イスラエル最大の商業都市テルアビブから北へ約40キロ。中東最大級のオロト・ラビン火力発電所近くにある民家風の建物の中で、赤いフードをかぶった男がパソコンの画面上を走る数字の列を凝視していた。
「私が作り上げた強力な攻撃ウイルスです」
「保安上の理由」で本名を隠し、「金の鳥」と名乗った男(36)は、イスラエル電力公社が昨年5月に当地に開いた研修施設「サイバー・ジム」で働くハッカーだ。施設では、国内外の電力・IT関連企業や政府関係者らを対象に、サイバー攻撃への対処法を模擬訓練で伝授する。
ジムに雇われた5~8人のハッカー集団が、別の建物で待機する受講者チームのシステムを攻撃する。ウイルスの侵入などを阻止できなければ「ゲーム終了」。
訓練は合宿形式で、3日から1週間にわたり繰り返される。欧米やアジアからも受講希望が殺到し、年内の募集は締め切られた。
最先端システム
国内に17の発電施設を抱える同公社は、「一企業として世界最多」とされる1日に6千回以上のサイバー攻撃を受け、「月に2回はロケット攻撃を受けたに等しい(システム上の)被害が出ている」(ジム最高経営責任者のオフィル・ハソン氏)。イスラエルの政府関連機関全体では1日に約100万回もの攻撃にさらされているという。