原宿駅西側の神橋を渡ると、空気はあくまでも澄み渡り、明治神宮の森は静謐(せいひつ)の中にあった。前回の訪問は参拝というより夜の研究会で、闇夜の境内を車で進んだ。70万平方メートルの鎮守の森は、全国から寄せられた約10万本が植えられ、都会の真ん中とは思えないほど闇は深かった。
今年は明治天皇の皇后である昭憲皇太后が崩御してちょうど100年の節目にあたる。参道には百年祭記念展「皇太后の御生涯」のパネル展示があり、皇太后が歩まれた歳月がしのばれる。
神宮の再訪は、境内にある国際神道研究所の主任研究員、今泉宣子さんから聞いたある募金箱に心を動かされたからである。雪がちらつく参道を社殿まで進むと、その手前に赤十字マークが刻まれた「昭憲皇太后基金」の募金箱がひっそりと置かれていた。
《ほどほどにたすけあひつつよもの海 みなはらからとしる世なりけり》
皇太后の人間愛にあふれたお歌の「ほどほど」に合わせて募金を少々。それにしても、日本を代表する神社の社頭に白地に赤十字とは珍しい。
150年前、アンリ・デュナンの提唱ではじまった赤十字運動に、昭憲皇太后が下賜した10万円(現在の3億5千万円相当)で設立されたのが基金の由来である。赤十字社はデュナンが敵味方の別なく傷病兵を救うことを訴えて設立された団体だ。戦時の救護を目的としていた赤十字に、昭憲皇太后は1912(明治45)年に自然災害など平時の支援のために基金を思い立った。