芥川賞受賞作「おらおらでひとりいぐも」 | 読書と、現代詩・小説創作、物語と猫を愛する人たちへ送る部屋

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小説や詩の創作、猫また大学通信を書いています。Twitterは、atlan(筆名:竹之内稔)@atlan83837218 放送大学在学中。「第8回新しい詩の声」優秀賞を受賞。
 京都芸術大学の通信洋画&文芸コース卒業/慶應義塾大学通信卒業/東洋大通信卒業/放送大大学院の修士全科生修了。

63歳の若竹千佐子さんの「おらおらでひとりいぐも」が、今期の芥川賞を受賞した。
その内容は誰かと誰かが出会って始まると言った、若者がよく書きがちな「自分探しをする若い男女が懊悩するタイプの普通の小説」ではない。


標準語と東北弁という、二つの言葉を巡って人間観を吐露する形の小説となっている。


この作品は、何より既視感がなく、面白い。

そこが受賞理由だろうと思う。


この既視感がないというのは、最大の長所であり、

小説志望者なら、誰しもが渇望するところのものである。


その意味では、ここで何度も書いている「すばる文学賞」向け原稿も、

形としては、同じで、自分探し小説では全くない。


ある種の、SF的な異空間を設定して、

そこでのサバイバル状況や次々と起こる事件を、どう切り抜けるかのパニック小説であり、

また群像劇形式の作品でもある。


だが、果たして、既視感がないのだろうか。


そこが自分では分からない。

途中、現実とは違う夢を利用した描写を続けており、しかも、現代詩的な表現を随所にぶち込んでいる。

そこを勘案すると、

小説の枠へ挑戦して、その意味では「普通の小説」ではなくしたつもりである。


悩ましいが、投函して、選考してもらうしかない。


そもそも、若竹さんは、文藝賞を受賞して、デビューしている。

今まで、文藝賞というと、

若い20代の女の子を受賞させるイメージだったので、意外でもあり、

オジサンでもいいのかな、と少しだけ勇気を貰えた今回であった。