【お客様は神様です4】
昔にも一度書いたのですが、
雑誌・カタログ山積みな御主人の話です。
とあるお宅の企画を依頼された時の話し、
特別な高級なお宅とかいうわけではなく、
よくある一般的な木造住宅を、
それでもその辺の展示場にあるような家とは違う素敵な家を建てたい、
そんな方々が一番多いお客様です。
そんなお客様の話です。
当初は奥様がお一人でお越しになられました。
まずお話を伺って予算やご要望を伺います。
そして敷地や法律を確認して企画をします。
最初の企画を気に入ってもらい、
そこから細かなお話し合いに入ります。
そして、
そこからは御主人の登場です。
御主人が奥様と一緒に山のような荷物と共に事務所にやってこられました。
なんじゃこりゃ?
何の荷物ですかこれ?
何を持ってきましたか?
そして、
事務所の応接机の上に雑誌や建材のカタログを山のように積み上げたんです。
本当に、何十センチも。
びっくり!
なんじゃこの雑誌・カタログの山は!
打ち合わせを始めますと、
順番にカタログや雑誌を広げて、
ご要望をお話しされ出しました。
木造の工法は○○メーカーの△△工法にしてください。
制震装置を○○メーカーの△△商品にしてください。
外壁換気や棟換気にして○○メーカーの△△商品にしてください。
屋根は○○メーカーの△△商品にしてください。
外壁は○○メーカーの△△商品にしてください。
サッシは○○メーカーの△△商品にしてください。
樋は○○メーカーの△△商品にしてください。
床タイルは○○メーカーの△△商品にしてください。
フローリングは○○メーカーの△△商品にしてください。
クロスは○○メーカーの△△商品にしてください。
建具は○○メーカーの△△商品にしてください。
キッチンは○○メーカーの△△商品にしてください。
ユニットバスは○○メーカーの△△商品にしてください。
便器は○○メーカーの△△商品にしてください。
洗面は○○メーカーの△△商品にしてください。
何から何まで雑誌やカタログを研究し尽くして全て、
全部決まってる!
メーカーから商品から色から形から細部まで全部決まっているんです。
それどころか工法から建物性能から建て方まで全てが決まっているんです。
なんでも何年もの間、
一般の建築雑誌などを読みあさり研究に研究を重ねてきたのだそうで、
カタログを取りまくってなんもかんも決めちゃっています。
でも、
そのメーカーが全部バラバラ・・
工法もバラバラ・・
種類もバラバラ・・
その工法でその制震装置は使えません。
その機構でその通気は出来ません。
その断熱材でその高断熱にはなりません。
便器がAメーカーで、
手洗いはBメーカーで、
洗面はCメーカーで、
お風呂はDメーカーで、
住設機器に限らず建材などのメーカーが全部違えば代理店が全部違いますので料金は定価どころか何倍にもなります。
建材の形も柄も色もバラバラです。
それどころか実際には不可能なことも多々あるのです。
雑誌などを見て、
そこに良いと書いてあるお気に召した物を全部やりたい!
ということのようです。
確かに、
建築家や設計事務所の設計なら工法や建材は自由ですから無理矢理出来ない話ではありません。
メーカーや不動産屋さんの規格住宅などでは選択の余地がないのかも知れません。
でも、
そんなことしたらとんでもない金額になってしまいます。
相当なお金持ちの家なら良いのですが、
実際は一般的な金額のお宅です。
実はここまでではなくてもこういうご主人って、
けっこうよくいらっしゃいます。
まあ、
わからないこともない。
何しろ家というのは本当に高価な買い物になりますので、
家を研究することがこういう形になるのでしょう。
そのほとんどが御主人で、
奥様にこういう方はほとんどいらっしゃいません。
奥様はそんなことよりも、
この商品の性能なんてのよりも、
もっとイメージとかデザインとか使い勝手とか機能性などを重視されることの方が多いです。
家づくりに男性の御主人が入れ込むとこうなってしまうのかもしれません。
まあ、
ようするに車を買う時にカタログや雑誌を読みあさって性能などを調べる、
それと同じ事なのかと思います。
ただ、
車はもう出来上がって完成している物の性能を見ているわけですが、
家はそういうわけではない、
これからそこに作る建てる、
そこが違います。
言ってみれば、車買う時に、
駐車場が狭いので軽自動車なのに、
タイヤはこのサイズのこの高性能タイヤにしてください!
エンジンはこの排気量のこのV6エンジンにしてください!
なんて言ってるようなもの。
そりゃまあ高性能ではあるのでしょうが、
そのタイヤはこの車のボディーにはつきませんし、
そのエンジンはこの車の中には納まりません。
ついたとしても合わないので走るかどうか怪しいでしょう。
そこで、
よくよくご説明をします。
家づくりにおいて工法はとにかくとして、
見積もり前に材料や機器類を全て指定してしまうと、
間違いなく金額は跳ね上がります。
色や柄まで決めるのは工務店が決まってからにした方が良いのです。
こんなのが良いな~というイメージなどや、
こんな設備が欲しいとか、
こんな工法にしたいなど、
いくらでもおっしゃっていただいて構いません。
そのようにいたします。
ただ、何々メーカーの何々商品に決めるのは工事に入ってからの方が良いのです。
あなたがお気に召したその建材は、
まったく同じ物が他社にもたくさんあります。
どこのメーカーにするのかは代理店が決まってからにした方がよいのです。
そうすればご要望のご予算に合わせられます。
工法や性能にしても、
その地域や環境や建物に合わせた物にしなければ意味が無い、
木造の建物に鉄筋コンクリート造の断熱をしても意味が無い、
名古屋で北海道と同じ性能を与えても意味が無いのです。
ただお金をじゃぶじゃぶ使うだけのことです。
雑誌は広告を出してくれるメーカーの商品のことは絶対に悪くは言いません。
それどころか褒めちぎります。
欠点など絶対に記事になどしないんです。
と・・
まあ、
たいていの場合はこれでご理解頂けるのですが、
この御主人は何としてもこうしてくれの一点張り。
仕方がないのでそのまま設計します。
結果、
見積もり価格はご予算の倍近くに。
その後、
メーカー変えたりメーカーフリーにしたり、
出来ないことや意味の無いことはやめたりと、
大きなVEを繰り返して何とかご予算に合わせることは出来たのですが、
こちとら無駄な時間と労力が・・
何回も設計変更せなあかんし・・
勘弁してよ・・
いやいやお客様は神様なのです。
でも、
何もかんも決まっててるのなら、
お高い設計料を何のために払うんだか意味がわかりません。
直接工務店さんにでも行けば良いのに、
と思ったことはやぶさかではありません。
それでも、
完成して喜んでいらっしゃる御主人を見ると、
なんかこちらまで嬉しくはなっちゃうのですけどね。
一生懸命ご親戚の方とかに説明とかしていらっしゃるんですよね、
「このドアはこういう機能があって凄いんだよ、
雑誌で見て気に入っちゃったドアがあったんだけど、
先生に相談したらこっちの方が良いよって教えて貰ったんだ!」
なんてね・・
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