その内容は誰かと誰かが出会って始まると言った、若者がよく書きがちな「自分探しをする若い男女が懊悩するタイプの普通の小説」ではない。
標準語と東北弁という、二つの言葉を巡って人間観を吐露する形の小説となっている。
この作品は、何より既視感がなく、面白い。
そこが受賞理由だろうと思う。
この既視感がないというのは、最大の長所であり、
小説志望者なら、誰しもが渇望するところのものである。
その意味では、ここで何度も書いている「すばる文学賞」向け原稿も、
形としては、同じで、自分探し小説では全くない。
ある種の、SF的な異空間を設定して、
そこでのサバイバル状況や次々と起こる事件を、どう切り抜けるかのパニック小説であり、
また群像劇形式の作品でもある。
だが、果たして、既視感がないのだろうか。
そこが自分では分からない。
途中、現実とは違う夢を利用した描写を続けており、しかも、現代詩的な表現を随所にぶち込んでいる。
そこを勘案すると、
小説の枠へ挑戦して、その意味では「普通の小説」ではなくしたつもりである。
悩ましいが、投函して、選考してもらうしかない。
そもそも、若竹さんは、文藝賞を受賞して、デビューしている。
今まで、文藝賞というと、
若い20代の女の子を受賞させるイメージだったので、意外でもあり、
オジサンでもいいのかな、と少しだけ勇気を貰えた今回であった。