがさえずり出す前に、スはクァンジョンの傍らで目を覚ました。

 

 昨夜、スは不安な気持ちを抱えて宮殿に戻ったのだが、二人この居室で寄り添って夜を過ごすうち、二人のこと以外は脇にやり、彼女は、穏やかに眠りに付くことができた。

 

重苦しいことを隠してくれた、甘く優しい夜は過ぎてしまい、今また、やはり、脳裏に浮かぶ幾つかの不安を、朝の光のせいだと、スは恨めしく思うのであった。クァンジョンの悲しい求婚を断ったことで、ナレの日までと、今日からとでは、何かが確実に変わっていくことは十分承知しているのだが。

 

皇子のときのように髪を一つにまとめ、スヤスヤと寝息を立てているクァンジョンをしばし見つめた後、スは身支度を始めた。今は心惑わすことなく、彼を皇帝の姿に戻して、上殿に送り出さねばならない。

 

スは下着からチマ、袷と、新しいひと揃えを身につけた。文机の脇に、無造作に置かれた、昨夜の紅の羽織と白い帯、褥の周りに散らばるその他の衣類を拾い上げると、彼女の頬は恥じらいで少し赤みを帯びたが、てきぱきとそれらを畳み、箪笥から、薄紫の袂の短い羽織と無地の帯を選んで身に付けた。

 

洗面をして、髪を梳かして結いなおし、簡単に化粧を施したあとは、全てクァンジョンの支度の準備であった。

 

昨夜、この部屋でクァンジョンのお忍びの着付けをした際、翌日の皇帝衣を全て調えてあった。ス自身の鏡台の前に、皇帝の冠と簪などの装身具が全てあるのを確認し、今日はここで化粧もしなければならないので、引き出しから、クァンジョンが使用する化粧品と筆を取り出した。扉を開け、夜番の側付きの女官の一人に、皇帝の洗面の支度を指示して、彼女は居室に戻った。

 

 

 ほどなく、甕(かめ)に入った湯と布を載せた盆を戸口で受け取ると、スはようやくクァンジョンを起しにかかった。

 

額を静かに撫で、肩をほんの少し揺すって声をかけると、クァンジョンはすぐに目覚めた。恐らくスのパタパタした立ち居振る舞いで、彼はもうすでに起きていて、目を閉じていただけだったのだろう。

 

彼は、ニヤッと笑ってスの手を引くと、戯れに、スを胸の上に抱き寄せて、彼女を軽く羽交い絞めにした。クァンジョンも昨夜は、恐らく、穏やかに眠りに付いたものと思われた。

 

「陛下、お戯れをしている時間はございません。」

 

スに一喝されると彼は素直に起き上がり、スの差し出す、絞られた温かい布で顔をしっかりと拭いた。夜長衣(ヤジャンイ)の襟をはだけたままで座るクァンジョンに、スは、顔を伏せたままで、下着類を順番に渡していった。

 

「ヘジュでのことを別にすれば…。宮殿で一緒に朝を迎えたのは初めてであるし、一緒に朝の身支度をするのも初めてだな。」

 

「はい。即位なさった日の翌朝は、私が目覚めたとき、陛下はもう、お部屋にはいらっしゃらなかった。ヘジュでは、お支度はごく簡単でしたけど、今日はちょっと大変。」

 

彼も、海州(ヘジュ)の丘の上の屋敷で過ごしたことを思い出しているのだろうか、とスは考えた。二人、水入らずで過ごした、ほんの三日たらずを、スは懐かしく思い出した。

 

 茶美園では皇帝の衣服の着脱に、最高尚宮は直接手を出して携わらなかった。よって、スはクァンジョンの着付けを上手くできるか少々心配であった。夜半に帰すときと違って、これから一日を過ごすことになるから、朝の着付けはきちんとしておかねばならない。クァンジョンがスよりも背がずっと高いことも、着付ける自信が無い理由であった。

 

彼は性分ゆえか、襟をきつめにするのを好むようで、袷の着付けで二、三度スにやり直しをさせた。しかし、イラついた様子は全くなく、スを困らせるのを当然のこと楽しんでいるようでもあった。袷のところで時間を取った分、黒の皇帝衣はクァンジョンが自分で身につけるのを、スは傍らで介助するのみとした。

 

皇帝の象徴とも言える立派な皮製の石帯(せきたい)は、スがクァンジョンの回りを一回りするようにして、きちんと装着されていることを確認した。

 

 

 

「御髪を結いますから、こちらにお座りください。」

 

スが皇帝の髪を結ったことがあるのは、兄とも思っていた第2代皇帝恵宗のみであった。恵宗の髪質は硬く、クァンジョンのそれは男性にしては細く真っ直ぐであったため、どのように結うべきか、現在の茶美園の最高尚宮に、前もってそのコツを聞いておいた。

 

「長い前髪を自然に横に流すよう」と彼女から助言を得ていた。自分の愛する男の髪の結い方を、他の者に聞くというのは、可笑しなことだと思いながらも、スは助言どおり、いつもどおりのクァンジョンの髪型に結い上げた。

 

 

ちょうどそのとき、戸口で、茶を運ぶ伺いの声がした。二人は、朝の支度の一休みに、なつめの餡を湯でといたテチュ茶を静かに飲んだ。

 

 

 

「お化粧をするのは久しぶりですし、椅子に座ってらっしゃらないから難しい。」

座布団に座るクァンジョンに化粧するのに、スは立ち膝で背筋を伸ばして、筆を忙しく動かしていた。

 

「お前も、本来は周りから世話をされる立場だ。今朝はよいが、日中はあまり、立ち振舞わないように。」

目を閉じたままのクァンジョンが言った。

 

「あら、では、お菓子も作らなくてよいのですか?」

「それは困る。」

「…さあ、できました。お目をあけて下さい。」

「スや、よいか、この次は、油蜜菓(ユミルグァ)だぞ。」

「はいはい、分かりました。」

 

菓子のことに意地を張るクァンジョンを可笑しく思いながら、スは、筆と白粉を鏡台に置いた。すると、立ち膝のスの腰を、クァンジョンが急に捕まえて、彼の膝の上に彼女をすとんと座らさせた。

 

「わあ、びっくりするじゃありませんか。」

「もう行かねばならないから。」

 

そう言って、クァンジョンはスの手を自分の首と肩につかまらせた。スは自然と、クァンジョンの首元に顔を寄せた。

 

 

 

 

皇帝の鬢油(びんあぶら)の香りがした。皇子のときは、この方はほんの少し汗の匂いがしたものだった。

 

「皇帝になってしまわれたのね…」

思わずそう呟いてしまったスは、すぐさま言い直した。

 

「陛下、おかしなことを申し上げてすみません。」

「私にそんなことを言えるのはお前しかいないな。」

 

そして、クァンジョンは、膝の上のスを抱きなおして、その髪を撫でながら手短に言った。

 

「ここに来ない日でも、お前を思っている。」

 

分かっていた。これから式の準備を進めていくことになるだろうから、ここに足を運ぶのは間遠になるだろう。

 

クァンジョンの口付けを受けながら、スは、陽の光と僅かな涙のせいで、閉じたまぶたの縁が、チリチリするのを感じていた。かろうじて涙をこぼすことはなく、お互いの顔を離すと、クァンジョンの唇に付いた自分の紅を、彼女は、はかなく笑って指でぬぐい取った。

 

 

 昨夜の雨は上がり、明るい陽光の中、スはクァンジョンを送り出した。少し離れたところには、数人の女官が頭を垂れて控えている。クァンジョンが渡り廊下に足を踏み入れたとき、その横顔に、「クマナジャ」と言い放って、西城(ソギョン)へと去ってしまったワン・ソの面影を見たスは、思わずその背中に呼びかけた。

 

「ファンジャニム!」

「…ペーハー」

 

彼が振り向かなかったらどうしようという思いのため、スは、間髪をいれず言い直した。

 

クァンジョンはゆっくり振り返り、スと視線を交わすと小さく微笑んだ。彼の姿が見えなくなっても、しばらく、スは扉の前に佇んでいた。

 

 

 居室に戻ると、クァンジョンが纏った夜長衣が彼女を待っていた。象牙の色の衣を手に取り、彼女は、それに頬を寄せてみた。これから、クァンジョンとスに、様々な事件が濁流のように押し寄せ、二人の愛の形が翻弄されていくことを、このとき、スは知る由もなかった。

 

 

 そして、もう一つ。このナレの日を境に、彼女に小さな命が宿ったことを彼女が知るのは、もう少し後のことになる。クァンジョンがそのことを知るのは、さらに数年後。

 

そして…このナレの日がそうであったと、クァンジョンが、スから知らされるのは、さらにさらに先のこととなる。

 

 

 

ナレの日 fin

 

これは書き手の考えたことです

ドラマではリセットしてくださいね

 

次回「ナレの日を描いたわけ」

おしゃべりします

 

 

 

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