PoDの世界を色々考察しよう4から
しかし、そのネタはまた次回と言うことで、今回はちょっとブレンダの過去ばなしをしようと思います。
「冬は悲しいお話がいい」とはシェイクスピアの『冬物語』での言葉ですが(もう夏ですが)、
そんな言葉が似合うちょっぴりもの悲しいお話です。
゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚
「アルヴァ、国外退去って本当!?」
真っ赤なポニーテールを揺らしながら駆けてきた少女を、荷造りの手を止めてアルヴァと呼ばれた青年は振り返った。
「そうや」
「そうや、って、何でそんなことに!」
少女の眉は泣き出しそうにギュッとしかめられているし、紫の瞳は涙でキラキラしていた。その瞳を見ずにここを出て行きたかったが、運命はそうさせてくれなかったようだ。
「何でって、王さんの命令やから仕方ないやん。この国は今から戦争始めるから、この国のもんやないもんは出てけ。至極まっとうな命令や思うけど?」
「まっとうって、そんな! だって、アルヴァは何もしてないじゃない!」
真っ赤な髪を振り乱し地団駄を踏む少女の肩をアルヴァはポンポンと優しく叩いた。
「ブレンダ。まぁ、落ち着け。お前さんが怒ってみたってしょうがないやろ。俺は、まぁ、来るべきもんが来たなぁ、としか思(おも)てないんやし。な?」
「来るべきもんが来たって、アルヴァ、あんたはそれでいいの?」
ブレンダの問いにアルヴァはしばしあさっての方を見、ポリポリとあごをかいてから小さく答えた。
「ああ」
それから盛大にため息をつくと、ブレンダの紫の瞳を正面から見据えた。
「あのな、ブレンダ。俺たち旅芸人はいつもその国の人間にとってやっかいな存在なんや。流行歌や人形芝居にかこつけてこの国の情報を他国へ伝えるし、他国の流行病をこの国へ持ち込む。時には犯罪者を連れてくることだってあるし、その逆に逃がすこともある。そもそも他人のおまんまで生活していて、なぁんもこの国に貢献していない。さっきブレンダ言ったよな。俺たちは何(なん)もしていないって。その何(なん)もしていないちゅうのが、これから戦争しよか言う国には邪魔なんや。分かるか?」
アルヴァの言葉に不承不承頷くブレンダ。そのブレンダの頭を優しく撫でてアルヴァは最後の言葉を言った。
「そやからお前は、こっちの世界へ来(く)な」
ブレンダがハッとしたように顔を上げた。そしてその瞳が怒りで徐々に赤くなるのをアルヴァは心の中でため息をつきながら見つめた。
(そやから、会わずに行きたかったんやけどなぁ)
「なんでっ! 私!」
「ブレンダ。お前は貴族のお嬢さんや」
反論しようとするブレンダの言葉をぴしりとふさいで、アルヴァは続けた。
「別に無理して俺らの世界へ来(こ)んでも、貴族のお嬢さんとしての人生が用意されとるんや。そやから俺らみたいなはぐれもんにならんでええ」
「貴族だなんて! 貴族だなんて! くそ食らえや!」
ブレンダはアルヴァの手を振り払って彼を睨んだ。
「私は貴族のお嬢さんやない。ただの私生児や。そら、父さんや兄さんは優しくしてくれる。ソフィさんだって実の子供やないのに、実の子供みたいに接してくれる。でも、あそこは私の居場所やないんや! あそこに私の居場所なんてない! 私生児の私なんて、兄さんにお嫁さんができて子供ができたらすぐに邪魔な存在になるやん!」
ブレンダはぐっと唇をかみしめて下を向いた。そしてわずかに震えた声で続けた。
「だからと言って、下町にも私の居場所はない。みんな、私が貴族の私生児だからと言って遠慮している。本当のことを言おうとしない。どこにも私の居場所なんてないんや」
ブレンダは涙のたまった瞳を振り上げてアルヴァを見つめた。
「アルヴァたちだけやったんや。うちのこと受け入れてくれたんは。アルヴァたちだけやったんや」
「はぁっ!」
泣き顔のブレンダにアルヴァはわざとらしく大きなため息をついて見せた。
「それで、俺らのとこに逃げ込むんか?」
「!!」
「ええか、ブレンダ。俺らは誰も拒絶せえへん。拒絶したらあかんのや。俺らは誰からも拒絶される存在やからな。いつだってはみ出しもんの集まりやからな。そんな俺たちが誰かを拒絶したらどうなる? いっぺんに俺たちははじき出されてしまう。そやから誰も拒絶せえへんのや。みんな受け入れる。そうしな生きていけへんからな」
涙が引っ込んだブレンダの顔をアルヴァは厳しい瞳で見つめた。
「だけどな、だからと言ってここを逃げ場所にす(る)な。お前、家には居場所がない言(ゆ)うたな。ホンマか? ホンマにそうなんか? お前が私生児や分かってオヤジさんや兄さんは受け入れたんやろ。それやったらお前の将来をなんも考えてへんことはないんとちゃうか? 下町はどや? ホンマにお前に遠慮してんのか? お前の方が貴族やちゅうて遠慮してんのとちゃうか? どこにも居場所無い言(ゆ)うたな? やったらここにはあるんか? 居場所ゆうのはもらうもんちゃうやろ。自分で作るもんやろ。違うか?」
「だけど、だけど私、ホントに!」
「ああ、ああ、もう分かった分かった」
アルヴァはブレンダの言葉を手を振って止めた。
「お前がどうゆうつもりでも、俺らにとったらやっぱり貴族のお嬢さんのわがままにしか聞こえへんのや。そやから、はよ帰り」
パチンと可愛らしい音がして、アルヴァの頬がか細い手に叩かれた。
「アルヴァのバカ! アホ! オタンコナス!」
「なんやと!」
「うち、アルヴァに言ったはずやで! うちの母さんは旅芸人で、立派な踊り子やった。うちは母さんみたいになりたいんやって。だったらアルヴァ言ったはずや。ブレンダは筋がええからすぐなれるって。一緒に旅したかったらいつでも言いやって。その時は連れてやっからって」
ブレンダの言葉にハッとするアルヴァ。その顔を見てブレンダの瞳からとうとうこらえきれなくなった涙がこぼれ落ちた。
「それは……」
「約束したのに。約束したやん。あれ、ウソやったん? アルヴァはウソついたん!」
「あれはな……」
言い訳をしようとするアルヴァの胸をブレンダは思いっ切り殴った。
「アルヴァのバカ! 嘘つき! 大っ嫌い大っ嫌いだ~いっ嫌い! あんたなんかどっか行っちゃえ!」
その小さな肩をしっかり握りしめてアルヴァはブレンダの顔に自分の顔を合わせた。
「悪かった」
「あ、謝ったって、許してあげないん、だから」
ヒックヒックとしゃくり上げるブレンダの頭を優しく撫でてアルヴァは微笑む。
「確かに、俺、言ったな」
「ウソやったん?」
「いいや、ウソやない。ブレンダ、お前は筋がええ。あと2,3年もすれば立派な踊り子になれるやろ。俺らがそん時までお前の側にいたら……いや、側にいれたら……ああ、今、言っても始まらへんわな」
アルヴァが飲み込んだ言葉をブレンダも気づき、キュッと唇を引き結んでアルヴァを見つめた。
アルヴァは何かをこらえるようにブレンダから視線を外し、しばらく空を見つめていた。
やがて「よし」というかけ声と共にブレンダを再び見た瞳はいつもの明るいアルヴァに戻っていた。
「ほんならこうしよ。俺らの国外退去が無くなったら、必ずこの国へ戻るように俺座長に頼むわ。もし座長がダメ言うても、俺だけでもええからこの国を必ず訪れる。そやからブレンダ。お前はそん時までにオヤジさんの許可をもろとけ。オヤジさんや兄さんや母さんみんなが、俺らと一緒に行ってええ言うてくれたら、そん時は俺もお前を連れて行く。どや?」
アルヴァの提案にブレンダは不満そうに唇を尖らせた。
「父さんの許可、絶対に必要?」
「ああ、それは絶対に必要だ。何せ、お前さんが家族に受け入れられたっちゅう証明になるからな」
「う~ん」
納得いかな~いという顔で考え込むブレンダをアルヴァはじろりと睨んだ。
「約束できひんのやったらこの話はなしや」
「ああ、待って、アルヴァ! 約束する。約束するから!」
「よし!」
アルヴァはニッコリ笑ってブレンダの頭をガシガシと乱暴に撫でた。
それから立ち上がると荷造りのできた荷物を背に背負った。
向こうの方ではアルヴァと同じ一座の者がアルヴァの名前を呼んでいた。
「アルヴァ! 約束だよ! 絶対にうちのところへ来てよ!」
「ああ。約束だ」
「絶対だよ!」
「ああ。それよりブレンダ。オヤジさんの許可をもらうのはええが、ちゃんと練習しておけよ。下手なヤツは、いくらオヤジさんが連れて行けゆうても、俺らはごめんやで」
アルヴァの言葉にブレンダはぷっくりと頬をふくらませた。
「分かってるよ~」
「ホンマかぁ?」
「ホンマホンマ」
ブレンダのセリフにアルヴァは今気付いたように目を丸くし、はぁとため息をついた。
「お前、俺らと一緒にいるうちに、言葉うつってへんか?」
「うつってへんで。マネしてんネや」
ブレンダの見事なまでの訛り言葉にアルヴァはもう一度盛大にため息をついた。
「お前、それ、直しとけ」
「え~、なんでぇ?」
「貴族のお嬢さんがそんな汚い言葉使うことあらへん」
「いいも~ん。うち、貴族のお嬢さんやあらへんも~ん」
「ブレンダ! お前、まだ、そないなことを!」
目を釣り上げるアルヴァにブレンダはニッコリと笑って見せた。
「だって、この言葉はアルヴァとの絆やもん。だからうち、アルヴァを忘れんように、この言葉直さへんのや」
ハッと胸を突かれたようにアルヴァはブレンダを見た。それから手の平を口に当ててブレンダから顔をそむける。
「参ったなぁ。お前、ホンマ……」
「何よ」
「いいやぁ。アホやなぁ、思ただけ」
それからブレンダを振り返ると、ピンとその額を指で弾いた。
「お前、次会う時は、もうちょっといい女になっとかなあかんで」
「何それ?」
「ま、これは俺からの忠告やな」
「だから何よそれ?」
「アルヴァ!」
ブレンダが口を尖らせてアルヴァの真意を聞こうとした時、アルヴァの仲間がアルヴァを呼んだ。
「おう、今行く!」
答えてからアルヴァはブレンダを見た。
「ほな、行くからな」
「うん」
頷くブレンダの頭を撫でてアルヴァはブレンダに背を向ける。
「約束だよ! 絶対会いに来てよ!」
その背にブレンダはもう一度問う。
「ああ、約束や」
アルヴァも答える。
「絶対だよ!」
「ああ!」
「約束だからねー!」
「ああー!」
小さくなる背を何度も何度も追ってかけられる声。答える声が朝靄に消えた頃、アルヴァの背も朝の光の中、どれがどれだか分からなくなった。
「約束やで」
最後に小さくつぶやいたあと、ブレンダは街を振り返った。
朝靄の中どの家の窓からも朝食の支度の煙が立ち上っている。
ツンと鼻の奥が痛いのは、
ジンと目の奥が熱いのは、
きっと煙を吸い込んだせいだ。
そう思って、ブレンダは駆け出した。
我が家へと。
おそらく着いた頃には朝食ができあがっているはずだ。
1年後、南北戦争が勃発。イスファルド国王ゾルファ王が戦死する。
ブレンダが第三教導中隊に入隊するのはそれから3年後のことである。
゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚
ちょっぴり反抗期の時分のブレンダです。12~14歳ぐらい?
オリジナルキャラのアルヴァ・グレイは当時18~19歳ぐらい。
年より大人びて見えるのはそれだけ彼が苦労しているから。
ブレンダはこの一座の中で一番アルヴァになついていたが、ブレンダに踊りとか歌とかを教えたのはまた別の人。
楽器演奏の方は兄たちに習わされた宮廷作法の一つで、ブレンダが唯一積極的に練習したもの。
現在、アルヴァらがどこをほっつき歩いているのかは分からない。
ちなみにゾルファ王が本当に旅芸人たちを閉め出したかも分かりません。
おそらくこうじゃないかという妄想の産物です。すみません。
違うかったら何か罪のぬれぎぬを着せられたということで。
それをアルヴァたちが勝手に解釈したということで。
しかし、そのネタはまた次回と言うことで、今回はちょっとブレンダの過去ばなしをしようと思います。
「冬は悲しいお話がいい」とはシェイクスピアの『冬物語』での言葉ですが(もう夏ですが)、
そんな言葉が似合うちょっぴりもの悲しいお話です。
゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚
「アルヴァ、国外退去って本当!?」
真っ赤なポニーテールを揺らしながら駆けてきた少女を、荷造りの手を止めてアルヴァと呼ばれた青年は振り返った。
「そうや」
「そうや、って、何でそんなことに!」
少女の眉は泣き出しそうにギュッとしかめられているし、紫の瞳は涙でキラキラしていた。その瞳を見ずにここを出て行きたかったが、運命はそうさせてくれなかったようだ。
「何でって、王さんの命令やから仕方ないやん。この国は今から戦争始めるから、この国のもんやないもんは出てけ。至極まっとうな命令や思うけど?」
「まっとうって、そんな! だって、アルヴァは何もしてないじゃない!」
真っ赤な髪を振り乱し地団駄を踏む少女の肩をアルヴァはポンポンと優しく叩いた。
「ブレンダ。まぁ、落ち着け。お前さんが怒ってみたってしょうがないやろ。俺は、まぁ、来るべきもんが来たなぁ、としか思(おも)てないんやし。な?」
「来るべきもんが来たって、アルヴァ、あんたはそれでいいの?」
ブレンダの問いにアルヴァはしばしあさっての方を見、ポリポリとあごをかいてから小さく答えた。
「ああ」
それから盛大にため息をつくと、ブレンダの紫の瞳を正面から見据えた。
「あのな、ブレンダ。俺たち旅芸人はいつもその国の人間にとってやっかいな存在なんや。流行歌や人形芝居にかこつけてこの国の情報を他国へ伝えるし、他国の流行病をこの国へ持ち込む。時には犯罪者を連れてくることだってあるし、その逆に逃がすこともある。そもそも他人のおまんまで生活していて、なぁんもこの国に貢献していない。さっきブレンダ言ったよな。俺たちは何(なん)もしていないって。その何(なん)もしていないちゅうのが、これから戦争しよか言う国には邪魔なんや。分かるか?」
アルヴァの言葉に不承不承頷くブレンダ。そのブレンダの頭を優しく撫でてアルヴァは最後の言葉を言った。
「そやからお前は、こっちの世界へ来(く)な」
ブレンダがハッとしたように顔を上げた。そしてその瞳が怒りで徐々に赤くなるのをアルヴァは心の中でため息をつきながら見つめた。
(そやから、会わずに行きたかったんやけどなぁ)
「なんでっ! 私!」
「ブレンダ。お前は貴族のお嬢さんや」
反論しようとするブレンダの言葉をぴしりとふさいで、アルヴァは続けた。
「別に無理して俺らの世界へ来(こ)んでも、貴族のお嬢さんとしての人生が用意されとるんや。そやから俺らみたいなはぐれもんにならんでええ」
「貴族だなんて! 貴族だなんて! くそ食らえや!」
ブレンダはアルヴァの手を振り払って彼を睨んだ。
「私は貴族のお嬢さんやない。ただの私生児や。そら、父さんや兄さんは優しくしてくれる。ソフィさんだって実の子供やないのに、実の子供みたいに接してくれる。でも、あそこは私の居場所やないんや! あそこに私の居場所なんてない! 私生児の私なんて、兄さんにお嫁さんができて子供ができたらすぐに邪魔な存在になるやん!」
ブレンダはぐっと唇をかみしめて下を向いた。そしてわずかに震えた声で続けた。
「だからと言って、下町にも私の居場所はない。みんな、私が貴族の私生児だからと言って遠慮している。本当のことを言おうとしない。どこにも私の居場所なんてないんや」
ブレンダは涙のたまった瞳を振り上げてアルヴァを見つめた。
「アルヴァたちだけやったんや。うちのこと受け入れてくれたんは。アルヴァたちだけやったんや」
「はぁっ!」
泣き顔のブレンダにアルヴァはわざとらしく大きなため息をついて見せた。
「それで、俺らのとこに逃げ込むんか?」
「!!」
「ええか、ブレンダ。俺らは誰も拒絶せえへん。拒絶したらあかんのや。俺らは誰からも拒絶される存在やからな。いつだってはみ出しもんの集まりやからな。そんな俺たちが誰かを拒絶したらどうなる? いっぺんに俺たちははじき出されてしまう。そやから誰も拒絶せえへんのや。みんな受け入れる。そうしな生きていけへんからな」
涙が引っ込んだブレンダの顔をアルヴァは厳しい瞳で見つめた。
「だけどな、だからと言ってここを逃げ場所にす(る)な。お前、家には居場所がない言(ゆ)うたな。ホンマか? ホンマにそうなんか? お前が私生児や分かってオヤジさんや兄さんは受け入れたんやろ。それやったらお前の将来をなんも考えてへんことはないんとちゃうか? 下町はどや? ホンマにお前に遠慮してんのか? お前の方が貴族やちゅうて遠慮してんのとちゃうか? どこにも居場所無い言(ゆ)うたな? やったらここにはあるんか? 居場所ゆうのはもらうもんちゃうやろ。自分で作るもんやろ。違うか?」
「だけど、だけど私、ホントに!」
「ああ、ああ、もう分かった分かった」
アルヴァはブレンダの言葉を手を振って止めた。
「お前がどうゆうつもりでも、俺らにとったらやっぱり貴族のお嬢さんのわがままにしか聞こえへんのや。そやから、はよ帰り」
パチンと可愛らしい音がして、アルヴァの頬がか細い手に叩かれた。
「アルヴァのバカ! アホ! オタンコナス!」
「なんやと!」
「うち、アルヴァに言ったはずやで! うちの母さんは旅芸人で、立派な踊り子やった。うちは母さんみたいになりたいんやって。だったらアルヴァ言ったはずや。ブレンダは筋がええからすぐなれるって。一緒に旅したかったらいつでも言いやって。その時は連れてやっからって」
ブレンダの言葉にハッとするアルヴァ。その顔を見てブレンダの瞳からとうとうこらえきれなくなった涙がこぼれ落ちた。
「それは……」
「約束したのに。約束したやん。あれ、ウソやったん? アルヴァはウソついたん!」
「あれはな……」
言い訳をしようとするアルヴァの胸をブレンダは思いっ切り殴った。
「アルヴァのバカ! 嘘つき! 大っ嫌い大っ嫌いだ~いっ嫌い! あんたなんかどっか行っちゃえ!」
その小さな肩をしっかり握りしめてアルヴァはブレンダの顔に自分の顔を合わせた。
「悪かった」
「あ、謝ったって、許してあげないん、だから」
ヒックヒックとしゃくり上げるブレンダの頭を優しく撫でてアルヴァは微笑む。
「確かに、俺、言ったな」
「ウソやったん?」
「いいや、ウソやない。ブレンダ、お前は筋がええ。あと2,3年もすれば立派な踊り子になれるやろ。俺らがそん時までお前の側にいたら……いや、側にいれたら……ああ、今、言っても始まらへんわな」
アルヴァが飲み込んだ言葉をブレンダも気づき、キュッと唇を引き結んでアルヴァを見つめた。
アルヴァは何かをこらえるようにブレンダから視線を外し、しばらく空を見つめていた。
やがて「よし」というかけ声と共にブレンダを再び見た瞳はいつもの明るいアルヴァに戻っていた。
「ほんならこうしよ。俺らの国外退去が無くなったら、必ずこの国へ戻るように俺座長に頼むわ。もし座長がダメ言うても、俺だけでもええからこの国を必ず訪れる。そやからブレンダ。お前はそん時までにオヤジさんの許可をもろとけ。オヤジさんや兄さんや母さんみんなが、俺らと一緒に行ってええ言うてくれたら、そん時は俺もお前を連れて行く。どや?」
アルヴァの提案にブレンダは不満そうに唇を尖らせた。
「父さんの許可、絶対に必要?」
「ああ、それは絶対に必要だ。何せ、お前さんが家族に受け入れられたっちゅう証明になるからな」
「う~ん」
納得いかな~いという顔で考え込むブレンダをアルヴァはじろりと睨んだ。
「約束できひんのやったらこの話はなしや」
「ああ、待って、アルヴァ! 約束する。約束するから!」
「よし!」
アルヴァはニッコリ笑ってブレンダの頭をガシガシと乱暴に撫でた。
それから立ち上がると荷造りのできた荷物を背に背負った。
向こうの方ではアルヴァと同じ一座の者がアルヴァの名前を呼んでいた。
「アルヴァ! 約束だよ! 絶対にうちのところへ来てよ!」
「ああ。約束だ」
「絶対だよ!」
「ああ。それよりブレンダ。オヤジさんの許可をもらうのはええが、ちゃんと練習しておけよ。下手なヤツは、いくらオヤジさんが連れて行けゆうても、俺らはごめんやで」
アルヴァの言葉にブレンダはぷっくりと頬をふくらませた。
「分かってるよ~」
「ホンマかぁ?」
「ホンマホンマ」
ブレンダのセリフにアルヴァは今気付いたように目を丸くし、はぁとため息をついた。
「お前、俺らと一緒にいるうちに、言葉うつってへんか?」
「うつってへんで。マネしてんネや」
ブレンダの見事なまでの訛り言葉にアルヴァはもう一度盛大にため息をついた。
「お前、それ、直しとけ」
「え~、なんでぇ?」
「貴族のお嬢さんがそんな汚い言葉使うことあらへん」
「いいも~ん。うち、貴族のお嬢さんやあらへんも~ん」
「ブレンダ! お前、まだ、そないなことを!」
目を釣り上げるアルヴァにブレンダはニッコリと笑って見せた。
「だって、この言葉はアルヴァとの絆やもん。だからうち、アルヴァを忘れんように、この言葉直さへんのや」
ハッと胸を突かれたようにアルヴァはブレンダを見た。それから手の平を口に当ててブレンダから顔をそむける。
「参ったなぁ。お前、ホンマ……」
「何よ」
「いいやぁ。アホやなぁ、思ただけ」
それからブレンダを振り返ると、ピンとその額を指で弾いた。
「お前、次会う時は、もうちょっといい女になっとかなあかんで」
「何それ?」
「ま、これは俺からの忠告やな」
「だから何よそれ?」
「アルヴァ!」
ブレンダが口を尖らせてアルヴァの真意を聞こうとした時、アルヴァの仲間がアルヴァを呼んだ。
「おう、今行く!」
答えてからアルヴァはブレンダを見た。
「ほな、行くからな」
「うん」
頷くブレンダの頭を撫でてアルヴァはブレンダに背を向ける。
「約束だよ! 絶対会いに来てよ!」
その背にブレンダはもう一度問う。
「ああ、約束や」
アルヴァも答える。
「絶対だよ!」
「ああ!」
「約束だからねー!」
「ああー!」
小さくなる背を何度も何度も追ってかけられる声。答える声が朝靄に消えた頃、アルヴァの背も朝の光の中、どれがどれだか分からなくなった。
「約束やで」
最後に小さくつぶやいたあと、ブレンダは街を振り返った。
朝靄の中どの家の窓からも朝食の支度の煙が立ち上っている。
ツンと鼻の奥が痛いのは、
ジンと目の奥が熱いのは、
きっと煙を吸い込んだせいだ。
そう思って、ブレンダは駆け出した。
我が家へと。
おそらく着いた頃には朝食ができあがっているはずだ。
1年後、南北戦争が勃発。イスファルド国王ゾルファ王が戦死する。
ブレンダが第三教導中隊に入隊するのはそれから3年後のことである。
゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚
ちょっぴり反抗期の時分のブレンダです。12~14歳ぐらい?
オリジナルキャラのアルヴァ・グレイは当時18~19歳ぐらい。
年より大人びて見えるのはそれだけ彼が苦労しているから。
ブレンダはこの一座の中で一番アルヴァになついていたが、ブレンダに踊りとか歌とかを教えたのはまた別の人。
楽器演奏の方は兄たちに習わされた宮廷作法の一つで、ブレンダが唯一積極的に練習したもの。
現在、アルヴァらがどこをほっつき歩いているのかは分からない。
ちなみにゾルファ王が本当に旅芸人たちを閉め出したかも分かりません。
おそらくこうじゃないかという妄想の産物です。すみません。
違うかったら何か罪のぬれぎぬを着せられたということで。
それをアルヴァたちが勝手に解釈したということで。