精霊や神様も時にはハイキング
(画像と本文は直接の関係はありません)
少年とも青年ともつかない頃のことを想って書いた小さな創作物語。
「大学受験で疲れているあなたが安らげるようにって思ってる。」彼女はそう言っていたんだ。僕も彼女も高校3年生で、高校は別々だったけれど、中学では同級生だった。彼女は就職希望で、学校推薦で有名企業に早々就職を決めていた。僕らは毎週土曜日の午後にファストフード店でお喋りをしていた。確かに彼女は安らぎだったよ。その優しい言葉で僕は受験を頑張れた気がする。そして僕は彼女に特別な感情を抱いていた。
だから志望していた国立大学に合格した時に彼女に自分の気持ちを打ち明けたよ。そうしたら。「ごめんなさい。でも、いつまでもいいお友達でいましょうね。」それが彼女の答えだった。優しい子だね。僕が受験生でいる間はなんとなく僕に合わせてくれていたけど、いざ合格して、晴れて僕はふられてしまったわけだ。もしも僕が不合格だったらどうだっただろう。考えたくもないけど、それは彼女にはすごく迷惑な話だったろう。
大学には合格したけれど、桜はさいているけれど、僕はかなりさえない気持ちで大学生活を始めたわけだ。おまけに春の陽気はどこかけだるくて、一般教養の教室に入って、一応席には着いたものの、このまま講義を聴くのが嫌になって教室を抜け出した。
どこに行くあてもなく、駅に向かって歩いていると、「君もサボリ?」、横から声が聴こえた。「あたしも抜け出してきちゃったんだ。で、これからどこに行くの?」いつの間にか僕の横を、たぶん教室で僕の横に座っていた女子学生が歩いていた。「わからない。高尾山にでも行くか。」とほとんど冗談で僕が言うと、「それ、いいね。行こうよ、高尾山。」、屈託なく笑って彼女は言った。そうして僕らは知らない者同士なのに、一緒に高尾山に行くことになったんだ。
中央線に乗ってる間も、高尾山のケーブルカーに乗っている間も、不思議と僕らの会話は途切れることがなく、高尾山の山頂で、抜けるような青い空を見上げて。僕らはわけもなく笑っていた。どこまでもまっすぐで、屈託のなさを持った人。いきなり僕の額を指ではじいて笑った人。いつか僕は、この人の哀しいくらいの優しさを知ることになるのだけど、この日教室を抜け出した僕らは心の底から笑っていた。
結局、僕が馬鹿で頓馬だったから、すれ違って別れてしまったけれど、あれからとてもとても時が過ぎて去ってしまったけれど、おぼえてる、おぼえてる、あの青い空。
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