「オメラスから歩み去る人々」 | あるさの日々これ出会い

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アーシュラ・K・ル=グウィンという作家の名前は、『ゲド戦記』の作者として、このブログにも何度か登場していますし、世間でもよく知られています。

しかし、ル=グウィン(ル=グイン)は、ファンタジー作家であると同時にSF作家でもあり、むしろ作品数としては、ファンタジーよりSF作品を多く書いています。


彼女の書くSFには、ただアイデアが奇抜なだけのエンターテイメントはあまりなく、もう少し、読んでいて手応えのある作品が、大半をしめます。

そんな彼女のSF作品のなかに、「オメラスから歩み去る人々」という、忘れられない短編があります。

『風の十二方位』という名の短編集に収録された、このオメラスの物語は、話を読んだ時よりも、読み終えた後になって、何度も何度も読者に問い掛けてくる、不思議な話です。


このブログでは、舞台や本や映画などを紹介するときには、その作品の導入部と二、三の特徴をあげるだけで、ストーリー展開や結末や内容を、できるだけ書かないようにしています。

その方が、ここを見て自分でその作品を観たり読んだりしたくなった人にとって、実際にその作品に接したとき、新鮮に感じられると思うからです。


しかし、文庫版の翻訳で本文わずか10ページしかないこの「オメラスから歩み去る人々」には、ストーリー展開といえるほどのものはなく、結末を書かないと、この物語に関する話ができません。

そこで、今回は例外的に、この話の概略を全部書いてしまいます。
自分で読んでから人の話を聞きたい方は、以下に入らないでください。



さて、ル=グウィンが語るオメラスという国は、豊かで、平和で、文化的で、楽しく明るい、ユートピアのような国です。

このすばらしい国には、飢餓も戦争も差別も経済危機もなく、人々は親切で活気にあふれ、この世で考えうる最高に恵まれた国といえます。

しかし、実はこの国には、一つだけ、ある問題、ある欠落があります。


この国の、ある建物の地下に、一人の子供が、汚れきって鎖につながれ、放置されています。

その子は、知能があまり発達しておらず、自分の境遇がどういうものかさえ、おそらくはよく理解していません。

そして、神との契約なのか何なのかわかりませんが、実は、このオメラスの繁栄と人々の幸福は、このかわいそうな子供を、助けたりやさしくしたりせず、このまま閉じ込めて放置しておく、という絶対条件の下に、成り立っているのです。


この子を解放することはもちろん、やさしくいたわってやったり、きれいにしてやったり、あるいは抱きしめてやったりしただけで、この契約は破られます。

そしてオメラスには、地上で考えうるありとあらゆる災厄が降りかかり、この国の何十万・何百万という人々はただちに、疫病や戦争、災害や経済危機など、あらゆる不幸に苦しむことになります。


オメラスの若者たちは、十代の半ば、物事が理解できるようになった年ごろに、この事実を知らされます。
そしつ必ず一度は、このかわいそうな子を、地下室に見に来ます。


オメラスの人々はみな、思慮深く、思いやりと責任感を持っているので、この事実を知った当初は、誰もが苦しみます。

そして少なからぬ人々が、このかわいそうな子を助けたいと考えますが、そのために何百万という他の人々を不幸のどん底に引き落とすことができる人はおらず、この子は放置されたままです。



この事実を知り、それに対して自分にはどうすることもできないと理解したとき、オメラスの若者たちは、大きく変化します。

自分たちの得ているものが何を犠牲にして成り立っているか、知ってしまった彼ら/彼女たちは、それまでの子供時代のように、ただ能天気に日々を過ごすことは、もうできません。

そして、いままでより一層、いま享受している繁栄と幸福を、大切にするようになるのです。


この話には、もう少し続きがあります。

この、閉じ込められた子供のことを知らされ、この子の姿を見た後、まれに、オメラスから姿を消してしまう人々がいます。

その人々は、この子のことを知った直後、あるいは、それから何年も経ったある夜、身の回りのものだけを持って、静かに、オメラスから歩み去っていきます。

オメラスの国・オメラスの都の周りには、一面の荒野が続いていて、そこを去る人々がどこへ向かうのかはわかりません。

しかし、彼ら/彼女たちは、自分の行く先を知っているかのように、確かな足取りで、この国を去っていくのです。



ル=グウィンの描くオメラスの物語は、これで終わりです。

この物語をどう受け取るかは、おそらく、人によって様々です。

自分がこの話をどう理解しているかは、書きません。


ただ、この物語をはじめて読んでから20年以上経った今でも、折にふれて、このオメラスの人々のことを、考えてしまいます。


あの子のこと、オメラスから歩み去った人々のこと、そして、オメラスに残った人々のことを。

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