東野圭吾・著のファンタジー連作集 「ナミヤ雑貨店の奇蹟」


【感想】

☆ 東野氏がタイムスリップを扱った作品には、「秘密」・「時生」・「パラドックス13」など素晴らしい長編がありますが、本連作集「ナミヤ雑貨店の奇蹟」もまた感動を呼ぶものです。

☆ 若い人に対してファンタジーの世界へと誘うとともに、我々団塊世代に対しては「黙祷はビートルズで」の章は、ザ・ビートルズの解散前夜(来日公演~映画「レット・イット・ビー」)を呼び戻してくれるのです。 
因みに、1970年の大学浪人時、この私も大阪万博は見学しなかったが、この年、同じく脚光を浴びていた「レット・イット・ビー」(東京中央区有楽町)と「ヘドロ」(富士市田子の浦)を見に行ったのでした。



☆☆☆☆☆


雑誌: 「小説野性時代」2011年4~12月号(隔月5作)
単行本: 角川グループパブリッシング2012年3月

単行本



■ 第7回中央公論文芸賞選考会[2012/8/24(金)]で受賞決定したばかり。
贈呈式は10/19(金)パレスホテル東京。



■ 東野作品でタイムスリップ・タイムパラドックスを扱った作品


□ 「秘密」・・・1998年9月
□ 「天下一大五郎シリーズ」#1「名探偵の掟」・・・1996年2月
□ 「探偵ガリレオシリーズ」#2「予知夢」・・・2000年6月
□ 「超•殺人事件~推理作家の苦悩」・・・2001年6月、短編集
  「超犯人当て小説殺人事件」・「超読書機械殺人事件」など8編。
□ 「トキオ」・・・2002年7月 ⇒ 「時生」に改題・・・2005年8月の文庫本発刊時。
□ 「パラドックス13」・・・2009年4月











□ 「ナミヤ雑貨店の奇蹟」・・・2012年3月



■ 作者のスペシャルエッセイ http://www.kadokawa.co.jp/namiya/essay.php

東野氏は、読者に親切・丁寧。2012年3月の単行本発刊に当たって寄稿している。



【プロット---その抜粋】



タイムスリップを使った物語が好きです。小説でいえばハインラインの名作『夏への扉』、映画では何といっても『バック・トゥ・ザ・フューチャー』です。時空を超えて主人公が活躍する物語は、いつの時代でも人々の心を捉えるようです。

*

私自身もタイムスリップを扱ったものを書いています。その一つが『時生』という作品です。
そしてまた新たにタイムスリップを使った作品を書きたくなりました。ただし、今回は誰もタイムスリップしません。時空を移動するのは人ではなく手紙です。もし、過去の人間と手紙のやりとりができるとしたら、自分はどんなことを書くだろう──そんなふうに考えたのがきっかけでした。
現在までの間に世の中で何が起きたのかはわかっているわけですから、教えてやれることはたくさんあります。相手が、ほんの少し先のことで悩んでいるのだとしたら尚のことです。向こうにとっては「未来」であっても、こちらにとっては「過去」なのですから。 こうした空想を繰り返しているうちに、「悩みの相談に乗る」というアイデアが生まれてきました。過去に生きる人々から悩みを記した手紙を受け取り、今の人間だからこそ書ける回答を返す、というわけです。

*

問題はシステムでした。ふつう手紙はポストに投函されます。仮にポストの内部が過去と現在で繋がっているとして、手紙はどういう経路で届けられるのか。また、それに対して返事を書いた場合、どうやって相手に届けるのか。これらの点の解決法が見つからず、ずいぶんと頭を捻りました。やがて思いついたのが、ポストではなく一軒の家を使うというアイデアです。その家に入ってドアを閉めると、過去のある時代にタイムスリップするのです。ただし、外には出られません。出ようと思ってドアを開けた瞬間、現在に戻るからです。
ではどうやって過去の人間と接するか。そこで役立つのが手紙です。一軒の家と書きましたが、ふつうの家ではなく小売業を営んでいる商店を思い浮かべてください。閉店時にはシャッターが下りていて、悩みの相談事を書いた手紙は、この小窓に入れられることにしました。家の中にいる現在人(過去の人間にとっては未来人ですが)は、手紙を受け取れます。
では逆に回答を書いた手紙はどうするか。これも難しい問題でしたが、時空を超える小さな空間をもう一つ作ることにより解決しました。それは牛乳箱です。その中が過去と繋がっていることにしたのです。そこに手紙を入れておけば、相談主が回収してくれるというわけです。

*

こうしてシステムは出来上がりましたが、なぜそんなことが起きたのかということを考える必要が出てきました。
そもそも、なぜその小売店は悩み相談室みたいなことをしているのか。最初は遊びだった──ふと、そんな一文が頭に浮かびました。店主の爺さんと近所の子供たちとの他愛のないやりとりから始まった、というのはどうだろう。店名を『ナミヤ』としたのは、こうした考えの結果です。子供たちがふざけて、ナヤミ、ナヤミと囃し立て、「お取り寄せもできます 御相談ください」と書いてあるのを見て、「だったら悩みの相談にも乗ってくれるのか」と爺さんをからかいます。それに対して爺さんが、「いいとも、どんな相談にも乗ってやる」と受けて立ったのがすべての始まりというわけです。

*

このようにして舞台を作りあげていくうちに、物語の世界観が徐々に固まってきました。非常に難しい試みでしたが、書き始めると物語がすらすらと浮かんできました。執筆中のことを振り返ってみると、人生の岐路に立った時に人はどうすべきか、ということを常に考え続けていたように思います。様々な意味で、良い経験になりました。こんな小説、読んだことない──読んだ方にそう呟いていただければ本望です。
 

☆☆☆☆☆


■ あらすじ  ← 中でも特に感動した第4章「黙祷はビートルズで」を詳しく書いた。



悩み相談お任せください――。あらゆる悩みの相談に乗る不思議な雑貨店の物語。
しかし、そこには驚くべき正体があった。


雑貨店「ナミヤ」と児童福祉施設「丸光園」の関係が複雑に絡み合いながらも、実は限られた関係者の間だけに共有される奇蹟である。即ち、タイムスリップするのは「ナミヤ雑貨店」だけで、そこに悩みを投函するのは「丸光園」の関係者である。


相談者は自分の書いた手紙が未来の人間に届いているとは思っていない。そのことを知っているのは我々読者だけ。
タイムスリップを使って悩みの相談を受けているから、その後の歴史的な展開を知り抜いている訳なので大いに有益なアドバイスができるのも当然である。


時空を超えて温かな手紙が交換される。
そして、不思議な出来事は満月の夜に起こる。


時間を行ったり来たりしたストーリー全体がラストでやっと1つになり、何故、最初の部分が始まったのかが分かる。
過去と現在が鮮やかに繋がった時、人知を超えた全ての真実が明らかになる・・・・・。



□ 第1章 「回答は牛乳箱に」・・・夢をとるか? 愛をとるか?

生まれ育った小さな町で「ナミヤ雑貨店」を営む浪矢雄治。
郊外の寂れた住宅地に在りシャッターが下りたままの古びた雑貨店。


揶(からか)い半分に悩み相談を持ち掛けたことから始まった、牛乳箱に投函される手紙。
その雑貨店の正体は、時間を超える不思議な場所。
その店に入ると過去の或る時代にタイムスリップ。


深夜、泥棒を働いて逃走中の翔太・敦也・幸平の3人組。
身を隠すため忍び込んだアバラ家の雑貨店。


未来の人へとタイムスリップ。
様々な相談者からの手紙に "3人寄れば文殊の知恵" で回答。

 
*

最初の差出人は、「月のうさぎ」。
恋人が余命半年の命で、競技を止めて看病するか悩むオリンピック代表候補の女性。
オリンピック出場を目指すか?  恋人の看病をすべきか?


目指すオリンピックとは1980年のモスクワ・・・ !!



□ 第2章 「夜更けにハーモニカを」・・・現実をとるか? 理想をとるか?


クリスマスイブの「丸光園」慰問演奏を続ける魚屋の息子・松岡克郎。
どんな曲を演奏しても反応を示さない1人の少女が、オリジナル曲「再生」のハーモニカ演奏で変わった。


父親が心臓発作で倒れた。
魚屋の家業を継ぐか? ミュージシャンに拘(こだわ)るか?
「魚屋ミュージシャン」の相談の手紙に、サッサと店を継げばいいと3人の辛辣(しんらつ)な回答。


夜更けのハーモニカ曲。
心を動かされた3人の回答は、音楽を続けなさいと変わる。


「再生」を演奏中の「丸光園」で火災が起きた。
子供を救助するためミュージシャンは・・・ !!



□ 第3章 「シビックで朝まで」・・・人情をとるか? 道理をとるか?



久し振りに閉めた雑貨店を訪れた「ナミヤ雑貨店」浪矢雄治の息子・貴之。
何故、不思議な現象が起きているのか?


40年前、雄治は悪戯(いたずら)の手紙にさえ懸命に回答を書いていた。
雄治は体調が悪化するが、息子から同居を勧められても大丈夫と言い張る。


或る日、末期癌と分かり、閉店を決心し世話になると言う。
死期が近づいた時、どうしても店に行きたいとせがみシビックで息子に送ってもらい、1人雑貨店で過ごす。


夜が明け迎えに行くと、何と手紙が届いている。
何とそれは未来の孫・駿吾から・・・ !!


 

□ 第4章  「黙祷はビートルズで」・・・家族をとるか? 将来をとるか?



急死した従兄の遺品として譲ってもらった、ビートルズのレコードを大事に夢中になって聴いていた和久浩介。
会社経営する父は羽振りがよく母も贅沢な生活を楽しみ、浩介も何不自由ない暮らしだった
が、そんな両親の姿は好きではなかったし、浩介との親子関係には常に隙間があった。
そして、万博の頃から父親の商売が行き詰まり生活は急変する。


遂に、一家は夜逃げする準備に取り掛かっている。両親の心は日々、荒(すさ)むばかり。
その頃、ビートルズの解散が世間で話題になっていて、東京・スバル座で映画「レット・イット・ビー」が上映されており、それを観れば解散の理由が分かると囁(ささや)かれていた。
ビートルズの音楽を聴くことが生きることそのものでもあった彼は、両親に最後の願いと言って、夜逃げ決行当日に1人で観に行く。


その映画は、こういうものを作ろうという意図の元に撮影された訳ではなさそうで、それどころかメンバーは仕方なく撮影を許可したという感じだった。
懸命に字幕を目で追うが真意が読めないが、映像から感じ取れるものはあった。
心が離れているということだ。取り敢えず4人は目の前の課題をこなそうとしている。そこから何も生まれてこないことを全員が分かっているふうに見えた。


帰りの電車の中で少年は、実際は、別れというものはそういうものかもしれないと考える。
現実に、父母とも心の繋がりが崩れて切れつつある。


浩介は、両親が夜逃げをする決意でいるけど、自分も付いて行ったらいいのか? 夜逃げは良くないのではないか? と「ナミヤ雑貨店」に相談の手紙を出す。
回答は、夜逃げは良くないけれど、家族が同じ船に乗っていさえすれば一緒に正しい道に戻ることもできると書いてあり、最後に、どうか信じていてください。今がどんなにやるせなくても明日は今日より素晴らしいのだと。


夜逃げをする父母に付いて行くべきかを和久浩介は問う。回答は家族こそ大切というものだったが、
浩介は、人と人との繋がりが切れるのは、何か具体的な理由があるからじゃない。いや、見かけ上はあるとしても、それは既に心が切れてしまったから生じたのではないのか。
何故なら心が離れていなければ、繋がりが切れそうな事態が起きた時、誰かが修復しようとする筈だからだ。


浩介は、大事なレコードを友達に売って夜逃げに付いて行く。
しかしSAに寄った場所から1人逃走する。
駅で補導されても黙秘を続け、両親からの届けもなく、「丸光園」へ引き取られて行く。
それでも頑として本名を明かさない浩介は、藤川博という新しい戸籍をもらう。
木彫刻がうまかった彼は弟子入りし、住み込みで高校にも通わせてもらいながら木工職人の後継者として生きて行こうと決心する。


ネットで「ナミヤ雑貨店」の復活を知り久し振りに舞い戻ることにする。
名前に惹かれて入った小さなバー「Fab4」(ビートルズの別称)で「ナミヤ雑貨店」宛ての手紙を書き始める。
BGMの「ミスター・ムーンライト」が掛かった店内で、偶然にも自分が同級生・前田君に売ったビートルズのレコードを発見する。
ママの兄とその友達の形見だと言う。友達とは自分のことだった。


そして、夜逃げしたけど2日後に母子を殺し海へ投棄して、父親は首吊り自殺をしたという事件を知る。
浩介が逃げて失踪したことで遺体が上がらないようにと、父は2人を海へ流してくれた・・・ !!


店で「レット・イット・ビー」を再び観る。アップル・ビル屋上でビートルズが演奏するシーンで、彼は奇妙なことに気付く。
東京の映画館で聴いた演奏は、自分の気持ちに原因があったのかもしれない。
あの時、両親から心が離れていた彼は、心の繋がりを信用できなくなっていたからだった。



□ 第5章 「空の上から祈りを」・・・野望をとるか? 幸せをとるか?
 

翔太・敦也・幸平の3人は、最後の相談を「迷える子犬」から受けた。
昼間はOL、夜は新宿のクラブのバイト。今後はホステスに専念したいと。


両親を事故で失い引き取ってくれた人達に恩返しがしたい。
周囲からは批判されながら、必死に勉強しお金を貯めて働き続けた。
お世話になった「丸光園」の危機を救おうと。


彼女は、3人組に襲われる。
3人は、盗んだバッグから「ナミヤ雑貨店」宛ての手紙を見付ける。
「丸光園」を救おうと真剣に考えている武藤晴美が、お礼に書いた手紙だった。


彼女は、或る男性と駆け落ちしようとしたが、彼が思い止まって実現しなかった。
駆け落ちをして学生の貴女を不幸にさせなくてよかったと手紙を書いた主は、浪矢雄治だった。「丸光園」を創設した女性と「ナミヤ雑貨店」店主との関係・・・!!

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