「MASTERキートン」(1998年作品)第28話 感想 | 深層昭和帯

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映画、ドラマ、アニメ、特撮など映像作品の感想を中心に書いています。

原作:浦沢直樹・勝鹿北星・長崎尚志、監督:小島正幸、制作:マッドハウス。

 

 

第28話(アレクセイエフからの伝言)

 

センデルは独りでホテルに滞在し、誰ともつるまず、散歩するだけの毎日を送っていた。

センデルはロビーにアタッシュケースを預けており、それを取りに来るたびに「自分に言伝は来ていないか」と訊ねるのが日課になっていた。だが言伝など来たためしがなかった。

彼はそうして1年間ここに滞在していた。よほど大切なものなのか、彼はアタッシュケースに手錠をかけて自分の手首と繋いで管理していた。

キートンもこのホテルに滞在していた。キートンは考古学のことでセンデルと知り合った。ふたりは食事をしながら島一番の金持ちで実力者であるセニョール・ベラスコのことを話した。ベラスコには漁師の娘の、大変美しい愛人がいた。

センデルはキートンにある頼みごとをした。彼にベラスコという人物を観察してどう見えたか教えて欲しいというのだ。マン・ウォッチング・ゲームだと勘違いしたキートンは快く了承した。

ベラスコは裕福で、友人に尊敬され、美しい愛人がいて、誰もが羨望するような人物であった。だがキートンには彼が人生に退屈しきった孤独な人間に見えた。それを話すとセンデルは自分の50年に及ぶ孤独な戦争について語り始めた。

50年前はスペイン内戦があった時代だった。ハスブルグ家の支配が終わったスペインでは共和政府とフランコ率いる軍事政権が覇を競い合った。戦況はフランコが有利であったが、共和政府には各国から義勇兵が参加して軍事政権が全土を支配するのを食い止めていた。センデルもそのひとりだった。

センデルの部隊を支援していたのはソビエトからやってきたふたりの将校だった。彼らはスペインのために必死に戦いセンデルとも友情を誓い合う仲だった。ところがセンデルと将校のひとりアレクセイエフが同じ少女を好きになった。

センデルはスペイン語の書けない将校に代わってラブレターを書いたが、送り主の名は自分にしてしまった。少女はセンデルと結婚した。アレクセイエフはそれでもセンデルを祝福した。

その後、スターリンはスペインへの支援を縮小した。戦況は悪化し、ふたりの将校も本国に帰るときが来た。外国の豊かさを知ってしまったアレクセイエフは本国では粛清の対象だった。彼は反政府活動家となって逃げ延びた。もうひとりの将校はスペインの地主から搾取した金品を本国に送り続けて粛清対象にはならなかった。

その将校の名はトムスキー。彼は自分の身の安全を図りつつ資金をプールしてソビエト帰還後すぐにスペインへ亡命した。金は亡命資金として使った。しかも彼は自分の行動から眼を逸らせるためにアレクセイエフを密告して政府に売り渡していた。

ベラスコこそ、トムスキーその人だった。

鞄はアレクセイエフから送られたものだった。もし隊が解散してから50年目の日までに伝言がなかったらそれを使って目的を果たせとメモにあった。中身は爆弾のようだった。それでトムスキーを殺せという意味だとセンデルは考え。50年間ずっとこのためだけに生きてきた。

だがセンデルはトムスキーを許すことにした。彼もまた悲しみの中で空虚な人生を送ってきたとキートンの言葉で悟ったからであった。

キートンは爆弾を解体することも出来たが、浜辺で爆発させることにした。その光はかつて3人の仲間が一緒に見た花火のようだった。

<雑感>

いやあ、素晴らしい内容でした。

共産主義、社会主義という名の独裁国家と軍事独裁国家が進歩主義の派遣を競っていた時代、スペインと朝鮮においてそれは顕著となってのちに分断国家となるきっかけを作った。その時代の話です。

革命は所詮権力の簒奪に過ぎず、革命によって権力の運用法に変化はもたらさない。権力の運用の進化や進歩は、歴史の積み重ねによって進捗するものなので、革命によって権力の所持者が変わることが運用法の革新を遅らせることの方が多い。

スペインやいまのフランスなどを見ているとそのことを実感します。