明治の浮世絵研究家である飯島虚心が歌川広重伝で、その上洛を天保初年だとしていますが、いまではより正確に、天保3年(1832)、広重が36歳のときのことだとされています。
というのも、空前の大ヒットとなる『東海道五三次』の序文に天保5年という出版年が記され、「御油宿」(愛知県豊川市)の絵の中に「一立斎」の文字があって、天保3年に彼が画号をそうあらためているからです。
つまり、その年に彼が上洛し、翌天保4年の1年をついやして全55図を完済させ、天保5年に出版――そう考えるのが無難だからです。
問題は、虚心が記した通り、本当に広重は天保3年の御馬献上のための一行に加わって上洛したかどうかです。
これは、3代目歌川広重が語った話がベースになっていますが、3代目は明治に活躍した浮世絵師(1842~1894年)です。
広重研究の基本史料といえる『安藤家由緒書』に上洛の記載がなく、まずそこが疑いを生じさせました。
(来年へつづく)
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