皆さまこんにちは

autrose930です

大雨では大変な被害が出てしまいました。

尊い命が失われてしまいました。

雨も地震も本当に自然は恐ろしい。

これ以上被害が出ないよう

お祈りいたします。

 

旅先の情景(高麗)後編です

漁師町からソが戻り

二人のバカンスも残り少なくなってきました

実際のドラマのシーンも入れて展開します

 

 

『あとは、このイシモチを焼くだけね。』

夕闇迫る中、スは夕餉(ゆうげ)の支度に追われていた。

 

 

ソが海辺の集落に出かけている間

大急ぎで湯浴みと洗髪を済ませたのだが

料理に取り掛かるのは少々遅くなった。

 

 

さっき、ソは戻って来たのだが(とスは思っていた)、珍しく空腹の様子であった。

 

きっと、体調が戻って

馬を乗り回したことでもあり

お腹が空いたのだろうと思い

スは支度を急いだ。

 

 

 

今日は、一日よく晴れて

宵になっても暖かだったので

二人は、縁先で夕餉の膳を広げた。

 

部屋の戸を開けて、ろうそくを点して明かりを取った。

 

 

 

「お前が料理上手なのは、食いしん坊だからなのかもしれないな。」

 

「ただ、美味しいとおっしゃればよいのに。

皇子様は素直ではありませんね。」

 

そう言いながら、

スは塩焼きしたイシモチを箸で取り分けて

隣に座るソの口に運んでやった。

 

ソは言葉とは裏腹に、おとなしく口を開け

満足そうに魚を味わった。

 

あまり食には拘らないソであったが

体調がよくなったためか

スの料理が美味のためか

箸がよく進んだ。

 

 

「お肉やお魚をたくさん食べてくださいね。

体力を回復しなくては。」

 

かいがいしく食事の世話を焼くスを

可愛らしく、健気に思いながらも

ソは、忘れぬうちにという表情で言った。

 

「明朝、漁師町の商家から、お前の伴をする者が二人来る。うち一人は腕の立つやつだ。私が手を組む豪族の関係であるから、安心して付いて行くがよい。」

 

「はい。分かりました、皇子様。」

 

 

 

しかし、その後

スは段々、静かになってしまった。

 

気が付けば、料理にも手を付けず

箸を揃えて持ったまま俯いている。

 

 

「何だ、食いしん坊と言ったのを、拗ねているのか?」

ソは機嫌を取るように、スの顔を覗き込んだ。

 

「いいえ。…ただ、悲しいのです。」

 

「何が悲しい?」

 

「だって、この二日間幸せすぎたのですもの。皇子様のお世話をして、傷も治って元気になられたし、馬にも楽しく乗せてもらって、お帰りをお待ちしてこうして夕餉を食べて…。今までこんなに長く、二人きりで過ごせたことはありませんでした。」

 

 

スが涙声になってきたので

ソは慌てて彼女を胸に抱いて

なだめるように背をぽんぽんと軽くたたいた。

 

 

 

確かにスの言うとおりである。

 

この屋敷で過ごしたひとときは

ソにとっても特別なものであった。

 

それに、明朝には、スとは

また離れ離れになり

次いつ会えるのかは『何か』があらぬ限り

自分ではどうすることもできない。

 

しかし、ソはその思いを伏せて言った。

 

「さあ、まだ夜は長い。あとで、また、星の話をしてくれ、スや。そうしたら、そなたによいものをやる。」

 

スが、何ですか?という顔になったので

ソはひとまずにっこりとした。

 

 

 

 

 

 

二人で、ぴたりと寄り添って星を眺めるのは

久しぶりであった。

 

 

 

 

「左に牛飼い座のアルクトゥルス

下の方におとめ座のスピカ、青白い星よ。

そのずっと上の方に、しし座のデネボラ。

春の大三角というのです。」

 

ソは、スが指差す東の方角の

春の輝く星たちを一つずつ目で追った。

 

 

 

「今日は、コム・ベレニケスのお話よ。」

スは師範のように澄まして言った。

 

「こ、こむ?」

 

「王妃ベレニケの髪の毛座、のお話。」

 

「どこにあるのだ、その髪の毛座は?」

 

「アルクトゥルスとデネボラを結んだ線の少し上の方を見てください。銀河や、たくさんの細かい星たちの集まりがあるでしょう?髪の毛の束のようだから、髪の毛座というのです。」

 

「確かにあるな。」

 

大三角の少し上の方に、そのふんわりとした星々の集団は存在していた。

 

 

 

「エジプトの王妃ベレニケはとても美しい髪の持ち主でした。あるとき、戦場に赴く夫のプトレマイオス王が、無事に戻って来たならば、自分の美しい髪を捧げると、ベレニケは神に誓いました。願いどおり、王が無事に帰還すると、ベレニケは自分の髪を女神アプロディーテの神殿に捧げたのです。」

 

 

「ところが、翌朝、髪の毛は消えてしまったのです。王と王妃は大変怒り、神官たちは死を覚悟しました。このときある天文学者が、機転を利かせて言ったのです。」

 

 

「神は王妃の行いを気に入り、捧げられた髪も大変美しいので、空に上げて星座にしたのですよ、と。そして、しし座の尾の部分を指し示したのです。以後、これがベレニケの髪の毛座といわれるようになったのです。」

 

 

 

「大きく輝く星を持たぬ星座もあるのだな…。王妃といえば、そなたが以前話してくれた、カシオペアはどこにある?以前の場所にはないようだ。」

 

 

「カシオペア座は秋の星座ですから、春には見ることができないのです。皇子様、星にお詳しいのではなかったの?」

 

 

「私にとって、星の知識は、馬で旅するときに、方向が分かる程度で十分だ。」

 

 

ソは強がって答えた。

スと星の話をするときは楽しいが

居心地が悪いところもある。

 

 

「翼の生えた天馬の星座、ペガスス座もあるのですよ。」

 

「ぺ…ス…、ムォ(何だって)?」

 

「ペ、ガ、ス、ス。」

 

「ペソス?」

 

 

ソがどうしても上手く発音できないので

二人は声を揃えて若者らしく明るく笑った。

 

 

 

 

 

 

 

そのとき、スの表情が少しこわばったように見えたので、笑い顔そのままに、ソは、彼女の視線の先に目を向けた。

 

 

そこに、旅支度をしたジモンが立っていた。

 

 

 

 

 

現皇帝ヨの心悸の病と急激な身体の衰え

それから来るものなのか

明らかな乱心の様子について

ジモンは事細かにソに報告した。

 

 

パク・スギョンと信州カン氏が豪族と軍を掌握したということも。

 

 

 

ソはスの手をしっかり握りながら聞いていた。

 

スの手は細かく震えていたし

ソ自身も何かにつかまっていたかった。

 

 

 

「好機であると考えます。ご決断を。」

 

ジモンはソの目を真っ直ぐ見て言った。

 

 

 

パンジョン(反証:謀反のこと)

のにおいがした。

 

 

そして、その中心にいるのは、まさに自分

ワン・ソなのである。

 

 

ソは高い崖の際に立って

下の滝つぼを覗き込んでいるような気がした。

 

 

 

 

 

スが月明かりの庭に行くと

ソは微動だにせず佇んで

物思いにふけっていた。

 

 

しかし、決然とした澄んだ目に

迷いは微塵も感じられず

もう、先ほどまでスと笑い合っていた若者ではなかった。

 

 

彼は、皇位への渇望をスに明言した。

 

『スが居なければ、私にとって皇位などどれほどのものか。』

と、かつて言ったソはもうそこにはいない。

 

遂に、歴史が、ワン・ソを

その中央に引き寄せるときが近づいたことを

スは、どうしようもない思いで受け入れた。

 

「ご兄弟を傷つけないで下さい。」

そう、約束を取り付けるので

スは精一杯であった。

 

 

 

 

 

「ソ皇子様、ご指示をお待ちしております。

スお嬢様、お気を付けてお戻りに。時間稼ぎをしておりますゆえ。」

 

そう告げて、ジモンは帰って行った。

歩けるだけ歩き、途中で野宿すると言う。

 

 

 

 

また二人きりになった。

 

 

ソは屋敷を見て回り

全ての門に閂を掛けてから自室に戻った。

 

 

戸を開けると、スは、褥の横に小さくかしこまって座っていた。

 

ソと目を合わせると

スは、またすぐ目を伏せた。

 

 

ソは、笑みを浮かべると、箪笥からふんわりとしたものを取り出して来て

不思議そうな表情をして彼を見ている

スのそばに腰を下ろした。

 

 

彼は、質素な赤と黒の掛布団をはぐと

手にした朱鷺色(ときいろ)の絹の織り地をさっと広げた。

 

 

ろうそくの明かりの下

まぶしい夕日の余韻のような暖かな色合いが

視界いっぱいに広がった。

 

 

朱鷺

 

 

「まあ、何て可愛らしい色合いでしょう。

どうされたのですか?」

 

「今日出かけた際に、見つけて来たのだ。」

 

言いながら、

ソは、朱鷺色の生地で褥を包み込んだ。

 

 

「皇子様、このような高価な織物を敷いてしまうのですか?」

 

「純白に金の縫い取りのあるような夜具で、そなたを迎えてやりたかったが、このひなびた屋敷では叶わぬゆえ、せめてもの贅沢だ。言うとおりにせよ。あとは、内掛けにでも何でも仕立てればよかろう。」

 

ソはやや強引であった。

 

 

 

 

「それから、スや、

そなたの櫛を持って来い。」

 

 

スの後ろに座ると、ソは、その簪や髪留めや髪紐を、一つずつ丁寧にはずしていった。

 

 

はらりとほぐれた長い髪に

指をゆっくりと通してから

ソは、慈しむように櫛を入れていった。

 

 

「ここでは、随分とそなたに世話になったから、せめてものお返しだよ、スや。」

 

 

スは髪を洗っておいてよかったと思いながら

幾分緊張して背を伸ばして座っていた。

 

 

「ほら、緊張するな。私に寄りかかってもよいのだぞ。ところで…」

 

くくっと笑いを漏らしながら、ソは言った。

 

「私が、今日、他の者の髪に、櫛を入れるのは二人目だと言ったら、そなた、どうする?」

 

「皇子様、漁師町で何をしてらしたのですか?」

 

スは振り返って、丸い目を更に丸くして

思わず非難するように言った。

 

目は少々釣り上がっていたやも知れない。

 

「ははは、セビョクの鬣に馬用の櫛を入れてやったのだ。すまぬ、許せ。やきもちを焼くお前を見たかった。」

 

「セビョクと一緒にしないで下さい。」

 

スは宮女らしくツンと澄ました顔つきをした。

 

 

さっきは、反証を企てているお方らしく

切羽詰ったものを感じさせていたのに

二人で居るときのいつものソに戻っているように思われた。

 

 

 

ソはスの髪を一束、手に取って言った。

 

「夫の武運と無事を願った、エジプトの王妃のように、そなたも、私のために髪を捧げる覚悟はあるか?」

 

「私の髪は、さほど美しくもありませんが…。捧げてよいのならそういたします。」

 

一息にそう言ったスを

ソは静かに抱き寄せて

しばらくの間、何もしゃべらず

そのつややかな髪を撫でていた。

 

 

スはソの気持ちを慮り

その背を優しく抱き返した。

 

 

 

「ネイル アチム マリンデ スヤ

 

(明日の朝のことだが、スや)」

 

やがて、ソは吹っ切れたような表情で言った。

 

言われた方のスは再び背筋をぴんとさせた。

 

明日は旅立ちの日である。

 

皇子様から気を付けるように

言われることとは、果たして何かしら?

 

 

至極真面目な表情で、さらりとソは言った。

 

「私の許しがあるまで褥から出てはならぬ。

先に目覚めても、出てはいけない。」

 

 

皇宮から追っ手が来るかもしれないというの?

 

 

スのこわばった表情に、ソは苦笑して言った。

 

「察しの悪い女人であるな。随分と大人になったものだと思っていたのに。」

 

まあ、そういうところが可愛らしくてよいのだが…。

 

 「!」

 

 

「恩愛している、スや。」

 

囁きながら、ソはスを朱鷺色の褥に横たえた。

 

スはひんやりした絹地の感触を首と背に感じながら、ソの体を受け止め、その頭を撫でた。

 

 

 

ネイル アチム ネイル アチム 

貴方の言いつけを守ります…

 

オンジェンガ ファクシルィ

(いつの日か 確実に)

 

皇子様は皇帝になる…

 

 

 

考えることが無くなるまでの少しの間

スは繰り返し、この言葉を唱えていた。

 

 

relay story 旅先の情景(高麗)   完

 

 

 

 

はじめ考えたよりも長いお話になってしまいましたてへぺろ

ほんの二日間のことを書くだけですのにね

二人に瑞々しいエピソードラブラブ音譜をたくさん

経験しておいてもらいたかったのですドキドキ

今回のお話の「実は」的なことなどはまた後ほど

お知らせします爆  笑

 

 

 

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