今日の京響第九+ワルシャワ2日目を控えて,大学の図書館に入れた自筆スケッチを見直す。

今の出版譜とはかなり違って,言葉が抜けていたりする(プログラムの対訳で[ ]でくくった部分)。
でもその後紙を貼って追加で歌詞を足していたりして,創作過程がよくわかる。

 

あと,今出ている出版譜(SchottもUniversalも)とはヘブライ語のアルファベット転写がまったく違っていて,こちらのスケッチの方がわかりやすいし,出版譜だと母音がはまらなくて歌えない部分が,何よりも歌えるように書いている。

 

第九の第4楽章も自筆譜でおさらい。ベートーヴェンの自筆ってかなり読みづらいけど,それでもなるほどなぁと思うことが多々。

 

自筆を見ていると色んなことが頭の中を駆け巡る。

 

今日はゲネがなくて,声出しの時に

「2日目は…」

と指導者から言われ,マエストロ下野もわざわざ来られて

「調子に乗らないで。新鮮な気持ちで」

と檄を飛ばされた。

 

下野さんの今回のリハは丁寧な口調だけど内容は厳しくて,全員揃わないと同じところを10回でも歌わせる感じだったけど,京響コーラスにはとても期待していることの現れだったようで,こちらも勉強になった。

本番。

 

2日目の京響は,昨日とはうって変わって,清冽で厳しさを感じる演奏。

 

〈ワルシャワの生き残り〉では,宮本さんの語りも劇のようで,残酷なくらいリアル。

最初にオケとの合わせをギャラリーで聴いた時には本当に衝撃だった。

歌詞も音楽も本当に厳しくて,でもヘブライ語の部分はユダヤ人男性なら12〜3歳の成人式までには必ず覚えている旧約聖書申命記6章の言葉なので,それだけ歌っていると力づけられ救われるけど,全体としては収容所で精神的にも肉体的にもひどく痛めつけられてガス室に送られる直前の,ひんやりした音楽。

ワルシャワの男声合唱は,確かに2日目の方がより凄みがあり良かった。

 

第九は,合唱もオケも

 「言葉を丁寧に喋って,ドイツ語をお客さまに届けて」 

ということで,バロック的と言うか18世紀的なアプローチだったと思う。

ベートーヴェンはやはり18世紀の延長で,でも次の時代を先取りしている部分もあるなぁと今回思った。

第九の楽譜について。

 

合唱指導の先生はBärenreiter版を使っての指導だったけど,マエストロ下野はBreitkopf新版。
大型判は図書館に入れてあるけど,小型版が手元になかったので購入。
合唱団の指定楽譜は,ソースが書いていないけどたぶんよくあるもので,おそらくBreitkopf旧版と同じ?

だから合唱指導の先生の時には指示が時々違うことがあった。
例えば一番最後の早い部分は合唱団の楽譜では"Prestissimo"だけどBäでは"Presto"なのでそのように指示される。
新Brは旧版同様"Prestissimo"。

 

あと,おっ?と思ったのは,マーチの部分で,合唱団の楽譜は84は付点4分,Bäはカッコ付きだけど付点2分,新Brはやはりカッコ付きだけど付点4分で「校訂報告を見よ」という指示。
で,マエストロは新BrながらここはBäに準じて倍の高速テンポで,1回目のマエストロ練からこの部分をそのテンポで,1小節1拍で言葉もそのように乗るように結構徹底的に練習した。

新Brと違うのはこの1箇所か。

 

こうすると,前にも書いたけど,1拍が6連符になって,ドッペルの部分の付点2分が84なので(新Brはカッコ付きだけど)6連同士が同じ速さになって,マエストロが言われるように
「同じ速さでの違う変奏」
ということがよくわかる。

合唱団指定の旧Brらしき楽譜と新Br版の違いもあるので,そうするのかという違いも面白い。

 

特に,vor Gottのフェルマータは,新Brの通りオケはデクレッシェンドするけど合唱はffのまま伸ばして対比を出した。

振り返ると…

 

下野さんの指揮は明確で合唱にも入りの指示を出して下さるので絶対に迷わない。 

複雑でオケに瞬発力が必要な〈ワルシャワ〉でも見事な振り分けだったと思う。

 

ワルシャワは本当に楽しく仕事させて頂いたし,とても勉強になった。 

ワルシャワの指導の時にはともかく
「ヘブライ語はもっと子音を!
そのためには口の中をこうして」
とほぼ毎回同じことを言っていた気がする。

 

ワルシャワのヘブライ語部分では,楽譜に書き足し,補足資料作り,リズム読み音源作り,2回のリズム読み指導,対訳作成,字幕原稿作成,そして第九にも参加することになったので,9月からは毎週の合唱練習と出演オーディション(!),練習では発音などの補足説明をしながら,数ヶ月を楽しく過ごせて感謝だった。

 

〜 お知らせ 〜

第14回 音楽文化論特別講義2019

「17世紀バロック音楽フェスタ」


 

日時:2019/1/13(日) 15時開演(14時半開場,17時終演予定)

場所:神山ホール大ホール 京都産業大学
   〒603-8555 京都市北区上賀茂本山   https://www.kyoto-su.ac.jp/access.html

   京都市営地下鉄国際会館駅または北大路駅より バス10〜15分


入場料:無料

出演:

ソプラノ:小田肇子
ヴァイオリン:上田浩之
テオルボ:竹内茂夫
ヴィオラ・ダ・ガンバ:安藤素子
オルガン:三島郁

 

プログラム(予定)

ファン・エイク 〈我が愛しのアマリッリ〉

フレスコバルディ カンツォン第1番

フォンタナ    ソナタ第3番

カステッロ    ソナタ第2巻第4番

カッチーニ   〈我が愛しのアマリッリ〉

モンテヴェルディ〈西風戻りて〉

モンテヴェルディ〈だからそれは本当なのか〉

 他

 

主催 竹内 茂夫(京都産業大学文化学部)atake@cc.kyoto-su.ac.jp

協力 京都産業大学文化学部「笛ゼミ」の皆さん