今回は試写会にて鑑賞したジョニー・デップ主演の『ブラック・スキャンダル』を。
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実在した冷酷なマフィアを演じたジョニデの演技評ばかりが宣伝文句に目立ちますが、いざ鑑賞すると、やっぱりジョニデの演技が凄かったのです。


ジョニデ、渾身のベスト・アクト

監督は本作が三本目の作品となるスコット・クーパー。少ないフィルモグラフィーながら監督デビュー作である『クレイジー・ハート』でジェフ・ブリッジスにアカデミー主演男優賞をもたらした実績があります。つまり、クーパーは俳優の演技力を引き出すことに長けた監督であるということ。
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そんな監督のもとに、もともと演技派として認められているジョニー・デップが参集しているわけです。ジョニデは振り返らずとも海賊や白塗りキャラクターを嬉々として演じていますが、今回は間逆の役作り。常にオールバックにした頭髪、黒のジャケットにジーパンスタイルで、異常としか思えない思考パターンの実在の人物ジェームズ・“ホワイティ”・バルジャーを抑揚の効いた演技で体現しています。無表情で引き鉄を引き邪魔者を消し、あるいは周到に配下に指示を出し障害を排除していく姿は冷酷無比そのもので、無表情でありながら青みがかった瞳には狂気が滲み出ています。
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その容姿からは普段のジョニー・デップの雰囲気は一切消え、バルジャーが実際にスクリーンの向こうにいるような錯覚さえ起きる程です。


ジョニデだけではない。映画を支配する重厚なドラマ

ではこの映画がジョニデの演技だけで成り立っているかと言えば決してそうではありません。バルジャーの弟で議員ビリー・バルジャーを演じたベネディクト・カンバーバッチ、二人の幼馴染みであり映画の核心を担うFBI捜査官ジョン・コノリーを演じたジョエル・エガートンが、野心と私利私欲のために堕ちて堕ちて、堕ちていく姿をしっかりと見せています。
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また、三者に関わる妻や同僚(ダコタ・ジョンソンやケヴィン・ベーコンら)がドラマに一層の厚みを加えています。
イタリアンマフィアを一掃したいFBIのコノリーとボストンマフィアのバルジャーの思惑が一致した時、幼馴染みという絆を隠れ蓑に互いが強欲のままに突き動かされていく姿が、ボストンという地に根付いたそれぞれの信頼を切り裂いて行くようでそれがまた、切ない。二人に巻き込まれるように翻弄される周囲の人間が誰も幸せになれないように、この映画の中にある関係性はその結末のどれもが重く観客にのし掛かります。


音楽にトム・ホーケンバーグを起用した意味

血で血を洗う抗争がよりバルジャーを歪んだ現実へと踏み込ませ、報復の連鎖が激化していきます。しんと静まり返った瞬間に放たれる銃撃音に恐怖すら覚えますが、そんな演出の妨げにならないよう計算された音楽は、むしろ重低音でじりじりと響き渡り緊張感をピークへと高めます。
チェロなどの低音域の弦楽を主体に劇伴を作曲したのはトム・ホーケンバーグ
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別名ジャンキーXLという作曲家で、実は昨夏の映画界を熱狂の渦に叩き込んだ『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』の音楽を担当した作曲家でもあります。ホーケンバーグはもともとリミックスアレンジャーとして有名で、映画音楽では他にも『300 帝国の進撃』『ダイバージェント』などを担当してそのロック・ドラムリズムが紛れもない特徴ですが、ではなぜそんな作曲家がこの重厚なマフィア映画を担当したのか。これは全く予想にしか過ぎませんが、監督は敢えてホーケンバーグの特色を抑えつけることで本編同様音楽的な面からもいつ暴発してもおかしくない狂気を表現しようとしたのではないかと思います。得意分野を抑制されたホーケンバーグのやり場のない力の持って行きどころがチェロの太く重い音色や、ギター、シンセなどのリズムに現れ、その不穏さが映画の緊張感を側面から追随するように高めていたような気がしました。
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公開日、迫る

『ブラック・スキャンダル』(原題:BLACK MASS)1月30日より全国公開。今までに見たことのないジョニー・デップと、実話とは思いたくないようなマフィア同士の抗争。FBIをも巻き込んだ史実(むしろそこに映画の主題があります)のその果てにある数奇な結末。新たなノワール映画の1ページとして刻まれる作品です。
予告編↓↓↓