【風を読む】大震災3年の矜持 論説副委員長・別府育郎  | 毎日のニュース

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 気仙沼を訪れる度、立ち寄る喫茶店がある。「茶色い小瓶」という。店主の山浦進市さん(69)はいまも、4畳半の仮設住宅から店に通う。復興住宅は完成待ちだ。

 あの日、店にいた。濁流に押し流され、命からがら階上の事務所に潜り込んだ。自宅も流され、避難所暮らしが始まった。炊き出しの先頭に立ち、自警団を組織した。高校校庭のブルーテントに「無料カフェ 茶色い小瓶」と段ボールの看板を出し、被災者にふるまった。

 「名前を出す以上はインスタントを出すわけにはいかない」と、店からコーヒーミルを掘り出して何度も洗い、磨き、たき火のフライパンで煎った豆をミルで挽(ひ)いてドリップ式のコーヒーを出した。喪失感のなかで豆を挽く行為に、人の尊厳や誇りといったものをみる思いがした。

 初めて店を訪れたときは、まだ泥出しの最中だった。ようやく店の再開にこぎつけたが、常連客のなかには亡くなった方も、町を離れた人もいる。町のにぎわいは、3年たっても戻らない。

 「避難所で生きることに必死だった人たちが、衣食住を与えられた途端、仮設で自殺したり、孤独死したり。人間って何なんだろうねえ」

 山浦さんは震災直後から、支援を受けて若い世代が労働意欲をなくすことを恐れていた。それが現実のものになりつつあるという。「働きもせずに、タクシーでパチンコ店に乗り付ける若いのもいるんだ」と、悲しそうに話した。