エッセイストの三宮麻由子(さんのみや・まゆこ)さんは、小学2年のとき、先生から初めて白い杖(つえ)を渡された。幼い頃、病気で視覚を失った三宮さんにとって衝撃的な出来事だった。手を使わなくても前方が分かる。人に手を引いてもらわずに歩ける。「失った視力を取り戻したかのようにうれしかった」と振り返っている(『感じて歩く』岩波書店)。
▼以来、三宮さんは白杖(はくじょう)を使い続けている。もはや、単なる道具ではなく、体の一部といっていい。そんな大切な杖が、自転車や車と接触して折られることがある。相手が謝ってくれるのはまだいいほうで、「気をつけろ」と捨てぜりふを残して立ち去る輩(やから)もいるそうだ。
▼視覚障害者にとって、街中をスマートフォンに夢中になりながら歩く、歩きスマホもまた大きな脅威ではないか。彼らは当然、相手が道を開けるものと、心得違いをしている。埼玉県のJR川越駅構内で8日朝、何が起こったのか、詳しい状況は分からない。
▼県内の盲学校に通学していた全盲の女子生徒の白杖が、正面から歩いてきた人物にぶつかった。相手が転倒し、立ち上がる気配を感じた直後に、背後から右膝の裏を強く蹴られたという。女子生徒は、全治3週間のけがを負った。