左足壊死ニキ(ひだりあしえしにき)という方を皆さんご存じでしょうか?


数年前にネット上で有名になった方です。東京~千葉の総武線や山手線に日がな一日乗車して過ごしている中年?男性です。

現在も電車内でずっと始発から終電まで乗ることで涼んで過ごす、もしくは暖をとって過ごす、言わば家がない方はいるかと思います。

ただ、この壊死ニキにはとても特殊な特徴があります。

それは「とてつもなく肥大した左足」です。

詳細はわかりませんが、何らかの病気か感染症で左足が真っ黒く変色し、巨大かし、もはや「足首」の節が見えなくなっている状態です。

巨大すぎる左足に合う靴がないらしく、いつもその足にはビニール袋や紙袋など、「とりあえず左足を覆えるもの」を被せていました。

足が巨大なだけならまだしも、最も問題とされていたのが「臭い」です。

その足は化膿しており、おそらく絶対治療をしてはいませんでした。治療するお金がなかったのか、医者嫌いなのか、衛生的にめちゃくちゃバッドな状態とお見受けしました。この化膿した傷後からとてもつもない悪臭が漂うのです。夏なんか激クサで吐き気がします。臭いだけではありません、あえてこの言葉を使わせていただきますが「肉汁」が左足から溢れてきていました。またその汁がとてつもなくファンキーな臭いです。電車内ではこの肉汁が彼の左足からツーーッと流れ、電車の揺れに依ってその汁があっちに行ったりこっちに行ったりしていました。

彼の主戦場である総武線・山手線は皆さんの知る通り、乗車数がものすごく多い電車です。その人で込み合う締め切られた箱の中で、彼が放つ肉汁のバッドスメルはもはやアウシュビッツのガス室と言い換えても批判はないと思っております。


彼の目撃情報が増え、それがネットでバズり、いつしか「左足壊死ニキ」と呼ばれるようになりました。

「壊死ぺディア」なるサイトも立ち上がり、逐一彼の目撃情報が写真つきで有志によって世に放たれることとなったのです。

ネットでその人気?が過熱すると、壊死ニキに食事をごちそうする者、洋服をあげる者などが増え、支援物資の様相を呈していました。

中には彼を使うことで自分の知名度をあげるなどの人間もいたかと思われます。

壊死した足の傷をズームで撮影した者もいます。

彼はさまざまな目的で近づく人間に次第に心を許していっているようでした。


余談ですが、その昔、モーリシャス島にドードーという飛べないまんまるの鳥が生息していました。彼らは人懐っこい性格で、人間がいてもむしろドードーから近づいて行っていました。人間はそのうち、このドードーを撲殺しまくりました。また人間たちが連れてきた豚によって補食され、最終的に絶滅しました。


壊死ニキの話に戻りますが、私も批判する以外6、7年前に初めて壊死ニキを目撃しました。目撃したというか、同じ電車の車内にいて、まさしく私の正面にいたのです。

総武線だったと思います。夕方頃に私はどこかの駅で総武線に乗りました。車内は満員とは言わないまでも、座席はすべての埋まっているくらいの混み具合でした。しかし、3名がけの席が向かい合っている場所だけ空いていました。

目の前には小太りのおじさん。

私は「ラッキー」と思い、そのおじさんの向かいの3名がけの席に腰をかけました。


その瞬間、ものすごく酸味の強い、ネズミかなにかが死んでいるような臭いが鼻につきました。私は思わず「うっ!」となりました。その臭いの犯人はすぐにわかりました。やたらと越えていて、けして清潔そうではない中年男性。その左足には紙袋が覆われていたのですが、床に面した部分がびちゃびちゃに濡れていたんです。

小動物が死んだまま数日が経つと、その死体から悪臭が漂いますが、その臭いに汗臭さ、足の裏をかいだ時の臭いの強烈版がマリアージュされたようなスメルが立ち込めていました。


その後、何度か総武線で見ました。

ある時は総武線の浅草橋駅の千葉方面の電車を待つホームの椅子に壊死ニキが座っていました。

僕が近くでスマホをいじっていると、こちらを警戒している様子でちらちら見てきました。自販機三台分の距離があっても臭いが届きました。

アンモニアとヨーグルトと汗と何かが混ざったような、かなり刺激的な匂いです。


また他の日には総武線秋葉原駅のヨドバシカメラがある口の高架下でサンタクロースの格好をして寝ていました。その頃は最も壊死ニキがネットでもてはやされている時代で、毎回まとめサイトには彼らが壊死ニキにするほどこしが公開されていました。サンタクロースの服も同じく。また、インナーとしてラブライブ?のキャラクターのTシャツも着ていました。


それから数年たち、壊死ニキが鉄道の方々に駅で保護?されている写真、髪を短髪にしてスーツを着た写真を見ましたがその後消息不明です。


ネットでは、壊死ニキは「亜種」とされる方が複数います。壊死ニキに似ている方を指しているのかわかりませんが。


また、壊死ニキに、大阪行きの新幹線の片道チケットを渡して大阪に送りこもうと言っている方もいました。


壊死ニキとはなんだったのか。おそらく何年も何百年も前からこういう方はいたのでしょう。ネットで全て広まる時代。壊死ニキにとってそれは生きやすい世界だったのでしょうか。