朝日と検察、この気持ち悪い関係―持ちつ持たれつの「戦略的互恵関係」

(週刊現代11/6号)


どうもおかしい。スクープスクープと騒いでいるが、そもそも自分たちが火をつけたのではないか。この期に及んで当局情報を垂れ流す無神経はどうしたことか。

■検察と阿吽の呼吸で

今年、朝日新聞社が学生向けに作った『会社案内』には、自社のスクープが地検捜査の発端となったことが誇らしげに綴られている。

〈朝日新聞は2008年10月6日付朝刊1面で、福祉目的の障害者団体向け郵便制度が(中略)悪用され、巨額の郵便料金の支払いが免れられている実態を特報しました。(中略)
報道を受けて、大阪地検特捜部が2009年2月、強制捜査に乗り出しました〉
大阪地検特捜部の一連の捜査の「端緒」は、朝日新聞の記事であったというのである。一方朝日の紙面では、やや表現が後退する。
〈キャンペーン報道の過程で大阪地検特捜部が捜査に乗り出し〉('10年9月11日付大阪社会エディター・平山長雄氏の署名記事)

学生向けの冊子では本心が出た、ということなのだろうか。
「今回の事件は、朝日の〝持ち込み〟ネタでしょう。新聞記者が取材で知りえた情報や、入手した資料を特捜部の検事に持ち込んで事件化してもらうんですよ。もちろん、それによって〝戦略的互恵関係〟というか、首尾よく事件化したときに検察から優先的に情報提供を受けることを期待している。逮捕・起訴された大坪弘道・前大阪地検特捜部長は、記者からの持ち込みを歓迎する人だった。私自身、大坪部長に電話して『情報があるんですが』と話したら、『時間作るから』と言われたことがあります」(全国紙在阪社会部記者)

周知の通り、前田恒彦検事がFDのデータを改竄・捏造したという検察を地獄の淵まで追い込む大スキャンダルは、朝日新聞のスクープによるもの。今年度の新聞協会賞を受賞したが、そもそも村木厚子氏逮捕(後に無罪判決)に至るこの捜査に、検察が着手するきっかけを作ったのも朝日だった。
'08年10月6日付の朝刊1面「郵便の障害者割引悪用 石川の会社通販広告を大量発送」という記事がすべての始まりだった。
障害者団体が定期刊行物を郵送する際に適用される低料金郵便制度を悪用し、本来一通120円かかるダイレクトメール(DM)を、8円で郵送し、大幅に経費を削減したという疑惑である。

このとき朝日新聞東京本社社会グループの記者から取材を受けた会社幹部はこう話す。
「朝日の記者から'08年9月末にファクスで取材依頼があり、10月1日に面談取材を受けました。『取材の出発点は、読者からの問い合わせです』と言っていましたね。その後電話での問い合わせはありましたが、取材はこの一度きりです。その後、6日に突如、1面に出て青天の霹靂でした」
この割引制度を利用した不正を企画したのは、大阪の新生企業という会社だった。朝日新聞はその後も十数回にわたってキャンペーン記事を掲載し、石川県の会社以外にもDMを発送した企業があったこと、その合計が1億5000万通に上ることなどを暴いた。

同時期に大阪国税局が新生企業の税務調査を行い、脱税の疑いで大阪地検に告発。これを受けて大阪地検特捜部は'09年2月に新生企業社長らを逮捕する。捜査の過程で新生企業から政治家の名刺が見つかったことから、一挙に政界・官界を見据えた捜査へ進展した。
「政治家と付き合いがあったか、繰り返し聞かれました。以前、民主党の牧義夫議員と20分ほど会ったことがあるのを忘れていたので、『ありません』と答えると、『ウソをつけ!』と検事に怒鳴られました。検察のストーリーは、牧議員に厚労省への口利きを頼んだのだろう、という的外れなものだったんです」(取り調べを受けた新生企業元役員・阿部徹氏)


■単なる脱税でなく、高級官僚・政治家を巻きこんだ大事件へ。


朝日も検察も、この時までは「してやったり」という気持ちだったはず。
朝日は村木氏逮捕も「敏腕キャリアがなぜ」などと、もちろん検察目線で書いている。そして、今度は特捜検事のFD日付改竄をスッパ抜いた。ところが現在は連日、「腐っている」はずの検察の情報を元に、逮捕された3人の検事の罪状を暴いている。
検察批判をしながら検察情報で紙面を作る。これはいったい何なのか。
「私が現役検事のときから、朝日新聞をはじめとするメディアと検察上層部はまさに〝一心同体〟でした。ほかの社には割合、上層部の捜査方針に批判的な記者もいて、現場のヒラ検事から情報を取ろうと努力しているのですが、朝日にはそうした批判的な視点を持つ記者はほとんど見当たらなかった。
メディアからの情報提供も、常態化しています。土屋義彦・埼玉県知事の娘にダスキン側から1000万円の金が渡ったという疑惑も、朝日が特捜部に持ち込んだというのが定説です。今回の郵便不正事件も朝日でしょう」(元東京地検特捜部検事の郷原信郎・名城大総合研究所教授)
エリート同士ウマが合う

■歴史的にも、朝日新聞と検察は深い関係を保ってきた。

「朝日の歴代の担当者と検察は、もともと関係が深いんです。部数で言えば読売のほうが多いんですが、政界、霞が関、知識人に影響力を持っているのは朝日ですから、検察も大事にする。記者の努力や、優秀さということもあったかもしれないが、結果的に朝日が伝統的に強かった。
東京佐川の渡辺広康社長から金丸信氏に5億円のヤミ献金があったことを抜いたのも朝日ですし('92年)リクルート事件で竹下登元首相の秘書名義の借り入れがあったことを明らかにした('89年)。近年では西松建設事件で小沢一郎氏の関連団体への強制捜査の動きをスッパ抜いています」(元共同通信司法担当記者のジャーナリスト・魚住昭氏)

古くは検察トップの伊藤栄樹・元検事総長が著書『秋霜烈日―検事総長の回想』を'88年に朝日新聞社から出版している。朝日記者の「体質」について、別の全国紙記者はこう話す。
「国税庁クラブにいるとき、オレが特ダネを書いて朝日が落としたことがあった。そしたら朝日の記者は逆ギレして、庁舎内で国税の幹部に、『朝日新聞を何だと思ってるんだ!』と怒鳴ってたね」
元朝日新聞編集委員の落合博実氏は、社会部で長く国税庁を担当し敏腕記者として鳴らした。ちなみに落合氏は、産経新聞からの「スカウト組」である。
「少なくとも私が社会部にいた20年ほどの間は、とくに朝日の司法クラブ記者と東京地検の特捜部とは関係が良かった。検察は朝日の『世論形成力』に期待し、計算していたと思います。そうでなければ朝日の記者に好意的に接する意味はありませんから。検察と朝日は、お互いがエリート臭を漂わせて、なんとなく肌合いが合うという面もあったような気がします」

■朝日を使う検察

実は落合氏自身、'02年に検察を揺るがす大スキャンダルとなった三井環・大阪高検公安部長の「検察裏ガネ告発」を記事化しようとしたことがあった。その年の5月の連休明けに朝日新聞の1面と社会面で大きく報じる計画だったが、三井氏が「口封じ逮捕」されて幻となった。
「朝日として全力で取り組む必要があると社内で強く主張し、司法クラブサイドはかなり非協力的でしたが、東京本社社会部でチーム編成することまで決まっていました。ところが三井氏が逮捕されると『それみたことか』という空気に一変し、『三井氏は犯罪者じゃあないか』という陰口も耳に入ってきました。嫌な空気が充満です。私が若い記者だったら、押しつぶされていたでしょうが、たまたま50歳過ぎの古ダヌキ編集委員になっていましたから、最終的に記事にすることができましたが、勢いはそがれましたね」(落合氏)

朝日新聞は'99年にも、則定衛・東京高検検事長の女性スキャンダルを突如1面で報じて、大きな話題になった。当時司法担当を務めていたベテラン記者が言う。
「あの記事の情報源は、月刊誌『噂の真相』によると、となっていました。ふつう朝日新聞が他の媒体を情報源として、1面トップを書くことはあり得ない。なぜあの記事が出たのか、いまだにナゾめいていますが、検察内部の人事抗争が背景にあったとささやかれています。

次期検事総長確実だった則定氏に対して、反発する検事たちのグループがあった。則定氏は法務省勤務が長いいわゆる『赤レンガ派』のトップですが、現場で事件をやってきた面々からすると、もっとも総長に相応しくない人物に映る。朝日新聞の報道がきっかけで則定氏は失脚したわけですから、快哉を叫んだ人もいるでしょう」
前出の朝日OBの落合氏は、今回の新聞協会賞スクープについてもこんな見方をしている。
「朝日には、全検察を敵に回す覚悟など毛頭ないでしょう。今回も、事前に最高検の動きをじっくり探ったと思います。最高検も動かざるを得ないということで、状況判断が一致したんだと思います。実際、その後の記事の流れを見ると、重要な部分では『最高検の調べでは』という範囲から踏み出していません。相も変わらぬ権力依存報道です」朝日新聞と検察の、ある種緊密すぎる関係が、今回の事件で途切れたというわけではない。