『オデッセイ』を観ました。
火星探査プロジェクト、アレス3の面々は砂嵐に遭遇。猛風に吹き飛ばされ安否の確認ができなくなったワトニーを残し、クルーは火星を離れる。
しかし、ワトニーは生きていた。
広大な火星の砂漠に取り残されたワトニーは、居住ユニットや探査用の設備を駆使しながら、生きて地球に帰還する事を諦めなかった。
やがてNASA、そして地球への帰路に就くアレス3のクルーはワトニーの生存を確認。残された僅かな時間の中、ワトニーの救出計画が始まる……といったお話。
要約すると、火星でのサバイバル生活を余儀なくされた男の話です。
とある場所に一人取り残された男が誰の助けも得られず、自らの力で脱出&生還しようとするサバイバル系作品があります。宇宙や無人島からの脱出を試みる『ゼロ・グラビティ』や『キャスト・アウェイ』とかね。
本作の主人公ワトニーが取り残されるのは火星。
呼吸すら自然にできない環境下でのサバイバルは想像以上、いや、想像できないほどに過酷なものでしょう。
『ゼロ・グラビティ』もそうだったけど、宇宙に感じていた夢を失う作品です(笑)。
200年以内に起きる実話になりそうなリアリティもありますね。
リアリティが漂う作品ゆえ、専門用語や略語が頻出します。JPLだのMOVだのHUBだの、何が何だか(笑)。
未見の人は、ここで斜め読み程度でも火星探査に関する知識を培ってから本作を見るといいですよ。
リアリティと言えば、この手の科学考証の間違い探しに躍起になってハシャぐ連中もいますが、映画なんて所詮はフィクションの極みなんだから、少しくらいバカになって見るくらいがちょうど良いんです。
とは言え、そんな俺ッチですらリアリティを欠いてると思える事が一つありまして……イモしか食ってないのに、どうしてそうマッチョでいられるんだ(笑)!
元々ワトニーは植物学者である事から、居住ユニットの屋内でジャガイモを育てて飢えを凌ぎました。
そこまではいいんですが……機械や建造物の修理や改造までこなせたり、知識の幅が広すぎるだけでなく手も動かせてしまうような、何でも知ってるし何でもできちゃうのがチトご都合的だなと。
得てして学者なんてのは自分が得意とする分野以外の知識は凡人並みという(偏見を個人的に持っている)せいか、ああまで的確に対応できすぎるのはやりすぎじゃない?
手を動かしてはみたものの失敗したり、NASA(というかJPL)やアレス3のクルーに教えを乞うシーンがもう少しあっても良かったんじゃない? まぁ、そんなのをつぶさに描いていたら3時間越え確定だっただろうけど(笑)。
ネットのおかげで“知識”は身に付いても、ワトニーのような“知恵”がない我々が同じ状況に陥ったらソル3くらいで終了ですかね…。
あんな状況下に置かれても、一瞬たりとも絶望はしないワトニーは人間として見習うべきところがありますね。あんな僻地に取り残されて、明日のために動く気になれる前向きさには頭が下がります。
その上、ユーモアも忘れず明るく振る舞うのもいい。虚勢を張った空元気ではなく、根っからのポジティブ人間なんですよね。
ワトニーの家族はせいぜい両親に留めておくのは良かったですね。
死んだと思っていたワトニーの生還を祈る妻子or恋人、保身のためにワトニーを利用しようとする上層部の陰謀、目障りだったワトニーの救出を密かに邪魔するクルー……なんて、とっくにカビの生えた展開がなかったのは好印象です。
登場するキャラの全てがワトニーに同情した上で地球への帰還を願っているんだから、実に健全なお話です(責任者の頂点の地位にあるテディは、あくまで人情と現実との仲介役に過ぎない)。
泣きそうになるシーンもあったけど、決して押し付けがましくないのも良いんですよね。
本作にはNASAが協力しているという一言のおかげで、プロダクションデザインも現実味や説得力を感じます。デザインとしてもクール。
特に秀逸なのは宇宙服(与圧服?)で、これまでの宇宙を舞台にしたリアルな映画に登場するそれらと言えば手足や胴体が太っといああいうのが定番ですが、本作ではもっとシュッとしていて体のラインが出るくらいにスリム、かつスタイリッシュ。
あっちはイヤだけど、こっちは着てみたい気になりますね。
ワトニーを演じるマット・デイモンさんは、個人的にはあまり好みではなくてね。
話題になったブレイク作『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』も、各所でヨイショするほど面白い作品に思えなかったし。日本で有名になり始めた頃にはジミー大西さんに似てるとか言われてたっけ(笑)。
そんなデイモンさんもとっくにオジサンになり、顔つきも精悍になってイイ感じになったせいか変な偏見もなく楽しめました。
にしても……2010年代あたりから始まった感のあるハリウッド映画の嫌な風潮として、まーた中国ですかと。
実際に宇宙開発事業が活発に行われている(っぽい)から、まぁまぁ以上のリアリティを感じるとは言え、そこでどうして中国というかアジアの国が出てくるんだよ。仮に日本だったとしても違和感を抱くぞ。
多様性なんて流行り言葉を盾に、中国に媚びるような作品ばかり作るようになったハリウッド映画の凋落ぶりには溜め息しか出ません。そんなのはディズニーだけに躍らせとけばいいんだ(笑)!
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Blu-ray版は映像特典多め。
中でも、ワトニー救出計画を描いた短編映像はいいですね。こういう方向性こそスピンオフの本分だと思うんだよ。
劇中ではバチバチしていたテディとミッチは引退し、たまにゴルフをやる仲だというのもほっこりします。


