今日のNilkkei BPnetに「対話を通じてクライアントの価値観を引き出すプレゼンテーション術」というタイトルの記事がありました。「対話を通じてクライアントの価値観を引き出す」ことは営業に関わる人であれば誰もが基本に置いている姿勢だと思います。しかしながらそのクライアント自体が自らの価値観を表現できない場合もあったりして、なかなか苦労されている方も少なくないかもしれません。そんな方にはこの大域ジハ参考になると思います。以下記事の中から一部を引用させてもらいます。

http://info.nikkeibp.co.jp/nbpp/KC/feature/04_1.html



日米両国の建築士資格を有し、ホテル、オフィスビル、集合住宅、商業施設のデザインから都市開発まで、多方面で活躍する建築家光井純氏は、プレゼンテーションを通じてクライアントの心の底にあるものを見つけ出し、それに応える形で建築デザインを進めている。相手を説得するのではなく、相手が心から納得できるようにするプレゼンテーションとはどのようなものなのか、光井氏を訪ねて話を伺った。



<クライアントとの「対話」を重ね、共に新しい価値を創造する>

そんな光井氏が、仕事を進めていく上で最も重視していることの一つが、クライアントとの対話である。


「建築家はデザインするにあたっては、クライアントに対して一方的にデザインを提案したり、押しつけたりするわけではありません。その敷地の特長、文化や歴史、クライアントの思い入れなどをすべて考慮に入れた上で、最善の付加価値を提供するというのが建築家としての私の仕事だと思っています。



日本橋三井タワー

たとえば、日本橋三井タワーの場合、昔から日本の為替の中心である日本橋という地域にあり、隣接地には重要文化財である三井本館があるという立地でした。文化や歴史については、本や資料から知識を得ることもできますが、クライアントとの対話を通して、初めてこの場所に対する生きた情報やプロジェクトにかける想いを理解することができます。数多くのデザイン案を作成して対話を刺激し、より深い議論を行って、彼らが実現したい街や建築のあり方を一緒に考えていきます」(光井氏)。



多くのアイディアを出して、プレゼンテーションを繰り返し、クライアントと徹底的に話し合いながら彼らの頭の中にある隠れたイメージや考え方を引き出す。そして、その考え方や価値観をすべて吸収した上で、「クライアントと同じ頭で考え、クライアントと共に創造する」というのが、光井氏のやり方だ。日本橋三井タワーのデザイン決定までには、約2年の歳月を費やしたという。



クライアントと同じ想い、同じ価値観を共有してプロジェクトを進めていけば、建築物の設計やデザインがクライアントの望むものから大きく外れてしまうということはまずありません。プレゼンテーションの中でクライアントと一緒になって新しい価値を生み出すこと、それを協働的創造と呼んでいます」(光井氏)。



<模型を使ったプレゼンテーションで、クライアントの隠れた想いを読み取る>

では、具体的にどのようにして、クライアントの想いや価値観を引き出すのだろう。建築家である光井氏は、プレゼンテーションの際には、パワーポイントのスライドやCG、アニメーションや模型など様々なツールを利用する。中でも最も重要なのが模型である。



模型

「さぁ、あなたの話を聞きましょうと言われても、クライアントは何を話してよいのか分かりません。そこで最初に、建物の模型を1030個くらい作って、クライアントの前にズラリと並べて見せます。模型のメリットは実際に手にとって見ることができるということ。また、それを作った我々の熱意がクライアントに伝わるということです」(光井氏)。



これらの模型が最初の「たたき台」となる。模型一つ一つについてデザインの意図を説明し、それを聞くクライアントの表情や、それに対するコメントから、クライアントの好みや価値観の優先順位、また、担当者が複数名いる場合には、互いの関係や価値観の違いなどクライアントの社内的な背景までも読み取っていくのだと言う。



多数の模型の中には「自信のあるもの」「まぁまぁのもの」だけでなく、「クライアントが絶対に選びそうもないもの」もあえて含めていると言う。クライアントの意見を引き出し、共通の土俵を築くためには、こうした「ハズレ」をあえて含めておくことが必要なのだそうだ。それぞれの模型に対するクライアントの意見や要望を聞いたら、次はそれを反映した新たな模型を作ってクライアントに見せる。「つまり、クライアントにボールを投げながら、相手がそれをどういう風によけるかを観察するわけです」(光井氏)。



こうした作業を重ねて行くうちに、クライアントは自分たちの考えが光井氏に伝わっているという手応えを感じ、より詳細な情報や意見を提供してくれるようになる。こうしたプロセスにどのくらいの時間と手間がかけられるかはプロジェクトの規模に依るが、徐々に模型の数を絞り込み、デザインが決定する。「提案する模型の数が少数に絞り込まれてくると、最終的にクライアントがどれを選ぶかは、おおよそ見当が付いてきます。必要に応じて最後に背中を押す、というのもプレゼンテーションの役割です」(光井氏)。



光井氏のクライアントに対する姿勢や仕事の進め方は、建築のみならずあらゆるビジネスに通じるのではないだろうか。最後にビジネスパーソンへのアドバイスをお願いした。



「プレゼンテーションは自信を持ってすること。そのためには、プレゼンテーションの目標を明確にして、それに向けて逆算してスケジューリングをすることです。プレゼンテーションが苦手、上手にプレゼンテーションが出来ないという人は、『何を達成したいのか』というゴールが明確でなかったり、ゴールが明確であっても、プレゼンテーションのシナリオづくりが十分に練られていなかったり、成功させるための段取りが悪く、十分な資料を用意する時間がないままで進めてしまうというケースかもしれません。



自信を持って、わくわくしながら望むことが出来なければ、そもそもプレゼンテーションを行う資格はないと思っています。これは、国内外の数多くのの仕事を通じて学んだことです」(光井氏)。


光井純

光井純;東京大学建築学科を卒業後、日本で4年間の実務を経て渡米。1982年よりイェール大学大学院に進学、1984年にAIA(米国建築家協会)から学生賞およびH.I.フェルドマン賞(最優秀作品賞)を受賞し、修了。1984年より米国シーザー・ペリ&アソシエーツ(当時)にシニアアソシエーツとして1992年まで勤務。1992年からシーザー・ペリ&アソシエーツ・ジャパン株式会社代表に就任。



2006年米国シーザー・ペリ&アソシエーツの社名変更に伴い、ペリクラーク ペリ アーキテクツ ジャパン株式会社代表として、クライアントとの打ち合わせをはじめ、日本におけるすべてのプロジェクトの総括を行う傍ら、1995年に設立した光井純&アソシエーツ建築設計事務所株式会社代表取締役を兼務。米国登録建築士であるとともに米国建築家協会会員(AIA)、日本建築家協会会員(JIA)、日本建築学会会員(AIJ)でもある。